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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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彼女の行き先

「あいつ本当に何でもやるな・・・ていうか手を伸ばしすぎだろ。風呂敷たためなくなっても知らないぞ?」


「それはないでしょ、好きなようにさせておきなさい。というか皆さん大丈夫ですか?このまま夜の部に突入する流れですけど。えっとスケジュール的には・・・この後もゲームだとかやって・・・あぁ、場合によっては出かけたりするのね・・・本当に用意周到なんだから」


康太の家だけではなく、外に出てカラオケなどで歌を歌うこともスケジュールの中に組み込まれてはいるが、少なくとも絶対にやるということではなさそうだった。


すでに開始から九時間以上が経過している。あと十五時間いったい何をするのかわからないが、寝て過ごすということはまずありえなさそうだった。


「それじゃ俺らも真似て絵でも書くか?このパソコンの画面が今映ってるんだろ?ペイントでも立ち上げればいいのか?」


「やめておきなさいよ。適当にいじって生放送中断なんてことになったら目も当てられないわよ?」


「さすがにそこまで機械音痴じゃないって。まぁペイントくらいでいいだろ。ちょっと暇だし描いてようぜ」


「はぁ・・・ところでハチ、あんた年末どうするの?」


「年末?あぁもうそんな時期だな・・・一年が過ぎるのは早いよなぁ・・・」


もう十二月になり、あと数週間もすれば学校も終わり年末に差し掛かることになる。今のところ小百合からは何も要請を受けておらず、このままならば依頼も特になくのんびりと年末年始を過ごすことができるかもわからない。


もっともそんなことがあり得るのかと思いつつ、きっと何かしらの面倒が襲い掛かるのだろうと康太は考えていた。


「あぁ・・・っていうかあれだ、年末はたぶん俺の姉貴が帰ってくるな・・・それが唯一の憂鬱ポイント」


「お姉さん・・・ってキマリさんじゃないほうね。今大学生だっけ?」


「あぁ、帰ってこなきゃいいのにって本気で思うよ。何言われるかわかったもんじゃないし・・・」


「今のあんただったら普通に勝てるんじゃないの?いろんな意味で」


「いやいや、年上の兄弟っていうのは物理的な力とかだけじゃないんだよ。前にも話したと思うけどいろんな意味で勝てないんだ・・・ほら同意する意見が結構あるぞ」


康太の意見に対して同意するコメントが何個か流れてきている。だが同時に姉弟の上のほうだとなんでもお姉ちゃんなんだから我慢しなさいとかそういう形で理不尽な目に合うという意見も見受けられた。


やはりそのあたりは人それぞれ、家庭それぞれで違うのだろう。


「私は一人っ子だから兄弟とかあこがれるけどなぁ・・・お兄さんお姉さんがいたら頼りたいだろうし、弟とか妹とかがいたらかわいがりたいし・・・ちょうどアマミちゃんがそんな感じなのよね。あの子は甘やかしたい」


「これが肉親とかになると結構変わるんだって。それは断言できる。似たようなタイプだからそういうのがある同族嫌悪なのかもしれないけどさ、基本的にまず間違いなく肉親は嫌いになる」


「でも漫画とか小説とかだと結構兄弟が好きな兄妹とか出てきてるじゃない?あぁいうのないわけ?」


「お前結構そういうの読んでるんだな・・・いやあれはフィクションだから。お兄様大好きとか幻想だから。普通の兄弟だったら『兄ちゃんアイス買ってきて』とか『友達呼ぶから家にいないで』とかそういう感じだから」


「なんであんたの想像ってそんなに辛辣なの?」


実際に姉弟がいる人間はそんなもんだよと言いながら康太は適当にペイントで絵を描き始めている。


いったい何の絵だろうかと文は不思議そうに眺めていたが、それが人の絵であるというのを理解するのに少し時間がかかった。


何せマウスで描いているのだ、その絵の完成度は決して高くない。


「なにそれ、誰?」


「コガネだよ、今直接見て描いてる。見よ、これが花の女子高生の姿だ」


そこにはかなり歪だが確かに人の形がある。メリハリをつけようとして妙に胸が大きくなっている点と、顔の大きさなどが無茶苦茶である点を除けば人に見えなくもない。


「やめなさいっての。ていうか私こんなに顔と胸大きくないし」


「でも細いのはあってるだろ?大体こんな感じ。結構美人だぞ皆の衆」


「・・・なによそれ、メリーの口癖移ってるわよ」


康太に美人だといわれて少し動揺し、顔が赤くなっているのだが康太は絵に集中し、なおかつ視聴者は文の顔が見えないため誰もそのことに気付くものはいなかった。


本当にこいつはなんてタイミングで言うんだと憤慨しながらも、口の端が上がってくるのが抑えきれなかった。


二人きりだとどんな会話をしてもいつも通りの会話になってしまうが、こういう不意打ちを受けると素に戻って乙女な感性が生まれてしまう。


アリスを先に行かせたのは失敗だったかもしれないなと思いながらもあと十数分程度でアリスも戻ってくるだろうと高をくくっていた。


「ほれ、次はコガネが描いてみろ、俺を描いてくれ」


「・・・私絵心ないんだけど・・・」


「嘘つけ、この前すごい上手いの描いてたじゃんか、あんな感じで」


「あれは描き方が違うわよ・・・まぁいいわ・・・変になっても怒らないでよ?」


康太に差し出されて文はしぶしぶ絵を描きだす。そこには妙に足が長くなり、肩幅が微妙に広い男性の絵が描かれることになる。









アリスをはじめとして三人がそれぞれ入浴を終え、夕食も摂った後、夜の部と称して生放送を継続していった三人だが徐々にコメントの反応も鈍くなり。康太たちの眠気も最高潮に達しようとしていた。


「あー・・・だいぶプレイが雑になってるのがわかるな・・・これだけ眠らなかったのって久しぶりかもしれない・・・」


「そうね・・・動いてればこういうことはないんだけど・・・」


魔術師として行動するときはまだ殺伐とした空気にさらされていれば眠気などは自然に吹き飛んでいくものだ。


だがこの平穏を絵にかいたような空気、基本的に何もかもが弛緩した空気の中で自分の眠気を制御することのいかに難しいことか。


これで小百合の攻撃が一発でも飛んで来れば、康太の眠気も何もかも吹き飛ばすくらいの衝撃はあるのだろうが、あいにく小百合は今はいない。


というかもう小百合も眠っているのではないかという時間なのだ。


今の時間はすでに日付の変わり目を通り過ぎ、深夜二時に達しようとしている。


魔術師として活動すると決めていればこの程度の時間はなんてことはない。この程度の時間であれば問題なく行動も活動もできるだけの時間帯なのだ。


ただそれは魔術師として活動するときだけ、何か自分に緊張を強いていないとできない。


ゲームをやってただしゃべるだけの状態で緊張しろというのが無理である。集中力を保てというほうが無理である。


「ならば一瞬仮眠したらどうだ?一時間寝るだけで随分と違うぞ?それまでは私とコガネでガールズトークをしていようではないか」


「そりゃありがたいけどさ・・・あぁ、じゃあ順々に仮眠するか。先に俺かコガネが仮眠して残ったほうが雑談?」


「そうだの、生主である私が寝るわけにはいかん。二人のどちらかということで・・・そうだの・・・先にハチが寝るといい。ほれ」


アリスが軽く手を振るうと康太の体がわずかに動かされ、強制的に体が文のほうに運ばれていく。


そして康太の頭が文の足の上に乗った時点で、文は自分の中にあった眠気が一瞬にして吹き飛ぶのを実感していた。


「・・・!?!?」


もはや声にならない悲鳴を上げている文に対して、康太はアリスによって何かされたのかすでに寝息をたてている。


康太に対して何か細工をしたと思われるアリスに対して、文は憤慨した様子で無言の圧力を加えているがその眼力に物おじせずアリスは笑っていた。


「よいではないか、役得役得。それにこうして体を預けてくれるというのは信頼の証でもあるぞ?」


「あんたが無理やりやったように思えたけど?てかこの体勢地味につらいんだけど」


文は康太が眠りやすいように康太の体に無理な負荷がかからないように体勢を少しずつ変えている。


康太が眠りやすいように体勢を変えているために文が落ち着ける体勢ではないのは間違いない。


それを見てアリスは一瞬だけマイクの電源を落とすと笑って見せる。


「そういうな、膝枕というのは一種の奉仕の形だ。コータがそうやって安心して眠れるだけの信頼関係をお前たちは築いてきたということだ」


「・・・そんなこと言ってもごまかされないわよ・・・?適当なこと言って・・・」


「適当ではない。実際コータはこうして眠っているではないか・・・もう少し自信を持ったらどうだ?フミは決して嫌われてはおらん。むしろ好意的にみられているだろう」


もっと踏み込んでもよいと思うぞとアリスは笑いながら再びマイクの電源を入れて生放送を開始していた。


「いやはや失礼機材トラブルだ。さて、夜も遅くなってきたところで少しずつ静かな話題に切り替えていこうではないか。ハチが寝てしまったからここはガールズトークといこう」


「ガールズトークって・・・具体的には?」


「甘いものとかの話でもしていればガールズトークっぽいのではないか?詳しくは知らんが・・・」


ガールズトークというにはこの場所にいる人間は少々特殊すぎる。文はまだ問題なく行えるレベルだろうが、アリスなどはガールなどという歳をはるかに超えているのだ。


人類皆年下状態の彼女に、昨今の女子たちがする話についていけるとは考えにくい。そもそも具体的に何をすればガールズトークとなるのかあやふやなのだ。


しかもこうして生放送などとしている時点で深く踏み込んだ話などできない。そうなればできるのは好きな食べ物や化粧の話などになってしまうだろう。


「そういえばメリーってさ、ここを離れる時・・・日本を離れる時、次はどこに行くの?故郷に戻るの?」


「ん・・・そうさの・・・当分は日本にいる予定ではあるが・・・次はどうしたものかの・・・まだ決めておらん・・・」


アリスがここにいるのは康太たちと同盟を結んでいるからに他ならない。逆に言えば康太たちと同盟関係を解消する、あるいは康太たちが死亡、ないし一人前になったら日本を離れることもあり得る。


そうなったとき次に彼女がどこに行くのか想像もできなかった。


何せアリスのことだ、どこにいても不思議ではないしどこに行っても不思議ではない。


日本どころか国境にこだわらずにありとあらゆる場所に向かうだろう。そしてその場所でまた新しい趣味を見つけて人生を謳歌する。


いやアリスの場合、いつまで生き続けるのかも不明だ。彼女がどこにいて、何をしたくてどこに行きたいのか、文は想像できなかった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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