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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」

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ひとまず登録だけ

「その前にそうだ、あんたの顔隠しておくぞ。今更かもしれないけどな」


「うぇっぷ!?何するんだい!?」


康太は堤の反応を待つ前にその顔にウィルを引っ付ける。ウィルは堤の顔にへばりつくと仮面の形になって見せた。


「俺がそうしてるみたいに、基本的に魔術師は顔を隠すもんなんだよ。あんたの場合もう結構素顔をさらしてるから今更かもしれないけどな」


すでに堤は何人もの魔術師にほぼ素顔で会話を試みている。無精髭にサングラスという奇妙な目撃証言が多かったが、それでも今から顔を隠すだけの意味はある。


魔術師から見られることが多くなる今後、自分の顔を隠すということは協会に所属している、あるいはきちんとした魔術師としての教育を受けているということを周囲にアピールすることができる。


今後魔術師として行動することが多くなるのであればしっかりと自己主張をしておいて損はない。


康太と堤が協会の門を通じて魔術協会の日本支部にやってくると堤は仮面をつけている状態でもわかるほど驚いていた。


教会にある扉をくぐったかと思えば、レンガ造りの奇妙な建物の中にいた。この状況で驚くなというほうが無理な話だろう。


「ここが・・・その魔術協会なのかい?」


「あぁ。正確には魔術協会の日本支部だ。これから支部長のところに挨拶に行く。あんたの事情を説明しておかないと後々厄介なことになるしな・・・」


「支部長・・・偉い人なんだよね?君そんな人に簡単に会えるのかい?」


「あぁ・・・ちょっとした知り合いだからな。今回もあんたのことでちょっと協力してもらったんだ・・・あんたが探してた人がかなりやばい人物なんだよ・・・それで支部内でも結構噂になってたんだ」


「へぇ・・・そうだったのか・・・あのまま探していたらどうなっていたことか・・・」


「・・・まぁ運が良ければ生きてただろうさ。最悪上半身と下半身がサヨナラしてたかもしれないけど」


最悪殺されてたの?と堤は魔術師の恐ろしさにおびえながら康太から離れないように必死についてきている。


過去の自分を見ているようだと思い返しながら康太を先頭に協会内部を進んでいき、エントランスにある受付にやってくると康太は受付の魔術師に話しかけることにした。


「ブライトビーです、支部長に少々お話があります。俺の師匠に関する話で」


「あぁ例の・・・わかりました取り次ぎましょう・・・大変ですね・・・解決はしそうですか?」


「少なくとも師匠が悪いってわけではない可能性が高いです。何というか・・・飛び火したというか・・・また本人も気づかないうちに喧嘩売ったかの二択ですかね」


受付の人間も小百合らしき人物を探している魔術師がいるということは知っていたのだろう、噂になっていたのに加え、支部長から直接布告を出しただけあって協会内でもかなり有名な話になっているようだった。


そのせいで、いやそのおかげでというべきか、説明する手間が省けるというのはありがたいことのように思えた。


ただ周りの人間が知っているということもあって康太と行動を共にしている堤への注目度も高い。


康太が件の人物を探しているということを協会の人間が知っているということで、康太が連れている人物がいったい何者であるか気になっているものが多いのだ。


やはりウィルに仮面の形にさせて正解だったなと思いながら康太は堤を連れて支部長のもとにやってきていた。


「ここが支部長室だ。あんまり騒がないでくれよ?」


「わ、わかってるよ」


支部長はそこまで恐ろしい人物ではないが、魔術師という存在を勘違いされては困る。ある程度怖さを覚えておいたほうが今後の行動が慎重になるだろうという康太のささやかな親切心だ。


もっとも堤が探している人物がどのような人物なのかわからないが、人をすでに殺しているということもあってかなり危険な人物であるというのは容易に想像できる。


「支部長、失礼しますよ」


「やぁ・・・話は聞いているよ。何やら進展があったようだね・・・そちらの人物に関係があるのかな?」


支部長は康太の体に隠れるようにしてすぐそばをついてきている堤の姿を見て小さくため息をつく。


話が先に進んだということはつまり面倒ごとがやってくるということでもある。噂の事実解明は支部長としてはありがたいことなのだが、同時に面倒ごとがやってくるというのは支部長としてはあまり歓迎できないことなのだろう。


小百合とは別の意味で康太は面倒ごとを持ってくる。正確には頼んだことが実は面倒ごとが多かったというだけの話なのだが。


「えぇ・・・まぁちょっと・・・っていうかだいぶ面倒くさい状況になってますけどね・・・とりあえず大まかに事情を説明しますよ」


「あはは・・・少なくともあんまりいい話ではなさそうだね、その声を聴く限り」


「えぇ、聞いていて面白い話ではないですね・・・特にちょっと支部のほうでも力を貸していただくことになるかもしれません」


「それはまぁ・・・状況によりけりだね・・・とりあえず話を聞こうか」


死人が出てしまっている以上支部の協力は不可欠だ。半年近く経過している以上、個人の力ではどうしようもない。


康太はとりあえず支部長に今回の件の顛末を話すことにした。

















「・・・うわぁ・・・それは何というか・・・ややこしい話になってきたね・・・」


「はい・・・とりあえずこの人の奥さんがどんな魔術師だったか、そしてこの人が探す魔術師が協会に所属しているかどうかを確認するべきだと思うんです」


康太からしたらこれ以上関わるつもりはないが、これからどのような行動をすればいいのかという指標を示す程度のことはしてやってもいいのではないかと考えていた。


いくら康太でも右も左もわからない人物をただ放り投げるほど薄情ではない。特に事情を知ってしまったがゆえにあまり見て見ぬふりというのはしたくなかった。


過度な干渉はしないが、最低限の施し程度はしてもいい。協力とは別の意味で康太は行動するつもりだった。


「ふむ・・・それはいいのだけれど・・・彼はどうするんだい?一応魔術師・・・と言っていたけれど」


「本格的に活動するのであれば協会に所属しておいたほうが後々楽だと思いますが・・・この人自発的に魔術を発動できないんですよ」


「あぁ、だから一応なんだね・・・条件的に魔術を発動するタイプ?」


「そのようなものです。なのでちょっと限定的な条件が加わってしまいますけど、特例で一時的にでも構いませんので協会の魔術師として登録してほしいんです」


康太の言葉に支部長はもちろん、堤博も仮面の上からでもわかるほどに困惑した表情を浮かべていた。


支部長は自分の意志で魔術を発動できない人間を協会の魔術師として所属させることに難色を示し、堤は協会に所属するということを切り出されたことに戸惑っていたのである。


「んー・・・さすがになぁ・・・せめて自発的に魔術を発動できたならよかったんだけれど・・・んー・・・」


「あの・・・ブライトビー・・・?さすがにいきなりこういうところに所属するのはちょっとハードルが高いような・・・私はほぼ一般人なんだよ?」


入る側と入れる側両方が困惑しているというのも妙な状況だが、このままの状態で放置しておくよりはずっといい方法だと康太は考えていた。


「犯人を捜すにしても個人の力でどうにかなるものじゃないし、これから活動するうえで魔術協会には所属しておいて損はない。さっき使ったみたいな門も使用可能になる。もちろんちゃんとした理由が必要になるけど・・・それにあんた『視覚持ち』だろ?」


「・・・視覚?」


「・・・こいつが見えるだろ?」


そういって康太は体の中から黒い瘴気を噴出させてデビットを顕現させる。堤の視線は康太の体から出てきた黒い瘴気を追っている。間違いなく見えている証拠だ。


「見えているけど・・・それがどうかしたの?」


長年魔術師に勝手に魔術を発動させられていた結果か、彼は魔術師としての視覚にすでに目覚めている。

あとは魔術師としての自覚と、魔術を扱うだけなのだ。限定的な条件ではあるが魔術師としての素養は有している。


とはいえ魔術を自発的に扱えないのも事実。だからこそ康太は特例という言葉を使ったのだ。


「支部長、ご説明した通りこの人は素質は持っていて一定の条件が重なれば魔術を発動することもできます。修業によっては魔術師となることも容易でしょう。一足先に登録だけ済ませていただくことはできませんか?」


「・・・んー・・・わかった。今回のことで君が動いてくれた結果話が進んだわけだからね・・・依頼という形で出せなかった分このくらいのことは容認しよう」


「ありがとうございます。術師名は・・・どうしようか」


堤博の術師名。登録するからには魔術師としての名前が必要だ。


康太ははっきり言ってネーミングセンスはあまりない。今後彼が使う名前を自分がつけるというのは少々ハードルが高いように思われた。


「術師名っていうと、君のブライトビーみたいな魔術師としての名前かい?」


「そうだ。あんた自分でつけたほうがいいんじゃないか?そのほうが思い入れが出るかもしれないぞ?」


これから魔術師として生きていくかはさておき、魔術師としての自分の名前を決めるのだ。他人に決められるよりも自分で決めたほうがいいかもしれない。


康太や真理は師匠である小百合が決めたが、堤の場合は師匠などいない。あえて言うのであれば堤の妻が彼を魔術の道にいざなったといえなくもないが、すでに亡くなっている人物に名を決めろというのは無理な話だ。


「そうだね・・・そんなに凝った名前にしなくてもいいかな・・・それじゃ『ハクテイ』でお願いしようかな」


ハクテイ。堤博の名前の別の読み方を逆転させただけというあまりにも単純な形だが、康太のブライトビーも割と適当なつけられ方をしている。あまり人の名前にとやかく言うことはできないなと眉をひそめていた。


「では『ハクテイ』これからいろいろと登録に必要なことがあるから隣の部屋に行ってくれるかい?今人を呼んで登録の手続きをしてもらうから」


「わかりました・・・すまないブライトビー、君には世話になりっぱなしだ」


「俺も無関係じゃなかっただけの話だ。手を貸せるのはここまでだからそのつもりで・・・あとはあんた次第だ」


ここまでやればあとは自分で何とかするほかない。康太は善人ではないのだ、堤に協力するのはここまで。


それでも十分さと堤は笑って見せる。仮面のせいでその笑みをきちんと見ることはできなかったが、きっと朗らかな笑みだったことに違いはないだろう。


康太は彼の素顔を想像しながら、堤が隣の部屋に消えていくのを見送りながら小さくため息をついていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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