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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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偽りの関係

「バスの集合時間あとどれくらいだ?」


買い物をしてどれくらい時間が経っただろうか。小休憩の時間そのものはそこまで長くはない。あまりのんびりしているとおいていかれかねないと康太は自分の携帯で時間を確認しながら周囲の生徒の動向をチェックしていた。


徐々に生徒は少なくなってきている。時間が迫っているためにバスに戻り始めているというのは容易に想像できた。


「あと五分くらいだね、そろそろ戻ったほうがいいかも」


「そうだな、んじゃそろそろ・・・」


「いやちょっと待っててくれ、いろいろ買ってくる」


まだ買い足りないのかと康太と島村は少し呆れた表情をしていたが、どうやらまだ会計を済ませていなかった商品がいくつかあったようだった。


幸いレジは空いていたために比較的早く購入することができ、康太たちは足早にバスに向かうことになる。


そんな中で康太たちは同じくバスに向かおうとしていた文たちを目にする。隣のクラスであるために乗り込むバスは違うが、どうやら向こうも康太たちに気付いたようで軽く視線で会釈していた。


康太たちも同じように視線を交わした後軽く会釈をするとバスに乗り込んでいた。そして先ほど購入した特殊な味の菓子を開け口に放り込んでいく。


「お前と鐘子って親戚なんだろ?」


「あぁそうだよ・・・って言っても俺も詳しくは知らないんだけどな・・・親に確認したけど結構遠いみたいだし」


「ふぅん・・・まぁ結構あるよね、俺も親戚全員把握とかできないし」


息を吐くように嘘を吐く康太だが、青山と島村は特に気にした様子もなく返していた。親戚づきあいなどが積極的ではない家庭ではどこの誰が親戚なのかを把握していないものがほとんどだ。


最低限名前くらいは知っていても、顔や年齢などは正確に把握していないものばかりだろう。現に康太は自分の親戚の名前は知っていても顔が思い出せるかと聞かれると少し首をかしげてしまう。


「子供のころ会ったりしてないのか?親戚で同年代だったら結構そう言うのあるんじゃねえの?」


「・・・覚えてないな・・・っていうかあいつに言われるまで存在すら忘れてたんだぞ?むしろ教えられたときショックだったわ」


「あー・・・まぁそうかもね」


もし学校の中で一二を争うほどの美人が自分の親戚だったらという事を考えると康太は複雑な表情をしてしまっていた。


なにせある程度話すことはできてもそれ以上の関係になることはまずできないからである。


もちろん家族や親戚同士で話し合って問題ないと判断されればまだいいのだが、普通の男女関係はまず望めなくなるだろう。


現代においてそんな面倒なものを望む人間はごくわずかだ。康太だってそんなこといやの一言である。


もっともそれは文と話しやすくするため、そして二人の関係性を問いただされないようにするための方便であり、康太は現在彼女に一切の恋愛感情を抱いていない。いや抱けなくなっていると言ったほうが正確かもしれない。


なにせ彼女が魔術師であり、一度、いや数度彼女に殺されかけているのだ。


魔術師としての戦いを強いられた時点でそれは互いに仕方のないことではあるが、そんな一面を見せられてなお彼女のことをすぐに好きになれるほど康太は豪胆ではない。


もちろん人間的に彼女が優れているのはよくわかる。少々くせが強く何より強気な性格をしているとはいえそれを補って余りあるほどの美貌と、十分すぎるほどにまともな性格をしているのだ。それこそ人を選ばなければ引く手あまただろう。


実際青山と島村もそんな彼女に惹かれている。だからこそ康太を経由してでも彼女に近づこうとしているのだ。


その努力が実ればいいのだがなと康太は小さくため息をつく。


「でも親戚ってことはすでに家族ぐるみの付き合いなんだろ?」


「いや、俺あいつの両親にあったことないぞたぶん・・・覚えてないだけかもしれないけど」


「子供の頃にあってるかもしれないけど・・・昔の事じゃ覚えてないよね」


文の両親は二人とも魔術師であるとのことだった。もしかしたら魔術協会の日本支部に足を運んだ際に接触しているかもしれない。


だが互いに仮面をつけていたし何より康太自身あの時は自分のことで精いっぱいだったのだ。他人の動向をチェックできるだけの余裕はなかった。


一度文の両親にも会ってみたいなという気持ちと、可能なら会いたくないなという気持ちが同居している状態だ。なにせ彼女のあの性格を育てたのはその両親なのだ。


もしかしたら彼女以上に優秀で強気な魔術師かもしれない。そうなった時に自分がどのような反応をしたらいいのか非常に困ってしまうのである。


「じゃあ家の場所とかも知らないのか?」


「知らない・・・あぁなるほど、それが知りたかったのかお前」


何故このタイミングで文の話題を出したのかと思えば彼女の自宅を知るのが目的だったと気づき康太はため息をつく。


ストーカー気質とまではいかないが、可能なら接触できる機会を増やしたいと考えているのだろう。正確な位置まではわからなくても電車でどの方角に向かうのかが分かればそれだけで話をする機会は生まれる。


青山とすれば少しでも情報が欲しかったのだろうが、さすがにその情報はあまりにも個人情報に食い込みすぎている。そう言う事を康太は知らない。そもそも知っていたとしても教えないだろう。勝手に話して文に迷惑がかかるのは避けたい。彼女とは協力関係にあるのだ。彼女の機嫌を損ねるような行動は可能な限り避けたいのである。


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