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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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個人の裁量の問題

「特殊って・・・いわゆる快楽殺人者とかか?」


「そういう言い方になるのは仕方ないわね。サイコパスとかそういう部類の人間ね。何をするかわからない所謂少し壊れた人間・・・いえ、考え方がずれてるっていったほうがいいかしら。価値観が私たちとは違うのよ。だからこそそういうことも普通にできる」


魔術師として変わるのはあくまで考え方だ。そこにある価値観やものの見方までが劇的に変わるわけではない。


魔術師となったからと言って人を殺したことに対する罪悪感は変わらないだろうし、誰かに傷つけられて不快に思わないものは少ないだろう。


そう言った人として当たり前の感性とでもいうべきだろうか、そういったものは魔術師になっても変わることはない。


もしそれらが一般人と大きくずれていたのであれば、文の言うように何も気にすることなく犯罪を行うことができるのかもしれない。


それこそ何百人という人間を殺しても何も思うことなく、罪悪感の欠片も覚えることなく当たり前のように日常を過ごしていくのかもわからない。


「魔術師として行動しているのだから魔術協会にその責任を取ってもらえっていうのは筋違いな話よ。協会は別に魔術師たちを支配してるわけじゃないんだから」


「・・・なんかそれだとさ、悪いことをする魔術師がすごく得してるように見えるんだよな・・・好き勝手やって、誰も裁くやつがいないんだろ?」


魔術師の犯罪は発覚しにくい。人の目も欺けるし証拠も残さない。ありとあらゆる超常現象を味方につけることで何の問題もなく完全犯罪を行うことができてしまう。


個人の罪悪感などを無視すれば、確かに康太の言うように魔術師の犯罪者は比較的得をしてしまうように思える。


何せ低リスクで高い成果を得ることができてしまうのだから。


「んー・・・まぁあまりに露骨に行動してると魔術の存在が露見する可能性があるってことで協会が出動するけどね・・・そこまで露骨じゃなくて適度にやってる程度であれば看過されちゃうわね」


「最終的には程度の問題ってことか・・・なんかもやもやするな」


「・・・そういうもやもやを感じてる連中は多いわ。そういう奴らで徒党を組んで犯罪を行う魔術師を打倒するチームもいるらしいし」


「そうなのか?」


文の言葉に康太は目を丸くしていた。てっきりほとんどの魔術師が犯罪を是としているのかと思ったがどうやらそういうわけでもないらしい。


「私も実態を確認したわけではないけどね。あくまで噂、しかも自警団レベルだそうよ?あくまで個人で見逃せないってだけの話」


「ふぅん・・・でもそっか、同じ考えを持ってる人はいるんだな」


自分と同じような感性を持っている人間がほかにもいるということに康太は少しだけうれしくなっていた。


だが文はそんな康太を見てため息をついてしまう。


「でもねビー、そんな連中だって小規模な犯罪行為はやってるのよ?不法侵入とか詐称とか、魔術を隠匿するための行為は普通に行ってる。毒を以て毒を制すじゃないけど、これも結局は個人の程度の問題になるのよ。これはダメだけどこれはいいとかそういうレベル」


「あー・・・まぁそうだよな・・・全く犯罪をしない魔術師ってものすごく不便になるもんな」


康太は今まで自分が行っている行動一つ一つを思い出し、その中で犯罪になるものとそうでないものを振り分けていった。


日常的で当たり前になっていた行動の中でもちょっとしたことが実は犯罪だったとかそういう話はよくある話だ。


魔術師の場合は特にその傾向が強い。


日常的に行っている魔術師としての活動にかかわるものの中で、不法侵入などは特に特筆するべき点だろう。


魔術師がまったく犯罪をしないというのは実はかなり難易度が高いのだ。


その難易度を考慮してある程度善し悪しをつけていくとなると、最終的にはやはり個人の裁量に左右されることになってしまう。


そんなあやふやなものに魔術協会という組織が介入するはずもない。だからこそあるとしたら魔術の存在が露呈するか否かという大原則に基づいたものになるのだ。


「なんか難しいな・・・最終的には自分で決めるしかないのか」


「それが魔術師よ。誰に言われたわけでもなく自分で決めて行動する。まぁ普通の人も最終的にはそういうことを求められるけど、魔術師の場合は特にその傾向が強いわね。何をしてもいいし、どんな風にもなれるんだもの」


文の言葉に康太は少しだけ思うところがあった。


小百合や奏に好きにしろと言われたとき、康太は迷ったのだ。何をしてもいいから何でもできるというわけではない。


自分のやりたいことと自分の中にある明確なビジョンを比較した時、どうにも具体的な行動が見えてこなかったのである。


何をしてもいいという漠然としすぎた自由は、かえって行動を狭めてしまう。特に自分にやりたいことが明確にない場合はそれが該当する。


どんな風にもなれる。康太の場合は師匠である小百合の関係でどのような風にもなれるかといわれると微妙なところだが身近に真理という見本があるのだ。


やりようによっては本当にどのようなものにでもなれたかもしれないのだ。一般人のそれと同じだが、最終的には自分の努力次第で自分の将来は決定する。


無論身内の問題というものも存在するだろうが、どのように自分が立ち回るかというところで結果は大きく変わってくる。


その取捨選択をどのようにするか、どのような行動を選択するか、やはりそこも最終的には個人の裁量ということになる。


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