双剣『笹船』
「ねぇ康太、ちょっと笹について調べてたんだけど、笹って皮がそのまま残るじゃない?茎を守る鞘が枯れるまで残ってるんですって」
「ごめん、そもそも皮が残ってることさえも初耳なんだわ。鞘が残るってどういうことよ」
「えっと、つまり竹の表面みたいにつるつるしないの。あんたの剣に鞘はないの?」
「ちょい待ち・・・あぁ一応あるな。鞘は二本しかないけど」
替えの刃や交換用として剣は何本か入っているが、それを保護するための鞘は二本しか入っていなかった。
しかもその鞘はあまり頑丈なものではない。抜きやすいように片方に切れ込みが入っており、可能な限り軽く仕上げられた品である。
刃の部分を保護するというより、刃から誰かを保護するための鞘というべきだろう。もっとも本来の意味からすれば間違っていないのかもわからないが。
「鞘をモチーフに名前をつけるのもいいんじゃない?笹か鞘か、まぁどっちでもあんたのセンスに任せるけど」
センスって言われてもなぁと康太は二つの剣を眺めながら眉をひそめている。二本一対の剣の名前といわれてもピンとこない。
そもそも康太の使っている槍に関しては魔法使いの使うものというイメージをもって名をつけたのだ。竹箒という安直かつ適当な名前だが今は気に入っているとはいえ槍に着ける名前ではないのは間違いない。
「鞘の部位の名前というのもあるぞ?入り口部分が鯉口、末端部分が鐺というらしい」
「鯉口に鐺ねぇ・・・笹、鞘、鯉口、鐺・・・だめだ、なんか考えすぎてピンと来なくなったぞ」
「考えすぎてっていうのもよくわからない話だけど、何となく分かるような気がするわ。こういうのって結局直感なのよね」
直感で物事を決めるのが良いとは思わないが、少なくともこういった名前に関しては見た時にぱっと思いついたものをつけるのが一番手っ取り早いのだ。
もちろんそうした場合後悔することもあるが。
「見た目・・・ぱっと見か・・・ぶっちゃけただの剣だよな。竹箒みたいに特徴あんまりないし」
「ただの剣って言われると確かにそうだけどさ・・・もうちょっとなんかこう・・・インスピレーションはわかないわけ?」
「わかねえよ。本当にただの剣だもの。柄の部分に連結用のねじ穴が開いてるくらいじゃねえの?」
自分の剣の事なのに随分と投げやりになってきたなと、文はあきれてしまう。考えることが面倒になりつつあるのだ。
ただの剣にそこまでの思い入れを持たせるのがまず無理な話なのかもわからない。
「あ!思いついた!」
「今度は何よ・・・何を思いついたのよ」
「確か刀の名前でさ、何とか船って名前あったよな?」
「・・・それって備前長船兼光の事?それは刀じゃなくて」
「そこからとろう。笹船。よくね?よくね?」
康太の言おうとしていた備前長船兼光は刀の名前ではなく刀工の名だ。多くの刀を残したことでその分多く名が残っているために間違える者もいるかもしれない。
実際康太も間違っている。だが笹船と刀の名前っぽいニュアンスの言葉にすでに事実がどうこうということをすっかり無視してしまっていた。
「もうそれでいいわ・・・笹船・・・ねぇ・・・ぶっちゃけ船の要素皆無だけど・・・まぁ刀の名前っぽいからいいのかしら?」
「いいじゃん『笹船』俺気に入ったぞ?これから使うことになるんだし、愛着はあったほうがいいだろ」
康太はそういいながら自分の腰のベルトに鞘を取り付けると二本の剣、笹船をゆっくりと収めていく。
槍『竹箒改』に加え新しい武器である双剣『笹船』が康太の武装の中に正式に加わったことになる。
相変わらず竹っぽさが抜けない武器の名前ではあるが、本人が気に入っているのであれば問題はないだろうと文は小さくため息をついていた。
「ていうか康太のところに武器が届いたってことは私の方にも届いてるかもしれないわね・・・」
「あぁそうだな・・・いやでもどうだろうな。俺の場合は既存の武器のちょっとした応用でできるけど、文と神加の分はほぼ最初から作るオーダーメイドだろ?まだちょっとかかるんじゃないか?この箱の中に神加のハンマー入ってないし」
康太と一緒に武器を購入した文と神加の分の武装はこの段ボールの中には入っていなかった。
康太の言うように、もともと竹箒用のパーツとして残っていたものを加工するより、一から文や神加のための装備を作るとなると時間がかかるのかもしれない。
「文は鞭頼んだんだろ?なんか名前とか付けないのか?」
「別にただの鞭なら名前はいらないと思うんだけど・・・必要ないし何よりあったところで別に何か得があるわけでもないし」
「いやいや得はあるぞ。愛着がわく。愛着がわくと練習しようって気分になる。そうするといつの間にか扱いがうまくなってる」
「・・・それどれくらい本気で言ってる?」
「三割くらい」
半分もないのねと思いながら、三割程度の効果ならばいらないかもしれないなと文は考えていた。
武器に名前を付けるのは男ならではかもしれないなと考え、康太のつけた笹船という名前を思い返しながらその腰に下がっている二本の剣に視線を向ける。