新しい名前
「それで?この剣の名前は何にするのだ?」
「え?また唐突ね」
アリスの言葉に文は一瞬視線を合わせて目を丸くしていた。
剣に名前を付ける。日本にも刀に銘をうつという風習があるように、世界には有名な剣に名前を付けることは珍しくはない。
有名な剣であればアーサー王のエクスカリバーなどだろうか。逸話や伝説を持っているものもあれば持つだけで誰かを不幸にするといった伝承と呪いを持った剣もよく知られている。
もっともそれらが実在しているとは限らないのだが。
文は名前を付けることになるとは思っていなかったようだが、康太とアリスは名前を付けることが当たり前のように考えているようだった。
「コータの槍はタケボーキ改というのだろう?ならば同じように名をつけてやるべきだろう。名をつけることで愛着がわくぞ?」
「んー・・・とはいえ双剣だろ?どうするか・・・?」
「ていうかそもそもなんでこの槍が竹箒なの?確かに節のあたりが竹っぽいけど・・・まさかそれだけ?」
「うんそれだけ。魔術師っていうか魔法使いって竹箒に乗ってるイメージあるだろ?そこからとってる」
安直ねと文はあきれているが康太のイメージを否定するような無粋なことはしないようだった。
実際に文も昔は魔法使いのように箒を使って空を飛ぶということにあこがれていた時期もあった。
それゆえに康太が竹箒というものに愛着があるのも、思い入れがあるのもわかる気がするのだ。
無論それを槍として扱っているのだから有名な魔法使いのそれからは大きく外れていることは康太自身も理解しているだろう。
「確かその双剣って、この槍のパーツとも連結できるようになってるのよね?」
「あぁ、柄の部分を槍のパーツと同じにしたんだ。要するに槍の先端部分のパーツを剣にしただけって感じかな?さすがに握りやすくはしてあるみたいだけど」
康太の槍のパーツと同様の機構を有している剣は、普段康太が使う槍のパーツとも連結することができる。
そのため一時的にだがリーチを伸ばすこともできるだろう。槍として扱うことも不可能ではないが、刃の部分が槍のそれと比べて長すぎるため比重の関係から康太が扱うのは苦労する可能性が高い。
「なら竹から着想を取って・・・笹とかどう?一応竹の一種だし」
「ん?竹の葉っぱが笹なんじゃないのか?」
「あー・・・正確には違うのよ?似てるのは認めるけどね」
竹と笹は非常によく似ているとはいえ一応は別の植物である。二つのそれらを見分けるのは成長過程を見ていくとわかりやすい。
成長するにつれて皮がはがれ落ち、茎の部分がツルツルしているのが『竹』であり、成長しても枯れるまで皮が残っているのが『笹』なのだ。
この違いは些細なものかもしれないが、竹と笹を見分ける最もわかりやすい違いかもわからない。
「ちなみに葉っぱの形も違うのよ?違うって言っても葉脈の形状だけだけど。竹は格子状、笹は平行になってるの」
「なんでお前がそんなこと知ってるのかが不思議でならないわ・・・俺そんなことに興味を持ったことすらないぞ?竹も笹も同じようなもんだろ?パンダの主食だろ?」
「パンダの主食は笹ね。まぁ確かにちょっとした雑学でしかないから使い道はないわね・・・でも考えてみればいいんじゃない?笹っぽい何かで」
笹ねぇと康太は自分の剣を見て笹っぽさを連想して何か名前はないかと思案する。
竹といわれればタケノコや竹箒など連想するものが多くあるのだが、笹といわれるといまいちピンとこない。
「笹・・・ささ・・・ササ・・・ササニシキ!」
「・・・それ米の名前よ。さすがにそれはやめておいた方がいいわね・・・知ってる名前なだけに格好がつかないわ」
とっさに思いついた笹で連想された言葉だったのだが、さすがに米の名前を剣に着けるというのはまずいかと康太はさらに試案を重ねる。
「ササ・・・ササ・・・ササイカ・・・ササ・・・だめだ・・・やっぱ食べ物しか出てこない・・・」
「うーん・・・いっそのこと言葉を作っちゃえば?笹っぽい物であればいいじゃない。アリスの意見は?」
笹という言葉がつくもの自体が少ないために康太が悪戦苦闘している中アリスも何かしら考えがあるのか康太の持っている剣を見て小さくうなずく。
「笹貫という刀なら知っているな。名前の由来はともかく笹という名前は入っているぞ?それなりに有名な刀だったように思うが」
「いやいや・・・刀じゃないからな・・・しかもたぶんだけどそれ一本ものだろ?これ双剣だぞ?双剣っぽい笹っぽさを求めているんだよ」
「またわがままを・・・そうだの・・・双剣というのは夫婦剣とも呼ばれる。二本一対の剣はそれぞれ名を持っていてもいいだろう。笹そのものを表してもいいかもしれんの」
「んー・・・『笹枝』と『笹葉』みたいな感じ?」
「安直だがそういう形だ。だがそれぞれ区別ができるならともかくその二本はほぼ同じものなのだろう?ならば区別できんから二本で一つの名前をつけるのが良いだろうて」
康太が持っている剣は基本的には同じものだ。そのためどちらがどちらという区別はほぼ不可能に近い。
ならば二本で一本の名をつけるべきだ、アリスはそう考えているようだった。




