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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」

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結界

「ていうか・・・こういう事って部活中に話して平気か?俺ら普通に魔術だのなんだのって話してるけど・・・」


康太がそう言うきっかけになったのは視線の先にいる一人の男子生徒だった。ここは購買部から少し離れたベンチだ。部活動が盛んにおこなわれている時間とはいえ人通りは決して少なくない。


そう、少なくないはずなのに今のところ康太の視線の先にいる男子生徒しかこの付近には誰もいない、康太と文以外には。


「安心しなさいよ、きちんと結界張ってあるから。ここにやってくる人間はいないわ・・・少なくとも普通の人間はね」


文も康太の視線の先にいる男子生徒の存在に気付いたのか小さく息を吐いた。


結界


良く魔法やファンタジーの中であげられる言葉だ。要するに防壁のようなものを作ったのだろうかと考えているがどうやら例外もあるらしい。


「また例によって魔術師には効きにくいのか?」


「そう言う事よ。暗示と同じような効果を持つ結界でね、無意識のうちにここに通る道を避けていくようにしてあるわ。」


暗示とは人間の認識と錯覚を利用した魔術だ。誰かがそこにいると思い込むことがあるように、そう言った勘違いを引き起こすのが暗示である。


それに対してこの魔術、文曰く結界は人間の無意識に働きかける術なのだという。


人間は意図的に物事を選択することもあれば無意識のうちに優先度を作っていることもある。


それは個人の性格や考え方に基づくものであって基本的に個人個人異なるものだ。そう言った個人個人によって異なる『無意識的な選択』を強制、いや誘導するのがこの魔術なのだとか。


だが当然、この魔術にも欠点がある。あくまで無意識に働きかけるものであるゆえに目的地に行かせないようにすることなどはできないのだ。目的地までの道の選択を変えさせることはできても、目的地に行くことを止めさせるほどの強制力はない。さらに言えば強い意思をもって行動している人間には効きが弱い。


だからこそ康太たちはこうして購買部から少し離れた場所で話をしているのだ。人が集まる購買部ならまだしも、少し離れたこの場所に意図的に来ようとする者はほとんどいない。


「それにもしこの場所を通ったとしても気にすることはないわ。普通の人に私たちは認識できなくしてあるから」


「暗示か・・・それってちゃんと向き合ってなくてもできるんだな」


「効果は限られるしちょっとしたきっかけで解けちゃうけどね。それでも今この状況なら十分でしょ」


そして文はもう一つ魔術を使っていた。いや正確に言えばもう一つの結界を張っていたと言ったほうが正しいだろう。


万が一この場所にたどり着くような人間がいても、購買部の近くに誰かがやってきても自分たちのことを認識できなくしたのだ。


暗示の魔術の応用とでもいうべき魔術、暗示さえも使えない康太にとってはまさに手も届かないほどの高等技術だろう。


無論そこまで便利なものでもない。効果を発揮するのは特定の範囲に限られるし、外部から何らかの干渉があった場合は解けてしまう。それこそ誰かがこの場所に適当にボールを投げ込み、康太たちの体に当てるだけで康太と文は外部から認識されてしまう。


暗示をかける対象を選ばない代わりに、それだけ容易に解ける暗示に変化しているというだけだ。以前兄弟子の真理が自分の家族にかけていた暗示に比べ強度は期待できないが、こういった場所での内緒話には適しているタイプの術であるという事を康太は正確に認識していた。


「じゃあさっきからこっちを見てるあの人って・・・」


「そうね、たぶん私達と同類よ。普通の人間ではないわ」


以前体育館で顔合わせした魔術師の中の誰かだろうか。遠くて顔までははっきり判別できないが、真っ直ぐにこちらを見ているという事は確実にこちらを認識しているのだろう。


二年生、あるいは三年生だろうか。どちらにせよあちらから何かをしてくるというつもりはなさそうだった。


「何であそこにいるんだろうな?暇なのかな?」


「違うわよ。真昼間の部活動中にいくつも魔術を発動してるのよ?人避け用とは言えなんで魔術を発動してるのか確認しに来たんでしょ」


「あぁなるほど・・・互いに互いを監視して妙なことをできないようにしてるってわけか」


三鳥高校の魔術師同盟は何も一枚岩ではない。複数の派閥が存在している以上それぞれの魔術師が対立しあい監視し合って成り立っている。


そこにあるのは学校の平和を守るためでもあり、不用意な魔術的事件の発生の抑止が最大の目的でもある。


あの場でこちらを見ている男子生徒は康太たちが魔術を発動したことで何かよからぬことをしようとしているでも思っているのだろう。だからこそあの場から動かずにこちらを注視しているのだ。


「やっぱあれかな、挨拶くらいしておくべきか?手でも振っとくか」


「あんたってやつは・・・まぁ好きにしなさいよ。こっちを認識されてる以上特に問題もないだろうしね」


康太が手を振ると男子生徒は少しどうしようか迷った後で小さく手を振り返していた。この反応は予想外だったのだろうか、男子生徒は少ししてから康太たちの視界の外へと移動していく。


どうやら康太たちが見えないところで再び監視をするようだ。もっとも監視したところで康太は何もするつもりはないのだが。


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