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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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男女と優劣

「ていうかあいつなら話しかけられても基本は邪険にしないと思うけどな・・・露骨すぎなきゃ普通に話せると思うぞ?」


実際康太は何度も文と話しているがそこまで話しにくいというわけでもない。むしろ彼女は非常に頭が良くこちらが話そうとしていることも察してくれるし、こちらが話した内容もすぐに理解して反応してくれる。


彼女と話しているのは楽しいと自然に思えるほど彼女は誰かと話すことに慣れているのだ。いや誰かと話すのが上手いと言ったほうが正確だろうか。


聞き上手でありながら話し上手でもあり、会話が繋がり展開していく。彼女との会話は普通の人間のそれとは異なると思えるほどだ。何か魔術を使っているのではないかと疑ってしまうほどである。


「いやぁどうだろ・・・それはお前が身内だからだろ?俺ら赤の他人じゃん」


「そうそう、他の男子の話聞いたら絶望するよ?結構ひどかったから」


「酷かったって・・・たとえばどんな感じだよ」


普段話している康太からすれば彼女がそこまで辛辣な反応をするとは思えなかった。


むしろ誰かに対して話すときは非常に気を付けて話しているように思えてしまうのだ。魔術師であるという事を隠している以上ある程度目立たずに行動するのが鉄則であるというのが彼女の信条だ。もっともその優れた外見のせいでまったく目立たないということは不可能に近いわけだが。


「そうだな・・・あれだ、サッカー部の奴が話しかけた時の話なんだっけ?」


「あぁ、趣味の話とかしてたら『それで本題は?』って聞き返されたやつだね」


「本題って・・・趣味の話とかをして仲良くなろうとしたのが本題だな・・・あぁなるほどそう言う感じなのか・・・」


そのサッカー部男子からすれば交流を持とうとした結果の話題だったのだろうが、そう言う事を考えていなかったのか考えていてなおそう切り返したのか、文は内容のないただの世間話に目的を求めたのだ。


事務的な話を前にした枕詞程度にしか考えていないよというある意味拒絶や事務的な対応に近いその反応、そのサッカー部男子は顔をひきつらせたことだろう。


青山と島村の話を聞く限りその後サッカー部男子は何度か食い下がったものの結局すべて受け流され、というかやんわりと拒絶され続けたらしい。


なんというか哀れでしょうがない。文は外面はいいのだろうが、自分の興味のない対象にはどうやらとことん酷な反応をするらしい。


それを棘がないようにするから何とも不思議なものだ。本当に魔術の類を使用しているのではないかと思えるほどである。


「でもそれはやっぱ下心があったからだろ?最初はただ単になんか別の話をした方がいいんじゃないか?事務的な内容でもいいからさ」


「・・・部活も委員会も関わりないのにどうやって関われってんだよ」


「そうなってくるともう八篠しかつながりがないんだって」


「・・・まぁ・・・そりゃそうか」


文とつながりを作るためには当然何かしら彼女と同じ活動をしなければならない。康太の場合は魔術師として。他の同級生たちからすれば部活動や委員会などがそれにあたるだろう。


最初は事務的な内容から話を長引かせて適当な段階から私的な話もしていくのが良いのだろうが、生憎とこの二人は文に対して何の接点も持ち合わせていないようだった。


唯一あるとすれば同じ部活にいる偽親戚の康太くらいのものである。


「ていうかなんでそんなにあいつに固執すんのさ。別にあいつ以外にも女子はいるだろ?」


「そりゃ可愛い女の子の方がいいじゃん!当たり前だろそんなの!」


「そうだよ、まったく何言ってんの」


「・・・うん、まぁそうだな・・・今のは俺が悪かったわ」


康太だって健全な男子高校生だ。基本的に文に対しては恋愛感情を抱くのが難しくなっているとはいえ普通に女子に対して興味を持っているお年頃である。


女子に対して興味だってあるし、もっと言えば付き合ったりデートしたりしたいとさえ思っている。


もっとも康太にとって女子と付き合うという事がかなり難しいというのは理解している。


外見や性格的な問題はさておき康太自身が魔術師であるというのがネックなのだ。魔術師であるというのを隠しながら生活するのはかなり難しい。


今は何とか兄弟子の真理や文の力を借りているから問題なく隠し通せているが、誰かと付き合うということになった場合万が一は自分で後始末をつけなければならない。


そうなってくると暗示の類の魔術を修得していない康太にはまず無理なのだ。康太が女子に対してアプローチをかけることができるようになるまでまだ時間がかかるという事である。


「でもうちのクラスだって結構可愛い奴いるぞ?まずはそう言うやつらから手をつけていったほうがいいんじゃねえの?なんか今俺凄い嫌なこと言ってるけど・・・」


自分で言っておきながら自分で突っ込む康太になるほどそれもそうかもなと青山と島村は口元に手を当てている。


実際女子同士のコミュニティから接触するというのは十分可能性として考えていていい内容だ。何も一年だけを視野に入れる必要はない。まだ高校生活は始まったばかりなのだ。これからの三年間で近づいていけばいいだけの事である。


「そうなると今度の合宿が勝負だな・・・いろいろとアプローチかけてみるか・・・!」


「そうだね・・・まずはスポーツに誘ったりしてみようか・・・いろいろと運動ができる施設もあるみたいだし」


二人が高校生としての青春を謳歌しているのは喜ばしいことなのだが、その反対側で康太が魔術師として奮闘しなければいけないという事を考えると気が重かった。


何で自分は魔術師になってしまったんだろうなぁと康太は内心ため息をついて筋トレを続けていた。






















合宿を翌日に控えた日、康太と文は小百合の店に集まっていた。


それぞれ持っていくものの確認を含めた最終的な打ち合わせでもありこの場には小百合に真理、そして文の師匠であるエアリスも同席していた。


これから自分たちの弟子が単独行動をとるという事もあって最終チェックのような形でそれぞれが持っていく道具などを確認していた。


康太が持っていくのは通常の宿泊道具に加えて新装備の『竹箒(槍)』と鉄製の数珠二つにお手玉のようなものが三つ。あとは仮面と魔術師の外套だ。それ以外は特にこれと言って変わったものはない。


竹箒はいくつかの短い棒に分解されベルトの後ろに取り付けられていた。携帯には困らないが実戦が始まるまでに準備が必要なのが難点である。


文が持っていくのは康太と同じく通常の宿泊道具、そして彼女の仮面と外套、それ以外に気になるのは札のような紙切れの束である。


それが一体なんであるのか、康太はなんとなく理解していた。要するに方陣術を使う際に必要なものだろう。康太は方陣術を使うことができないのでただの紙の束にしか見れないがそれも魔術的な意味があるものであるのは容易に想像できた。


なにせ魔術師的な意味がなければただの紙の束を携帯するとも思えないからである。


「ふむ・・・まぁ必要最低限といったところか・・・ビー、お前はこれでいいのか?」


「はい・・・まぁこれ以上装備しようがありませんから・・・他に思いつかないですし」


康太が用意した竹箒以外の物品、鉄製の数珠にお手玉のような布製の袋。中になにが入っているのかは一見すれば把握できない。


これは康太の新魔術で使うものだった。と言っても現在はまだ練習中であるために即時使用はできない。しかも再現と同じく前準備が必要なタイプであるために数珠二つにお手玉三つ、合計五個が現在扱える新魔術の限界だと言ってもいい。


再現程に練度をあげたのならもっと別の使い方もできるのだが、康太の練度ではそこまでの精度で扱うことができなかったのだ。


新魔術を覚え始めてまだ一ヶ月も経過していない状態では使用できるだけで上出来かもしれないがそれでも心もとないことに変わりはなかった。


「ベル、これで不備はないのか?」


「はい・・・今回私は防衛に当たります。問題が起きる前に準備を終わらせておくつもりです。」


問題が起きる前。いつ問題が起きるかわかっていない以上彼女は現地に到着すると同時に行動を開始する予定だった。


もちろん団体行動などを強いられた場合はそれに逆らうつもりはないが、今のところ確認できているスケジュールでは到着してから夕食までは自由時間になっていた。つまり到着してから夕食までに防衛のための陣を張っていくつもりなのだ。


「防衛ならばそれなりにやりようはありますね・・・ビー、あなたは攻撃手ですか?」


「はい、防御の方はまだからきしなので・・・そのあたりはベルに任せます」


康太は今のところ防御に適した魔術というのを覚えていない。個人レベルでの防御ならば再現の魔術を応用すればできないこともないのだがそれでもこの魔術は防御用のものではない。


大多数の人間を同時に守れるだけの魔術も技術も康太は有していないのだ。防御に関して、いや普通の魔術師としての仕事も文に押し付ける形になってしまう。


「まぁこのバカの弟子では仕方がないだろうな、今度私が防御の魔術をいくつか教えてあげよう。こいつにはできないだろうからな。なにせこいつは防御魔術など覚えていないからな」


エアリスの言葉に康太は小百合に視線を向ける。デブリス・クラリス。自分の師匠である魔術師がどのような異名を持っているかくらい康太でも知っている。


以前出会った魔術師は『瓦礫の』と呼んでいた。破壊に精通し破壊に特化した魔術師、それが小百合だ。


防御用の魔術を覚えていないという事を突き付けられても別段驚きはしなかった。むしろそうだろうなと納得さえしてしまっていた。


「バカを言うな、私にだって防御魔術の一つや二つある」


「あれが防御魔術?だとしたらお粗末極まりない。あんなものを防御にカウントしているからお前はいつまで経ってもダメなんだ」


「どこがダメだというんだ?なんなら今使って八つ裂きにしてやろうか?」


「はいそこまでにしてください。いい大人がみっともない」


真理のストップがかかったことで両者は舌打ちをした後で互いに視線を逸らす。小百合が防御魔術だと言ったそれがただの防御魔術であるとは思えない。


というか普通の防御方法なら相手は八つ裂きにできないだろう。逆に言えば小百合の防御魔術は使いようによっては相手を八つ裂きにできるという事でもある。


本当にこの人は徹底的に破壊にのみ精通しているのだなと康太はため息をついてしまっていた。そしてそれは文も同様である。


何で小百合のことに関してはこんなに突っかかるのかなと文は呆れながらも小さく息を吐いている。


本当に小百合とエアリスは相性が悪い。この場に両名を集めたのは失敗だったかなと康太と文は反省していた。


顔を合わせれば口喧嘩、一触即発の空気を醸し出すたびに真理が止めに入る。さすがに仲が悪すぎだろうと二人はもはやあきれてものも言えない状態である。


「ビー、次にお前に教える魔術は防御魔術だ、よく覚えておけこいつに格の違いを教えてやる」


「それは楽しみだ。自らを卑下にするようなことがないように祈っているよ」


再びにらみ合う二人の間に新聞を割り込ませる真理さえ呆れてしまっている。互いの弟子は良好な関係を築けているのにどうしてこう師匠同士はいがみ合っているのだろうと弟子三人は視線を合わせながらもう好きにしてくれという風にため息をついていた。


「だが実際防御の魔術は覚えて損はない、こいつの魔術ではまともな防御は望めないだろう・・・ベル、手本を見せてあげなさい」


「了解です」


エアリスの言葉のままに文は小さく集中した後で手を前に突き出していた。


数秒も経たずに彼女の手のひらの先には薄い板のようなものが顕現していた。


それは半透明な白、僅かに向こう側の景色が見える薄い何か。ビニール袋が硬質化したらこんな感じだろうかと康太はそれを観察していた。


軽く触ってみるとそれがかなりの硬度を持っているということがわかる。軽く強めに叩いてみたのだがまったくびくともしなかった。


「へぇ・・・お前こんなの使えたのか・・・」


「そこまで得意じゃないけどね、一応これ無属性魔術だし」


文が得意としている魔術の属性は雷水風光の四種類だ。無属性の魔術はそこまで得意というわけではないらしく発動まで少し時間がかかるとのことだった。


それでも一秒ちょっとしかかからずに発動できるあたり彼女の魔術師としてのスペックの高さがうかがえる。


だが確かに発動に一秒強かかってしまうとなると防御としてはあまり実用的ではないかもしれない。


相手が攻撃してからこちらに着弾するまでに一秒のラグがあることなどどれくらいあるだろうか。それを考えると防御は発動までに一秒以下、可能なら防御すると思った瞬間には発動しておきたいところである。


「防御の魔術を適切に扱うことができるようになればそれだけで戦略は広がるでしょう。確かにエアリスのいうように防御は覚えて損はありませんよ」


「・・・姉さんも防御魔術は覚えてるんですか?」


「当然です。私の場合は土属性の防御魔術が多いですね」


真理が得意としている魔術は地水火風の四属性だ。その四つの魔術で最も防御に適しているのは土属性なのだという。


実際地面を隆起させた盾などはイメージしやすい。逆に言えばそれ以外の属性というのは防御には不向きであるように思えるのだ。


「無属性の魔術だとどんな防御魔術があるんですか?」


「一般的なのは障壁ですね。今ライリーベルが展開したようなものが多いです。範囲や防御力などが変わったり形状が異なったりといろいろと種類はありますよ」


障壁というとイメージするのは結界だろうか。内外を遮断するための壁。確かに先程文が発動したそれに近いイメージが康太の中にもあった。


あれを自分も覚えることができるのだろうかと少しだけ心が高鳴っていた。


「師匠、俺に教えてくれる防御魔術ってどんなのですか?」


「・・・今ジョアが言ったとおり、障壁魔術だ。半人前にでも基本的に扱いやすいものだから安心しろ。」


どの口がそんなことを言うのかとエアリスが口をはさむが、今度は文が彼女の口をふさぎ康太はとりあえず小百合が教えてくれるであろう防御魔術に期待していた。


だが康太が次の魔術を覚えることができるのは今覚えている魔術を完全に習得してからだ。まだまだ練度が足りず精度も低い今の状態では、とても新しい魔術など覚えられないだろう。


ただでさえいくつか魔術を並行して覚えている最中なのだ。さすがにきちんと一つずつこなしていかないとどっちつかずな結果になりかねない。


「とにかくビー、そこまで焦らないことです。貴方はまだ魔術師になったばかりなのですから」


「はい・・・まぁ今はこいつで我慢しますよ」


康太は自分のベルトに取り付けられたホルダーに収納してある竹箒の方を見る。

康太にとっては初めての装備であり、なおかつ最近ようやくまともに使えるようになってきた武器でもある。


まだまだ荒さは目立つものの、多少の牽制くらいにはなるだろうと考えていた。魔術師が武器で牽制するというのもどうかと思ったが、康太の魔術の場合槍との相性は悪くない。


持っていて損はないし技術を修得して損はないのだ。


「とにかく明日から気を付けて旅行に行ってこい、万が一があった時はそれなりに対応するように。私たちは基本助けに入れないからな」


小百合の言葉に康太と文は力強く返事をする。今回の現場には魔術師が使うゲートが存在しない。現地に向かうには地道に車や電車を使う以外に方法がないのである。


緊急性に欠けてしまうがそれ以外に方法がないために仕方がない。自分たちでやるしかないというのは前もって知らされていたのだ。ある意味覚悟はできている。


「ライリーベル、ビーのことを頼みます。まだまだ荒削りなところもあるので」


「わかっています。可能な限りフォローしますよ」


真理が文にそう言っている時、エアリスもまた康太の耳元に口を近づけて耳打ちしていた。


「ベルを頼む、彼女は優秀だがまだ危なっかしくてな」


「あー・・・できる限り守れるように努力します」


むしろ守られるのは自分の方になるだろうが、できることはしなければならない。


男が女に守られるなんて言語道断、などというつもりはない。むしろ魔術師として文の方が上なのだから自分が守られるのはむしろ必然のように思えてしまう。


だがだからと言って黙って守られているわけにはいかない。自分には自分のできることがある。それをやりきることが康太が彼女にできるほんのわずかな協力なのだ。


オフェンス、相手への攻撃をすることが康太の役目。相手の目を惹きつけて敵を彼女の下まで行かせないのが自分の役目。


覚悟はとうに決まっている。魔術師として初めて師匠の下から離れる康太は僅かな緊張はあれど不安には思っていなかった。













小百合の店での最終確認を終えた後、康太と文は二人で三鳥高校へと向かっていた。


理由は簡単。明日から魔術師として行動することにもなるために先輩魔術師たちに報告をしに来たのだ。


最終報告というわけではないが、これから行動するにあたっての報告義務がある。なにせ一年生全員の対処を自分たちはまかされているのだから。


既に消灯し、学校内に残っているのは一部の生徒と教師のみ。康太たちは仮面と外套を羽織り以前のように校内に侵入すると集合場所であるとある教室内へ向かっていた。


「何で今日は教室なんだろうな?体育館でもよかったんじゃないのか?」


「向こうの都合とかあるんでしょ?もしかしたらまだ生徒が使ってたりするかもしれないしね」


体育館というのは基本的に部活動で毎日使用する。もしかしたら居残り練習をする者もいるかもしれない。


何より話し合いをするというのに体育館という広すぎる空間では微妙に不便なのである。


以前は初顔合わせという事もあって互いの立ち位置を認識させるためにわざわざ体育館を使ったのだろうが、今回の場合は純粋な話し合いだ。単純にコミュニケーションを取るのであれば狭い部屋の方がやりやすい。


康太としてもその理屈は理解できる。だが教室の中に仮面をつけた人間が数人集まっているというのは正直いいイメージがわかないのだ。明らかに不審人物であるが故にもし巡回中の誰かに見つかったら事である。


黒い外套に仮面、こんなものを着けているのを見られた日にはまず間違いなく通報されるだろう。


悪戯にしてはこの服装は明らかに怪しすぎるのである。少なくとも康太がこんな姿の人間を仮装大会以外で見つけたらまず間違いなく通報する。有無を言わさずに携帯の110を入力する。自分でしておいてなんだがそれほどに怪しい様相なのだ。


「ちなみに文さんや、一応聞いておくけど俺らは今周りの人から怪しまれないようになってるんですよね?」


「当たり前よ。こんな格好で堂々と廊下なんて歩けるわけないじゃない。ちゃんと魔術で認識されにくくしてるから大丈夫よ」


こんな格好で見つかりたくはないために少し不安だったのだが、文がしっかりと魔術を発動しているというのなら安心だ。


自分がこういった隠匿系の魔術を覚えていないというのは非常に不便だ。さすがに何か覚えたほうがいいよなと思いながらも康太は文の技術に感動していた。


康太と一緒に学校までやってきて同じ路地で着替えてほぼ同時に校門を乗り越えてからずっと康太は文の動向に気を配っていた。それこそ魔術を発動してもすぐにわかるようにするつもりだった。


文の一挙一動を観察すること、それは康太にとって一種の魔術の修業となりえるのである。


卓越した技術を持った者の技術を見る。見稽古と言われるそれを康太は行っていた。武術などでよくある稽古方法だが魔術にもそれが適応するとは思えない。だがそれでも康太は文の動作から魔術的な何かを修得できるのではないかと思っていた。


少なくとも文の動向を観察することに関しては意味がある。なにせ今文は康太に気付かれることなく魔術を発動したのだ。


この辺りは魔術師としての技術の差というのもあるが、康太自身がまだ魔術師としての感覚を有していないことも原因の一つだろう。格が違いすぎる故にそのすごさを認識できないのである。


二次元が三次元を認識できないように、三次元に生きている自分たちが四次元を認識できないように、そもそも次元が違いすぎるから文の凄さを正しく認識できないのである。


何時の間に発動したのか、集中はしたのか、予備動作は無いのか。


どのような事でもいいから文から何か魔術師としての手本を見つけようと康太は文の方を見続けていた。


「・・・あのさ・・・さっきからどうしたの?」


「ん?なにが?」


「いや・・・さっきからずっとこっち見てるじゃない」


さすがにかなりの時間凝視されればそのことにも気づく、というか気づかない方がおかしいというべきだろう。


仮面越しとはいえずっと視線を向けられているのだ、不快ではないようだったが先程からずっと見られるというのは彼女からしても不可思議だったのだろう。何で見られているのだろうと若干不安になっているようだった。


「いやさ、お前の方がずっと魔術師として上だろ?だからお前から何か魔術師としてのヒント的なものを盗めないかなと・・・」


「・・・あぁなるほど、技術は見て盗むってやつね・・・」


文は康太の言葉を聞いて少しだけ感心していた。基本的に教えられる側である康太が自分からも学ぼうとしている。それは向上心があるという事でもあり、康太自身がそれを望んでいるという事でもある。


ただ教えられるだけなら誰でもできるだろう。それを実践できるかどうかはさておいて真に向上心のあるものは教えられるだけではなく自ら学ぼうとするものだ。


康太は魔術師としてはまだまだ未熟、未熟であるが故に第三者の様子を見てそこから何かを学ぼうとしているのだろう。考え方としては悪くない、むしろその考えは胸に秘めておくべきことだ。その心を持ち続けている限り成長が止まることはないだろう。


「その心意気は大事だけどね・・・正直魔術師を観察しても得られるものはほとんどないわよ?見るなら相手の魔術を見なきゃ」


「・・・そうか・・・でも今のお前の魔術見えないんだけど」


「・・・今の魔術は諦めなさい。今度別のみせてあげるから」


魔術師に見稽古は意味がない。そして魔術こそ観察して置くべき内容だという事を康太は気づいていなかった。


魔術師としての常識を知らないというのは本当に不便なのだなと文は小さくため息をついていた。



日曜日と誤字報告十件分聞受けたので四回分投稿


こうやって誤字が来て複数回投稿してると落ち着く自分がいる


これからもお楽しみいただければ幸いです

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