入浴の順序
「ではここらでいったん食事、そして入浴休憩としよう。ちょうどいいタイミングではあるしの」
「よっしゃ・・・とりあえず飯はあとで頼むとして・・・先にだれが風呂に行く?」
「ふむ・・・私から行こうとも思っていたが・・・それではつまらんか・・・では皆の衆に聞くとしよう。誰の入浴シーンを見たい?」
「え?ちょっと待って!さすがに入浴シーンは流さないわよね!?」
「さぁ投票スタート」
アリスが何やらパソコンを操ってコメントなどで投票できるような形にすると、画面上には四つの選択肢が出てくる。
男子高校生ハチ、女子高生コガネ、留学生生主メリー、全員という四つの選択肢にそれぞれ投票がされていく。
本人たちの意志が全く無視されているのはアリスらしいというべきなのだろうか。というかカメラがないと撮影ができないように思うのだがそこらへんはどうにかするのだろうかと康太は疑問を浮かべる。
「ちょっとメリー!入浴の時は雑談でつなぐって言ってたじゃない!」
「もちろん雑談でつなぐぞ。そしてバックの画面は浴場の前の扉か、あるいは音声のみ提供しようかと思っていたのだが・・・ダメか?」
「ダメに決まってるでしょ!そんなことやったら機材破壊するわよ」
もうすぐ投票が終了しようというところでコメント欄に大量の舌打ちが打ち込まれていく。女子高生の入浴姿を見ることができるのではないかと期待していた男性陣がたくさんいるらしい。
そんな中コメントの中にいくつか気になる文章が流れてくる。
それは三人の体形に関しての話だった。
「それぞれの体形・・・か・・・えぇと・・・確かハチの身長がいくつだったか?」
「この前測ったときは百七十三だった」
「体重は?」
「前の時は五十九とかだったかな?最近ちょっと増えたかも」
四月の時点での身長体重であるために、あの時より多少は増加していることが予想される。特に康太の場合は筋肉が増えているために体重は必然的に増えているだろう。
「メリーはどのくらいだ?百・・・三十・・・?」
「さぁな、私も測ったことがあまりないのでわからん。たぶん百三十から百四十程度はあると思いたいが・・・」
アリスはもうかなり長い間身体測定というものをやっていないだろう。いやもしかしたらそもそも身体測定というものそのものをやったことがない可能性もある。
そのため正確な身長に関してはほとんどわからないのだ。大まかであれば康太や文と比べることでわかるが、わざわざメジャーなどを使って測るかといわれると微妙なところである。
「コガネは?身長体重スリーサイズ教えよ」
「なんで私だけスリーサイズいるのよ。身長は百六十二・・・体重は教えたくない」
「スリーサイズは?」
「なおのこと教えたくないわよ。なんで教えなきゃいけないわけ?」
文のセリフに康太とアリスは空気が読めてないなとため息をついてしまう。同時にコメント欄にも大量の舌打ちが流れていく。
あからさまにがっかりしているのは目に見えていた。
そして投票が終わった段階で結果を見てみると、文とアリスに四割ずつの票が入り、残りの二割を康太と全員という票にそれぞれ振り分けられている形となった。
やはりこういう形だとどうしても女性陣のほうに振り分けられるのは仕方のない話なのかもしれない。
「ていうか俺に入れた人こんなにいるのかよ・・・俺そっちの趣味ないんだけど」
「いやいや、私の生放送は女性陣も割と来るからの。そのあたりを誤解してはいかんぞ?いやまぁその可能性は完全には否定できんが」
「とにかくさっさとお風呂入っちゃいなさいよ。とりあえずメリーかハチ行ってきなさい。私その間にちょっと雑談でもしておくから」
「なんだ、始まったときはいやだいやだといっておったのにもうノリノリではないか。良いことだ」
「・・・いいからさっさと行きなさい!」
文はそういってアリスを部屋から蹴りだす。別に楽しくなったというわけではないだろうが、実際にやってみるとこうして反応が返ってくるということもあって悪くはないと思っているようだった。
この変化は文にとって良いものなのかどうかはさておき、新しい趣味になるかもしれないなと康太は考えていた。
「さて、んじゃメリーが風呂に行ってる間に俺らで間をつなぐか。ていうか普段あいつどんな放送してるんだ・・・?みなさんご存知です?」
康太の問いに対してありとあらゆる返答が帰ってくる。例えばプラモの作成だったり、絵を描く作業だったり、ゲームで遊んだり、時々歌っていたり、たまには世界中の歴史の講座もやったりしているようだった。
はっきり言ってその内容に統一性はない。本当に本人がやりたいことをとにかくやっていくというものであるらしい。
だからこそこれだけ生放送を見る人も増えているのだろうと半ばあきれてしまう。
アリスは康太の家に留学に来ている学生ということになっているらしい。間違ってはいないのだが微妙に間違っているのが複雑なところである。
あんなに日本語ペラペラの留学生がいるだろうかと首をかしげるが、そのあたりは今更だと割り切るほかない。