その場所にいたいから
「まぁ・・・バイクでの移動はいいわ。でもホテルとかは?年末だとすごい混むんじゃないの?普通に考えたら」
「ふっふっふ・・・そのあたりはぬかりなしよ・・・奏さんにお願いして近場のホテルを抑えてもらった。近くで奏さんの会社が経営してるホテルがあったらしくてな」
「・・・あんたコネを存分に使ってるわね・・・奏さんにお礼言っておきなさいよ?」
「おうよ。その分今度ちょっと仕事を引き受けることになった。ちゃんと代償は支払ってるって」
「仕事って・・・具体的には?」
「魔術師としての仕事だよ。っていっても半分奏さんの会社とのかかわりもあるから完全に無関係とも言えないな」
「・・・あんた一人で大丈夫なの?」
「正直に言えば手伝ってほしい。けど無理強いはしないぞ。今回のことは俺が言い出したんだしな」
康太のその気遣いに文は小さくため息をついてしまう。気を遣う場所がずれている。どうして康太はこうもずれた場所を気遣うのか。
無理強いはしない。そうは言うが康太が行動するという時点で文の行動は決まっているようなものなのだ。
「あんたが行くなら私も行くわよ。私だってそのホテルに泊まるんでしょ?なら一蓮托生よ」
「まじか。助かります文さん。さすがに奏さんの仕事を一人でやるっていうのはプレッシャーがやばい」
「一人でやろうとするからよ。あんたと私はセットみたいなもんなんだから、もうちょっと頼りなさいよね」
康太に頼ってほしい。康太に必要とされたい。我ながら単純な理屈だなと思いながらも文は康太の隣を歩き続けていた。
文はここにいたいのだ。自分のために康太が戦いに行くなどというのは許容できない。ならば自分もまた戦いの場に向かうことを望む。何と単純にしてわかりやすい形だろうか。
もっと言ってしまえば康太と一緒にいたいというだけだ。仮にそれが魔術師としての行動だったとしても。
「割と結構文は頼りにしてると思うんだけどなぁ・・・」
「そういう割にはあんた勝手にどっかに行ったりするじゃない?もうちょっと相談とかしてほしいのよねこっちとしては」
「そういうもんなのか?結構相談してると思うんだけど」
「そういうもんなのよ。とにかくホウレンソウの基本はしっかりとしなさい。私だって人並みに心配するのよ?」
「そうなのか?」
「当たり前でしょ。知らない間に大怪我したらとか考えるわよ。あんたただでさえいろんなことに巻き込まれるんだし」
それは否定できないなと康太は苦笑してしまっている。実際康太はどんな面倒ごとに巻き込まれるか分かったものではない。何せ康太に依頼を持ってくる人間は多種多様、それこそあらゆる方向からやってくる可能性があるのだ。
師匠である小百合、その兄弟子である奏や幸彦。日本支部の支部長、さらには本部からも目をつけられており、文を経由して春奈からも依頼がやってくることがある。
いろんな意味でどこから依頼が来るかわからないうえに、どこに行くことになるのかもわからない以上、康太と一緒にいることを望む文からすればどんな些細なことも相談してほしいのである。
無論それが束縛であり、自分が面倒くさいことを考えていることは文自身十分に理解していた。
だがだからこそだ。もしかしたら一人で行かなければいけないかもしれないが、別の形で協力することだってできるかもしれない。
少なくとも、すべてが終わった段階ですべてを話されるよりもずっとましだ。あらかじめ何が起こったのかを分かっていれば覚悟はできる。
もっともその覚悟もあまり意味がないものかもしれないが。
「とにかく、あんたが何か行動するなら私にも声をかけなさい。私が何かしようとしたときはあんたに声をかけるから」
「了解。これからも頼りにさせてもらうよ」
「よろしい、これからも頼りにしなさい。私もあんたのこと頼りにさせてもらうから。いろんな意味でね」
「おうよ、どんどん頼りにしてくれ」
康太が言っている頼りにしているという意味と、文が考えている頼りにするという意味が微妙に違う可能性があるが、二人はそのことに気付いていない。
「さっさとデリバリーの金払いに行くか。店どこだっけ・・・?」
「ていうか今日は何を頼むのよ」
「ピザとそのサイドメニューいろいろ、あとケンタッキー系統いろいろ」
「なんか野菜の少なそうなメニューね・・・サラダとかは買うんでしょ?」
「買うつもりだけど・・・ピザ屋のサラダだからなぁ・・・」
「・・・それなら私たちで作ったほうがいいかもしれないわね。帰りにスーパー寄ってきましょ。それで食材そろえれば十分サラダは作れるわ」
「悪いな、気をまわさせて」
「神加ちゃんの栄養バランスはしっかりしておかないとね。あの子はまだまだこれから成長するんだから」
育ち盛りの子供にはしっかりとした栄養を取らせなければならない。これからもっと背を伸ばし、健康的に育ってもらうためにはバランスのとれた食事をとらせるほかない。
自分の子供ができる前にこんなことに気を遣うようになるとはなと文は内心少しだけ楽しみながらもあきれてしまっていた。




