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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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集められたもの

机の上に置かれているのは今回回収された魔術に関するものすべてであるらしい。


少なくとも康太にはこれらが魔術にかかわるものであるようには見えなかった。


山積みになった本、砕けたガラス製品、いくつかの乾燥させた植物らしきもの。唯一魔術師のものであるとわかるのは仮面と外套くらいのものだ。


それ以外のものは魔術師のものであるといわれても信じがたいとしか言いようがない。


ガラス製品はその形をよくよく見れば化学の実験などで使ったことのある用具の数々であるということが理解できる。


文字通り薬の調合にでも使っていたのだろう。実際にどのように薬を作るのかは康太も理解できないが、現代のそれと根本から違っているというのは何となくイメージできる。


現代の薬学というととにかく機械を使って薬を調合するイメージだ。康太も実際に製薬の現場を見たことがあるわけではないために確かなことは言えないが、このようなガラス容器を使って薬を作り出すとは思えなかったのである。


康太がその中にある本に手を伸ばし、中を軽くめくってみるとそれらが魔術師のものであるということが理解できる。


そこに記されていたのは魔術だ。何の魔術かは本の裏表紙に記されている。どうやらこれは水、正確に言えば水分を蒸発させるための魔術であるらしい。


蒸発という言い方も的確ではないように感じられた。この魔術は水の変質の魔術であるらしい。


本来ならば百度に達しないと状態変化が起きず蒸発しない水を常温で気化するように変質させるものであるらしい。


これによってほかの物質に過度の変化を与えることなく水だけを除去することができることになる。


薬学に精通する魔術師だとこういった魔術を多く使うのだなと康太は少しだけ感心してしまっていた。


自身が使うそれらとは全く毛色が違う。そもそも戦うことに用いられない特殊な魔術であるのだ。


今まで魔術を使う上でどのように戦うか程度にしか考えてこなかった康太だが、こういうものを実際に目の当たりにすると自分の視野の狭さが浮き彫りになる。


魔術とは何も戦うためのものだけではない。魔術を隠匿するためのものだけではない。もっと多くの使い道があるのだ。


今まで戦いや実戦に役に立つものにしか目を向けてこなかったために、こういった別の道があるということに少しだけ感動していた。


もしかしたら自分にもまだ違う道があるのではないかと思えてくる。そんなことを考えて康太は今はその時ではないと首をわずかに横に振る。


山積みになっている本のうち四割ほどは魔導書だった。残りの四割が薬学や化学の専門書、そして残りの二割が先ほど話にあった魔術師の活動記録ともいうべき記録の数々だった。


とりあえず自分が借りていく本を机の一角に移動した後で康太はその場に置かれている物品に再び目を向けていく。


おかれているのは砕けたガラス製品に、魔術的な薬の材料になると思われる乾燥した植物数種類である。


「この草、いったいなんだかわかりますか?」


「残念ながら専門外だ。こういうのがわかる人間なら紹介できるが?」


「・・・いえ、ありがとうございます。行き詰ったらお願いします」


康太が、ブライトビーが今回の事件を追っているということを協会の魔術師は不思議がっている。


確かに堤は康太の師匠である小百合に該当する魔術師を捜索していた噂が協会中に広まっていた。


実際に小百合をスケープゴートにされたかどうかはさておき、康太が動くだけの理由にはなるかもしれないが第三者から見てこうして康太が動いているのを見るのは少しだけ不可思議な光景だったのだ。


ブライトビーと言えばデブリス・クラリスの弟子として武闘派の魔術師であるということが広く知られている。


直接かかわっていないと、康太は調査系の行動などまったくしないように思うことが多いだろう。


小百合の弟子三人、そのうち一人はまだあまり知名度がない。一番弟子が調べ物を、二番弟子が戦闘を、それが周囲の認識だった。


もっとも康太と真理、どちらが戦闘能力が高いかといわれると真理のほうが圧倒的に上なのだがそのあたりは直接戦ったことのある人間にしかわからない。


最後に康太は魔術師としての道具に目を向けていた。シンプルでありながら何やら渦を巻いたようなデザインのある仮面だ。


それが何かの蔦をモチーフにしていると気付くのに少々時間がかかった。外套に関してはほとんど何のアレンジもされていない単純なものだ。


初期の頃の康太の外套に似ている。


そして魔術師としての装備、最初は槍かこん棒のように見えたのだが、康太はそれが杖であるということに気づけた。


長さは一メートル半ば。槍というには少々短く、こん棒というには長すぎる。


今まで多くの武器を見てきたが、杖を武器にしている魔術師は珍しいなと康太はそれを手に取ってみる。


するとその肌触りから杖の材質が木であるということを理解していた。武器に木材を扱うというのもまた珍しい。普通は何かの鉱石か金属で作るのが基本であるのだが、この魔術師はどうやら好んで木の武器を扱っていたのだろう。


どのような理由があったのかはさておき、これはこれで魔術師らしい武器だなと思いながら康太はその武器を机の上に置く。


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