四人の特色
「さぁさぁ、みなも知っていると思うがこのゲームは一定期間内で一番金を稼いだものがトップとなる。スタートは東京。青がハチ大総統、赤がコガネ女王、緑がキマリの姉御、黄色がアマミっちだ」
名前の後ろに独特な役職などをつけられるのもこのゲームの特色である。
それぞれ独特な役職に就いたが、正直に言えばこの役職名は完全に名前だけだ。仮にその名前を選んだからといって特徴的な能力が得られるとかそういうことは全くない。
だがその無駄な要素だからこそ何にするのか人によりけりといったところなのである。
「設定は二十年。時間的にそこがぎりぎりというところだろう。もし余裕があったりしたら終了年数を伸ばすことも視野に入れているのでそのあたりはご愛嬌といったところか。目的地を目指して金をもらって物件買って世界一の会社を作るといい」
このゲームは毎度必ず目的地が設定され、その目的地に到着すると援助金がもらえる。その援助金を利用して物件を買い会社として発展していくのがオーソドックスな流れといえるだろう。
各マスには金がもらえたり逆に金を奪われたり、特殊な力を持ったカードなどがもらえるマスなどもある。
すごろくの舞台を日本にしたものと考えればわかりやすいかもしれない。
要するに日本各地を双六形式で目的地に向かって猛進し、プレイヤー同士切磋琢磨すればいいというだけだ。
難しい操作が必要ないという意味では神加でも十分遊ぶことができるととらえることができるかもしれないが、同時に収益計算などをしなければいけない分神加にはなかなか難しいゲームになるかもしれないなと実際にゲームをプレイする三人は考えていた。
場合によっては難しいとは思うが手加減をする必要があるかもと三人が同時に神加に気遣っていたが、ゲーム時間で五年が経過したあたりでその必要がないということにそれぞれが気づき始めていた。
サイコロを振れば高い目を連発し、かと思えば目的地に入るために適切な目を出し、挙句の果てにはどこに飛ぶのかわからないぶっ飛びカードというカードを使って目的地に直接入るなどの離れ業も見せていた。
神加の有している幸運に三人は改めて驚愕してしまっていた。
こんなどうでもいいゲームでも彼女は愛されている。偶然にすら愛される彼女の性質に康太と文、そして真理は目を丸くし絶句しかけていた。
「すごいなこれ・・・チートとかしてないんだろ?」
「小学生未満で改造なんてできるはずないでしょ・・・運・・・っていうかもはや別次元の話ね」
「乱数調整・・・にしては少々自然すぎますね・・・これが持って生まれた運の違いというものでしょうか・・・?」
コメントも神加に対する驚愕で埋め尽くされてはいるが、実際にプレイしている三人さすがは神加だと驚いていながらも決して神加にこのまま負けるつもりはなかった。
真理は便利系、妨害系カードを駆使してプレイヤーの妨害をしながらなんとか先に進もうとしている。
ことごとく神加に回避されているのが印象的ではあるが。
文は進行形カードを使い、とにかく先に進もうとしている。だが同じカードを使っても確実に神加に進行速度で劣ってしまっている。出る目が違いすぎるのだ。
そしてこの中で最も運がないのが康太だった。ビリの象徴である貧乏神を引き連れて何とか現状の打開をしようとしているのだがすべてが空回りする。挙句の果てに神加めがけて放ったはずの妨害カードの効果がなぜか康太に向かっていくという、神加とは全く逆の意味で謎の現象を引き寄せていた。
現在の順位は神加が一位。真理と文が抜きつ抜かれつの二位争い。そして康太が二人にだいぶ離されて借金を抱えている状態だった。
「このままだとだいぶ差が開きそうだの・・・ハチよ、もう少し本気を出してはどうだ?このままではつまらんぞ」
「こんな運が左右するゲームで何をがんばれってんだよ!祈れってか?いい目が出るように祈れってか?」
「いやぁここまで個人差が出るゲームとは思わなかったわ。アマミちゃんすごいわね。これは自慢できるレベルよ」
「えへへ・・・」
文の足の間に座り込んだままゲームをやっている神加は嬉しそうにはにかんでいるが、康太は気が気ではなかった。
このまま負けてしまえば兄弟子としての自信を失いかねないと思ったのだ。
幸いにして神加がまだあまり考えるということをしないおかげか、収益効率を考えた物件購入をしていないために絶望的な差が開いているとはいいがたい。
とはいえ確定的な差が開いているのもまた事実。ここは自分が玉砕する覚悟で相手を巻き込まなければ勝つことはできないなと意を決していた。
だが意を決したところで妨害するにしろ目的地に到着するにしろ先立つものがなければ何もできない。何か特殊なカードでもあればよいのだが、金に関しては貧乏神がゴリゴリと削っていき、特殊なカードに関してはすでに捨てられないタイプの呪いのようなカードが康太のカードストックを埋め尽くしている。
ここから逆転するなんてできるのだろうかと、康太は残りの十五年にすべてをかけるつもりで必死に祈りながらさいころをまわしていた。
当然祈ったところでゲームのプログラムが応じてくれるはずもなし、康太はこの後数年間底辺を突き進むことになる。
だがこのまま終わるということもなかった。最後の最後で康太はこの場をかき乱すがごとく一矢報いることとなる。




