身近な聞き込み
「というわけでまずは話を聞きに来たんですよ」
「・・・最初の聞き込みが僕のところってどうなんだい?いやまぁ最初だからいいのかもしれないけどさ」
後日、康太達は暇を見つけて聞き込みの最初の相手として奏がうわさを仕入れたという幸彦のもとを訪れていた。
幸彦は協会内部の事情に詳しい。支部長のように正式なものではなく、うわさやちょっとした事情などに精通している。
何せ協会の依頼を頻繁に受け、その内情に詳しいのだ。実際に動く魔術師の動向やその状態なども知りうる立場にいる。
噂程度の情報ならば幸彦や真理に聞くのが手っ取り早い。
「それで、これまで件の人物が現れた場所とかをリストアップしていこうと思うんですけど、その場所、あるいは直接会った人物を教えていただけたらなと」
「なるほどね・・・姉さんも随分と気にしていると見える・・・わかったよ。とりあえず今のところ目撃情報は関東が中心だね。具体的には群馬、千葉、栃木、埼玉、神奈川。目撃されたのはそれぞれの県で二回から三回くらいかな」
関東のそれぞれの県で二回から三回程度目撃されている。先ほど幸彦が挙げた六つの県でそれぞれ目撃されたことを考えると、どうやらすでに最大十八回は目撃されているということになる。
「ってことは結構目撃情報はあるんですね・・・噂程度にはなるか・・・」
「うん、人の口に戸はっていうし少しずつうわさが広がっていったみたいだね・・・時系列順にするとなるとちょっと難しいんだけど」
「わかりました。そのあたりはこれから調べていきますよ。たぶんだけど時系列が一番古い場所がその人の出身だと思うんですよね」
「そうだね・・・そして順番がわかれば次に行くところも予想できるか・・・」
それができたならあとの行動は簡単だ。待ち伏せをするなり協力者を募ってあえて情報を流させるという手もある。
相手が探しているというのならばこちらから出向いてやるのだ。そしてその理由と詳細を聞く。
小百合を探すなどという不毛な行動に一体どのような意味があるのかはさておいて、気になるのも事実、いつもの調査系の依頼と変わらない。少しずつ話を進めていくことが重要なのである。
「これが目撃者の一覧だよ、覚えてる限り書いただけだから抜けがあるかもしれないけど」
幸彦はそういって適当なメモ用紙に方陣術で術師名をいくつか書いていく。十数人程度の名前の一覧を見て文は小さくうなずきながらその紙を受け取る。
「じゃあビー、私は直接目撃した人のところに情報収集に行くわ。あんたは支部長のところに行っていろいろと話を聞いたり今後の対応を決めたりしなさい」
「了解。そっちの聞き込みは任せた。特徴とか詳細とか出現時期とか今後の動きとかもろもろ気になるところ全部聞いておいてくれ」
任せなさいと一言言って文は別行動を開始する。もはや情報収集も手慣れたものだといわんばかりの対応だ。
その様子を見て幸彦は何やらうんうんとうなずいている。
「いやぁ・・・君らも随分調査系になれたものだね・・・頼もしいよ」
「いやいや・・・まだ本職の人には程遠いですよ・・・目標はマウ・フォウですかね。あの人の調査能力はすごいですから」
「あぁ・・・話には聞いたことがあるけど・・・そんなにすごいのかい?」
「すごいなんてもんじゃないですよ。何というか・・・目の付け所が違うというか・・・やっぱ本職の人間は違うって感じですかね」
康太が知る中で最も高い調査能力を有しているのがマウ・フォウだった。彼は人を探す、調査するという事柄においてかなり高い能力を有している。
おそらく協会内でもトップクラスに入るのではないかと康太は考えていた。
康太が目標にする人物の一人であり、本職の調査系の人間である。康太はまだその真似事にも至っていないレベルだ。
少しずつ調査をするために必要な情報を洗い出して協力してくれそうな人物に声をかけるくらいしかできることはない。
特に情報が少ない段階でできることなど限られている。今回のようにいつ起きたのかわからないうえに広範囲にわたって調査しなければならない場合では特に。
「とりあえず支部長のところに行ってこようと思います。何か思い出したらまた連絡ください」
「わかったよ。頑張ってね、何か手伝えることがあったら言ってくれれば手伝うよ」
「ありがとうございます。とりあえずは少しずつ情報集めて・・・行動予測して・・・ですかね・・・というか神出鬼没だったら面倒なことになりますよ・・・それこそ支部長に本格的に力を借りないと・・・」
「んー・・・難しいかもしれないね・・・一応立場のある人だから」
「そこなんですよね・・・支部長が直接依頼してきたのならまだよかったんですけど・・・ただ俺たちが個人的に調査してるってなると・・・」
支部長に力を借りたいというのが正直なところではあるが、支部長は一応日本支部のトップだ。
そのトップが特定の魔術師に肩入れしているというのは体裁的にもあまりよろしくないのである。
できる限り公平に、それが組織の長たる人間のするべき態度であり、組織そのものを誰かのために動かすということをするようなことはするべきではないのだ。
それが協会内全員の総意ならまだしも、個人で組織を利用するというのは少々度が過ぎているのである。




