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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十八話「張り付いた素顔と仮面の表情」
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真理の弟弟子

「三人とも、何をしているのですか?」


康太たちがそんなことを話していると神加と手をつないだ状態の真理が康太たちのもとにやってきていた。


どうやら修業をしにやってきたのか、二人とも動きやすい格好をしている。真理はともかく神加まで動きやすい格好をしているのは少々珍しかった。


「今年の目標に加えてこれからの魔術師としての目的の洗い出しも兼ねていろいろ考えてたんですよ。こんな感じです」


康太に渡された今後の康太の魔術師としての成長の変遷を見て真理は眉をひそめた後なるほどとつぶやく。


「・・・非常に現実的な考察だと思われます。康太君のセンスならすべて可能なものでしょう。そして自身のことをよく考えたうえでマイナス面にも目を向けられている。よくできていますよ」


「え・・・?ちょ・・・真理さん、さすがに一年に一回は封印指定に遭遇するっていうのはちょっと問題じゃ・・・」


康太がふざけて書き、文が突っ込んだ一文を真理は笑うこともなく肯定して見せた。それどころかむしろ良くできているとほめてすらいた。


康太は鼻高々といった様子だが、文はその評価に若干ではあるが大丈夫だろうかと心配になってしまう。


「問題はありません。むしろ少なく見積もっている方だと思いますよ?何せ康太君はこの一年で二件の封印指定の案件に関わっています。デビットさん・・・いえ封印指定百七十二号、そして封印指定二十八号・・・アリスさんと関わったことでおそらくそういった話が本部側から入ってくることもあるでしょう」


「それは・・・でもアリスが牽制しているのでは・・・?」


「無論アリスさんが康太君の近くにいる手前、横暴な形での依頼は不可能になったでしょう。ですが正当な理由さえあれば本部側から召集をかけることも受けざるを得ない状況にすることも十分に可能です」


真理の言葉に確かにそうかもしれないと文は考え直してしまっていた。確かにアリスは康太と同盟を組むことで本部側からあまりにも無理やりな依頼の受諾をできないようにしたのかもしれない。


だが本部にだってやりようはいくらでもあるのだ。緊急時でどうしようもないだとか、康太以外にできる人間がいないだとか言いようはいくらでもある。


その時に出す条件によっては康太が受けざるを得ない状況にするくらいなんでもないのだろう。


康太はそれだけの実力を有している。特にデビットの存在は大きい。ほぼノーリスクで広い射程を持つ魔力を吸う魔術を扱うことができるのだから。


もっとも康太の場合はそのリスクをすでに背負込んでいる。


具体的には、多くの人間の死を追体験するという前払いに近いリスクだ。あれを乗り越えられるか否か、そういう意味では一種の試練に近い。


その魔術を持っている康太、そして康太が動けば一緒についてくる可能性の高いアリス。多少の無理を通してでも依頼をする価値はあるように思える。


特に先ほどの話を鑑みるに、現在封印指定の中で未だ封印されていない番号についてはかなり厄介な事案のものが多いはずだ。


そういったものに康太たちをぶつける可能性も十分にあり得る。


「なるほど・・・なんかふざけて書いたように思ってたけど案外ちゃんとした計画になってるわけね・・・」


「いや・・・俺としてはもう封印指定関係はお腹いっぱいなんだけど・・・これ以上面倒なのは御免だぞ?」


康太の起源で魔術の根源がのぞき込めるとはいえ、それは康太自身が魔術を発動した場合に限られる。


デビットの場合体内に入り込んでその人物の体を利用して発動するタイプだったためにうまく読み込めたが、他の魔術がどうかはわからないのだ。


アリスの協力があれば不可能ではないかもしれないが生憎とアリスがそれを簡単に容認してくれるとは思えないのである。


「本部が本気になったら、それこそどうしようもないですかね?」


「・・・そうですね・・・本部がその気になればどのようなことでもやろうとするでしょう。アリスさんは素晴らしい魔術師ではありますがやはり一人の人間。やりようはいくらでもありますから」


アリスがこの世界で、現代で最も優れた魔術師であることはおそらくこの世界中の誰もが認めるところだろう。


何百年も生きた魔術師、おそらくあらゆる面でこの世界で彼女を超える魔術師は存在しないだろう。


だが真理の言うようにアリスも一人の人間だ。卓越した技術を持っていても、魔術によって寿命を引き延ばそうとも彼女も一人の人間なのである。


手段を問わなければアリスを康太から引き離すことができなくもない。そういった行動が取れる以上、アリスがいることと本部が手を出さないことはイコールではないのだ。


康太は今は関わってはいないが、今は本部に加え他の支部とのいざこざも起き始めている節がある。


この状態で平穏を望むのはいささか無理があるだろうかと康太は眉をひそめていた。


「まぁ封印指定関係はさておいても、なかなか現実的な目標だと思いますよ?康太君ならばこなすことは十分に可能でしょう」


日々精進が必要ですがと一言置いて真理は康太の数年間の予定が書かれた紙を返すと神加と一緒に準備運動を始める。


「そういえば姉さんはともかくどうして神加まで運動着を?何かやるんですか?」


「あぁ、そういえば説明をしていませんでしたね。これから神加さんに近接戦闘の訓練を施すんですよ」


「え・・・!?神加に・・・!?早くないですか?」


神加はまだ小学生にもなっていない少女だ。体もできていない、筋力もさほどない、体力もそこまでない、そんな状態で近接戦闘の訓練をするというのは少々時期尚早のように思えたのである。


無論何かしらの意味があると考えていいだろうが、康太をはじめ文も不安そうな表情を浮かべていた。


「近接戦闘の訓練といっても簡単なものですよ。まだ殴ったりけったりといったことをするわけではありません。お遊びの延長戦のようなものですよ」


そう言って真理はシールのようなものを取り出すとそれを神加の服の各所に貼り付けていく。


胸部、腹部、腰、背中の四か所。体の前と後ろにそれぞれ二か所張り付けられたそれが何を示しているのか康太は察しがついた。


「なるほど、体の基点、弱点になる部分にそれぞれ張り付けてそれをはがそうとするってことですか」


「その通りです。こうすれば傷つけずに済みますから・・・さぁ神加さん、これからこのシールをはがそうとするので、逃げたり防いだりしながら阻止してください。時間内にシールを守れたらその数だけご褒美がありますよ」


自分の服に貼り付けられたシールを守る、その程度でいいのかと神加はやる気を出している。


神加と真理は準備運動をするとそれぞれ動き出す。まず神加が真っ先にやったのは走って逃げることだった。


単純だが最も有効な行動でもある。相手が近接戦闘を得意としているということがわかっているのであればそれから離れようとするのは至極自然だ。


とはいえ、子供の神加と大人の真理が同時に走ってどちらが早いかなど聞かれるまでもないことだ。


容易に神加を追い抜いて振り返ると、神加は数歩あとずさり逆方向に逃げようと踵を返すが真理はそれを読んでこれ以上神加が逃げられないように壁際へと追い詰めていく。


ゆっくりと手を挙げて神加の体へと手を伸ばしていく。


神加はゆっくり近づいてくる真理の手を取って必死に自分の体に触れられないように抵抗していた。


これが康太や真理だったら、伸ばされた手を払って蹴りを入れるか強引に体当たりをしてこの場から逃げるのだろうが、神加はまだそういった発想ができないのだろう。真理の手をつかんで必死に抵抗している。


その様子を見てかわいらしいと思ったのも事実だがこれではあまり訓練にはならない。どうしたものかと考えてしまった。


想定としては真理の手を払ってうまく逃げながら防御の方法を教えようと思ったのだがどうにもそういうわけにもいかないようだった。


そんなことを考えていると真理はふと思いつく。こうすれば神加もある程度考えることができるのではないかと。


真理は神加が必死に抑えてる方とは逆のもう一つの手で神加の腹部にあるシールをはがすと自分の腹部に貼り付ける。


「神加さん、そんな防ぎ方では簡単に持っていかれてしまいますよ?」


「・・・え?あれ?」


自分がしっかりと手を抑えていたにもかかわらずいつの間にかなくなっている腹部のシールを見て神加はどういうことだろうかと目を白黒させる。


そしてわかりやすいように真理がシールを奪ったほうの手をひらひらさせるとしまったという表情をして見せた。


子供のころ自分はこんな感じだっただろうかと少し複雑になりながらも真理は少し神加から離れる。


「さて、ではルールを一つ追加しましょう。神加さんから奪ったこのシール、神加さんが奪い返せばまた神加さんのものになりますよ?」


さぁどうぞと真理は自分の腹を差し出す。神加はおずおずとその腹部に取り付けられたシールをはがして自分の腹に貼りなおして見せた。


「さぁ、では仕切り直しと行きましょう。神加さんは最後までシールを守り通せますか?」


神加が腹部のシールに気を取られている間に、真理は持っていた予備のシールを自分の体に貼り付けていく。


神加が奪うもよし、神加に奪われないように防御するもよし、神加から奪うもよし、そういったやり取りの中で神加に防御と回避の基礎を教えようと考えたのだ。


最初は先ほどのようにただ腕の動きを押さえるくらいしかできなくても、これからうまく防御と回避をしてくれるようになるだろう。


「・・・なんだかすごくほほえましいわね」


「そうだな・・・訓練って聞いた時は一瞬どうなるかと思ったけど」


その様子を眺めていた康太と文は安堵した様子で小さくため息をついていた。


「小百合さんの訓練とは全然違うわね。楽しませながら訓練させてる。真理さんって子供の扱いに慣れてるのね」


「師匠とはえらい違いだよ・・・神加が師匠の訓練受けたら間違いなく虐待になるからな・・・そういう意味で姉さんに任せたんだろうさ」


今康太たちが受けているような訓練を神加が受けたら何もできずにただ殴られるだけになるだろう。だからこそまずは攻撃を回避する方法と、防ぐ方法を教えるべきなのだ。


あのやり方なら確かに少しずつ攻撃、防御、回避を教えられる。少しずつグレードを上げていくことになるだろうが、神加が近接戦闘をできるようになる日もいつか来るだろう。

誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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