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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十七話「そしてその夜を越えて」
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康太の風属性の相性は決して悪くはない。無属性との相性を百とすれば、風属性との相性は八十程度といったところだろう。


風属性の次に適性のある火属性の魔術に対する相性は六十から七十の間くらいであると思われる。


風属性には多少劣るが、それでも問題なく扱える。


無属性魔術を最も得意とする康太だが、風属性と火属性にもそれぞれ適性はある。それぞれの得手不得手の中でも割と実戦にも利用できるだけの練度を期待できる属性魔術だ。


無論覚えにくいだろうがほかの属性を覚えられないというわけではない。あくまで得意なのがその三つの属性というだけの話である。


そして無属性はさておいて風属性と火属性の相性は非常にいい。所謂相互強化の関係にあるのだ。


風は炎を強くし、炎は風を生み出す。それぞれが互いに互いを増強させる特殊な属性の相性だといえるだろう。


そのため康太が覚えているレベルの低いそれぞれの属性魔術でも、扱い方を考えればうまく増強することが可能なのである。


「っていうけどさ・・・これでいったいどんな効果があるんだよ・・・」


康太はさっそく文から教わった旋風の魔術を発動していた。何度か発動してようやく起こせた旋風は康太の掌の上で小さく旋回し続けている。


それを証明するように、あらかじめちぎっておいた紙吹雪を模したメモ帳の切れ端が延々と飛翔している。


まだかなり集中しないとその状態を維持できず、気を抜けばすぐにでも魔術が解けてしまうような不安定な発動ではあるが、発動自体はできている。


だが康太はこのような魔術を発動できたところで、実戦にどのように役に立つのか全く想像できなかった。


「まぁそのまま使ったら間違いなく役に立たないでしょうね。物理的にものをぶつけられる暴風のほうがまだましでしょうよ。その魔術の利点は二つ、定点的に風を発生させられる、そしてその場所にとどめることができる点よ」


そういって文が指をさす先には、延々と回り続けている紙切れがある。細かく切られた紙きれは吹き飛ばされることなく旋風に巻き上げられ、そして少し中心から外れそうになると再び吸い寄せられまた宙へと浮かぶ。


康太は竜巻の空気の流れなどはあまり詳しくないが、確かに軽いものであれば遠くに吹き飛ばさずにある程度その場にとどめていくことができるのだろう。


「で・・・具体的にどう・・・あぁ・・・失敗した・・・」


さすがにしゃべりながらの発動ではあまり長くは続かないのか、康太の集中が解けたのか、手のひらにあった旋風は消滅してしまい、舞い上げられていた紙切れがゆっくりと地面に落ちていく。


その瞬間、文は康太の目の前に先ほど康太が作っていたものよりもより大きな旋風を作り出して見せる。


「こうやって巻き上げているものが可燃性のものとかだったら、あんたの火の弾丸の魔術を打ち込めば一気に燃やすことができるでしょうね。ただの弱い竜巻であると油断させて一気に焼却できるのよ」


「・・・あぁ・・・なるほど・・・なかなかえげつない手段をご所望で・・・」


「あんたが普段やることに比べたら何でもないわよ。何を燃やすかまでは正直私もイメージできてないけど、あんたの武装の中に一つ火薬とか入れておけば十分役に立つと思わない?」


火薬などを風で舞わせて、そこに火の弾丸を打ち込めば循環する酸素に加え一気に燃え上がる火薬。


おそらくかなりの大ダメージを相手に与えることができるだろう。全身大やけどになることを覚悟する必要がありそうである。


「・・・んー・・・燃やすだけなら小麦粉とかの細かい粒子的なものでもいい気がするな・・・一定空間に一定の粉をまわせれば粉塵爆発的なこともできるかもだし」


「やってもいいけど・・・相手が確実に死ぬわよそれ・・・爆発のほぼ中心に位置させるわけでしょ?」


「まぁな。でも確かにそれは役に立つかもしれないな・・・うまくいけば十分に戦力になるかも・・・」


「・・・扱いに関してはあんたに任せるわ。この魔術は大きさに応じて消費魔力は変わるけど扱いやすい魔術だしね。暴風や微風の応用みたいなものだから比較的覚えやすいはずよ?」


この旋風の魔術は微風や暴風の魔術の延長線、いわば応用に近い魔術だ。


一定方向、つまり風に指向性を持たせた微風と暴風に比べ、一定の法則で吹き続ける風を作り出すという意味では多少難易度が高くなるが、今の康太ならば十分に操れるレベルの魔術である。


竜巻の魔術よりレベルが一つか二つ下、それでいてなおかつ暴風の魔術よりレベルが一つ上程度の魔術なのだ。


だが文の言うように扱い方によっては十分以上に戦力になり得る。何せ風属性の魔術というのは良くも悪くも軽視されがちだ。


そもそも攻撃にも防御にもあまり向いていないということから、風そのものをよけようとする者はほとんどいない。


竜巻レベルの風ならばさすがに何とかしようとする者もいるが、微風や暴風、旋風レベルならば多少動きにくくなる程度で行動に何の支障もない。


そういった油断を利用して攻撃することができる。それはかなりの強みであるように感じた。


「よし・・・とりあえずこれからは旋風の魔術を頻繁に練習するようにするよ。さっさと実戦レベルにしたほうがいいだろうしな」


「それはいいけど・・・あんた小百合さんからは最近なんか魔術教わってるの?最近ボコボコにされている以外で小百合さんから何か教わってるところ見てないんだけど」


文は割と頻繁に康太たちが拠点にしている小百合の店に足を運んでいるが、康太が新しい魔術を小百合から教わっているところを最近見ていないのである。


新しい魔術を覚えようとしているところは見たことがあるが、新しい魔術を教えられているところは全く見ていない。


最近教わったものは拡大動作くらいだろうか。


文が知っている中で康太が覚えている魔術は分解、再現、蓄積、構築、肉体強化、炸裂障壁、遠隔動作、索敵、嗅覚強化、物理解析、術式解析、苦痛同調、暗示、微風、暴風、火弾、収束、拡大動作、無属性付与など二十に届く程度の数だ。


この中で康太が最近小百合から教わった魔術は拡大動作であり、それ以外の新しい魔術はたいてい文が教えたり幸彦や奏が教えたものばかり、小百合が教えているような魔術はほとんどない。


「ふふふ・・・一応教わってるんだぞ?最近は魔術だけじゃなくて技術的な破壊の方法を教わってるんだよ」


「技術的な破壊って・・・具体的には?」


「具体的には今まで教わった技術の復習に加えて、どうすれば壊しやすいかとかそういう一つ一つの魔術のグレードアップだな。って言っても俺の使い方が変わってるくらいだけども」


それは果たして新しい技術といえるのだろうかと文は疑問に思っていたが、仮にも破壊の権化といわれている小百合のことだ。


自分の弟子に自分のすべての魔術を叩き込もうと思ったら確かに技術も必要になってくるのは当然。


康太がある程度の数の魔術を覚えてきたことで、ようやくまともに破壊についての講座をする気になったのだろう。


「あ、でも一応新しい魔術も教わったんだぞ?これがなかなか難易度高いけどな」


「そうなの?どんな魔術?」


「それは教えられん。ただこれは姉さんも覚えてる魔術だ。本人曰くそこまですごい魔術ではないって言ってたな・・・ものすごく地味だって言ってた」


地味。今まで康太が覚えてきた無属性の魔術も比較的地味な効果のものが多かった。


無属性の性質上地味なほうが相手にばれにくいし、いろんな意味で重宝するのは間違いないのだが、今回のも見た目は地味なものであるらしい。


「真理さんも覚えてるってことはそれなりに有用な魔術よね・・・気になるけどあんたが身に着けるまで待っておくわ・・・それだと覚える魔術はかなり多くなってるわよね?もう二十越えた?」


「そうだな・・・ここまで長かったよ・・・戦闘系の魔術も少しずつ増えてきてそれ以外の魔術も少しずつ身に着けてきたからな・・・ちょっとずつだけど俺まともになりつつあるかもしれないな・・・!」


「・・・デビットとウィルが一緒にいる時点であんたはまともとは言えないわよ・・・そのあたりだけは覚えておきなさい」


康太をまともと評するとほかの魔術師たちすべてがまともといえなくなってしまう。もちろんそれはある意味当然といえるかもしれない。


何せ康太の体質そのものもそうだが、今まで経験してきたことがそもそもまともとはいいがたいのだから。


「まぁなんにせよ頑張りなさい。私もそれなりに手札は増やしてるから」


「それな・・・ぶっちゃけ俺よりも文のほうが攻撃手段は多いし、何とかなるんじゃないのか?確かもう武器できただろ?」


「できたわよ。いろいろと使い方を考えてるところ・・・まぁ使わないに越したことはないんだけどさ」


康太のように刃の部分と柄の部分を改造するのとは異なり、文の武器は一から作り出されるものであるために比較的すぐに仕上がった。


文の武器となる鞭、これを操るべく、そして操りながら戦うべく日々訓練を重ねているところである。


文の扱える魔術に武器を同時に使用することでかなりの圧力を加えられるのだ。何せ文の鞭に触れるということはつまり文の電撃を体で受けることと同義なのだから。


「ていうかちょい待ち・・・遊びに来たのに結局魔術関係の話してるよ・・・訓練もやめやめ。今日はもう休もうぜ、さすがに明日も遊ぶんだしさ」


「・・・そうね、明日もあることだしそろそろ寝ま・・・」


しょうかと言いかけて文は今の状況を思い出す。同じベッドで寝るか否か。先ほどまで自分が迫られていた選択肢を康太にも突きつけることになる。


「あ・・・あの・・・康太・・・それでなんだけど・・・寝る時・・・」


「ん?あ、文って寝るとき枕が変わると寝られないタイプか?」


「いやそうじゃなくて・・・ベッド一つしかないじゃない・・・?それで・・・どうするかなんだけど・・・」


どうするか、そう聞かれても康太はあまりピンときていないようだった。だが文がもじもじしているのを見て納得したように手をたたいてどこかに何かを取りに行く。康太が戻ってくるとその手にはいくつかのハンガーが握られていた。


そして康太はいくつかのハンガーをベッドの上に並べて線のようなものを作る。ちょうどベッドの真ん中で区切られたその境界線を見て文はすべてを理解してしまう。


「大丈夫、俺寝相はいいほうだから。アリスのお墨付きだぞ?」


「・・・そう・・・ありがとう・・・」


自分が悩んでいたのは何だったのか。文は大きく落胆した様子でありながらも、内心うれしさを感じていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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