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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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年を越すまで

「今はお前たちと一緒にいるのが楽しいからここにいる。そうだの・・・お前たちがいなくなって、そのあとも少しだけ日本にいるつもりだ。どこかの阿呆が私の所属を日本に変えてしまったからの」


「・・・そういえばそうだったわね・・・」


アリスがここにいるのは康太たちとの同盟のためだが、康太の機転、というかその変更によってアリスの所属は魔術協会の本部から日本支部へと変わってしまっているのだ。


おいそれと本部へ転属などとできるはずもなく、ほかの支部を転々とするか、あるいは所属を日本支部に変えたまま世界を放浪するかの二択だ。


もっともアリスならばその気になればどこにでも行けるだろうし何でもできるだろうと文は考えていた。


「とにもかくにも・・・しばらくは日本にいるつもりだ。せめてお前たちの子供の顔くらいは見たいの」


「・・・あっそ・・・」


「そういうわけだ、早く子供の顔を見せてくれるとありがたいぞ?」


「なんで今言うのよ・・・嫌味?」


「いやいや、期待しているのだよ。急ぐ必要はないが、お前は良い女だ。そして同じように良い男が似合う。多少不器用かもしれんがの」


アリスがいったい誰と誰のことを言っているのか、誰と誰の子供が見たいのかわからないほど文は鈍感ではない。


文は自分と康太がそういう行為をし、子をなし幸せな家庭を築いている場面を想像して顔を赤くしていく。


考えないようにしてもどうしても頭に浮かんできてしまうのだ。


きっとそうなったら幸せだろうと思う反面、そんな未来を思い描くにはまだまだ文は未熟すぎた。


それは実力面ではなく、精神面で、一人の人間として成熟していなさすぎる。


「そういってくれるのはうれしいけどね・・・私まだ高一よ?そんなこと考えるには早すぎるわ」


「なに、早すぎるということはないだろう?何せこの国は十六になれば結婚できるのだから」


「女のほうはね。男のほうは十八にならないと無理よ?」


「あぁそうだったか・・・まぁどちらにせよだ・・・だがな、焦れとは言わんがもう一度よく見てみるといい。何度も何度も考えて悩んでそれで答えを出せばよい。なに、時間はいくらでもあるのだ」


時間はいくらでもある。それはアリスの自分自身の寿命に関してのことだろうか。それとも康太と文の寿命のことだろうか。


「もう自覚はしたのだろう?そうなれば後は覚悟次第だ。どうするか、どうしたいか、考えをゆっくり煮詰めていくとよい」


自覚。


そんなことを言われても正直実感がわかなかった。だが確かにアリスの言っていることも確かなのだ。

文は康太に好意を寄せている。それはもう間違いない。


いくら頭で否定しても心と体は否定しきれない。康太と一緒にいると心が弾む、康太と触れ合っていると体が熱くなる。


もはや条件反射に等しいが、これを好意と呼ばずして何を好意と呼ぶのか。


「ねえ、相手からどう思われてるのか、それを知るにはどうしたらいいかな?」


「ほう・・・それはなかなかに踏み込んだ疑問だの。どう思われているか知りたいか」


「・・・知りたい。少なくとも、今私がどういう立ち位置にいるのかは知りたい」


今まで自分の抱いている好意を否定していた文ならばあり得ない要求だった。


今までなら康太とは対等で、それ以上でもそれ以下でもなく、それ以外の関係など望んでいなかっただろう。


だが今の文は康太からどのように思われているのか、それが気になって仕方がなかった。


こうして自分の膝の上で寝息を立てている康太の寝顔を見ながら、文は目を細めてその少し硬い髪をなでていく。


「なかなかいい位置につけていると思うぞ?少なくとも対抗馬らしき対抗馬もおらん。あとはどこまで攻め込めるかだの・・・問題は普段の対話か」


「・・・ん・・・それは自覚してるわ・・・一緒にいるとついいつもの調子に戻っちゃうから・・・」


文は康太と一緒に行動し、康太と話をしているとどうしてもいつものような、所謂『相棒』としての話し方になってしまう。


対等であり、頼りになり頼りにしている互いに支えあう関係。そういった背中を預けあえる関係になってしまう。


だがそれは魔術師としての対話に近い。文が求めているのは魔術師としてではなく異性としての関係なのだ。


ただ、文がいつも以上に女らしく、同時に康太にそれを押し付けてもどう反応を返されるかが気になるところである。


「まぁ今度の年末、一緒に過ごしてみるわ。そのときは悪いけど一緒にはいられないから、そのあたりよろしくね」


「任せておくがよい。年末のあたりは私も忙しいしの・・・存分に過ごすといい。とはいえあともう少ししかないからの、予定はしっかり確認しておくのだぞ?」


「わかってるわ。年末に面倒ごとがないことを祈るわよ」


もう十二月、年末まで時間はない。


もう今年が終わろうとしているこの時、文は康太との関係を今一度、そして今まで以上に深く考えようとしていた。


康太との関係性が変わるとして、それがいつのことになるのか、文にはいまだ想像すらできなかった。


日曜日なんで二回分投稿しようと思ったんですが章の切り替わり何で分割投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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