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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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見つけ、向かう

「あった!見つけた!ホソ・・・バオ、キナゴケ!」


「でかしたわビー!で、どこにあるの?」


康太がその記述を見つけたのは二年前の晩春の記録だった。薬の材料として活用できる素材を発見したという記述の中にそれは確かに存在した。


そこには簡易ではあるが地図も記されており、大まかにではあるがその場所を知ることもできそうだった。


「えっと・・・ハクテイの家から・・・北側にある山だな・・・中腹あたり・・・位置座標がこんな感じだ」


康太がそこにある地図を見せると、文は自分の携帯を取り出して地図アプリを起動させていた。


まずはその場所に行ってみることが先決だ。もしかしたらその場所で目標に会えるかもしれないのだから。


「この辺り・・・ね・・・わかったわ、地図にマークしておく・・・それで、採取しなきゃいけないだけの理由はわかったの?」


「ん・・・何でもこのポイントにあるこのコケだけ、その中にマナをため込む習性ができてるらしい。薬の材料としては最適なんだとさ」


「マナをため込む・・・それは珍しいわね・・・」


珍しいのか?と康太は首をかしげる。いろいろと魔術にはかかわってきたが、物体がマナをため込むという現象は確かに初めて聞いた。


だが植物も生物の一種だ。康太たち人間がマナを体内に取り込み魔力に生成するように植物も同様の反応をするのではないかと思ってしまったのである。


「少なくとも私はそんな植物を見たことはないわ。マナをため込むってことはつまりマナをそのまま保存しておけるってことだもの・・・魔力をため込むならまだしもマナの結晶とは別の意味で珍しいわよ?」


「あー・・・そういえばそんなものもあったな・・・そうか、じゃあかなり珍しいものなのか」


「たぶん地形とか大気のマナ濃度とかそういうのが重なってできたものなんでしょうね・・・場所を移すとその効果はなくなるとか・・・ため込んでおけるマナそのものは少量でしょうけど、それなら奪い合うのも納得かも・・・」


文はなるほどと納得しているようだったが、康太からすればそこまでする価値があるのだろうかと疑いの目を向けてしまう。


そもそもマナを物質的に保存できるからといって何ができるのだろうかと少しだけ疑問に思ってしまう。


確かに、植物の中にマナが収められているのであれば、その植物を経口摂取することによって強制的に体内にマナを入れることもできるかもしれないが、果たしてそれがどれほど役に立つのだろうかと眉をひそめてしまう。


とはいえ総じて部外者や門外漢には物の価値はわかりにくいものだ。康太が考えている以上にこのマナをため込んだ状態の苔は珍しく、人によっては喉から手が出るほど欲しいものなのだろうと納得することにした。


「マナをため込む・・・ねぇ・・・前のマナの結晶は確かマナを物質的なものに変えて・・・どうのこうのって感じだったよな?今回のってどんな感じなんだろうな?」


「さぁ・・・私たちみたいに体内に別の形で保管してる可能性もあるし、そのまま保管してることもあり得るわ。逆に自分の体の一部としている場合もある。例えば葉緑素とかに混ぜ込んでるとか」


「マナをため込むとなんかいい効果あるのか?体内でこう・・・爆発的に能力が増すとかそういうの」


「やってみればわかるんじゃない?ただおすすめはしないわ」


康太は今まで魔力を生成するとき、マナを体内に取り込んで貯蔵庫に移動させるまでの間に魔力に変換している。


この変換の行程を少しいじればマナをそのまま体の中に宿すことができるのではないかと思ったのだが、そこまで考えて康太は首を横に振る。


「いややめとく・・・マナを一点に集めただけで異常気象が発生するんだろ?それを人間の体でやったら何が起こるか分かったもんじゃない」


「それが正解よ。人間が直接マナを保存しようとしたケースもないわけじゃないしね。聞くところによるとあまり面白い結果にはならなかったみたいだけど」


「・・・具体的には?」


「いくつかのケースがあったわ。まず体表面・・・要するに皮膚ね、それの変色。随分とおかしな色になったらしいわ」


「おぉう・・・やっぱりデメリットがあるのか・・・ほかには?」


「えっと・・・確かかさぶたいみたいなできものができたとか、骨に異常がみられるようになったとか・・・とにかくあんまりいい効果は見られなかったわね」


「まじかよ、やらなくてよかった・・・人体に普通に影響あるじゃんか」


人間がマナをそのまま取り込もうとしたときそのようなことになるとは思わなかった。正確にはマナを大量に体内で保管しようとした結果なのだろうが、どちらにせよ人体に直接影響を及ぼすあたりマナがどれほどの影響力を有しているかは想像に難くない。


思えばそのマナを原料にして魔術の動力である魔力を作り出しているのだから、影響力が強くて当然なのかもわからない。


何せ魔力と術式があれば超常現象が起こせる程度には強力な力を持っているのだ。それらを自分たちが使っているからと言ってマナそのものに力がないわけではない。


マナそのものの濃度を極端に高めれば異常気象だって起こせるのだ。


自分が普段気安く取り込んでいるものがいかに危険なものであるかを再確認した康太は若干身震いをしながらこれからも魔力生成の修業は継続しようと認識を改めていた。













康太と文はさっそく日誌にあった地図をもとにマナを取り込んだ苔がある場所を目指していた。


魔術師としての行動とは言え、山の中腹まで歩くということもあって康太と文はまずまだ日の明るいうちに山に登ってみることにした。


学校が終わってから即刻山へと向かうが、やはりというか当然というべきか、二月ではまだ日が落ちるのが早く、学校が終わってから向かっても夕方になり山の中はだいぶ暗くなってしまっていた。


とはいえここまで来たのだ、何もせず帰るというわけにもいかない。康太と文はそれぞれ魔術師として活動できるだけの道具を持ってきているためにそれらを持って山の中に入っていく。


「にしても・・・一応調べてきたけどこのコケ・・・正直どこでも生えてそうだよな」


「そうね・・・中腹の辺りって言われても多分この地図もだいぶあてにならないでしょうから・・・あとは索敵張ってくまなく探すほかないわね」


文はマナの濃薄を察知できるだけの索敵はすでに有している。もちろん康太の有している索敵もマナの状態の索敵は可能だ。


目的地に近づいた段階でそれぞれ索敵魔術を発動して件の苔を探すのが最も手っ取り早いと判断したのである。


康太は一応あらかじめ話に出ていたホソバオキナゴケについて大まかながら調べてきていた。


特に調べたのはその姿と生える場所。湿度の安定した日陰の桧や杉の根元、腐木上に自生する。


直射日光と暑さ、潮風に弱いのが特徴で主に山の中で生えているのがよく見られる。日本の中でほとんどの地域で見ることができる苔だ。


この条件を現在康太たちが歩いている山に当てはめると、ほとんど当てはまってしまうのである。


この山、生えている木のほとんどは杉であり、好き放題に生え放題だ。康太たちが歩いてまだ数十分しか経っていないが、それでも調べてきたホソバオキナゴケをいくつか発見できている。


「こういうコケがたくさんあると・・・なんでその場所だけ特殊なコケになるのかが不思議だよな・・・もっとほかのコケも同じようになってもいいだろうに」


「そのあたりは可能性がいろいろありすぎるわね・・・ぶっちゃけありとあらゆる関係があり得るもの。気候、マナの状態、周辺生物、そのコケそのものの突然変異・・・考えていったらきりがないわよ」


「あぁそうか、コケそのものじゃなくてその苔の周りにいる生き物が原因かもしれないのか・・・」


「あるいはコケが生えてる場所そのものかもしれないわね。確か杉とかの根元によく生えるんでしょ?その杉がおかしいか」


文もそこまで植物に関する事柄に詳しいわけではないが、その植物が何らかの変調をきたしているのであればその原因は一つということは考えにくい。


生き物というのは連鎖的な生物活動によって成り立っている。小さな生き物から大きな生き物へ、生き方にそれぞれ違いはあれど結局のところ大きなサイクルの中でそれぞれ生きている。


今回のようにマナをその中に保存しているのであれば先ほど文があげたように可能性はいくつか考えられる。


そして魔術師たちがそのコケを持ち帰り栽培しないところを鑑みる限り、おそらくその個体がおかしいのではなくその周囲の環境が何らかの影響を及ぼしていると考えるのが自然だ。


環境か、それとも周りの生き物がおかしいのか、どちらにせよ探すうえでの指標にはなり得る。


堤の妻は研究としてこのコケの周囲環境を大まかに示してくれているが、はっきり言って周りに似た環境が多すぎて参考にはならないのである。


「だいぶ日が落ちてきたわね・・・山の中にいるとほとんど真っ暗・・・」


「ぎりぎり足元見えるってレベルか・・・一応ライト持ってきたけどこっちにしておくか?登山者がいないとも限らないし」


「・・・んー・・・そうね、一応ひとまずはライトにしておきましょ。遭難することはまずありえないでしょうし」


一般人ならば夜の山というのは脅威だ。まず木々にさえぎられて月明かりもなく、完全な暗闇になってしまうために道などまったくわからなくなってしまう。


深くまで足を運んでしまえば山の起伏の関係もあって本格的に遭難してしまっても不思議はない。


もっとも康太と文の場合魔術によって上空に飛び上がって脱出は容易なのだが、一般人ではそうもいかない。


特にこの冬の時期に遭難すれば本当に命に係わる。遭難者が見つからないことを祈りながら康太たちは歩みを進めていた。


そこまで傾斜の強い山ではないとはいえ歩き続けると疲れてきてしまう。


「もうあれだな・・・移動は全部ウィルに任せるか」


「え?今日ウィル連れてきてたの?」


「おうよ。このダウンの中身実はウィルなんだよ」


康太が着ていた黒のダウン、本来ならば中身は羽毛などが入っているはずなのだがその中にはウィルが入り込んでいた。


そしてダウンの下にもウィルは入り込んでいる。ウィルの体積すべてを体に纏うとなるとかなり体積が増えるが、この冬の時期であれば着ぶくれしているといっても何ら不思議はないためそういうところがありがたかった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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