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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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次に出そうな場所

「今のところ一番古い情報っていつ頃ですか?それだけでもわかれば・・・」


「とりあえず確認できているのは・・・一番古い時で去年の十月かな?それ以上前の報告はひとまず上がっていないよ」


去年の十月。その時自分はいったい何をしていただろうかと康太は自分の記憶を探っていた。


記憶が確かならアリスが日本に来てから少しして、ウィルと関わった時期が十月ごろだったように思える。


そのころからうわさが確認できているということは、おそらくその少し前あたりからその人物は活動を始めていた可能性が高い。


その中でたまたま十月ごろに魔術協会の人間への聞き込みが行われたというだけの話で、他の無所属の魔術師にも話を聞いていたかもしれないのだから。


「その報告を上げてきた魔術師は十数人程度と聞いていますが、彼らの報告の時期は詳しくわかりますか?」


「ちょっと待ってね・・・会議に使った資料があるからそれを見せるよ。一応クラリスが関わってるかもしれないってことで本人にも話を聞きたいんだけどね・・・」


「師匠曰く恨まれる行動ばっかりしてるから何が問題だったのかわからないそうですよ」


「ははは・・・クラリスらしいなぁ。わかりやすくて逆に助かるよ」


そう言いながら支部長はおそらく支部内の人間たちを集めて行った会議で使われたであろう資料を康太に手渡す。


そこには件の人物の目撃情報と、その詳細な内容が記されていた。


時期、場所、そして少量ではあるが会話内容が記されている。だが先ほど支部長も言ったように最低限の会話しかしなかったのだろう、目撃された場所や時間に比べると会話内容のそれは随分とおおざっぱなものになっているのがわかる。


だが目撃された時系列と場所がわかるのは大きかった。関東近辺で活動している魔術師を重点的に話を聞いているのだろう。十月ということはまだ三カ月程度しか経っていない。その間に十数人に話をしているのだ。


場所を転々としながら魔術師に話を聞くというその労力をかけてでも探し出したい人物こそ『ひび割れた仮面をつけた女』ということなのだろう。


その女が小百合なのかどうかはいまだ確証が持てないが、ほぼ確定的だと考えていいかもわからない。


その目的も何もかも不明というのがまた不安を呼ぶが、そのようなことをいちいち言っていても仕方がない。


まずは接触してみることが最優先だ。


康太が資料を読み解いていくと、最近で目撃情報があったのは埼玉だ。始まりが神奈川、千葉、茨城、栃木、群馬と順々に関東の県を回っているように移動し続けているのがわかる。


埼玉にやってきた時点で関東に存在する県はほとんど網羅された形になる。次にどこに行くのか、普通に考えれば東京近辺で目撃されると考えるのが自然な流れだろう。


「東京か・・・埼玉寄りの東京・・・あんまりいったことないな・・・」


「実際に遭遇しようと思ったらそのくらいの場所になるかもしれないね。埼玉方面からやってくるならの話だけれど」


「東京は交通の便もいいですからどこに行っても不思議はないですね・・・東京のあたりは縄張り争い激しいからあんまり動き回りたくはないんだけど・・・」


奏の会社に足を運ぶ関係で康太は割と頻繁に東京に行っている。そうする中で東京の魔術師事情というのはある程度理解していた。


東京は人口密度が高い。その人口の多さに比例して当然ながら魔術師の人口も増える。だというのに存在する土地が狭い分魔術師同士の接触する可能性は必然的に高くなってしまうのである。


狭い土地の中に多くの魔術師がいれば当然のようにあらゆる場所で縄張り争いが発生するものだ。


奏のように一つの拠点をもってその場から一定区域を守るだけという消極的な魔術師も中にはいるが、少しでも多くの縄張りを得ようとし、少しでも活動圏を得ようとする積極的な魔術師も中にはいる。


どちらがいいと断言するつもりはないが、争いを行っている人間の方が目に付くのは間違いない。


そういう中を動き回るというのはなかなか度胸がいる。特に魔術協会の人間ならまだしも、完全に部外者で協会に所属していない人間ならばなおさらだ。


どのような理由かはさておき、協会に所属していない出所不明の魔術師が縄張りに近づいたらそれだけで攻撃の的になりかねない。


無論東京都のすべてでこのような緊張状態が強いられているわけではない。


長いこと拠点を築いたおかげで、周囲の魔術師たちとある程度協定を結び、平穏に活動しているものも多い。


そして東京もどこもかしこも都会というわけではないのだ。ところどころには人口密度の低い、いわゆる田舎の風景も広がっている。


そういうところを拠点にして周囲とのいさかいを極力少なくするように努めている魔術師もいるのだ。


件の魔術師が東京のどのあたりに出現するかは康太も予想ができない。動いている流れとしては東京の北部あたりではないかと思われる。


東京北部というと赤羽などがあげられる。このあたりは康太もあまり行ったことのない地域だ。


仮に東京を東西南北で区分けした時、東端が千葉との県境である江戸川区、駅でいうと新小岩のあたりだ。西端は山梨県との県境である奥多摩市。南端は神奈川県との県境である町田、北端は埼玉県との県境、これはかなり範囲が広い。足立区から先ほどの西端である奥多摩市までが北部である埼玉県との県境になる。


東京は東西に長い分、北と南の端という見方が難しいのである。


「でも逆に考えれば、人を探すためにいろんな人に話を聞くなら当然人の多いところを探すっていう考え方もある。いろんな人に話を聞けば手がかりも得られるかもしれないからね」


「そこなんですよね・・・これ見る限り、どの県でも一応県庁所在地には必ず足を運んでますから・・・間違いなく東京・・・人口密集地には来るでしょうね・・・」


木を探すなら森、人を探すなら人の中とはよく言ったものだ。誰かに話を聞くのならば人が多くいる場所を探すのがベスト。


それがたとえ魔術師であろうと基本は変わらないらしい。探している対象が特徴的すぎるためにあまり良い結果は得られていないのかもしれないが、少なくともこの東京の中で人口が密集している場所に関しては必ず訪れると考えていいだろう。


問題なのは、東京のどこにやってくるかだ。


東京都の中でもっとも人口密度が高いのは豊島区、次いで中野区、さらに荒川区がその次に続く形となる。


もっとも総人口だけで比べるのであれば、最も多いのは世田谷区だ。だが世田谷区は面積が広い分人口密度はやや低めに落ち着いている。


人口密度を考慮に入れて探すべきか、それとも総人口を考慮に入れて探すべきか、正直迷うところだった。


康太達もそれなりの人数を派遣できるのであれば人海戦術でその人物がかかるように網を張ることもできたのだろうが、悲しいかなそのようなことができるほど康太の人脈は広くはない。


文の協力が得られたとしても、最大で二か所、しかも康太の索敵能力はかなり低いために片方はほとんど運だよりになってしまう。


魔術師を捜索するうえで必要なスキルが康太はまだ圧倒的に足りていないのだ。


だがこちらから探すのであれば動くしかない。とはいえ人手が圧倒的に足りないのもまた事実。


ほかに手がないかといろいろ考えてはみるが、すべては支部長次第といったところなのである。


康太の提案に対して支部長がオーケーを出すか否か。その判断基準にかかっていると思っていい。


「支部長、東京を拠点に置いている魔術師たちにある種の伝言をお願いすることは可能ですか?」


「・・・伝言っていうのはどのレベルの?」


「例えば、ひび割れた仮面の魔術師の関係者がどこそこでよく活動しているとか、そういうものです」


「ふむ・・・なるほど。追いかけるんじゃなくて誘導するわけか」


「はい。これは支部長的にはアウトですか?」


支部長は支部の長だ。協会に所属する魔術師には公平に接しなければいけない。わかりやすく言えば見える形で過度な協力を取り付けることは難しいのだ。


評価にちょっとした色を付けたり、依頼内容に便宜を図ったりといった見えにくいことに関してはどうとでもできるが、支部長の権限を使って協会の魔術師を動かしたりすることはできない。


支部長のセーフとアウトの境界線がどの程度なのか測りかねている康太は、とりあえず聞くだけ聞いたわけだが、支部長はうなりながらも首をかしげている。


「伝達・・・伝達か・・・噂に過敏になりすぎてるっていう気もするけれど・・・でも探してる対象がクラリスだからなぁ・・・緊急措置としては仕方がない・・・といえなくもないのかもしれないけど・・・」


これで魔術師が探している存在がただの魔術師だったのなら歯牙にもかけず放っておくのが最適かもしれないが、その対象が小百合であるのが問題なのだ。


これ以上小百合を探しているようなことを公言され続け、噂が大きくなってくると当然小百合に恨みを持つ者たちも動き出すかもわからない。


そうなれば協会の中にも多少は不利益が生じる可能性は大きい。特に支部長の心労は間違いなく増えるだろう。


そのためあらかじめ手を打っておく必要があるように感じられるのだ。その中で件の魔術師を康太のもとへと誘導するのがどれくらいの干渉値なのか支部長自身も測りかねているのだろう。


「他の魔術師たちもある程度噂は把握しているかもしれません。いきなり探しているといわれても困惑するでしょうから、弟子の俺が正式にそうするように依頼を出すという形でも構いません」


「依頼って・・・誰から誰に?」


「俺から支部長へです。俺のところに誘導してもらうように」


康太は今まで依頼をいくつか達成してきた。当然支部長からのものもそうだし、他の一般の魔術師からの依頼も解決したことがある。


だが依頼を出すということはほとんど経験がない。一般魔術師から支部長のような立場のある魔術師に対して依頼が出せるかどうかも不明なところだが、少なくとも支部長はこのアイディアを悪くないと思っているようだった。


「なるほど・・・君個人から僕に対しての依頼・・・か・・・支部長としての立場を考えると微妙なところだけど・・・利害を一致させるっていう意味では自然なのかな・・・?」


「現地の方々も、自分たちで対応しようとすると腰が引けるかもしれませんが、あらかじめ支部長の方からこういうようにっていう指示があったほうがありがたいと思いますよ。少なくとも余計なリスクは生まれません」


現地にいる魔術師たちからすれば、いきなりデブリス・クラリスと思わしき人物を探しているという魔術師と話をしなければいけないのだ。心の準備ができていない状態でそんなことを言われてもほとんどが関わりたくないから逃げるだろう。


だがあらかじめ支部長からこのように言っておけばいいという指示があれば、それを伝えるだけでいいのだから最低限の会話でその場は対処できる。


現場と上の利害を一致させた悪くない案なのではないかと康太も支部長も考えていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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