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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」

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ファーストコンタクト

「おーっす八篠」


「おはよう八篠」


文と話していると背後からその肩を掴むように青山と島村がやってくる。文に見えないように笑みを浮かべながら康太の首を掴んで軽く圧力をかけてくる。


この行動の意味を康太はため息を吐きながらも察していた。


「おはよう二人とも、今日もいい朝だな」


「んなこたどうでもいいんだよ、チャンスだろうが」


「お話し中悪いけどね、頼むよ」


文との話に割って入って挨拶をしたという事から康太はすでにこの二人の用件を察していた。要するに文に自分たちのことを紹介しろという事だろう。


文の鉄壁っぷりのせいで康太という偽親戚以外に知り合いになる手段がない今二人は康太にすがるしかないのである。


先程から懐に菓子類を詰め込もうとしているあたりこの菓子は賄賂のつもりだろうか。袖の下にしては何ともみみっちい。


だが高校生にとっては分相応かもしれないと思いながらも康太は二人の首を掴んで文の前に引っ張り出す。


「文、一応紹介しておく。俺の部活の仲間で同じクラスの青山と島村だ。仲良くしてやってくれ」


必要最低限の文言を含めると青山と島村は満足したのか康太の背を叩きながら同時に挨拶していた。聖徳太子でもなければ二人同時の自己紹介など聞き取れなかっただろうが、文は両者の言葉を聞いた後に柔らかく微笑んで見せる。


「へぇ・・・初めまして、鐘子文です。いつも康太がお世話になってます」


その挨拶は親や家族のそれではないかと思うのだが、一応康太と文は家族関係のある状態で通しているのだ。この挨拶もあながち間違ってはいないと思うのだがどうにも違和感が拭えない。


八方美人もほどほどにしないといつか面倒なことになるのではないかと思っているとどうやら文の同級生の友人たちもやってきたのか、女子生徒が文の名前を呼びながら手を振っているのが見えた。


「それじゃ三人とも、またね。」


文はそう言いながら康太に一瞬視線を向けてやってきた友人の元へと駆け寄っていく。あのような光景を見ていると彼女が優秀な魔術師であることを忘れそうである。外見やそのふるまいから彼女が魔術師であるという事を知ることはまずできないだろう。康太も彼女が魔術師であるということを知らなければきっと青山や島村と同じような反応をしていただろうことは間違いない。


それだけ外見がいいのだ。性格はさておいて人を引き付けるには十分すぎる。


「イエス!よくやったぞ八篠、ファーストコンタクトとしては十分すぎる!」


「ありがとうね、今度なんか奢るよ」


文と関わりを持てて満足なのか青山と島村はガッツポーズしながら康太の肩に手を置いてその功績をたたえている。


感謝されるのは悪い気はしないがあんなのでよかったのだろうかと疑問視してしまう。ただ名前を紹介しただけなのだ。そこまで進展があったようには思えない。


「あぁそうしてくれ・・・っていうかあんなのでよかったのか?たぶん俺の友人ABとして認識されたぞ?」


「いいんだよ、そもそも最初から仲良くなれないなんてわかりきってるしな。こういうのは少しずつ仲を進展させていけばいいんだ」


「それに露骨に下心出すと警戒されちゃうしね。最初はただの顔見知り程度でいいんだよ。そこから徐々に関わっていけばいいのさ」


文が自身に下心がある人間に対して辛辣な対応をしているというのをすでに知っている二人からすれば最初は興味がないくらいの関係でいいと考えているようだった。


何も最初から良好な関係を持つ必要はない。最初は興味がないくらいから徐々に興味を持たせればいいと思っているようだ。実際偽親戚である康太の友人というポジションを手に入れたために今後関わることができる機会は非常に増えるだろう。


まだ高校生活は始まったばかり、焦る必要など一つもないと二人は意気揚々と康太を引き連れてバスに向かっていた。


普通に女子と出会って好きになって恋愛をして。


まさに高校生らしい青春時代と言えるだろうがどうにも康太にはずれているように思えてしまっていた。


その原因が自分にあることはなんとなく理解している。ずれているのは周囲の人間ではなく自分なのだ。


普通というレールから外れ、日常生活の中に潜む異常を知ってしまってから康太の日常は随分と歪に変化している。


だが同時にこういったなんでもない日常が尊く感じるのもまた事実だ。普通から外れたことで普通であることの重要性を認識できたのだから何とも皮肉なものである。


「よっし、今回の合宿で少し距離を縮めるぞ!お前も協力しろよ!?」


「あのな・・・一応俺親戚なんだけど・・・どんな顔すればいいんだよこんな時」


「苦笑いしておきなって。まぁそこまで露骨な頼みはしないから安心してよ」


二人からすれば可愛い女の子にお近づきになるいいチャンスだ。すでにきっかけは作った。これからどうするかは自分たちの努力にかかっている。


その努力をどのようにするのか、そんなことを模索しながら康太たちはそれぞれバスの座席につく。


菓子を広げてすでにくつろぐ態勢はできた、後は目的地である長野にまっしぐらである。


他愛ない話をしながら康太たちは初めての高校行事を満喫することになる。


もっともその中で魔術師であることを忘れるわけにはいかないのが何とも複雑ではあったが。


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