新たなシステム
「なんか魔術師ってすごい個人主義なんだな・・・今までそんな風に考えたことなかったけど改めて考えてみるとすごい自分勝手というか・・・やってること適当というか・・・」
「そうね、そもそも魔術師を支配しようとする存在がいないからそういう形になるのかも。支配というか統制というべきかしら?」
人間のようにある程度にらみを利かせる存在がいない限り徹底的に自分勝手にふるまうような種族が魔術という技術のもとそういったにらみを利かせている存在から逃れる術を手に入れた時どのように行動するかなど火を見るよりも明らかである。
中には持ち前の正義感をもって周囲の人間に自粛を求めるものもいるだろうが、そんなものが何人いるかもわかったものではない。
仮にいたとしても、魔術師の行動は基本的に自己責任。ありとあらゆる行動は自分で責任を取らなければならない。
損得含めて自らにすべて返ってくるのだから、周りに迷惑をかけさえしなければ周りは当然黙認する。
むしろ自ら関わってその分損をするようなことになればそれこそ面倒なことになりかねない。
対岸の火事ではないが、自分が関わる必要がない案件であればみなかかわろうとしないのが普通なのだ。
今回の康太のような行動がそもそも周りの魔術師からすれば理解できない不可解な行動に思えるだろう。
だがそれもまた魔術師としての行動なのだ。康太は今回感情的な行動理念のもとに調査をしている。
これもまた魔術師として動くだけの理由になり得る。なにも不思議なことはない。周囲からは妙な目で見られるかもしれないが、それはそれ、最終的には個人主義という考えがあるのだから何もおかしなことではない。
「いっそのこと魔術師の中にも警察みたいな組織を導入するべきじゃないのか?そうしたほうが面倒が起きなくて済むだろ」
「・・・ビー、現実に警察はいるわけだけども、犯罪がゼロになったなんてことはないでしょ?」
「・・・まぁ・・・でも抑止力としてさ」
「それなら周りの自分以外の魔術師全員が抑止力としての効果を持ってるわよ。何せ普通の人間は警察しか持ちえないだけの武力を魔術師の大半が持ってるんだから」
警察が行うべき仕事は一般市民の安全を守ること、そして犯罪を行ったものを捕まえることである。
そのためにある程度の武力行使が認められている。彼らが所持している拳銃などがそのいい例といえるだろう。
権力的にもある程度力で押さえつけることを容認されており、度を越えるのは昨今の世相的によろしくないかもしれないがそれでも抑止力としての存在をアピールできるために無駄な行動ではない。
一般人がそういった武器の所持を許されていないのに対して、警察などは武器の所持をある程度許されている。
だからこそ警察は抑止力たり得るのだが、それに対して魔術師は個人個人がある程度の武力を有している。
その武力とは魔術であり自らがその身に着けている装備の数々だ。場合によっては自分よりもずっと幼い魔術師が自分を殺すだけの力を有しているということだって十分以上にあり得てしまう。
だからこそ、魔術師にとっては周囲の魔術師もまた警戒しなければいけない対象になり得るのだ。
「でもそういう組織がいたらある程度警戒はするだろ?なんていうか・・・粛清機関?みたいなのがさ」
「そんなのがいたらそれに対して反抗する組織が出来上がるわね。そういう組織に所属する人物も選定しなきゃいけないし、何よりそんなことをやりたがる人がどれくらいいるのかしら?」
魔術師は力を持った人間ではあるが、警察のようにある程度正義感や目的を持って行動するものではない。
魔術師は自分勝手なもの、あくまで自分のやりたいことをやるために魔術を習得しているのだ。
そんな人間が犯罪を行う魔術師を粛正するために行動するかと言われれば微妙なところである。
仮にそういった考えを持つものが集まったとしても、警察のような大人数による抑止力とはなり得ない。
「それに今の協会直属の魔術師が所謂抑止力に近いんじゃない?何か面倒ごとすれば駆けつけてくるしさ」
「まぁ・・・そうなのかな・・・そうかもしれないな。実際ある程度実力があって協会の中で問題が起きたらやってきてるわけだし・・・」
「そういうこと。あんたが考えるようなことはもうすでに昔の人がたいてい考えてるものなのよ。そういう意味では魔術協会やらその組織やらの形はほぼ完成してる状態に近いってわけ」
組織としての完成。それはあらゆる面での問題を考えたうえで成り立っていく。それは時代とともに変わっていくものであり、少しずつその形を変えながら変化し、なおかつ成長していくものだ。
魔術協会とてそれは例外ではない。アリスが協会を作った当初から少しずつ組織は成長し多くの役割を担うようになっていったのだ。文の言うように康太が考えつくようなことはすでに誰かが考え実施しているのである。