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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十七話「そしてその夜を越えて」
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プレゼント

「さてそれじゃあ始めるか。メリークリスマス!」


メリークリスマスの掛け声とともに、康太たちは小百合の店でささやかながらパーティを開催していた。

パーティといっても飲み食いして遊ぶだけだ。だがそれでも神加は今まで見たことがない種類の食べ物に目を白黒させながらそれらを口に運んでいる。


「神加、口にトマトソースがついているぞ。あまりがっつくな」


「ごめんなさい」


食事をとり続けている神加の隣にいるのは小百合の兄弟子である奏だ。子供の世話は嫌いではないのか隣に座って甲斐甲斐しく料理を取り皿に盛り付けたりしている。意外な一面を見たなと思いながらも、康太はその視線をゆっくりと横にスライドさせていく。


「さーちゃん、相変わらずだね、ちゃんとバランスよく食べないとだめだよ」


「・・・いいから放っておいてください」


テーブルの一角には小百合と、その世話をする幸彦がいる。兄弟子が二人いるからか小百合の機嫌は最悪といえるレベルで悪い。


もう少し兄弟子が来たことに喜んでもいいのではないかと思えるが、本人が兄弟子を苦手に思っている以上どうしようもない。


「相変わらずですねお二人とも・・・師匠もせっかくのクリスマスなんですからもう少し楽しそうにしたらどうですか?」


「・・・楽しそうに・・・か・・・こうか?」


小百合が飛び切りの笑顔を浮かべるのだが、その笑みはどこからどう見ても獲物を見つけた猛獣のそれに近い。


小百合が何かを痛めつける時にする顔だ。あんな顔をした状態でするクリスマスが楽しいはずがない。

純白の雪の代わりに鮮血が降り注ぐ聖夜になりそうである。


「ごめんなさい師匠、やっぱいつも通りの師匠でいいです。無理して笑顔にならなくていいですよ」


「なんだ、人がせっかく笑ってやったというのに失礼な奴だ」


そういいながら小百合は骨付きのフライドチキンに歯を立てるとたやすく引きちぎる。食べ方がもはや女性のそれではないがそのあたりは気にしても仕方がないだろう。


「神加、これは私からのクリスマスプレゼントだ。受け取れ」


「私に?」


「あぁ、魔術師としてではなくただの人としてのプレゼントだ。お前も女なのだから身だしなみには気をつけなさい」


奏が神加に渡したのは小さな紙袋だった。神加がその中を開いてみるとそこには明らかに高そうな髪飾りが入っていた。


髪をまとめるためのリボン、髪留め、ヘアゴムなどなど、髪に関するものが多く入れられている。


貴金属が使われているものではないが、その材質などからただの品物ではないのが見て取れる。


しかもそれが紙袋の中にさらに高級そうな箱に収められていたのだ。あれを見て安物だと思うものはそういないだろう。


「ありがとうございます・・・でもどうして?」


「大人というのはこういう時に子供に何かしてやらなければいけないんだ。もちろんお前だけじゃないぞ?真理、康太、文、お前たちにもだ」


「え?あ、ありがとうございます」


「すいません・・・いただいてしまって」


「え?わ、私にもですか?」


康太と真理にも神加に渡したものと似たような紙袋を手渡す。大小の違いはあれどそれらが高いものであるということは康太も真理も容易に想像できた。


「真理にはアクセサリーだ。普段あまりこういうものをつけないようだからだいぶおとなしめのものをチョイスしておいた。いざという時に着けるといい」


「わぁ・・・ありがとうございます・・・!こんな高そうなもの・・・!」


真理が手に取っているアクセサリー、ネックレスやブレスレットなどいくつか種類はあるがそのデザインは統一されているらしい。


あまり自己主張しない、悪い言い方をすれば地味目なアクセサリーだがその装飾の細かさや細部にまで細工が行き届いているところを見る限りかなり高そうなことがうかがえる。


「康太はまだ使うことはないかもしれんが、一応ネクタイとベルトなどのスーツ関連を用意しておいた。これから使うことになるだろうから大事にしまっておけ」


もしかしたら今度使うことになるかもしれんがなと奏は笑っている。康太が袋からプレゼントを開けてみるとそこにはどこかで見たことがあるようなブランド物のネクタイとベルトが入っていた。


そしてスーツを着る時に使うネクタイピンなど、普段の生活ではまだ使わないようなものが多々入っている。


これらすべてでいったいいくらするのだろうかと邪推してしまうが、こういうものは素直に受け取っておくべきだろう。


「ありがとうございます・・・最短で大学の入学式くらいですかね?」


「はっはっは、もっと早くに使っても構わんぞ?私の会社で手伝いをするときにスーツを用意してやろう。文には少々早いかもしれんが、ひとつ用意しておいた。権利書と鍵だ。あとは好きに使え」


「・・・あの・・・奏さん・・・これ・・・バイクの・・・?」


「そうだ、バイクの免許をとったら使いなさい。こんなものしか思いつかなくて申し訳ないが」


「い、いえいえいえいえ・・・!っていうか・・・いいんですか?こんな・・・私その・・・奏さんにお世話になりっぱなしで・・・」


「構わん。今まで康太がずっと世話になってきたしな。これからも康太を頼むぞ」


そういって奏は遠隔動作の魔術を発動して康太の頭を力強くなでる。子ども扱いされるのは複雑な気分だが、こういう時は子ども扱いされてよかったなと本気で思っていた。同時にこれだけのものをもらってしまって申し訳ない気分にもなるが。

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