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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十七話「そしてその夜を越えて」
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話を逸らせる

「近づくのはいいけど・・・あんたの場合防御手段がほとんどないからね・・・返り討ち・・・いや相打ち覚悟で攻撃してきたやつの場合どうしようもないじゃない?」


「まぁ炸裂障壁である程度防御して同時に攻撃して、どうしようもないのはエンチャントとウィルで防御するってのが鉄板かな・・・電撃に関してはもう本当にどうしようもないけど」


康太の主な防御手段は今のところ炸裂障壁に無属性エンチャントの防護膜、そしてウィルをまとった鎧の状態の三種類だ。


物理的な攻撃ならまだしも、伝動するタイプの衝撃や電撃などは防ぎようがない。そのために毎回文が攻撃してその弱点を補えるような対策を考えているのだが、なかなかうまくいかないのだ。


そもそも康太は防御手段に乏しい魔術師だ。どちらかというと攻撃よりも回避を重点を置いている節があるために機動力を強化してとにかく動き続け相手の攻撃をよけ続けるという戦い方を好む。


そうしたほうが効率がいいのはわかる。だが逆に相手が防御一辺倒だった場合、その防御力を突破できなければなす術がない状態になってしまう。


そういった防御に対する手段として、蓄積の魔術があるのだ。


今の康太の実力的に言って、突破できない防御というのは想像できなかった。


「・・・悪いんだけど康太、ちょっと汗臭いから早くお風呂入ってきて。筋肉見せるのはもういいから」


「なんだよ!呼び止めておいてその言い草!男子高校生の汗の香りをもっと堪能しろよな?いい匂いだろう?」


「いいからさっさと行きなさい!」


康太を思いきり後ろから押して浴場に放り込むと、文は息を荒くしながら自分の荷物の整理を始めていた。


持ってきた明日の着替えを用意し、今日着ていた服を畳んでしまっていく。今着ているのはホテルの浴室にあらかじめ用意されていた浴衣のようなものだ。


バスローブのように見えなくもないが、寝間着代わりにはちょうどいいかもしれない。


ベッドに腰かけてそのまま体を倒し天井を見上げた状態で大きく深呼吸する。


魔術師としての行動ではなく、ただの同級生として一緒の部屋に泊まる。同性だったら別にこのことも気にするようなことではなかったのかもしれないが、異性の人間とこのようなことをしていることがばれたらいろいろと問題になりそうである。


学校では親戚同士ということにしているから特に問題はないかもしれないが、それでもさすがに問題があるような気がしてしまう。


そんなことを考えている中、文はとあることに気付く。この部屋には今自分が倒れこんでいるベッドしかないのだ。


普通のベッドではなく、所謂キングサイズの巨大ベッドではある。二人どころか四人くらいなら悠々と寝られそうなサイズのベッドだ。


だがそれしかない。それ以外に寝具となりそうなものはない。せいぜい柔らかいソファがある程度だ。


部屋の中を改めて見渡してみると、その構造から本来であればあったはずのベッドがなくなっているような妙なへこみがあるのが確認できる。


おそらく康太たちが泊まりに来るとわかった段階でベッドが一つ片づけられているのだ。


やられた。文は奏が事前にやっていた根回しに愕然としてしまっていた。


応援するとはこういうことか、そして高校生の恋愛如きにここまでするのかと文は愕然としてしまっていた。


ベッドを一つ撤去するだけでも相当な労力を使っただろうに、その程度のことなど奏はまったく気にしていないのだ。


撤去するためにいろいろと従業員やホテルの経営者側からは文句があっただろうが、それはそれこれはこれ、奏の言葉には逆らえなかったのだろう。


文は申し訳なさでいっぱいになると同時にどうしたらいいものかと頭を悩ませてしまっていた。


ここで文が取れる行動は三つある。一つはこの現状に抗うことをあきらめ康太と文が一緒にこのベッドで寝ることだ。


おそらくは奏の想定していた筋書きの通りの行動だろう。部屋の中に一つしかないベッドからは奏からの無言の圧力を感じ取ることができる。


奏からの善意を素直に受け取るのであれば当然一緒に寝るべきなのだろうが、さすがに高校生で同衾をするというのは問題なのではないかと思えてならない。


というか文の心の準備ができていない。


もう二つはそれぞれどちらかがベッドを使うか程度の違いしかない。康太がベッドを使うか文がベッドを使うかの二択だ。ベッドを使わない側は部屋にあるソファで寝ることになるがそれはそれで仕方がないだろう。


おそらくこれを提案した場合、康太は言われるより先に自分からソファを使うということを言い出すだろう。


小百合や真理と一緒に行動していることもあって、康太は女性に対してある程度気を遣える。無論ある程度でしかないが、そのある程度がしっかりとしていることがあるから困ったものなのだ。


文の今の問題は、康太と一緒に寝るかどうかである。幸いにしてベッドはキングサイズ、かなり大きいこともあって一緒に寝ても問題なく空間は作ることができる。


一緒に寝るといっても雑魚寝に近い感覚だが、同じベッドで寝るという事実を文が許容できるかどうかが問題になっているのだ。


奏に用意されたこの状況、どうするべきなのだろうかと文は何度も何度も自問自答を繰り返していた。


「あーさっぱりした・・・ってあれ?文もう寝ちゃったのか?」


「うわっ!何よあんた!早すぎない!?ちゃんと体洗ったわけ!?」


思っていたよりもずっと早く風呂から上がってきた康太に文は飛び起きてしまっていた、先ほどまでの考えでだいぶ頭がいっぱいだったせいで康太の登場に完全に動揺してしまっていた。


これから康太と一緒に寝ることになるかもしれないというのに、まともに状況判断ができなくなっている。


「男の風呂ってこんなもんだろ?烏の行水じゃないけどさ。それにちゃんと体は洗ったぞ。しっかり汗かいたからな。さすがに遊園地で一日遊んだあとだし」


「・・・それなら・・・まぁいいけど・・・こ、この後はどうするわけ?」


「どうするって・・・せっかくこういうホテルに泊まれるんだしのんびりしようぜ。今何時だ・・・?まだ八時ちょいか・・・まだまだ夜はこれからだな!」


先ほど一緒に寝るという想像をしていたせいか、夜はこれからという単語がいやらしいものに聞こえてしまった文は、自分で自分の想像を打ち消そうと首を勢い良く横に振る。


康太がそんなことを考えていないことはわかりきっている。というか遊びに来ているだけという感覚のせいでそういうことを考える可能性はほぼないはずだ。


「そ、それじゃ魔術の訓練でもする?あんたそろそろ風属性と火属性の魔術もう少し覚えたいんじゃない?」


何とか話題をまじめなほうにそらせようと文は康太も乗ってきそうな話題に切り替えていく。


今まで康太は属性魔術の訓練はしていてもあまり新しい魔術は得られなかったため、教えてくれるということにかなり興味を示していた。


「お?なんだ教えてくれるのか?ようやくほかの魔術覚えられるのかよ」


今まで属性魔術はその未熟さもあって新しい魔術を覚えるのを控えていたが、そろそろ新しい魔術を覚えてもいいころだ。


むろん康太の場合覚えられる魔術にも限りがある。康太の素質にあった適性のある魔術を覚えさせなければ意味がない。


文が覚えているような竜巻や体を浮かせるレベルの強力な風を作るのは康太には不向きだ。何せ康太は大量の魔力消費に耐えられるだけの供給口がない。


康太の場合消費魔力をある程度自身でコントロールでき、なおかつ高い効果を持つ魔術が好ましい。


「あんたの属性魔術の扱いを確認した感じ、もうだいぶ慣れてきたでしょ?十全とまではいかなくても八割がたは扱えてるみたいだし・・・風属性の次の段階に進みましょ」


「よっしゃ。といっても風属性で使える魔術ってそんなにあるか?あんまりないようなイメージなんだけど・・・」


康太が覚えている風属性の魔術は三つ。微風、暴風、嗅覚強化。微風に関しては本当にわずかな風しか起こせず、暴風は戦闘時、移動時などなかなか役に立つ魔術だ。嗅覚強化は探索関係に関して必要になってきている魔術でもある。


術によっては汎用性があったり、極端な性能だったりとものによってずいぶんと毛色が変わるのが風属性の特徴である。


「そうね・・・実際あんたの戦い方とか私の戦い方でも、風属性はメインで攻撃や防御に使えるようなものじゃないのも事実。だからちょっとした工夫が必要になるわ。そういう意味ではあんたは結構風属性の魔術を使いこなせてるのよ?」


文の言うように康太は暴風の魔術に関してはだいぶ使いこなすことができている。それは練度という意味だけではなく使用方法、応用方法に関しても言えることである。


「そこで、私はあんまり使わないけどあんただったらうまく使うだろう魔術を教えてあげるわ。こういうのあんた向きだし」


「どんな魔術だ?攻撃?防御?援護?妨害?」


基本的に戦闘に偏った考え方をする康太だが、今回文が教えようとしている魔術は攻撃でもあり防御にも使われる魔術である。


「あんたが覚えたがってた竜巻を作り出す魔術よ。ただ言っておくけど、あんたが簡単に使える出力だとはっきり言って攻撃よりも妨害に近いと思いなさい。それでもあんたの使い方次第だけど」


竜巻。康太の魔力量、そして魔力の回復量でははっきり言って強力な竜巻を持続させることは難しい。


だが小規模、それこそ個人を覆いこむ程度、旋風程度の威力であれば康太のような偏った素質の持ち主でも十分に扱えると考えたのである。


「攻撃よりも妨害か・・・でもぶっちゃけその程度の竜巻じゃほとんど妨害にもならないんじゃないのか?普通に駆け抜けることもできるだろ?」


「そりゃ普通の竜巻程度ならね。あんたの素質的に連発できるのは旋風レベルのものになるかもしれないけど・・・ただ旋風を作るだけならそこまで妨害にはならないわ」


けどねと文は一つ区切って康太の前に一本指を突き出す。


「あんたの場合、魔術だけを使った戦いよりも、魔術と体術、それに道具を使った戦いのほうが多いでしょ?そういうのを利用したほうがいいわ。道具に頼ると継続戦闘能力的には低下するかもしれないけど、瞬間的な攻撃力は跳ね上がるはずよ」


もとより康太は魔術だけで戦うタイプの魔術師ではない。武器や道具などを駆使して立ち回り戦うタイプの魔術師だ。


それだけ魔術師としての素質の低さがうかがえるが、それでも高い戦闘能力を有していることには違いない。


「付け加えてあんたは火の魔術も覚えてるのよ?火と風の相性はいいわ。そのあたりの組み合わせも加味して教えるべきだと思ったのよ。はい、練習始めるわよ」


文は近くにあった紙に術式を書き込むと康太に渡す。それは文が普段使うよりも多少出力は落ちるが操りやすい小規模の竜巻を起こす魔術だった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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