子供への教え方
奏に教わった通り、神加は恐る恐る障壁を張る角度を調整しながらなるべく真横に展開すると、その上に乗って見せる。
普段ウィルの上に乗っているような格好だが、今確かに彼女は空中に浮いているように見える。
これをこなしていけばいずれかは空中を思い通りに歩いたり走ったりすることができるだろう。
いざというときの逃走経路にもなる、そして何より障壁魔術の鍛錬にもなる。一石二鳥の訓練とはこのことだろう。
子供ならばどのようなことに興味を持ち、どのようなことならやりたいと考えるのか、奏はそのあたりをしっかり考えてきたようだった。
「お見事です奏さん。神加のハートがっちりつかみましたね」
「うむ・・・もとはといえばお前の使う再現の応用だ。再現は主に攻撃に使われるが、あれなら防御にも使える。あの歳だ、まだ攻撃に専念させるには早いだろう」
魔術というのは結局のところ使用回数や練習の効率によってその練度が決定する。一定の使い方をしていれば一定の使い方しかできないし、変わった使い方をしていれば変わった使い方もできるようになる。
自発的に応用をしていけば、その魔術の練度は飛躍的に上がっていく。普通の使い方だけではなくいくつもの使い方を覚えておくことで一つの魔術で多くの状況を潜り抜けることができるのだ。
特に康太などはそういったタイプの魔術の使い方をよくする。一つの魔術でいくつもの状況を潜り抜けるというのはいままでも何度もやってきたことだ。
康太の場合師匠が小百合であるために攻撃の意味合いが大きいが、神加の場合はその年齢の関係から防御主体の行動の方が重視される。
神加のような年齢の子供が戦いに出るようなことはあってはならないが、万が一ということもあるためにそのまま放っておくこともできない。
そういう意味では奏の指導法は最適解といえるだろう。
「防御の魔術を一つ完璧にしたら、一つか二つ属性魔術を教えてもいいと思うのだが・・・小百合はそのあたりを考えているのか?」
「いないでしょうね。というか師匠はどちらかというと覚えた魔術を反復させて徹底的に覚えさせる腹積もりのようです。実際神加は覚えた魔術を何度も使って覚えてるような状態ですから」
「・・・まぁ年齢が年齢だからな、仕方がないか・・・ただ使うだけでは子供は覚えないというのに・・・」
子供というのは飽きっぽい。そして義務でそれを行うよりも楽しみを覚えさせることでより効率的に物を覚える。
例えば褒めたり、遊びに混ぜて教えたり、定期的に何か趣向を変えたりといろいろと試していかなければ物事を覚えてはくれない。
小百合のように何度も反芻させるのも悪くはないのだが、結局本人にやる気がなければうまく覚えてはくれない。
奏のような言い回しをすれば本人からやる気を出して挑戦してくれるだろうが、小百合がそのようなことを思いつくとは思えなかった。
「あの子の中の精霊たちは今でもちゃんと機能しているのか?」
「していると思いますよ?神加自身が魔力を供給するようになってからは妙におとなしいように見えますが・・・一応中にはいるみたいですし・・・」
「ふむ・・・そうなるとあとは属性の問題か・・・あの子の適性は調べたのか?」
「いいえ、まだ適性までは・・・ただありとあらゆる属性の精霊が中にいますから、たぶんある程度の属性魔術は覚えられるのではないかと」
「・・・小百合もとんでもない逸材を弟子にしたものだ・・・あの子は将来大物になるかもしれないな」
「あとは師匠が育て方を間違えないでくれるのを祈るばかりですね・・・ただでさえあの人攻撃的だから・・・」
神加がどのような大人になるのかは、今周りにいる大人たちにかかっている。
康太も社会的に言えばまだまだ子供だが、神加に比べればほんの少しではあるが大人の部類だ。
神加が正しく成長できるように手助けをしてやる義務が康太にはある。何せ兄弟子なのだ、弟弟子の成長を見守ることに不満などない。
あとは師匠である小百合がどこまで神加のために動くことができるかという点である。
面倒くさいの一言で終わらせそうな気もするが、最低限の指導をしているところからして育てる気はあるのだろう。
まだまだ神加の年齢が低すぎるために本腰を入れての訓練はできないためにフラストレーションがたまっているようだが、それもまた師匠としての苦労の一つであると割り切っているらしい。
「さて・・・あの子たちの話はここまでにしよう。次はお前だ康太」
「はい。軽い運動でもしますか」
「そうだな。最近殴り合いばかりしていたから少しは趣向を変えよう。たまには得意武器で行くのも悪くはないだろう?」
そう言って奏は部屋に隠してあった槍を一本取りだして見せる。
奏が最も得意としている武器である槍、康太は小百合や奏のその動きを真似ることで今の槍術を編み出した。
小百合自身も奏の槍術の真似であるために、奏オリジナルの槍術をさらにアレンジしたものを康太がさらにアレンジしたという模倣の模倣であるということだ。
そしてオリジナルの動きそのものもコピーしているため、その動きは限りなく酷似している。
「槍は持っているな?久しぶりに槍を交えようじゃないか」
奏の誘いに康太は自分の持っている槍を構築すると構える。酷似した二人の構えを見て、文は練習しながらも二人の訓練に意識を向けていた。




