小百合の昔話
「なんだそれは、新手の芸術作品か何かか?あいにく私は芸術には疎くてな」
仮面の描かれた紙を見せたときの反応は康太の予想通りのものだった。そもそも仮面であることさえも認識できていないようだった。
当然といえば当然だろう。仮面の形にいくつもの絵の具を無茶苦茶に塗りたくり不規則に混ぜ合わせたような奇妙奇天烈な絵がそこにあるだけなのだ。何も説明せずに見せたとしてもこういう反応になるのは無理のない話である。
「師匠にも話した通り、師匠を探し回ってた人の奥さんと子供を殺した奴が身に着けてた仮面のデザインですよ。どっかで見たことないですか?」
説明が非常に長くて面倒くさいなと思いながら康太はその仮面のデザインが描かれた紙を小百合に渡す。
きっと知らないというだろうなと最初から期待はしていなかったが、小百合がその紙をよくよく見ている中「ほぅ」と小さくつぶやくのを康太は聞き逃さなかった。
「・・・ひょっとして師匠、この仮面の人知ってます?」
「・・・正確にはこの仮面をつけていたチームの人間を知っているというべきだな。もうだいぶ前になるが、この仮面はとあるチームの魔術師全員が統一して身に着けていたものだ・・・」
まさか小百合からあたりを引くことができるとはと康太は目を見開いて驚き、同時に喜んでいた。
そして同時にやはり小百合と関わりのあることだったのだなと、自分の考えが間違っていなかったことを知り、少しだけ複雑な気分だった。
「チームって・・・協会には所属してなかったんですか?」
「あぁ、協会には所属せずに新潟のあたりで活動していた。とはいえ私が修業時代の話だぞ?」
小百合の修業時代ということは軽く見積もっても十年以上は昔の話になる。
ただでさえどうでもいいことは覚えていない小百合がよくこの仮面のことを覚えていたものだと康太は感心してしまっていた。
「師匠の修業時代って・・・よく覚えてましたねそんな昔の話」
「ただの絵の具をぶちまけた絵だけなら思い出すこともないかもしれんが、これが仮面と言われればいやでも思い出す。チーム全員がこれを着けているんだぞ?戦っている最中目が痛くなりそうだった」
やっぱり戦ったのかと思いながらその光景を思い浮かべて康太は苦笑してしまう。
確かにこれだけ特徴的な配色をした人間が一斉に襲い掛かってくれば記憶に残ってしまうのも仕方のない話かもしれない。
とはいえ思わぬところから手掛かりが出たことに康太は喜び、小百合に話を聞くように進言してくれた真理に対して強い感謝を向けていた。
「だがおかしいな・・・こいつらは私とあのバカが完膚なきまでに叩き潰したはずだったが・・・生き残りがいたか・・・?」
「あのバカって・・・ひょっとして春奈さんですか?師匠と春奈さんが一緒に・・・?」
文の師匠であるエアリスこと春奈もかかわっていたという事実に康太は目を丸くしてしまっていた。
同時に小百合と春奈を同時に相手にしなければいけなかった当時のそのチームの人間たちに同情してしまう。
なんとも不憫な状況を作り出してしまったものだと思いながら康太は話を先に進めることにした。
「ていうかそもそもなんで師匠とその新潟のチームの人が戦うことに?なんかあったんですか?」
小百合の修業時代の話はあまり聞いたことがなかったが、新潟方面での魔術師の活動はそこまで活発ではないように思える。
豊かな自然があるということで自然の力を利用する魔術の研究などは盛んにおこなわれているらしいが、そういうことをする魔術師も散り散りなっており争いらしい争いもあまり起きないのだ。
「ん・・・確かその時は師匠の仕入れの手伝いをしていたんだったか・・・仕入れ先の人間と少々トラブルを起こしていたチームがそいつらで、師匠にちょっと潰して来いと言われて・・・だった気がする」
「仕入れってことはこの店関係ですか・・・でもそれならどうして春奈さんが一緒に?」
「昔あのバカと私は強制的に一緒に行動することになっていたんだ・・・師匠同士が無駄に仲が良かったせいで人手が足りないとかいう理由で連れて行ったんだよ・・・」
小百合の師匠である智代と、春奈の師匠、まだ康太はあったことはないがこの二人は非常に仲が良かったらしい。
そのため一緒に修業したりどこかに行ったりと交流があったのだという。
そんな中仕入れの際に人手が不足していたところ、春奈が修業ついでだということでついてきたそうだ。
その仕入れの最中に仕入れ先の魔術師といざこざを起こしていた魔術師のチームが今回探していた仮面の人物が所属していた可能性のあるチームなのだとか。
なんとも面倒なつながりだなと思いながらも、康太はようやく得た手かがりを手放さないように次はだれに話を聞きに行くかをすでに決めていた。
だがそれよりも前に聞かなければいけないことがある。
「ちなみに師匠、そのチームはどの程度叩き潰したんですか?」
「さっき言っただろう。完膚なきまでにだ。あとかたも残さないレベルで叩き潰した。師匠がご立腹だったからな」
小百合がここまで言うということはおそらく言葉の綾などではなく本当の意味で叩き潰したのだろう。恨まれていても仕方がないなと康太は事の発端を理解しながら情報収集を先に進めることにした。




