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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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禁術と封印指定

「デビットなどは一応封印指定に名を連ねている。その理由は一般人への被害を多くだし、魔術の存在が露呈しかねないというものだった。ここまではいいな?」


「うん・・・でもあの一件で本部が動いてた記憶ないけど?あの場にいたのは支部の人間ばっかりだったし」


康太がデビットと遭遇した場所には支部の人間が大勢いた。一般人に対して治療、あるいは隠匿をするべく大勢の魔術師が存在していたがあの場に本部の人間は確かにいなかったように思える。


「それは当然というべきだな。昔はおそらく本部が対応していたのだろう。だが世界のどこで起きるかもわからない、いつ起きるかもわからない、そんな魔術に本部の人間は割けないのだ。というか割いたらそのほうが違和感を強める」


「あ、そっか・・・いきなりただの住宅街にイギリス人大量発生したらそりゃ『何事!?』って思うわな」


「そういうことだ。おそらくこやつに関しては現地の魔術師および支部が対応するということで決定していたのだろう」


魔術における隠匿の技術は日常に紛れ込ませることで機能するものが多い。いきなり何の変哲もない住宅街に外国人が大量に押し寄せては日常からは遠ざかってしまうために隠匿の効きが悪くなってしまう。


そういうことを考慮し、また迅速に行動できるようにするために本部はデビットの対処に関しては支部にすべての権限を委譲したのだろう。


「話を続けるぞ、こやつのような特殊な魔術の場合二つの対処法がある。先ほど言った存在消去を行うか、あるいは厳重に保管するかだ」


「消去は術式の完全破壊。厳重な保管っていうのは?禁術とは違うのか?」


「禁術よりもさらにグレードが高い保管方法だと思えばいい。尖った能力や特殊な能力を持った魔術で、いつか使えるかもしれないという考えのもと保管されているものがいくつかある。外部に漏れようものなら大変なことになるようなものが多いぞ」


「またまた、別に世界が滅ぶようなものはないんでしょ?」


康太が冗談交じりにそんなことを言うが、その言葉の後のアリスは返答に困ってしまっていた。


「・・・あー・・・うー・・・そ・・・うだな・・・?」


「なんだよその反応!?怖いからやめてくれない!?そもそも魔術って個人レベルの話だろ?世界を壊すほどの威力が得られるとは思えないんだけど」


魔術とは個人で扱うものだ。どんなに威力を高めようとしたところで高い威力を求めたら必然的に多くの魔力が必要となる。


一人で世界を破壊するほどの魔力を捻出するのはほぼ不可能だ。方陣術などにしたってそれだけの魔力を貯蓄するのにいったいどれだけの時間と労力がかかるか分かったものではない。


「いや安心せよ、世界を滅ぼすほどの威力がある魔術はあの中にはない・・・と思う。少なくとも私が覗いた時にはそんなものはなかった」


「そうか、それはよかっ・・・ん?厳重に保管してあるんだよな?なんでお前その内容知ってるの?」


「・・・私にかかればどんなところだろうと入ることができる・・・!容易なことよ・・・!」


「ダメじゃん!厳重な保管できてないじゃん!見てる人ここにいるじゃん!」


「だから私が封印指定に名を連ねているのだろう?そういうことだ。私はいつでも封印指定級の魔術を使うことを許されているのだよ」


「不法侵入者の極みだなお前・・・まぁいいや話を戻そう・・・デビットの場合はその厳重保存かあるいは消去ってことになるわけだろ?でも本部はあんまり干渉してこないんだけど・・・なんで?」


康太が身に宿しているデビットは封印指定に名を連ねているが、本部は一定以上の干渉をしてこようとはしない。


その気になれば康太を殺すことも容易だっただろうにそうしなかった。


「ふむ、そもそもこれがなぜ封印指定に名を連ねていたか、その原因はずばり一般人への被害が多いことだったのだ」


「あぁ・・・ほぼ無差別に広がり続ける伝染病が如き被害拡大。確かにあれはすごかったな・・・」


康太は実際にほとんど見ていないが、町が黒い瘴気に覆われている光景は確かに恐ろしさを覚える。


病原菌が視認できる状態を想像するとあのような形になるのだろう。見ているだけで具合が悪くなりそうな光景が広がっているのだから。


「だがコータがその身に宿してからすでに半年以上、これは一般人への被害は全く出さず、なおかつコータの命令に従い続けている。本部としても意見が割れているというのはコータも知るところだろう?」


「あぁ、確か利用するべきか消去するべきかでもめてた気がする・・・あぁ、つまりそういうことだったのか」


「うむ・・・本部ではおそらくこやつの格付けをどのようにするかでもめているはずだ。一度被害を出したのだから封印指定から外れるということはないだろうが、危険性が薄まっているのであれば厳重保管でもよいのではないかと思うものもいるのだろう」


それなりにこの魔術は有能だからのと付け足しながらもその表情は思い切り不機嫌そうである。


黒い瘴気の塊であるデビットに軽くジャブを何発も放っている。当然瘴気なのだから物理攻撃が効くはずもなく通り過ぎてしまっているが、デビットはこの攻撃を嫌がっているのか妙にざわついていた。


「さて・・・封印指定と禁術の話が終わったところで本部の話に戻るぞ、えぇと・・・基本的に本部の人間、特に上層部は封印指定か禁術かの指定分けをして、その後の対応を決める。そして本部直属の魔術師がそれらに対処するわけだ」


「うん、それは理解してる。封印指定は消去で禁術は保管っていうのはいいんだけどさ、禁術の保管ってどういう風にやってるんだ?」


今まで康太は禁術のことに関して話は聞いていたがどのような形で保管されているのかを知らなかった。

どこに、どのように保管しているのか。康太が知る必要はないのだが少しだけ気になってしまった。


特に以前かかわった事件の中で禁術を利用していたという事象もある。禁術の保管状況に関しては以前から気になっていたのである。


「ふむ・・・ではまず場所から教えておこうか。基本的に禁術は各支部に保管してあるものだ」


「え?一か所に保管してないのか?」


「一か所に保管していると、一つの保管状況を攻略されてしまうとすべての禁術が漏出する可能性があるだろう?それを防ぐために各支部にある程度分配しているのだ」


「あー・・・貯金を別の銀行に預けておくようなものか」


康太のたとえは非常に庶民的な考え方かもしれないが実際にその考えは間違っているものではない。


禁術は先ほどのアリスの説明にあった通りかなり危険なものが多い。そのため一度破られてしまえば何度でも閲覧可能というのは少々危険なのだ。


そのため各支部にそれぞれ分配する形で禁術を保管しているらしい。


「とにかくそういうこともあって、各支部に保管はしているのだが・・・その保管方法だが物理的な保管と魔術的な保管、そして人的保管の三つを施している。普通の魔術師ならばまず突破は不可能だろうな」


「・・・まぁアリスは普通に突破したんだろ?」


「当たり前だ、私をだれだと思っている?各支部にある禁術の数とその種類も把握しておるぞ」


普通の魔術師ならば入れないという中でさも当然のように入ってしまうアリスはさすがというべきだろうか。


アリスのどや顔を見ながら康太はため息をつく。何度か禁術にまつわる事件にかかわってきたせいもあって禁術の保管状況に関しては少々不満というか不安があるのが康太としては微妙なところだった。


「アリスから見て禁術の保管状況はどうなんだ?まだまだ改良の余地ありか?」


「もちろんだ。むしろ改良の余地しかない。先ほど物理的、魔術的、人的な保管をしているといったが、一つ一つ解説していこう」


アリスは適当な紙を一枚取り出して大まかに部屋の行動を書き記していく。


「支部によって保管の詳細は微妙に違うが、まず第一に魔術的な保管から。保管用の部屋にたどり着くことができないように、認識することができないように阻害魔術がかけられている。とはいえこれは完全なものではない。おそらく偶然などが働けばコータでも見破れるレベルだ」


「それって阻害の意味ないんじゃ・・・」


「うむ、とはいえこの方法はあくまで補助的なものだ。同じような部屋をダミーとしていくつも作っているためこちらはおまけだと思え。もう一つの魔術的な保管は出入り口の封鎖だ。『固定』と呼ばれる魔術の応用だな」


「固定・・・」


「文字通り物体を固定する魔術だ。防御や補助的な使用が主な魔術だな。これによって壁床天井扉内部すべてを固定している」


保管部分が部屋ということもあって、四方上下入り口の動きを止めてしまえば、入ることはほぼ不可能になる。


この時点で康太が突破するのは難しくなる。康太は固定の魔術がどのようなものなのか詳細は把握していないが、仮に自分ならばどのように突破するだろうかと頭の中でシミュレートを始めていた。


「へぇ・・・じゃあその固定を解除しないと入ることはできないと」


「まぁそういうことだな。だがこの固定魔術も突破できないわけではない。コータも頑張れば突破できるだろうな」


「そういうたぐいのものなのか・・・ってことは物理突破も可能と」


「まぁそんなことをすれば大きな衝撃などで大きな音がするだろうな。これがたいていの基礎的な魔術保管だ。各支部によって追加しているがの」


基礎的というか義務的な措置がその二つであるらしい。たどり着くことを防ぎ、入ることを防ぐのが最低限の魔術的な保管であるらしい。


「じゃああれだ、支部によってはアリスでも突破できないような保管方法をやってるところも・・・?」


「あると思うか?」


「・・・いやないな。ていうかアリスだったらこの世界のどんなところでも入れるだろ?ぶっちゃけ銀行強盗し放題だな」


「銀行強盗などしてどうする・・・金はもう余るほど持っているからいらん。あとはそうだの・・・日本支部などでは保管方法として鍵の術式などを使っているようだったな」


「鍵?」


「正しい開け方をしないと警報を鳴らす魔術だ。鳴子などと呼ばれたりもする。昔はよく見た魔術なのだが、最近では使っている魔術師はほとんどいないな・・・」


「へぇ・・・廃れたのか」


「昔は一般人が工房に迷い込むということもあり得たからな・・・有用だったのだが・・・時の流れとは無情なものよ」


アリスは昔との違いを実感しながらも小さくため息をついていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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