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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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小百合の暴挙

「・・・ん・・・?客か・・・?」


康太たちが茶と煎餅を口に運んでいると、魔力を持った人間がこの店に近づいてきているのをアリスが感じ取った。


魔力を持った人間がこの店に近づく理由はいくつかしかない。一つは小百合の店を利用しようと足を運ぶもの。もう一つは小百合自身にお礼参りをしに来たもの。


この時間、まだ日の高いこの時間帯に買い物に来るものは極めて少ない。お礼参りの可能性もないわけではないために康太は若干警戒の色を強めていたが、店に近づく人間には敵意がないように感じられ一度警戒を緩めた。


ゆっくりと近づいてくるその人物が扉を開け中に入ってくる。それを確認して康太は静かに居間から顔を出した。


「いらっしゃいませ・・・何か入用で?」


「おっと・・・見たことのない顔だな・・・店主は・・・クラリスはいるかい?」


そこにいたのは細い目をした嘘くさい笑みを浮かべた男性だった。身長は百七十後半といったところだろうか。すらりと長い手足を持つが妙に全体的に細い。筋肉がついているのかも怪しくなるような体格に康太は一瞬不安さえ覚えてしまったほどだ。


だがそんな男がクラリス、康太の師匠である小百合の術師名を発したことで康太は一瞬目を細める。


小百合を呼んでいるということが単に買い物をするためか、何か別の目的があるのかはわからない。


「・・・見たことがないのはこちらも同じですね・・・名乗りを上げるにも素顔では・・・少々抵抗があるでしょう・・・とりあえずどんなご用件で?今ちょっと手が離せないっぽいんで伝えるだけ伝えますよ?」


「それなら待つよ。彼女に伝えなきゃいけないことがあるんだ。そうだね・・・じゃあウソツキツネが来たって伝えてくれる?」


ウソツキツネ。なんとも妙な呼び方だなと思いながら康太は承服する。とりあえず男性は居間の方には入らず、店の方で小百合を待つようだった。


いったいどのような目的があるのかはさておき彼が待つ姿勢でいるのであれば敵対行動をとるつもりはないだろうと、とりあえず近くにいたアリスに視線を送る。


「ちょっと下行って師匠呼んでくる。少しの間警戒しててくれ」


「ふむ・・・了解した・・・敵対行動をとるような気配はないが・・・」


「でもちょっと雰囲気ある。たぶんそれなりにできる魔術師だ。気を付けてくれよ?」


「了解した。さっさと呼んでくるがいい」


この場をアリスに任せ、康太は駆け足で小百合のいる地下へと降りていく。先ほど地上に上っていったはずなのにすぐに戻ってきたことに小百合は少し驚いているようだった。


「なんだ、忘れ物か?」


「いえ、客です。師匠を呼んでくれと」


「私を・・・?ただの注文ならお前でも十分だろう?胸騒ぎがする。私はここにいるからさっさと注文書をまとめろ」


「いえ・・・とりあえず師匠を呼んでくれとだけ言っています」


「・・・なに・・・?お礼参りか何かか?最近は割とおとなしくしていた方だと思ったんだがな・・・名は名乗ったか?」


自分でいうのかこの人はと思いながらも、先ほど男性が言っていた呼び名を思い出してとりあえずそれを小百合に伝えることにした。


「えっと・・・ウソツキツネといえばわかると・・・」


その名前を聞いた瞬間、小百合は目を見開いて康太の方に視線を向ける。


その顔は驚愕に満ちているというべきだった。そこに含まれているのは驚愕だけではない、何やら殺気のようなものも込められているように感じられた。


明らかにただ事ではない。小百合のこのような表情はあまり見たことがなかっただけに康太は若干ではあるが驚いていた。


そして小百合の変調に真理も気づいたのか、神加の攻撃を軽く回避しながら小百合の方に意識を向けているのがわかる。


「・・・そうか・・・それで、そいつは何の用だと?まさか買い物に来たわけでもないだろうに」


「えっと・・・伝えたいことがあるといっていました・・・俺が伝えるかといったんですけど・・・本人に直接の方がいいみたいで」


「・・・そうか・・・そうか・・・わかった、私が直接行こう。お前たちは絶対に手を出すなよ?」


「・・・いやあの・・・何するつもりですか・・・?まさかとは思いますけど白昼堂々と戦闘とかしませんよね?」


「安心しろ、私とあいつでは戦いにすらならん」


戦いにすらならないという言葉に康太は若干の違和感を覚えるが、小百合がどんどんと進んでいくのを見て後を追わなければと急ぎ足で小百合の後についていく。


「一応聞いておきますけど・・・あの男の人知り合いですか?初めて見る人ですけど」


「そりゃそうだろうな。私が大嫌いな人種だ・・・張り付いたような軽薄な笑顔が印象的だっただろう?」


小百合の言葉にそういえばと康太は先ほどの男性の笑顔を思い出す。


細い目をさらに細めて笑う男性。確かに張り付けたような笑みを浮かべる人だった。


春奈と同様昔からの付き合いの人だろうかと思いながら小百合の後についていくと、小百合は康太よりも早く居間へとたどり着いていた。


小百合がやってきたことでとりあえず状況が先に進むのかと文とアリスが小さくため息をついた瞬間、それは起こった。


小百合はその男性の姿を見つけると同時に思いきり走り出し、その顔面めがけて飛び蹴りを放ったのである。


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