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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」

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成果物を確かめに

康太たちがそんなことを話していると、何人かの協会の専属魔術師が門をくぐってエントランスにやってくるのが見えた。


そして彼らは大きな箱を持っている。あれが今回の成果物であるというのは傍から見ても理解できた。


康太と文は互いに視線を合わせた後小さくうなずいてその魔術師たちについていく。


協会専属の魔術師もあらかじめ話を通していたからか康太たちが後からついてくることに何も言うつもりはないようだった。


協会内の一室にその箱ごと中に入っていくと、一人の魔術師が部屋の中から外に出てきて康太たちを迎えてくれる。


「ブライトビーにライリーベル、一応今回の成果を報告しておいたほうがいいのか?」


中に入れることも可能のようだが、この部屋の中には凄惨な死体があるということもあって見せることもないという彼らなりの気遣いだろう。康太たちはその気遣いを無下にすることはなく小さくうなずいてから話を先に進めることにした。


「えぇ、お願いできますか?」


「・・・まず今回の被害者の術師名からいこうか・・・といっても大人の・・・母親らしき方の術師名しか確認はできなかった。子供のほうはまだ協会に登録していないようだな」


「もうわかったんですか?まだ回収して間もないのに・・・」


「割と名の通った魔術師だったからな。知っている者は知っている。今回の被害者は『アルクス・ピア』魔術師用の薬の調合や研究などを主に行っていた魔術師だ」


術師名を聞いて康太は文のほうを見るが、文は首を横に振る。康太も文も聞いたことがない魔術師だ。


おそらく小百合と同じように魔術師用の商品を扱っていた魔術師だったのだろう。取引相手として協会とも取引をしていた可能性もある。


すぐに名前がわかったというのは良いことなのだが、そんな魔術師が殺されたというのは協会側としても痛手だろう。


名前がわかったのは大きいとはいえ、問題なのは今後の流れだ。件のグループに属している魔術師を探すための手がかりが何かないかと期待していただけにこの情報だけではまだ先には進めない。


「工房にはどんなものがありましたか?何か殺されるだけの理由があったとか・・・そういうことは・・・」


「ん・・・いくつか手記のようなものは見つかった。研究用の日誌だな。あとは研究用の材料数点、機材数点・・・それと魔術師としての装備品数点・・・さすがに数が多かったから運ぶのも一苦労だ」


一人の魔術師が活動していた痕跡すべてを回収してきたためにかなりの量になってしまったのだろう。


死体と合わせてかなり重くなってしまったのは言うまでもない。


人が死ぬときの身辺整理をしなければいけないとは協会の魔術師も大変だなと思いながら康太と文は互いに視線を合わせて頷く。


「その研究用の日誌を見せていただけますか?何か手掛かりになるかもしれません」


「・・・構わんが・・・読み終えた後はちゃんと返すことだ。こちらで必ず処分しなければいけないんだからな」


必ず処分する。仮にその日誌の内容が今後の魔術的薬学に役立つものだったとしても完全に処分しなければいつどこで露出するか分かったものではない。


中に記されている内容を別の書物に書き写すのはまだいいかもしれないが、オリジナルとなる原本だけは絶対に処分しなければというのが協会としての措置らしい。


「わかりました・・・ちなみにそれってどれくらいの量になりますか?」


「ん・・・十冊くらいか・・・ここ数年のものであれば三、四冊程度といったところだろうかな・・・こっちもまだちゃんと読んでいないからどれくらいなのかは把握できん」


私生活の忙しさなども相まって記録が連続的ではないこともあるのだという。時間がなかったこともありまだ正確に内容を把握することはできていないようだったが、少なくとも十冊程度が日誌であるということは確認済みであるらしい。


「ならその日誌の分だけで結構です。場所は・・・適当にどこか部屋を借りるか・・・今からどこか借りられるかな?」


「ちょっと待ってて。私支部長のところに行って申請してくる。あんたは今のうちに本をもらっておいて。必要ならほかのことも確認しておいていいわよ」


「了解、頼んだ」


文が駆け足でその場を去っていくのを見届けた後で康太はとりあえず確認したいことを頭の中に浮かべていた。


「材料っていうのは具体的なんですか?葉っぱとかそういうのですか?」


「あぁ、乾燥させた何かの植物の葉のようだったな・・・といっても量があったわけではない。地面に散らばっていたのを回収した程度だ。棚とか机とかそういうものの下に散らばっていたな」


まとまっていたものを回収したというよりはぶちまけられたものを拾って回収したというほうが正確だろう。


文の索敵でも見つけられないほどの少量の物品まで回収するあたり、本当に魔術に関するものはすべて回収してきたようだ。


それこそもうあの家の工房に向かってもなにも存在しないだろう。


あるいは魔術にかかわるものだけを排除し、ただ日常的に使えそうなものだけがその場に残っているのかもしれない。


協会専属の魔術師の仕事は徹底しているなと康太は感心してしまっていた。


これが魔術の存在を隠蔽するための行動なのだなと思いながら康太は確認したいことを再び頭の中に思い浮かべていく。


「一応現物を見てもいいですか?いろいろと」


「・・・構わないが・・・ひどいぞ?いろいろと」


「構いません。俺は案外慣れてますから」


「・・・そうか。においだけは気をつけろ」


この場に残ったのが文だったのなら直接見せるというのは拒否したかもしれないが、この場に残って直接見ると言い出したのが康太だったことで魔術師は問題ないと判断したのだろう。


こういう時は小百合の弟子でよかったと思う。たいていひどい状況にはなれているという太鼓判が押されるようなものなのだ。


もっとも別に強烈に拒絶されているわけでもないから頼み込めば文も部屋の中を覗くことくらいはできたかもしれないが。


協会専属の魔術師の先導によって部屋の中に入った康太は即座に鼻で呼吸をすることをやめていた。


口で呼吸していてなお感じ取れる悪臭。それが生き物が腐った匂いであるというのは容易に想像できた。


どこかで嗅いだことのある匂い。それがかつて康太が体験した死の中に存在しているというのは何となく思い出せていた。


「・・・ひどいですね・・・」


康太が入ってきたことを確認すると、中で作業していた魔術師たちは一瞬康太に視線を向けて小さくため息をつく。


康太の視線の先には今回の被害者である女性の死体と子供の死体があった。


あらかじめ文に教えられていたから知っていたが、かなり損傷が多く、腐敗の進行がひどい状態だった。


「あぁ・・・状態もそうだが、何より傷がひどい・・・これほどまでにやられてる死体を見るのは我々も久しぶりだ」


「君もこういう死体を見るのは初めてかい?」


「・・・ひどく腐った死体であれば何度か見たことがあります・・・でもここまで痛めつけられてるのは初めて見ますね・・・」


康太が死に続けたあの光景の中に、かなり腐敗の進んだ死体は何度か視界の中に入ってきたことがある。


暗闇の中というのに加えてみていた本人が死にかけているということもあって詳細までは見えていなかったが、実際に現物を見ると体の奥の何かが締め付けられるような感覚が強く残る。


吐きそうになるほどではないが、胸焼けに近い感覚を康太は覚えていた。強い不快感にため息をつきながら康太は二つの死体を前に合掌し祈る。


そしてそのあとで康太は死体をよく観察することにした。腐敗は進行しているが蛆などは全くいない。

おそらく運び出す際に魔術師たちが排除したのだろう。


単純に匂っているだけでもかなりつらいものがあるが、蠅や蛆が死体に群がっている様子を見なくてよくなっただけまだましといえるだろう。


損傷部分は文に説明されていた通りだ。母親と思わしき人物は肩口から胸元にかけて大きく切り裂かれている。


康太はその断面図をよく観察することにした。


とはいえ腐敗が進行しているせいで傷部分の正確な判断はできかねる。だがこの傷が骨まで達するほどの攻撃によって見舞われたということは理解できた。


何度も同じ場所に振り下ろしたのか、それとも巨大な武器を使って一撃のもとに切り裂いたのか。


携帯性などを鑑みればおそらく前者だろう。これほどまでに大きな傷を作り出す武器を持って歩くというのはそれだけで不審者扱いされる。


少なくともそんな人物を家に招き入れようとは思わないはずだ。侵入されたにしても無抵抗でいるはずがない。


だが無抵抗であったにせよ足などを切断できているという点からそれなりに大きい、あるいは鋭い刃物であるというのは間違いないだろう。


小百合が保有しているような刀か、あるいはそれ以外の『斬る』ことを目的とした武器である可能性が高い。


断面部分が腐敗によってかなり損傷しているために武器の種類までは判別できないが、女性とはいえ大人の足を切り落とすほどの威力を持った一撃だ。生半可な威力のものではないことは容易に想像できる。


子供のほうは母親のほうよりも攻撃の回数が少ないということもあって損傷はそこまでひどくない。


だが母親と同様腐敗がひどく、正しく凶器の考察はできそうにない。もう少し早く見つけることができればよかったのだがと康太はため息をつく。


アリスによって堤から読んだ記憶によれば、犯人は斧を持っていたらしい。


だが康太が考えるような斧で人の手足をここまで傷つけるのは容易ではない。おそらく先ほど考えたように何度も何度も同じところを攻撃することで最終的にこのような形になったのだろう。


明らかに狂った人間のやることだなと、実際にこの死体を見て康太は改めて感じていた。


だが狂った中にもどことなく理性のようなものが感じられる。確実に相手を仕留め、反撃を許さないようにしようという考えが見え隠れしている。


犯人像がより一層靄の中に隠れたような感覚に康太はため息をつきながら死体以外の物品にも目を向けることにした。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
協会と取り引きしてる様な魔術師なのにどうして半年も音信不通で誰も気付かないわけ?
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