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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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届いたもの

「誰が地雷だ誰が・・・いったい何の話をしている?」


「あ、おかえりなさい師匠。クールダウンできましたか?」


「余計なお世話だ・・・あいつの話をしていたのではなかったのか?」


「あぁ、その話から発展して支部長たちの話をしていたんです。特に昔の・・・師匠と戦った時の話を」


アマネの話からいつの間にか支部長の話に切り替わったということで、小百合はなぜそのような話の流れになったのかと訝しんでいたが、とりあえずそれならば問題はないだろうと居間にあるちゃぶ台にコンビニの袋を置く。


その中には買ってきたと思わしき菓子や飲み物、肉まんなどの類が入っていた。クールダウンと称して普通に食べ物を買ってくるあたり小百合らしいというべきか。


「また随分と古い話を・・・よく覚えていたものだな。あの時お前はまだ小学生だっただろうに」


「あはは・・・それだけ衝撃的だったんですよ。あと前支部長の話もしていましたよ?あの時は大変でした」


「あぁ・・・あの阿呆の事か・・・それもよく覚えていたものだな・・・私は思い出したくもない」


小百合はちゃぶ台のすぐそばに腰を下ろすと買ってきた菓子類の中から柿の種を取り出して食べ始める。


小百合にも思い出したくない事柄があるとは意外だなと康太は訝しみながらも気になることを聞いてみることにした。


「話を聞く限り前支部長が何か言ったみたいですけど・・・何が原因でそんなに怒ったんですか?」


「あ?・・・あー・・・何だったかな・・・忘れた。そんな昔のことをいちいち覚えているはずがないだろう」


二本目を使ったというほどに小百合が激怒した事案だ、多少記憶に残っていたとしても不思議はなかったが、小百合が忘れたといっているのだ。


本当に忘れたのか、それとも忘れたということにして誰かに話すことをしたくないのか、どちらにしろそういうことだろう。


小百合にも人並みに話すことをはばかるということがあるのだなと康太と文は少しだけ驚いてしまっていた。


「その前支部長の話なんですけど、どれくらいボコボコにしたんですか?姉さんは血の海だったって言ってましたけど」


「事実その通りだ。さすがは支部長の席にいるだけあって深手を負わせられたのは二回だけ、それ以外はすべて薄皮一枚、食い込んでも数ミリの傷だ。腕と足を切り落とした以外はそこまでまともに攻撃を当てられた覚えはない」


話した内容は覚えていないのに戦った内容は忘れないのだなと、若干矛盾に満ちた小百合の回答に笑みを作りながらも、小百合のさりげなく言った攻撃の結果を聞いて冷や汗を垂らしてしまう。


手と足を切り落とした。両手両足なのか、片手片足なのか、手や足のどの部位から切り落としたのか。気になることは多い。


二回だけという小百合の発言からして、おそらく片手片足を切り落としたと考えるべきだろう。


根元からなのか、特定の部位からなのか。どちらにせよ人体の一部を欠損させるくらいは訳ないということだ。


実際康太もその気になればそのくらいのことはできるだろう。肉体強化に加え拡大動作によって槍をふるい、腕を狙って全力で攻撃すればおそらく腕や足の一本を落とすくらいは可能だ。


だがそんなことをするには覚悟が必要だ。普段康太は相手に致命傷を与えないように手加減している。


加減しなければ人間を簡単に殺せてしまうほどの攻撃力を小百合から教わった魔術は有しているのだ。


魔術師の戦いはあくまで競い合いであって殺し合いではない。相手を倒すという結果があったとしてもそれは手段であって目的ではない。


康太は戦闘が好きというわけでもなければ人殺しがしたいと思ったこともない。だからこそ最低限の加減をしなければ戦うことはできない。


だが小百合はそれをしない。おそらく当たり所が悪ければその体を両断していただろう。それほどの怒りを当時は覚えていたということでもある。


「本当にすごいことやりましたね・・・協会の評価も納得ですよ」


「奏姉さんに止められなければ実際もっとひどいことになっていただろうな。まったく・・・真理が呼んだせいで最後までできなかった」


「最後までやったらさすがに通報するところでしたよ。師匠を人殺しにはしたくありません」


奏を呼んだ真理は確かにファインプレーだが、その状態の小百合を止められるだけの実力を持った奏はやはりさすがというべきだろうか。


「ちなみに奏さんにどうやって止められたんですか?やっぱ倒されて?」


「当時の私がまだ弱かったとはいえ易々とやられるほど軟な鍛えられ方はしていない・・・戦っているときに諭された・・・おそらく精神を落ち着かせる類の魔術をかけられたのだろうな・・・昔もよくやられた・・・」


そんな魔術も覚えているのかと、康太と文は奏の多彩さに驚いてしまっていた。だが思い返してみれば、話を聞く限り奏は彼女たちの師匠である智代の魔術をすべて継承しているのだという。


なるほどそれだけ多彩な魔術を有していたとしても何の不思議もないということだ。戦闘だけではなくあらゆる面で、奏は高い能力を有した魔術師であるということである。


本当なら社長職が忙しくて魔術師としての活動をあまりしていないのが惜しいくらいの逸材なのだ。


「昔話はその辺にして、さっさと修業に戻れ・・・康太、ここは私が見ているからお前たちも下に行っていろ・・・そろそろお前に届くものがあるはずだ」


「え?宅配便ですか?」


「あぁ、注文していた品が届くんだろう。その時はウィルに運ばせる。ここにこんなに人がいては鬱陶しくてかなわん」


もう少し別なことを言えばいいのにどうしてこういう言い方しかできないのかと思いながらも、自分に届け物とは何だろうと康太は首をかしげていた。


通販なんてやっただろうかと思いながら小百合に言われた通り文とアリスを引き連れて下に向かう。

真理と神加もそれに追従するように下の修行場の方に向かっていた。


康太は文に教わりながら魔術の訓練を、神加は真理と一緒に近接戦の訓練を。それぞれ行うことにした。


どれほどの時間が経過しただろうか。ようやく康太も旋風の魔術をまともに扱えるようになってきていた。


といってもまだ発動してその場所で小さな竜巻を維持するのが限界である。だがこうして小さな竜巻を作り出せるというのはなかなかに感動的だった。


この魔術は規模と維持時間に比例する形で消費魔力が増えていく。小さな竜巻であれば消費魔力は少ない。それを継続しても康太の魔力供給能力をわずかに上回る程度だ。


この程度の魔術であれば康太も十分扱えるといえるだろう。


無論この中に入ってみても多少動きにくくなる程度で全くと言っていいほど攻撃力はないのだが、この風は小さな竜巻の中に物をとどめるという性質があるようだ。


以前文と真理が風の魔術で掃除をしたときにも似たようなことをしたのだという。強い風で埃を吹き飛ばすと同時に、このような旋風によってごみを一か所にまとめたりとこの魔術はそういった使い方もできるのだ。


軽いものを一部分に収束させる。埃や塵、そういった細かい物であればその効果はさらに高くなるだろう。


どれほど役に立つかは康太の使い方次第。あとは康太の発想によってどうなるかが変わるということである。


「それにしても康太、あんた何頼んだの?」


「さぁ?頼んだ覚えはないぞ?もしかしてアリスじゃないのか?俺の名前使って適当に注文したんだろ」


「・・・あー・・・それはあるかもしれんな・・・何度かコータの名前を使って注文させてもらったことはある・・・もしかしたらそれか・・・?」


やはりアリスかと康太は眉を顰める。以前康太の家に康太が頼んでいないのにもかかわらず荷物が届いたことがある。


その中身はアニメのDVDボックスだった。それを親に見られそうになった瞬間にはかなり慌てたものだと康太はその時のことを思い出していた。


「だがそれならおかしくはないか?私ならコータの家に届くようにするぞ?なぜここに届くのだ?」


「あぁ・・・そういわれればそうかも・・・でも注文した覚えなんてないぜ?最近欲しい物ってあんまりなかったからな・・・ゲームも漫画も普通に店で買うし・・・」


「買いにくいものをこっちに届くようにして買ったとかはないの?ほら・・・その・・・そういうものとか・・・」


そういうものと聞かれて康太は首をかしげていたが、アリスはピンと来たのかにやにやしながら康太と文を見比べている。


「フミよ、よくわからないので教えてくれ、そういうものとはいったいどういうものなのだ?ぜひ知りたいぞ」


「・・・あんたわかっていってるでしょ。いわゆる成人向けの商品よ。私たち子供じゃ手に入らなくても通販ならいけるでしょ?しかも届場所をここにすれば・・・」


「あぁそういうことか。文も思春期だなぁ。そういうことに興味があるお年頃か?」


「同い年でしょうが。で?どうなの?」


若干顔が赤くなっている文は憤慨しながら康太に詰め寄る。実際のところ康太がそういうものを頼んでいるのであれば書籍にしろ映像作品にしろその趣味は知っておきたいというのが文の思うところだった。


あまり見たいとは言えないが、見たくないといえばうそになる。思春期の女子としては非常に複雑な気持ちがあるのである。


「そういうものは頼んでないよ。っていうか思春期男子高校生にそういうことを聞くか?淑女らしくないぞ」


「お生憎様、そういう思春期らしさを求めてるのならよそをあたって頂戴。ていうかあんた男なのにそういうもの持ってないわけ?」


「すげえ偏見・・・ていうかだよ、持ってたとしても『はい持ってます』なんて言えるか!そのあたりは察しろ」


「・・・あぁなるほど。アリス、康太はそういうもの持ってるわけ?」


「あー・・・言ってもいいが・・・いいのか?」


「よくない。言うなよアリス」


もはやこの反応がすべてだと思えるのだが、こんな会話をしていると康太たちのもとにウィルがゆっくりとやってきているのが発見できた。


小百合の言っていた届け物らしき箱を持っているのがわかる。


段ボール箱に詰められたそれはそれなりに大きく、長尺ものであるというのがわかる。


一体なんだろうかと考えているとウィルはそれを康太のそばにおいてそそくさと別の場所へと移動を始めてしまう。


おそらくは神加のところだろうが、最近ウィルは意識的に神加と一緒にいるような気がする。良い傾向なのかどうかはさておいて少し寂しい気がする康太だった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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