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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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殺した時の対応

「また難しいことを・・・本当にケースバイケースとしか言いようがないわね。人を殺すことで協会からは称賛される場合もあるし、殺したことで協会から追放されることだってあるし・・・」


「それは善悪とかそういうことじゃなくて魔術の存在の露見がどうのこうのって話になってくるのか?」


「そうなるわね。魔術の存在を露見しかねないような殺人であればとがめられ、その逆であれば称賛される。単純だけど協会の基本理念だからね」


善悪、そしてその殺人の正統性を一般人の視点から話をしたところで意味はない。


魔術師として、そこにあるのは魔術の露見の可能性の有無だ。逆に言えばそれがどの程度の危険性を秘めているかで協会の出方は変わってくることになる。


「ちなみに露見の可能性が全くない場合、魔術の存在に関してだれも気づく可能性もなく、なおかつ魔術師が人を殺した場合は協会としてはどうなんだ?」


「そんな状況はありえない・・・と言いたいけど・・・そうね・・・」


康太の言うような可能性が限りなく低いということはそれを言っている康太自身理解していることだった。


人を殺すということは多くの人間がその人物の死に関心を持つということでもある。


警察、医療、一般人、ありとあらゆる人間がその人物の死に一瞬ではあれど意識を向けることだろう。


その殺人を解決するための組織である警察は特にその死体とそれが生み出された原因について調査することになるだろう。


そんな中で魔術の存在が露見しない可能性がゼロの事件などあり得るのだろうかと康太も文も悩んでいた。


以前康太が小百合にされたように、事故に見せかけて殺してしまえば何のことはないかもしれないが、その事故にだって何らかの原因があるのだ。その原因について言及されるようなことがあった場合どのような結果を導くか分かったものではない。


「そうね・・・ありとあらゆる可能性を考慮しても魔術の存在の露見の危険性がないとした場合・・・まず間違いなく協会としては見て見ぬふり・・・黙認を貫くでしょうね」


「・・・そうなのか・・・代わりに裁いたりとかはしないのか」


「だって協会は別に法律に縛られてるわけではないもの。普通に不法侵入だってするし人をだましたりするでしょ?でも誰も咎めないじゃない」


「・・・そりゃそうだけど・・・でもそういうのと殺人はわけが違うじゃんか」


「違わないわ。やってることが不法侵入や詐称から殺人に変わっただけよ。まぁあんたが言いたいこともわかるけどね・・・」


文も康太が言いたいことの本質を理解している。理解してはいるが文の見解としてはここは変えられなかった。


魔術師として生活していれば、一般人が縛られる法律というのがいかに脆く儚いものであるかがわかる。

結局法律はそれを行わなせないために禁止するためのものだ。それを侵せば裁きを下すという口上を全国的に布告することで個人の行動を縛るためのものだ。


そしてその行動をした場合、その責任はすべて自分にある。犯罪の大小によってその罪と罰は変化するが、最終的には自分の行いは自分に返ってくるものなのである。


それがわかっているから多くの人間は犯罪を行わない。犯罪を行うということはつまりこの人間社会から排斥されることを意味するからである。


この社会から排斥されて生きていけるのはごく一部の人間だ。それだけの権力や財力を持っているか、あるいはそれすらも飛び越えた何かを持っているか。


前歴がつくというのはそれだけ大きなリスクなのだ。一般社会に戻ろうとしても一度ついたレッテルはそうたやすく剥がれることはない。


そういったリスクを理解しないで犯罪を行うものもいれば、理解していてなお行うものもいる。


それは個人の考え次第だが、結局のところリスクとリターンの釣り合いを自分の中でとることができればいいのだ。


そして魔術師の場合、そのリスクとリターンの秤が大きくリターン側に傾いている。


何せ一般人には分らない形でありとあらゆる行動をとれるのだ。覚えている魔術の数と種類にもよるが、たいていの魔術師ならば容易に人をだまして金銭を奪い取ることができるだろうし場合によって人殺しだって簡単にできる。


そうして大きな犯罪を行っても、ばれる可能性は限りなく低い。そのため犯罪に対しての忌避感が一般人よりもだいぶ疎いのである。


康太は犯罪はするべきではないと自分で言っているが、何度か不法侵入をやっているし人を傷つけているし人をだましている。


一般人としてやるべきではない行動であるにもかかわらず徐々に魔術師としての常識に感化されてきている証拠である。


文もそれを理解しているが故に康太の言葉の意味と何を言いたいのか、何を言わんとしているのかを察して言葉を返すことができる。


とはいえ文は長い時を魔術師として過ごしてきた。一般社会に溶け込むことと、一般社会に溶け込むうえでやってはいけないこと、そして越えてはいけない一線というものを教え込まれてきた。


そういう意味では制約が多い。そのため一般人に近い形の常識を持っているといってもいいかもしれない。


「結局のところ個人の裁量次第ってことよ。本人が許容できるか、そして納得できるか。あとは抱えきれるかってところね。それができない人間は自分から危ない橋は渡ろうとしないし、逆に特殊な人間はいくらでもそういうことができる」


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