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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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山の中で

康太と文はウィルに乗って移動し続けその場所を見つけていた。


中腹と言われて探し続け、その場所を見つけたころには深夜近くなってしまっていた。中腹というだけではあまりにも情報が少なすぎた。


地図によって大まかな場所がわかっているとはいっても、基本的に山に目印になるようなものもない。


星などが見ることができればまだ位置を正確に測ることができたのかもしれないが、あいにく木々に囲まれていて見えるはずもない。


だが地道な索敵を繰り返しながら延々と移動することで康太と文はそれを見つけていた。


「これか・・・これがそうか・・・」


「えぇ・・・間違いないわね・・・実物見ると結構感動するわね・・・本当にこんなのあり得るんだ・・・」


康太と文の足元にあるのは事前に調べたものと同じ、ホソバオキナゴケだ。外見上は周囲に生えているものと何ら変わりはない。


だが索敵をしてみるとその違いがはっきりと判る。その葉の中に確かにマナが内包されているのだ。


康太はこんなものもあるのかと驚き、文はこんなものがあり得るのかと感動してしまっていた。


この違いは二人の魔術師としての経験年数の違いが原因である。同じものを見ているはずなのに二人の反応がここまで違うのはある意味仕方がないというべきだろう。


あらかじめ情報としてこういうものがあると知らされていても、文はどこか信じられていなかったのだ。

マナを内包するコケなどあるはずがないと、そう考えていたのだ。だが実物を見てしまった以上信じるほかない。


「どうなんだ?やっぱ魔術師としてはこれは結構貴重なものなのか?」


「貴重も貴重よ・・・こういうのって探して見つかるものじゃないから・・・」


「まぁそうだよな・・・現に探そうとしてこんだけ時間かかったんだもんな・・・」


特殊な条件が重なるということはそうそうあることではない。しかもこうして実物を見てわかったのだが、マナの状態を把握できる索敵を発動していないと見つからないうえに、山ということもあって範囲が広すぎて探すことなどまずできない。


しかもこういう山の中ではマナの状態を把握できる索敵など発動しない。したとしても生物などを確認できるようなものばかりになる。


本当に見つけようとして見つけられるものではないのだ。偶然見つけたからこそ利用しようとするのもうなずける。


そしてこれを奪い合うというのも納得できるものである。


だがそれは文の感想だ。康太からするとこんなものもあるんだな程度にしか思えないために人を殺してまで奪う価値があるとは思えないのである。


珍しいのは理解できる。だが康太と文の間には絶対に分かり合えないレベルでの認識の違いが発生しているのだ。


文はこれを同重量、同体積の金、あるいはダイヤモンド程度に見えている。だが康太にはちょっと珍しい植物程度にしか見えていないのだ。


この違いは決定的だ。とはいえようやく場所を確認できたのは大きい。


「とりあえずここをマークしようぜ。地図アプリに登録しておけば・・・ってこれもあんまり期待はできないけどな・・・」


「そうね・・・電波状況がいいのなら結構信頼できるんだけど・・・さすがに山の中じゃあんまりね・・・」


携帯電話が万能のツールとなりつつある現代でもある程度限界はある。特に電波が通じない場所ではできることがかなり限られる。


特にこういった山の中では電波状況の悪さもあって現在位置を正確に把握する方法は携帯では少々不安が残る。


「いっそのこと戻るときに足跡じゃないけどさ、痕跡残していくか。あとでたどっていけるように」


「いいわね、アリアドネの糸って感じかしら?」


「俺的にはヘンゼルとグレーテルだったんだけど」


「それだと鳥とかに食べられちゃうじゃないの。確かあれクッキーとかパンとか痕跡にしてたわよね?」


「それもそうか・・・んじゃとりあえずここから戻るには・・・っと」


康太は自分の位置を確認して街に一番近くなる街の方角を確認する。


地図の位置と方角を見るうえでどうしても携帯を確認してしまうため、電波状況の悪さに辟易しながら康太は仕方がないと近くの木を足場に上空へと昇っていく。


ウィルの体を多脚型へと変貌させ、木を軽快に上っていく。山でしかも夜ということもあって周りに光はほとんどなく、星の光を容易に確認することができた。


冬だから空気が澄んでおり、星がよく見える。康太が普段住んでいるところはそこまで都会というわけではないが、ここまで星は見えない。康太は目の前に広がるその光景に少しだけ感動していた。


そして周りが暗いということで街の明かりはすぐに見つけることができた。


方角は確認することができたことで帰り道はほぼ確保できた。あとはここに戻ってくるまでの道順の確認に加え、目標である魔術師を待ち伏せるだけである。


これだけの場所だと目標がどのようにこの場所にやってきているのかが不思議だった。痕跡らしいものはなかったように思えるのだが、ここまでどのようにして痕跡もなくやってきているのが不思議でならなかった。


索敵を発動してもそれらしい影はない。今日は来ることはないのだろうかと周囲を確認するもやはり索敵に反応はない。


とりあえず文に方角を報告するべく康太は下に降りることにした。


「街への方角は確認できた、こっちでなんか反応あったか?」


「ないわね・・・痕跡っぽいものも探してみたんだけど、やっぱないわ・・・こんなわかりにくいところどうやってたどり着いてるんだか・・・」


「探したのって魔術的なもの?それとも物理的なもの?」


「魔術的なものよ。これだけいろんなものでごちゃごちゃしてると物理的なものは探しにくいからね・・・」


物理的にいろいろあるような部屋、街と違って山の中は木々や植物などが鬱蒼としており魔術的なものはさておき物理的なものを探すのは骨が折れるだろう。


何か痕跡と言われても、どちらかというとその場を荒らしたとかそういうものではなく、そこにたどり着くための道しるべのようなものだ。


康太は街の方角を確認した段階でその方角に対して何かないかと物理解析の魔術を発動する。


周囲が木々に覆われているためか発動範囲は比較的狭く、さらに人為的に組み立てられたものなどまったくないために頭の中に入ってくる情報もかなり少なくなっていた。


街の方角には確かに道しるべのようなものはなかった。となると目標の魔術師はいったい何を目印にしてこの場所までやってくるのか不思議でならなかった。


とりあえず康太はほかの方角にも何かないか物理解析を発動していく。周囲の状態を確認してもそこには木々や植物があるばかりで痕跡らしい物体は見当たらなかった。


「んー・・・どうするか・・・毎日ここまで来て見張りするっていうのもな・・・そもそもいつ来るかわからないし」


「こういうのって大体一定の間隔をあけて採取にくるわよね。全部刈り取っちゃったらなくなっちゃうし」


「そうだな・・・今の状態ってどれくらい前に刈り取ったんだろうな?コケってぱっと見もさっとしてるからよくわかんないよ」


「そうね・・・そろそろ刈り取ったとかわかればいいんだけど・・・どうする?いっそのことここに私たちが痕跡残す?」



この場に文が魔術的な痕跡を残し、相手にわざとそれに気づかせるというのも一つの手ではある。


今回競争相手を殺しているような魔術師のことだ、自分以外の魔術師の痕跡がこの場にあれば逆に待ち伏せなどをしてくる可能性は高い。


だが相手が魔術の痕跡を見つけ、その場から逃走する可能性もゼロではない。何せ人一人すでに殺しているのだ。他の魔術師からの追及から逃れるためにその場から離脱する可能性も捨てきれない。


だがすでに殺しているのだ、一人も二人も変わらない。しかもここは山の中、隠蔽は容易だと考え待ち伏せをする選択肢も十二分にあり得る。


迎え撃つか逃げるか。この場にあるこのコケの価値とすでに人を殺めているという事実を鑑みて康太と文は結論を出すべきである。


「ベルはどう見る?この場に痕跡を残した場合、相手がそれを見つけたならどういう行動に出ると思う?」


「私なら迎え撃つわ。この場にほかの痕跡はない、相手があえて残さなかったのはこの場所がまだだれの手にもわたっていないっていう状況を演出したかったんだと思うの。誰かが見つけたとき油断させられるように」


「ふむ・・・最初から迎撃目的で陣地構築してるってことか」


「陣地ともいえないものだけどね・・・でも戦いの場はここではないわ。この場で戦ってもしこれに被害があったら目も当てられないもの」


目標が守ろうとしているのはあくまでこのマナを内包したコケだけだ。このコケを守ろうとしてこのコケを犠牲にしてしまったのでは意味がない。


今回の場合なら、この場所で待ち伏せするのではなくここに至るまでの道の途中、あるいは別の場所に康太たちを連れてきて戦う、というか不意打ちをするというのが正しい迎撃方法だろう。


「でも今回俺らは普通にここにたどり着けたよな?そういう迎撃方法はとってないのかな?」


「そういうって・・・あぁ、この場にたどり着くまでに魔術的な防御手段をってこと?それはしないでしょ。そんなことしたらこの先に何かありますって看板立ててあるようなものだもの」


「あぁそうか・・・無防備であるからこそ防備になると・・・なんとも妙な感じだな」


鍵をかけてある扉ならば、その扉に何か意味があると、その扉の奥には何かがあると誰もが思うだろう。


だが鍵をかけていない扉があったとき、その扉の奥の重要性は必然的に下がると多くの者が思うはずだ。


今回の事象もまさにそう。あえて防備を整えないことで魔術師に対してまったくの無策でいることで、この山には何もないのだと知らしめることができる。


そして逆に何か仕掛けをするようなものがいれば、当然それは迎撃するべき対象となるのだ。


ノーガードであることが最良の防御法であるとはなんという矛盾であろうかと康太は眉を顰めるが、同時にそれが理にかなっていることを納得していた。


建物の中ならまだしも、広い山の中で何の情報もなしにこの場所を探し出すのはまず不可能だ。


偶然探し出せたものならほとんどの魔術師がこの場に再び来ようと痕跡を残すだろう。道標のようなものも作っていくに違いない。


目標の魔術師はそれをたどってその途中で待ち伏せすればいいのだ。


相手が油断しているところを倒せばいい。こう考えるとノーガード戦法がどれほど有用かがよくわかる。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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