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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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いずれ来る未来

「やっているようだな」


「あ、師匠。様子見に来たんですか?」


康太たちが神加の様子を見ていると、いつの間にか降りてきたと思わしき小百合が物置の陰から神加たちを覗き込んでいた。


服に貼られたシールを奪い合っている二人の様子を見て小百合は小さくため息を吐く。何か思うところがあるのか、それとも何かを思い出しているのか、どちらにせよただ様子が気になったから眺めているというわけではなさそうだった。


「いやな予感がして一応な・・・あれで修業しているつもりなのかは少々疑問ではあるが・・・」


「子供相手ならあんなものでしょう。いきなり殴る蹴るは難易度が高すぎます。間違いなく神加がケガします」


「・・・相変わらず甘やかしているな・・・ケガをするくらい本気でやらなければ意味がないだろうに・・・」


「神加にはそんなことはさせられません・・・ただでさえ不安定なのにこれ以上不安定にはさせられませんよ」


精神面だけではなく肉体面まで痛めつけられたら彼女がどのようになるのか想像もできない。


少なくとも現段階では神加の精神的な容体は徐々にではあるが確実に改善の方向に向かっている。


これでいきなり体にも大きな負荷をかけようものなら再び悪化の一途をたどる可能性は高い。


兄弟子としてそんなことをさせるわけにはいかなかった。


「っていうか師匠、今上に誰もいないんですか?」


「そうだな。私もここにいるし」


「何やってんですか・・・いくら閑古鳥が鳴いてるような店でも誰もいないのは問題でしょうに・・・しょうがない・・・文、アリス、ちょっと上に行って店番してくる」


「あ、私も行くわ。このままだと神加ちゃんたちの邪魔しちゃいそうだし」


「なら私も行こう。ここにいても落ち着かん」


「そっか。ウィル、神加のこと頼むな」


康太はウィルを地下に置いたまま階段を上がって地上部分の居間までやってくる。


考えていた通り客など誰もいない。結局居間でのんびり過ごすだけになってしまうがたまにはこういう時間も悪くはないだろう。


「あぁいう訓練だったら私もやりたいくらいなんだけどね・・・痛くないだろうし、何より安全そうだし」


「そうか・・・?あの類の訓練は結構本気でやると大変だぞ?下手にルールが決められてる分できることが制限されるし、何より技術差がもろに出る」


「えー・・・?そうかしら?だってシールを奪い合うだけでしょ?」


先ほどの訓練を見て康太と文の抱いた感想は全く別のものであるらしい。その意識の差が近接戦闘におけるセンスの差であることは明白である。


「奪い合うだけっていうけどな・・・体の使い方とか、相手の重心の崩し方とか、直接攻撃に関すること以外のすべてを使ってシールだけを奪う。これがどれだけ難しいか想像してみろよ」


痛くないことと簡単ってのはイコールじゃないぞといいながら康太は湯呑に茶を淹れて文とアリスにそれぞれ差し出し、ちゃぶ台の上に置いてあった煎餅をかじる。


訓練において痛くないということはその分学習が容易であるように文は考えた。何より痛みを伴ったほうが技術的な面が大きく出るように思えたのである。


だが実際は全くの逆だ。相手を傷つけることに対して何のルールも制約も存在しないのであれば、康太の言うように何でもありで無茶苦茶な行動をとることもできる。相手の想像の裏をかくこともできるし陽動も攪乱も思いのままだ。


だがそこにルールが制定されるとなると話が変わる。ある程度の約束事のもとに行われる行動には当然ある程度の筋道が生まれる。


例えば先ほどのシールを奪い合うルールでいうのであれば、特定部位に対して動く腕の動きに対して警戒するという両者の中での共通認識が生まれるのだ。


シールをはがすことができる動きを容易にできるのはまず手だ。手練れになれば足でも可能かもしれないが、たいていのものは手でシールをはがすだろう。


相手が手で特定の部位に攻撃をしてくる。そのように想定しても問題ない。フェイントを織り交ぜようと結局はその場所に手が伸びるのだ。警戒する場所は少なくなり、対処するのも比較的容易になる。


つまり、相手の攻撃は読みやすく、相手に攻撃が読まれやすい。そのような状況下で攻撃を当てるのは当然技術力と経験がものをいう。


ある意味魔術師としての戦闘訓練にもなっているのだ。相手がこうするだろう、自分ならこうする、相手をこのように動かして自分の攻撃を当てようなどと思考しながら戦う癖を今のうちからつけているのだ。


簡単そうなどといっている文だが、実際にやってみればその奥深さがわかるだろう。ある程度訓練を積んだ神加を相手にしてもらうのもいいかもしれないなと思いながら康太は自分の湯飲みに注いだ茶をゆっくりと飲んでいく。


「でも小百合さんがよくあんな訓練許したわね。てっきり最初から痛めつけるんだと思ってた」


「そんなこと俺らがさせるか。師匠と敵対してでも止めるぞ。神加に対してそんなことしようものなら全力で抵抗するわ」


「・・・本当にあんたって過保護ね・・・いや、あんたたちっていったほうがいいのかしら?今もウィルを護衛役にしてるんでしょ?」


「いずれはウィルを正式に神加に引き継ぐつもりだしな。たぶんだけどそのほうがあいつらのためになるだろうし」


あいつらというのがウィルのことを示していることは文にも理解できた。自分にとってウィルがどのような存在であるのかよりも、ウィルがどのように行動したいのかそれによって決めるべきなのだと康太は判断しているようだった。

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