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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十七話「そしてその夜を越えて」
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その夜を超えて

「あともうちょっとで今年も終わりか・・・」


「今年はいろいろありましたね・・・今年だけで弟弟子が二人もできるとは思いませんでした」


「何年も真理一人だったからな・・・そう思うのも仕方がないか・・・」


「本当にいろいろありましたよね・・・康太にあっていろいろと巻き込まれたし・・・」


「私もこの歳で日本に来ることになるとは思わなんだ。人生というものはいつ何があるかわからんものだの」


それぞれ今年のことを思い思いに口にしていく。テレビの向こう側ではあと数分で終わろうとしている今年を憂い、新しくやってくる年を期待する人々の声や姿が放送され続けている。


今年は本当にいろんなことがあった。特に康太にとっては波乱の日々だったといえるだろう。


何せ一般人から魔術師になり、魔術師の中でもそうそう出会うことのない災害に近い現象に触れ、その現象に近い人物とまで同盟を組むことになった。


よくわからない存在を自分の近くに引き入れている康太のその活躍、というか悪運の強さは驚嘆に値する。


そしてそういった厄介ごとを引き寄せているのにもかかわらず生き残っているところが康太の強運を示していた。


「どうだろうか、ここで一つ来年の抱負を各々言ってみんか?来年のことを言うと鬼が笑うというが、願望ならばよいのではないか?」


「抱負か・・・私はとりあえずこいつらを一人前にするくらいか」


そういって小百合は真理、康太、神加の順に視線を動かしていく。三人の弟子をすべて一人前にすることは難しくとも、少しでもマシに仕上げることくらいはしようと、しなければならないと考えていた。


「私は一日でも早く一人前になりたいですね。早く卒業試験を受けられる程度には努力しなければ」


真理が小百合の教えをすべて吸収し、一人前になるのはそう遠い話ではない。既に一人前に近い、否、それ以上の実力は有しているのだ。ただ単にまだ小百合が教えることがあるというだけの話で。


「俺はひとまずもう少しまともに戦えるようにしたいな。あとはいろいろと覚える魔術が多すぎるし」


「あんたまだ戦闘を極めるつもりなわけ?今でも十分すぎるじゃないの」


「まだまだ欠点は多いんだよ。そういったのを全部なくしてどんな状況でも乗り越えられるようにならないと」


戦闘において実績の多い康太ではあるが、まだまだ未熟な点は多い。得意としている戦闘においてもそれはまだまだある。


障害物が多いところ、特に狭い室内においてはその攻撃力を最大限に発揮できない場合が多い。


至近距離での戦闘であればどうとでもなるが、逆に普通の室内という状態だと攻撃力はかなり下がってしまう。


今後の課題はそこを改善し、どのような状況においても戦えるだけの胆力と防御力、そして攻撃力を有さなければならないだろう。


もちろん戦いだけを極めればいいという話ではない。康太はまだまだ覚えなければならない魔術が多すぎる。


索敵に関してももっと広範囲のものが必要だし、暗示の練度は上げなければいけないし記憶操作の魔術も覚えておいたほうがいいだろう。


感覚に関する魔術も覚えておいて損はない。そう考えると来年も忙しくなるなと康太は小さくため息をついていた。


「ミカはどうだ?なにかあるかの?」


アリスの問いに康太と文、そして真理が若干目を細める。神加にとっての来年の抱負。所謂願いや願望といったたぐいのものだ。


神加がいったいどのような結論を出すのか。それによって神加の精神状態の良しあしがわかるといっても過言ではない。


「あたしは・・・えと・・・お兄ちゃんや・・・お姉ちゃんと一緒に・・・いたいです・・・このまま・・・」


眠いのだろう、瞼をこすりながらそう答えた神加に康太たちは微笑ましくなってしまっていた。自分たちと一緒にいたい。そういってくれるのは素直にうれしかった。


だが神加が何かを考えているのはわかる。いったい何を考えているのか、何を思い出そうとしているのかまではわからないが、その感情が決して悪いものではないのはその場にいる全員が理解していた。


少しずつではあるが、彼女の精神状態は良い方向に向かっているのだろう。もっとも今後それがどうなるかわからない時点で予断を許さない状態なのは今までの状態となんら変わりはない。


「文は?なんか来年の目標はあるのか?」


「私は・・・そうね・・・あんたの足を引っ張らないようにするってことくらいかしらね。戦いだとあんまり役に立てなかったし・・・もう少し一人でも立ち回れるようにしたいわ。そういう意味では小百合さんにいろいろお世話になるかもしれないけど」


「ふん・・・あいつの弟子を私が世話するとはな・・・あのバカは何をやっている?教えるだけ教えて後は放置か?」


「あはは・・・師匠はそういうタイプですから・・・自分で使い方を見つけないと役に立たないと思ってるんですよ。でも実際そうだと思います」


誰かに教わるより、自分でその在り方や使い方を理解したほうが役に立つ。それは文も感じていることだし、これまでもこれからもそうだと思っていた。


文にとっては小百合の指導と同じかそれ以上に、春奈の指導は充実しているものなのである。


「アリスは?」


「私は今までと変わらん。新しい趣味を見つけ、新しい世界を見る。それが日本なのかほかの国なのかはまだわからんがな」


そういっている間にテレビの向こうではカウントダウンが始まっていた。


新しい年への思いをはせながら、全員が姿勢を正しカウントがゼロになった瞬間に全員でゆっくりと頭を下げる。


「「「「「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」」」」」


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