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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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アリスの解説

「さて・・・魔術的な保管はさておいて・・・では物理的な保管に移ろうか」


「物理的な保管はもう言うまでもないだろ?普通に鍵かけてるとかそういうレベルじゃないのか?」


「うむ・・・これも支部によりけりなのだが・・・日本支部の場合は鍵三つを施した後に溶接、コンクリなどを流し込んでいるようだったの」


「・・・え?コンクリ?」


「あぁ。物理的に突破でもしない限り普通の魔術師は入れないだろうな。日本の支部は割と管理体制は厳重なほうだぞ」


まさかコンクリを流し込んで物理的に封鎖しているとは思わなかったために康太は顔を引きつらせてしまっていた。


だが逆に言えばそれだけ厳重に保管しなければいけないようなものが存在しているということだろう。


良くも悪くも禁術というのは危険な代物であるらしい。


「じゃあ人的保管は?禁術図書館司書みたいなのがいるのか?」


「あー・・・そういう保管とは違うな。支部の中に何人か・・・支部専属の魔術師なのだが常に禁術の保管場所を監視している者がいる。視認、術式による監視など方法はそれぞれだが常に最低でも三人は配置されているようだな」


「あぁそういう・・・じゃあ禁術の保管場所に入るには・・・まず監視している人を何とかして、保管してある部屋までたどり着いて、固定の魔術を解除して、各支部の追加魔術を解除して・・・物理的に閉じられてるものも解除しろと・・・」


「そういうことだ。単独での突破はまず難しいだろうな・・・というかできる人間がいたら見てみたいものだ」


アリスはそんなことを言いながら絵を描いていた紙を燃やして捨てると楽しそうに笑って見せた。


いったい彼女が何を考えているのかわからないが、少なくとも康太が考えが及ぶようなものではないだろうなとあきらめていた。


「でもさ、別に侵入しなくても禁術を知る方法はあるんじゃないのか?」


「・・・ほう・・・というと?」


「例えば・・・そうだな・・・禁術がどんな形で保管してあるのかわからないけど、紙に記されてるのなら・・・遠視の魔術と念動力系の魔術があれば普通に読むことはできるようになるんじゃないか?」


康太の言葉にアリスは小さく笑みを浮かべる。そういう考えができるようになったかとアリスは小さくつぶやきながらその笑いを一度やめ一つ咳払いをする。


「その方法をとれなくもない。だが先ほども言ったが、魔術による固定がかけられているということを忘れるな?」


「あ、ひょっとして壁とか扉とかだけじゃなくて中の禁術が収録されてる本?とかにもかけられてるのか?」


「そういうことだ。その固定を突破できるだけの強力な魔術を行使すれば話は別だが・・・あの固定の魔術は相当強力だぞ?それに監視をしている魔術師もいるといっただろう?本が誰もいないのに動いているのを見れば、すぐに気付くだろうよ」


「なるほど・・・確かに・・・複数の監視や保管を同時に攻略しないといけないわけだ・・・こりゃ確かに複数犯じゃないと難しいな・・・」


そこまで考えて、康太は思い出す。今まで関わってきた禁術にまつわる事件。といっても数えられる程度しかないが、それらの禁術を持ち出した人物、あるいは団体が存在するのではないかと康太は考えた。


実際、禁術そのもの、あるいはそれらをもとにした魔術が用いられている事件は存在した。ならば禁術はすでに持ち出されている可能性が高い。


どの程度持ち出されているのか、どの程度なくなったのか、あるいは持ち出しではなくただ情報を書き写しただけか。


どちらにしろ禁術の保管庫に入り込んだ、ないし攻略した人物団体がいるのは間違いないだろう。


「なぁアリス。もしアリスが禁術をほしいと考えてさ、どれくらいの人数がいれば攻略できる?」


「・・・私一人いれば事足りるが?」


「お前じゃなくて一般的な魔術師が攻略すると考えてだ」


一般的な魔術師と言われてアリスは悩みだしてしまう。すでにアリスは一般的な魔術師という枠組みから逸脱して何百年も経過している。


一般的な魔術師ができる範囲を正確に把握するのには少々時間がかかるのだろう、頭をひねって妙に悩んでしまっていた。


「そうだの・・・仮に日本支部を攻略するとして・・・一般的な・・・平凡な魔術師が・・・そうさな・・・五十から百人もいれば攻略は可能だろうな」


「五十人から百・・・!?そんなに必要か?」


随分とばらつきのある人数だが、アリス自身平均的な魔術師の実力を測りかねているのだろう。


だが最低でも五十人はいないと達成できないという事実に康太は目を丸くしていた。


「あの魔術群、および物理的な保管をばれないように解析、解除するとなるとそれくらいの人数は必要だ。規模、性能、精度、状態を加味するとそれくらいは必要だろう。まぁ矛盾した言い回しになるが少なくとも五十人もの人間が一斉に統制のとれた動きをすればまず間違いなくばれるだろうがの」


ばれないためには五十人が必要。だが五十人も動けばばれてしまう。なるほど確かに矛盾している。


だがそれはアリスの考える一般的な魔術師の関係の場合だ。これが少し腕の立つ魔術師ならばどれくらい必要だろうかと康太は考える。


仮に平均的な能力を持っていなくても、一つのことに特化した魔術師がいたとすれば、それぞれの枠組みに対して一人割り当てれば突破は可能なのではないかと康太は思ってしまった。


「なら、アリス以外の魔術師が攻略するうえでの最低人数は?腕がたつ魔術師がいたとしての話で」


「最低・・・最低人数か・・・支部長クラスがいてもいいということだろう?」


「・・・まぁそのあたりは任せる。最低何人いれば攻略できる?」


康太の質問にアリスは悩んでいた。実際禁術の保管庫を攻略するうえでどれくらいの人手が必要かを考えているのである。


やるべきことはいくつかある。その中でも最低限やらなければいけないことは先ほど上げた三つの保管法に対するものだ。


魔術的な保管、物理的な保管、人的保管の三つである。


第一に考えなければいけないのは人的保管だ。保管場所を監視している人物を対処しなければならない。


幻影や暗示などをかけることによって魔術的に排除するか、あるいは物理的に排除するかの二択になる。


支部によるが、これに対する人員は最低一人は必要だ。何せ侵入するための行動を起こしている間保管庫から気をそらさなければいけないのだから。


物理的な排除にしてもほぼ同時行動したほうがいいために人的保管には最低一人か二人は配置しておきたい。


次に魔術的な保管。これは魔術の解析と解除に長けた人員が一人いれば事足りる。多少時間がかかっても魔術的な保管を打ち破れるだけの人員が一人もいれば保管庫へは割と簡単にたどり着けるだろう。


最後に物理的な保管。これも一人いればいい。物理的に閉じられているものなど多少気を遣えば魔術師ならば破壊は容易だ。問題は破壊した後の修繕である。破壊したままでは確実にばれる。そのため破壊したことがばれないように修復も可能であることが好まれる。


そして全体の指揮あるいは進行確認をし、万が一の対応に当たる遊撃隊のような人物を一人つければほぼ万全。


ここまで考えてアリスは指を五本立てる。


「五人だな。優秀な魔術師が五人いれば禁術の保管庫から禁術を奪取できる。物理的に奪うのではなく術式だけを奪うという形になるがな」


先ほどの最低五十人という人数から十分の一まで縮小された人員に康太は腕を組みながら唸っていた。


平凡な魔術師とはいえ五十人を集めるというのはなかなか難儀な話だが、優れた魔術師を五人集めるというのであれば不可能ではないように思えてくる。


今まで康太が関わった禁術関係の事件の犯人もこのように人員を集めたのではないかと思える程度の少人数だ。


「五人か・・・五十人から一気に難易度が下がったように思えるけど」


「馬鹿を言え。むしろ難易度自体は果てしなく上がっているぞ。下調べも必要だし何よりほぼぶっつけ本番に近い。特に魔術的保管に対処する魔術師は高い技量を持っていないといかんな」


「ほほう・・・?部屋の外と中でかけられてる保管魔術の仕組みが違うとかそういうことを想定してる?」


「よくわかっているではないか。支部によってはどこにトラップに近い魔術が施されているかもわからんから索敵も長けていなくてはいかんな」


「なるほど・・・人的保管と物理保管はあらかじめ対処を決めておけばいいけど、魔術的な保管は現地に行かないとどうしようもないってことか」


「そういうことだ。そういう面を含めて五人にした。まぁ入るだけならやりようによっては一人か二人でもできなくはないのだがな・・・」


先ほどまでの最低五人という言葉とはまた違う意見に康太は眉をひそめていた。


明らかに矛盾した発言だ。最低でも五人必要だといっておきながら、やりようによっては一人か二人でいいなどとアリスらしくない。


「どういうことだ?なんか方法があるのか?」


「・・・ん・・・現実的ではないがな。コータよ、禁術の保管庫というものが開けられる瞬間が必ずある。それがいつだかわかるか?」


保管庫が開く瞬間。保管をする場所であるというのであればその瞬間はすでに分かりきっている。


「新しいものを保管するために入れるか、あるいは入ってるものを出すかの二つだな」


「その通り。その開放のタイミングを決めるのは禁術などの指定や配置の決定ができる本部だ。そして保管のための人員を配置するのもまた本部の仕事である」


アリスの言葉を聞いて康太は一つ可能性を思いつく。これがおそらくアリスが言いたいであろう一人か二人いれば禁術の保管庫に忍び込める手段であると確信のようなものが康太の中にはあった。


「そっか・・・本部の人間に対して洗脳とか暗示をしておけば、その情報を聞いてその人員に紛れ込むことができると・・・」


「そういうことだ・・・だがこの場合魔術の奪取はほぼ不可能だろう。周りには本部の魔術師の目がある。中に入って保管するまでの一挙一動が大勢のものに監視される。だから中に入るだけなら一人か二人いれば事足りるのだ」


「なるほど・・・でも本部の人間に対してそこまで強い暗示をかけられる人間がいるとも限らない・・・と」


「私レベルの暗示、あるいは隠匿魔術が使えれば話は別だがの。とはいえ現実的とは言えん。ただでさえ禁術を保管するときというのはピリピリしているものだ。開けるということはそれだけ危険ということでもあるからな」


保管しているものが最も危険にさらされるのは言うまでもなく保管庫を開ける瞬間だ。泥棒などをモチーフにした物語にもあるように本部としても最も警戒するべき瞬間なのである。


「なるほどなー・・・やっぱまともに奪うつもりなら人数用意しないとってことか・・・」


「そうなるな・・・確かコータは何度か禁術関係の事件にかかわっていたのだったな」


「あぁ・・・誰かから教わったけど誰から教わったのかわからなかったり、使った本人が殺されたりと不可解なことが多いんだよ」


康太が関わった禁術関係の事件は最終的に真相が闇の中に消えていった。首謀者の記憶が操作されていたり、使用者が最終的に殺されていたりとあまりいい印象は受けない。


とはいえ組織的な何かを感じるのも確かだ。高い技術を有した魔術師が禁術関係を使って何かをしようとしている。あるいはしていたのは事実である。


康太がそういった事件にかかわったことがあるからこそ禁術に興味があるのも、また保管庫に関して興味を持つのも仕方のないことだとアリスは納得していた。


だが同時に疑問にも思っていた。


「今回のような人殺しのことは積極的に調べるのに、そういった陰謀めいたことは調べようとはしないのだな」


「え?だって面倒くさそうじゃん。俺はちょっとそういうことに巻き込まれたけど、実害があったわけじゃないし、何よりそういうことに首突っ込むと・・・本部からいろいろと目をつけられそうでな・・・」


その言葉にアリスはごもっともだなと苦い顔をしてしまっていた。


実際すでに康太は本部に目をつけられている。そんな状態で禁術に関わる話に首を突っ込めばさらに本部に目をつけられるのは明白だ。


しかもその禁術の事件に康太はほんの少し関わったとはいえ、これ以上関わりを持ちたいとは思えなかった。


ウィルを作り出された事件に関しては少々気になるところはあったが、もとより裁かれるべきはウィルを作り出した神父自身。そしてその神父はすでに殺されている。後味はあまり良くないが終わってしまった以上仕方のない話なのだ。


これ以上深入りするだけの理由が康太にはないのである。だからこそ禁術に関することは興味本位であり、それ以上の考えも感情も抱くのが難しかった。


「でもさ、本部の人間がそんなに禁術とか封印指定とか決めるのはいいんだけどさ、人間そのものを封印指定にするってどうよ?なぁミス二十八号」


「ふむ・・・まぁ私の存在からして封印指定にするのは何も間違ってはいないと思うがの・・・現実問題、私がそれこそSNSなどに自撮りをアップして百年後に同じような写真を同じアカウントで上げたら『あれ?』となるだろう?私の存在はそれだけ危険なのだ」


「・・・なんかすごい容易い危険だな・・・女子高生感覚かよ」


「今のはたとえが少し悪かったかもしれんが実際そういうことだ。特に現代社会においてはそういうことは特に注意が必要だ。さらに言えば私はさっきも言ったが禁術関係をいつでも知ることができる。歩く世界破壊兵器だと思ってくれ」


歩く世界破壊兵器という壊滅的ネーミングセンスに康太は目の前にいる幼女の姿をした魔術師を上から順に観察していく。


頭のてっぺんからそのつま先まで。どこからどう見てもただの外国人の少女にしか見えないその外見、少なくともこれを兵器だといわれて簡単に信じる者はほとんどいないことだろう。


アニメや漫画などをたしなんでいる者であれば、そういう設定の妄想をしているのだろうなと生暖かい視線を向けるかもしれない。どちらにしろ彼女が本当のことを言っていると認識できるものは数が限られること請け合いである。


「まぁアリスが本気を出したらそれこそ世界を滅ぼすくらいはできそうだけどな・・・実際どれくらいかかる?全世界を滅ぼすまで」


「んー・・・まじめに考えたことはなかったの・・・最も効率よく滅ぼすのであればやはり国のトップやその周りの人間を洗脳することかの。一気に核大戦勃発。世界は核の炎に包まれた・・・!」


「最終的にモヒカンがそこらへんに跋扈しそうな世界になりそうだな・・・っていうか魔術的な力で滅ぼすんじゃないのかよ」


「そんな非効率なことをするか。良いかコータよ。良い魔術師というのは適材適所を貴ぶのだ。適した状況に適した能力を持つ魔術を使う。そうすることで最適解を繰り出すことができる。実際に戦うといっても全部魔術でやる必要はないのだ」


確かにアリスの言うことはもっともだ。いくらアリスがこの世界で最高の技術を持った魔術師といっても一人でできることには限界がある。


単純に世界を滅ぼすだけというのであれば今ある兵器の力を借りたほうが圧倒的に楽だし早い。


康太の求めるような答えとは違うが、これもまた効率的な魔術の使い方といえるだろう。


何せアリスは洗脳という魔術を駆使するだけで世界を軽く滅ぼせるのだから。


「じゃあ魔術を使って世界を滅ぼすことはできないのか?魔術だけを使って、兵器とか使わないで」


「・・・できなくはない。多少邪魔が入るかもしれんが・・・宇宙にある星を地球に落とせば簡単に滅ぼすことはできるぞ」


「隕石か・・・強引に地球に引き寄せるのか?」


「コータもやろうと思えばできると思うぞ?収束の魔術の応用のようなものだ。軌道を変える魔術を使えばうまくいけば地球は壊滅する」


康太も使える収束の魔術。動いている物体に対して有効な魔術で、向かう先をある程度変えることができる。


指向性に変化を加える魔術であるため、移動している天体などにも有効な魔術ではある。


とはいえその効果範囲は康太では限られている。宇宙のはるか彼方にある天体にまで効果を及ぼすとなると、ただの人間ではまず無理だろう。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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