表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
734/1515

待ち伏せ作戦

「・・・うん、わかった。そのくらいなら僕の方から呼びかけても問題はないだろう。というかほかの魔術師を安心させる意味でもやったほうがいいかもね」


「お願いします。場所は・・・そうですね・・・店だとちょっとあれですから・・・どこか集まりやすい場所があればいいんですけど・・・」


件の男を呼び寄せるために康太はあらかじめ決めた場所で待っているのが一番手っ取り早いだろう。


多くの魔術師に対して話を聞こうとしている男を追い回すよりも一つの場所で座して待つ方が会える可能性は高くなる。


だがその待つ場所というのが問題だ。具体的にどの場所で待つのが一番いいだろうかと康太は頭をひねる。


支部の一室を借りることも考えたのだが、相手が協会の人間ではないことを考えると適切ではない。


日本支部にたどり着くには協会の門を有する教会に足を運ばなければいけないうえに事前に話を通しておく必要がある。


あらかじめの申請が必要であることを考えるといつ来るかもわからない相手を待つ場所としてはあまり適しているとは言えなかった。


東京のどこに現れるかわからない、候補としては北部が怪しくもあるが、実際だからといってどこで待つのかといわれるとかなり困る。


何せ場所が東京なのだ。夜遅くでも光が満ちており、隠れて行動するのにこれほど不向きな街はほかにないだろう。


「東京のどこか・・・って言われてもあんまり思い浮かばないね・・・公園とかはいいんじゃないかな?最低限の明かりしかないだろうし。テンションが上がっちゃってる若者とかには出くわすかもしれないけど」


「まぁ・・・もし外でいろいろ勤しんでるやつがいたらご退場願うしかありませんね。結界の魔術でも覚えてれば話は早かったんですけど」


文のように無意識に働きかける結界系の魔術を覚えていれば、その場に一般人が侵入してくるのを多少ではあるが減らすことができる。


いつか覚えなければならないなと思いながらも先延ばしにしてきた結果がこれである。自分のうかつさにあきれると同時に支部長の案は決して悪くないと考えていた。


東京都にある公園は広く、なおかつ東京とは思えないほどに緑も多い。そのため光を遮るものは山ほどあるのだ。


設置してある照明もそこまで多くなく、潜伏するには十分すぎるといえる場所だと康太は考えていた。


「ならそうだな・・・なるべくど真ん中にある・・・そのうえ交通の便も割といい場所・・・となると・・・代々木公園なんかいいんじゃないですかね?」


「代々木公園ね・・・じゃあこれから君は代々木公園で待つっていう行動をとることになるんだね?」


「そうですね。とりあえず今後はそうするつもりです。あらかじめそのあたりを縄張りにしてる魔術師に挨拶しに行かなきゃですね」


「うん、余計ないざこざに巻き込まれないようにするためには必要なことだね。何というか徐々に慣れてきたね。思えばもうすぐ一年か・・・」


「えぇ・・・もうすぐ魔術師になってから一年ですよ。月日が経つのは早いものですね本当に・・・」


康太はこの一年のことを思い出しながら、自分が小百合の弟子になるきっかけ、というか止めを刺した人物である支部長の方に目を向ける。


あの日から自分は小百合の弟子にならざるを得なくなったのだなと、あの時の支部長のことを思い出しながらため息をつく。


この一年、危険なことは山ほどあったが、だがそれでも決して悪いものではなかったように思える。


「支部長、俺これでも支部長には感謝してるんですよ?」


「ど、どうしたんだい急に?おべっかを並べてもこれ以上の協力は悪いけどしてあげられないよ?」


「そういうことじゃなくて・・・師匠の弟子になったのも悪いことばかりじゃないって話です。だからもう気に病むことはないんですよ?」


支部長が康太のことで負い目を感じているのは康太自身理解している。それは当たり前のことだと考えてきたし、支部長自身も当たり前のように考えている。


だが小百合の弟子になって悪いことばかりではなかった。いろいろと苦労はしたし面倒に巻き込まれるし死にかけたことも一度や二度ではなかったが、それでも康太は胸を張ってこれでよかったのだといえる。


災い転じて福となすという言葉の通り、康太は一見して災いとしか取れないような小百合の近くにいることで、割といい生活を送れているように思うのだ。


だからこそ、もう支部長が気に病まないように気を使ったつもりだった。


「あはは・・・君にそう言ってもらえると少し気が楽になるよ。でもね、あれはさすがに自分でもないなって今でも思うんだよ。だからあれは一種の教訓なんだと思って今でもしっかり戒めにしているよ」


支部長という立場にあり、その立場のものが発する言葉の意味と重さを、彼はあの場で強く再確認したのだろう。


信憑性という良くも悪くもそれを言う人間によって変わる信頼性というものは、立場のある人間であればあるほど強固なものになる。


支部長という立場の人間が言えばその信頼性は非常に高い物だろう。だからこそ支部長はあの場で、そして今に至るまで、自分のあの発言がどれだけの人間が信じるに値したのかを強く認識し、それを戒めとしているのだ。


もう二度と同じようなことを起こさないようにと。

















「・・・さすがに暇だな・・・」


「そりゃただ待ってるだけじゃね・・・こんなところじゃ訓練するわけにもいかないし」


康太は支部長に頼みをしてから文と合流し、支部長に話したとおり代々木公園の中で待機していた。


情報を収集してきた文だったが、はっきり言ってその成果は芳しくない。全員に話を聞けたわけではないが、数人の証言はほぼ一致、外見的特徴も、そしてその言動も一致していたことから同一人物であるのは間違いない。


だがあらかじめ得ていた情報以上のものは得られず、結局この代々木公園の一角でただ待つことになったのだ。


文は常に結界の魔術を発動し、一般人をこの場所に入れないようにしている。もっともこの場所が目的地である人間ならばこの結界は意味をなさない。


とはいえ、平日の夜中に代々木公園の一角を目的地にするものなどそうそういない。少なくとも特殊な趣味や夜の散歩などを目的としているものでない限りこの場所にたどり着くことはほぼ不可能だ。


康太はそんな中でわざとDの慟哭を発動させ、黒い瘴気を点々と残している。目印のように、見る人間が見たら辿ることができるように。


「しりとりでもするか?さすがに暇すぎて・・・」


「あんたもこれを機に結界魔術覚える?そうすれば多少は暇ではなくなるわよ?それが嫌なら索敵でもしていなさいな」


「索敵したって人っ子一人通らないんだぞ?夜、しかも結界も発動してたら普通の人間は全く寄ってこないっての」


「わからないわよ?刺激を求めたカップルとかが来るかもしれないじゃないの」


「そしたら蹴とばす。魔術使って追い払う。さすがにこんなところで盛ってたら青少年として教育によくないっての」


あんたに教育云々言われたくないでしょうねと文は苦笑している。だが康太の言うことも間違いではない。


一応康太たちはまだ未成年だ。そのような特殊なプレイをしているところを見るのはいろいろとよろしくない。


思春期だからこそ興味があるといわれれば否定できないが、さすがに魔術師として活動しているときにそういったものを見ようとは思えなかった。


「ちなみにだけどさ、俺ら協会の門を使ってここまで来たじゃんか、協会に所属してない人間って普段夜中どうやって行動するんだ?ていうかどうやって移動するんだ?」


普段当たり前のように使えている協会の門。あれは原則魔術協会に所属しているものでなければ使うことはできない。


そのため魔術協会に所属していない魔術師はどのように夜間に移動しているのか気になってしまったのである。


夜ともなれば電車は止まっている。自分で車を持っているならまだいいかもしれないが、自家用車を持参でやってくる魔術師というのもなんだか情けない。


「普通ならバイクとか車で移動するんじゃないの?そうじゃなきゃ夜に徒歩で移動するとは考えにくいもの・・・」


「やっぱそうなのかな?普段門を使ってるから使えない生活がどうにも想像できないな・・・東京までもほぼ一瞬だし」


「それは確かに便利よね。公共機関に頼らずに移動できるし何より早いし。場所が限られるのが欠点といえば欠点だけど、駅に比べればかなりいい方よ」


普段の生活において協会の門を使用するということはほとんどないが、魔術師として行動するときは協会の門は本当に重宝している。


門がなければ成り立たない、というのは少々言い過ぎかもしれないが、それだけ協会の門を利用できるメリットは大きいのだ。


きちんとした理由さえあれば使えるために、康太達からすれば本当にありがたい交通手段の一つなのである。


「でもさ、そこまで便利なものがあるのに何で協会に所属しないんだろうな。京都とかはまだ伝統とかがあるからわかるんだけどさ・・・」


「んー・・・門があるってことを知らないとか、あるいは何か理由があるとか?」


「理由って?」


「昔師匠が協会にひどい目にあわされたとかそういうの?魔術師って良くも悪くも師匠からの影響って大きいしね」


「・・・あぁ、そうだな、それはよくわかる」


現在進行形で師匠から影響を受けている康太からすればこれほど説得力のある言葉はなかった。


良くも悪くも影響を受ける。康太の場合あまり良い影響ばかりではないが、文の言うように協会に何かしらのうらみがあったり、協会の支部に向かうことに強い抵抗感を抱く魔術師もいるだろう。


そういったものたちが、魔術協会にあえて所属しない派閥を作り出していても何ら不思議はない。


無論協会の門の存在をただ知らないというだけの可能性も十分にあり得るのだが、知らないで済ませるにはあまりにも大きすぎる情報だ。


この情報を知らないというのはかなり損をしていると康太と文は強く思っていた。


移動時間の短縮というのは案外ばかにならない。ただ単に運賃の省略というだけではなく時間というのは何物にも代えがたい。


それをほとんどゼロにできるのだから協会の門とは恐るべき性能を有しているといってもいい。


少なくとももう門なしの生活には戻れないなと康太はしみじみ思っていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ