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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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現地調査開始

堤の家を調べるのはそう難しいことではなかった。


堤は協会に自分の住所まで報告していた。死体の処理を頼むために当然かもしれないがその関係で康太たちは支部長に堤の家の住所を大まかに教えてもらい。そこから堤の家を割り出すことに成功していた。


堤の家の周りには特に変わったところはないように思える。マナ的に何か特殊な条件が重なっているということもなく、これといって魔術師に魅力的な何かがあるようには思えなかった。


堤の家があったのは山と山に挟まれたいわゆる扇状地。といってもそこまで急なものでもなく狭さも感じられない。


山までの距離がかなりあるためにただの平地としか見えないところも多くあった。


堤の家は平地の中でも山寄のほうではあるが、それでも坂道が多く存在するというわけではない。


この辺りの地形は山までの距離が近くてもそこまで傾斜が強くならないのが特徴であるらしい。


交通の便としては一応平地中心部あたりに電車と国道が通っていてそれなりに交通の便は良いように思えるが、時刻表を調べたところ電車の本数は割と少なめである。


都市部のそれに慣れてしまうと明らかにやる気のないダイヤだと酷評してしまうレベルだといわざるを得ない。


人口密度もそこまで高いわけではなく、魔術師の縄張りもそこまで存在しない。協会で確認してみたところこの辺りで魔術師たちが争ったことは数えられる程度しかないということだった。


「んー・・・こんなところでそこまで争うとも思えないんだけどな・・・殺すほどのことってよっぽどだぞ?」


「確かに、別に何か取り合いするような土地があるとも思えないわね・・・しかもその人の家に乗り込んでっていうのが変よ・・・実際の現場を見てないからいまいちピンとこないわね・・・」


「とはいってもまだ協会が死体の処理してないからな・・・いつだって言ってたっけ?」


「明後日よ。それまでは入らないほうがいいかもしれないわね・・・処理するのはあくまで死体と痕跡だけだから・・・」


「明後日まで待つか・・・?いやいや消極的ではいかんな。この辺りに潜伏してるのはたぶん間違いないんだし、この辺り探してみるか」


目標にしている相手が魔術協会に所属していないということと交通の便がそこまでよくない、特に電車での移動は夜になると困難になるというところから、この辺りで生活している魔術師であるのは間違いない。


問題はこの辺りの魔術師の中に件の人物がいるかどうかということである。正確に言えばあの仮面をつけているかという話だ。


メインの仮面とサブの仮面という形で付け替えを行っていた場合、見つけるのが困難になる可能性が高い。


「この辺りの魔術師に聞き込みしてみる?協会に所属してない魔術師についてとか・・・あとはこの辺りの特産とか」


「・・・野菜とかは結構おいしそうだけどな」


「そういうのじゃなくて魔術的な意味で。もしかしたら何かあるかもしれないじゃない?以前のクラリスさんたちの話を聞く限り、何かの材料を奪い合ってって可能性は十分にあり得ると思うのよ」


小百合たちが件のチームと争ったきっかけは薬品の材料の奪い合いだった。つまり今回もそれに近しい事柄が原因なのではないかと文はにらんでいるのである。


考えられる中では一番現実的だろうか、少なくとも痴情のもつれなどよりはずっと可能性は高いように思えた。


とはいえ、材料一つのために人を殺すだろうかという疑問もある。


別に一つの場所でしか取れないほどの貴重な材料というわけでもないだろうし、何よりすべてを独占しようとしている相手ならともかくある程度話は通じそうな魔術師であるならある程度割譲してもらってもいいように思うのだ。


なにも殺す必要がどこにあるだろうかと康太は考えていた。そしてその考えは文も同様だった。


可能性としては一番高いかもしれないが、殺人の必要性を考えるとどうしても疑問を浮かべてしまう。


『そこまですることなのだろうか』と。


人を殺すというのは究極的な発想がなければ生まれてこない。それこそ徹底的に追い詰められていたり、そうする以外に取れる手段が思いつかなかったりと一種の短絡的思考の行きつく先であるのは間違いない。


魔術師として行動してきた人間ならばあらゆる可能性を考慮するのが自然だ。最初から戦闘などをするのではなく、まずは話し合いなどを模索するのが通常の流れである。


話し合いで決着がつかないのであれば勝負という形でもいい、命を奪うまでもなくある程度勝ち負けを決められる形で戦えばいいだけの話だ。


そういった踏むべき順序をすべて飛ばして殺すことになったその経緯と理由に関して、二人は必死に考えるもほとんど思いつくことはできなかった。


「とにかく聞き込みだな・・・この辺りの魔術師は数も少ないから探すのはそこまで苦にはならないだろ」


「そうね・・・言っておくけど話は私が聞くからね?あんたは下がってて頂戴」


「わかってるって。変に話がややこしくなるのは嫌だからな。情報収集はお前に任せるよ」


康太が前に出るとどうしても話がややこしくなりがちだ。そうならないためにもある程度情報収集は文に任せなければ余計な争いを生むきっかけにもなり得る。


もう少し穏便に生きておけばよかったなと康太は今までの魔術師としての行動を少し後悔してしまっていた。


小百合の弟子になった時点で手遅れな気がするが、そうすると魔術師の最初期からやり直さなければいけない事実に軽く絶望していた。


「そうですか・・・ありがとうございます」


街の中を捜索し一人目の魔術師を見つけた康太と文はさっそくと聞き込みを開始していた。


この辺りで協会に所属していない魔術師はいないか、この仮面をつけた魔術師を見ていないか、この辺りで魔術的に珍しい品物を採取することは可能か。大まかに質問した内容はこの三つだった。


だが結果的に言えばこの三つの情報に関して知っていることは何一つなかった。


魔術師を見ただけで協会に所属しているかどうかはわからない。そして件の奇抜な彩色の仮面は見ておらず、この近辺で魔術的に有用なものが採取できるという話も聞いたことがないという。


情報収集の初手としてはあまり良い結果とはいいがたいが、まずは聞き込みを続けることが先決だ。


幸いにも温和な人物であったために、文はさらに情報が得られないかと話を聞いてみることにした。


「大したことはない・・・力になれなくてすまんな・・・」


「いいえ。他にこの辺りの魔術師の方がいればその拠点を大まかでいいので教えていただけると助かるのですが」


「あぁ、それならあっちの、駅の北側のほうに一人いるよ。行ってみるといい」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


康太と文が二人一緒に頭を下げると、魔術師は手を振って二人に別れを告げていた。


康太の仮面を見たときは一瞬身を強張らせていたが、康太が何もする気はないということが分かった時点で警戒を解いていたのが印象的だった。


やはり自分はいろんなところで警戒されてしまうのだなと、康太は少しだけ落ち込んでしまっている。


「ひとまず一人目は情報なしと・・・次は駅の北側行くか」


「そうね・・・順々に回っていきましょう。この辺りにいる魔術師が何人いるのかも定かじゃないけど・・・」


十人に満たない程度の魔術師がこの辺りにはいるだろうなと予想しながら、康太たちは歩いていた。


魔術師に出会って話を聞く。ただそれだけのことなのだがどうしても康太が一緒にいるということで向こうも警戒してしまう。


いっそのこと康太も仮面を付け替えようかなと思ったのだが、ブライトビーは必要性がなければ暴れないという事実を作っておきたくもある。


小百合と違ってところかまわず暴れているわけではないという情報をより多くの人間に知らしめておけば今後康太を見て不必要におびえる人間もきっと減るだろうと康太は考えていた。


実際その通りになるかどうかはさておき草の根活動は必須である。


「あっちのほうが無精ひげの人の家よね?その活動半径的に言えば・・・この辺りが怪しいんだけどなぁ・・・」


「んー・・・でもこの辺りって魔術師が少ないから活動範囲が広いことも考えられるぞ?そのあたりがちょっと難しいところだよな」


魔術師の活動範囲というのはその魔術師の活動方針にもよるのだが周囲に魔術師がどれくらいいるかという魔術師の存在密度にも大きく影響される。


かつての大分の状況を思い浮かべればわかりやすいかもしれない。あまりにも魔術師が多すぎるせいで、個人が持てる魔術師としての縄張りは数十メートルが限界だった。密度がよりひどいところでは十数メートルという一軒家程度の縄張りしか持てていないものもいたほどである。


この辺りは都市部から離れているということもあり、魔術師の数はそこまで多くはない。そのため一人一人が割と広い活動範囲、縄張りを維持できていると思われる。


そう考えると堤の家の周りからどれほどが活動範囲であるのか、かなり大まかな把握しかできないのが現状である。


活動範囲に干渉するから問題だったのか、活動範囲外からきてその範囲内にある何かを取り合ったのか、どちらにせよ今の康太たちでは情報が足りな過ぎて判断することができなかった。


ひとまず情報を集めるほかない。堤の家に近づけば近づくほど、得られる情報は康太たちが求めるものに近づくだろうと考えていた。


実際にその通りになるかどうかはさておいて、この辺りにいる魔術師全員に話を聞くくらいのつもりで行動するのがベストだろう。


「ねぇ、最後にでいいんだけどさ、索敵でいいから無精ひげの人の家の状態を探ってみない?」


「それは・・・構わないけど・・・またどうして?」


「その人、奥さんと子供も殺されたって言ってたでしょ?奥さんはまだわかるけど、子供も魔術師だったのなら、何かしら魔術師としての隠し部屋があったと思うのよ」


「お、さすが一家そろって魔術師な奴は発想が違うな。確かベルの家にもそういうのがあるんだったっけか?」


「えぇ、だからそういうのがあったら何か特徴的なものがあるかもしれないから。そうすれば手がかりになり得るでしょ?」


「確かに。んじゃ聞き込みが終わったら行ってみるか。索敵可能範囲は?」


「百メートルくらい近づいてくれるとありがたいかも。五十メートルまで近づいてくれればなお詳しく調べられるわ」


より詳細な索敵をするための距離を決めた時点で、康太と文は再び周辺の魔術師たちを対象に情報収集を進めていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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