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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」

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日頃の行い

「なぁ、あんたもし犯人が見つかったらどうするんだ?」


「どうするって・・・そりゃ警察に・・・」


「殺されてからずっと死体放置してたあんたもつかまりそうだけどな・・・っていうか警察からすりゃ死体のある家に帰っておきながらそのまま逃げたあんたが容疑者候補筆頭になるだろうな」


康太の言葉ももっともである。死体があり、その死体を見て犯人も見たといっておきながら半年近く家に帰らず放浪していた人間ほど怪しいものはいない。


もし康太が警察の立場だったのなら間違いなく堤博を逮捕していることだろう。


現行犯ではなくとも容疑者としてとりあえず警察署に連行するのは間違いない。さらに言えば犯行からすでにだいぶ時間が経っているということもあり証拠を見つけるのも苦労するかもしれない。


幸いにも屋内ということでそれなりに状態は保存されているかもしれないが少なくとも死体の状態はすでに最悪のそれに近いだろう。


すでに腐敗し、原形をとどめていなくても不思議はない。斧を持っていたという証言からしてその傷跡くらいは残っているかもしれないが、どちらにせよ死亡推定時刻や堤の無実を証明するだけの証拠は出てこない可能性が高い。


そんな中で警察にこのことを伝えるというのがどれほど危険なことで、自分の首を絞めることなのかわからないほど堤も馬鹿ではないらしい。


「だが・・・しかし・・・死者が出ているのだから・・・警察には伝えたほうが・・・」


「それならもっと別の方法を考えたほうがいいな。もっと自然な形で見つかるようにしたほうがいい。まぁあんたが捕まりたいっていうのなら話は別だけど・・・」


康太としては堤がつかまろうと自首しようと知ったことではない。今回康太は全くの部外者、堤の行動に対して口を挟めるだけの立場にないのだ。


アドバイスくらいはしてもいいかもしれないが、あいにくそれ以上のことをしてやる義理も道理もない。

好きにしろ。小百合にも奏にもそのように言われている。一人の魔術師としてどのように行動するのか、すでに答えは出しかけていた。


「とにもかくにも、一度協会に行かないと話は進まないな・・・ついてこい」


「あ・・・案内してくれるのか?」


「このまま放置するっていうのも後味悪いしな・・・最低限のことはしてやる。そのあとは知らん、勝手にしろ」


協会に行き、支部長に話を通し、ひとまずこの堤を魔術協会の人間として登録するくらいのことはしてやらないと魔術師全体の不利益になりかねない。


警察にすべてを話せばのちの処理が面倒になるだけだ、それならば早いうちから手を打っておいたほうがいい。


「何から何まですまない・・・君には本当に・・・何と言ったらいいのか・・・」


「あんたの状況からして、同情する余地があったってだけの話だ。今後のあんたの人生を考えると特にな・・・ちなみに、奥さんの両親が魔術師かどうかはわからないのか?」


「それは・・・わからない。妻が魔術師だというのも正直まだ信じられていないんだ」


そういえばそうだったなと康太はため息をつく。今後の堤の人生の中で、妻の両親へ話をするというのは必須だろう。


両親も魔術師だったのなら、妻が魔術師に殺されたというのもすぐに理解できるだろうし、魔術師ではなかった堤が何もできなかったのも、そして殺された後も何もできなかったことも納得してもらえるだろう。


もし魔術師ではなかったのならばかなり厄介なことになる。それこそ民事裁判などになりかねない。


そうなってくると堤の今後の人生は康太の言うように悲惨なものになるだろう。魔術師によって人生を捻じ曲げられたといっても過言ではない。


やはり魔術師と一般人が一緒になるべきではないのだなと認識を強めながら康太は堤を連れて最寄りの教会まで歩いていた。


教会にやってくると神父が康太の姿を見て小さくうなずき、そして康太の後ろについてきている堤を見て眉を顰める。


「・・・ブライトビー・・・そちらの方は?」


「今回の件の重要参考人です。一応魔術師。安心してくれていいですよ」


康太の言葉に神父は堤の体内にある魔力を調べようと索敵の魔術を発動した。


堤の体の中には先ほど暴走した時に体内にため込んだ魔力がまだ残っている。平時の状態では魔力の供給は行われていないが、あのように暴走した時の残りとして魔力が残ることがあるのだろう。


魔力が残っている場合もあれば魔力がない時もある。本人に魔術を使ったという自覚がないという時点で魔術師というのかは怪しいところだが、ここは魔術師であるというほかない。


「・・・確かに魔力はあるようだ・・・だが協会所属ではないのでしょう?」


「えぇ。うちの人間を嗅ぎまわってたんで俺が調べていたんですが・・・少々厄介な状況になったんで一応支部長に話を通すんです。そのほうが協会全体に布告がしやすいですからね」


少々厄介な状況。康太が厄介などといったことで神父もこれ以上口を出すのははばかられたのか渋々ながら扉を開いてくれた。


以前協会の門を使って問題行為を行っていた神父がいたせいか、門の使用が少々厳しくなっている。


正確には使用者に加え別の人間を連れようとした場合に確認が必要になった程度だ。事前に話を通していない場合は特に厳重になりかねない。


康太のように面倒ごとに巻き込まれやすい体質であると周知されている人間ならば多少は寛容になるかもしれない。


特に康太は支部長の依頼をこなしていることが多く、その報告によく来ていることもあって信頼度はそれなりに高い。


こういう時に日頃の行いというのは出てくるのだなと康太は少しだけ自分の立場が向上したことを喜んでいた。


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