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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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魔術師の世知辛さ

「イギリスねぇ・・・本部って時計塔とかそう言うところにあるのか?」


「何で時計塔?まぁ有名かもしれないけど・・・私は行ったことないから知らないわ。そう言うのは基本秘密だからね」


魔術師の存在そのものを隠匿しているのだからその本拠地ともいうべき協会本部の所在を隠すのもまた道理である。そんなものを末端ともいうべき自分たちが知っていたらそれはそれで問題になるだろう。


なにせ魔術師として未熟な二人だ、一人前の魔術師の集団の手にかかりその所在を吐かされるようなことがあればすぐに場所が露呈することになってしまう。


もっとも文が知っていたら恐らくほとんどの人間がその所在を知っていることになるだろうが。


「ちなみにさ、魔術師が世界を救ったとかそう言うことはあるのか?政府の命令とかで」


「さぁ・・・?そう言うのは公表されないし・・・っていうか魔術師がやるくらいなら政府お抱えの特殊部隊とかがやってるんじゃないの?別に魔術って銃より強いってわけじゃないし」


魔術の利便性はあくまで通常ありえない現象を引き起こせるというだけだ。何もないところから火が出せたり、雷を出せたりはするが別に銃より便利かといわれるとそうでもないのである。


結局のところ引き金を引くだけで弾丸を射出できる銃の方がずっと便利だし強いのだ。世界の危機が訪れているというのなら魔術師に頼るよりも軍隊に頼ったほうがよほどいい結果を引き寄せることができるだろう


もちろん魔術にも良いところはある。要するにばれにくいのだ。


今までその存在を隠匿してきたという実績からも分かるように、魔術は基本的に露呈しにくい。特に技術の進んだ現代社会においてはその傾向が顕著に表れている。


例えば文の持つ電撃の魔術だって基本的に扱ったところでどのような方法でそれを起こしたのか現代科学では全く分からないのだ。


そこに決定的な証拠となるものがあれば別だが、基本的に魔術の痕跡程度では現代科学では何が起こっているのかを解明することはできない。


術において最も秀でているのは隠密性と隠匿性なのだ。つまりはそれ以外はそれぞれ別の道具や武器で事足りるものばかりなのである。


もちろんただの物理的な道具ではどうしようもないことも魔術なら解決できるという例は多々存在する。だがだからと言って魔術が現代の科学よりも圧倒的に優れているというわけでも、魔術があれば現代科学が必要ないという状況になるわけでもないのだ。


「なんかあれだな・・・魔術師って思ってた以上に世知辛いのな」


「まぁそうね、物語みたいに活躍できるかっていわれるとそうじゃないわ。基本この世界を成り立たせるうえで魔術って絶対必要かっていわれるとそうじゃないもの。あくまであれば便利なものってだけ。機械と同じよ」


「・・・なんか魔術に対するイメージがどんどん悪くなってく気がするよ・・・」


康太の中の魔術師のイメージはそれこそ何でもできて政府容認な上に特殊部隊のような存在もいて、陰ながら暗躍しながら世界の平和でも守っているのかと思ったが、実際はそう言うことはないのだという。


普通に暮らし、働き、その合間に魔術師としての修業や生活を行っている。まるで副業のような気やすさである。


魔術師だけでは生きていけない。なんというかそう考えると現代社会の世知辛さを一身に受けているような気さえしてしまう。


「でも魔術にしかできないこともあるわ。普通の人間は一人の力で空は飛べないけど、魔術師なら飛ぶことくらいはできるじゃない」


「あー・・・うん・・・まぁそう・・・だな」


文は風の魔術を利用して短距離ながら飛ぶことができ、康太は再現の魔術を使って空中を跳ぶことができる。


ニュアンス的には両者は大きくかけ離れているが第三者から見ればやっていることは似たようなものだ。


人間が空中を移動するという手品師もびっくりな状況を作り出せるのだから。

そう言う意味では確かにただの人間よりは優れていると言えるだろう。


「魔術師が今まで途絶えてないのはそういう理由もあるのよ。ただの道具だけじゃ得られないものを得ることができる。道具じゃなくて自分の力として得ることができる。そう言う欲求を満たせるものがこの世界にどれだけあるかしら」


「まぁ確かにな・・・大抵技術とかになると道具が必要になるし、ルールとかもあるし」


この世界の、いやこの国の資格云々は確かに技術の一端であり生活していくうえで、働くうえで確かな『力』となりえるだろう。


だがそれはあくまで国という大きなくくりの中で生きて初めて活用できるものだ。もっと言えば憲法や法律がある場所でようやく効力を発揮するものだ。


逆に言えばこの国を一歩でも外に出てしまえば役に立たない資格などはいくらでもある。身分証明以上の価値を持たないものも数多く存在する。


スポーツなどで得た技術もそのスポーツ以外では役に立たないものが多い。現役を引退してしまえばその経験以外に残るものはない。


だが魔術というのはどの国に行っても、いくら歳を重ねてもどこでも使うことができる。衰えていく身体能力とは異なり意識さえはっきりしていれば生きている間はずっと使うことができるのだ。


そう言う類の力が他にこの世界に一体どれほど存在するだろうか。長い間魔術が日の目を見ることがなく隠匿され続けていたにもかかわらずとだえなかったのは人間の根本的な欲求というものがあるからだったのかもしれない。


他人より力が欲しい、特別な力が欲しい、そう言った『力』に対する欲求が。


「ちなみにさ、今度行く場所でもし事件が起きて警察とかが出張ってきた場合俺らはどうすればいいんだ?銃の方が強いんだろ?」


「・・・まぁそうだけど、基本的に魔術の隠匿を最優先にしなきゃいけないわね。記憶を消したり暗示をかけたり・・・ってそうか・・・あんたそう言うのまだできないんだっけ」


魔術師として本来ならば優先して覚えるべき魔術を康太は覚えていない。学校の人間を守るというのは以前にも話題に出たが、その時と同じようにどのような状況においても魔術の隠匿を第一に行うことが大事なのである。


もし第三者に魔術の存在が露呈するようなことがあれば面倒なことになる。一人に見られるくらいであればいくらでもごまかしがきくが一年生全員に目撃されたりしたら事後処理はかなり面倒なことになるだろう。


「文はどれくらいの人間に同時に記憶操作できる?隠匿関係はほとんどお前任せになっちゃうわけだけど・・・」


「そうね・・・記憶消去の限界時間が一時間くらいとして・・・荒っぽくやれば一人三十秒くらい・・・百二十人くらいはこなせるわ」


荒っぽく


その言葉に康太は自分の師匠である小百合のことを思い出していた。


彼女の記憶操作は基本荒っぽいというかそもそも消すのが記憶どころか人間として必要なものそのものであるという事だ。


以前小百合が康太に記憶消去の魔術を使わなかったのは二つ理由がある。一つは彼女が記憶消去や操作の魔術を苦手としており、最悪廃人、植物人間状態に変えてしまうような技術しか持ち合わせていなかったということ。そしてもう一つは魔術を目撃した後時間が経過しすぎてしまったことである。


記憶操作などの魔術は非常にデリケートで、見聞きしたものを一時間以内であれば消去や操作ができる。それ以上の時間を超過するとなると脳に負担がかかりどのような効果が出るかわからないのだとか。


もちろんうまく消すことができる場合もあるだろうが、最悪何らかの障害が起こってもおかしくないという。


「荒っぽくって・・・廃人レベルか?」


「そんなもの消去でも操作でもないわよ。そう言うのは破壊っていうの。私の場合の荒っぽくっていうのは対象にする時間帯の記憶を完全に消すことを言うのよ」


本来なら魔術による記憶の干渉は前後の記憶との齟齬がないようにある程度操作することが大前提であるらしい。


怪しまれないように不思議に思われないように、それぞれの記憶を操作することでなんでもない日常を過ごすことができるように記憶を操作するのが本来魔術師が行うべき隠匿のための作業なのだとか。


その当たり前にするべき行動も取れないくらい康太はポンコツで、小百合は適当であるという事でもある。


「あんたも早いうちに暗示とか記憶操作とかは覚えたほうがいいと思うわよ?これからこういう事も増えるだろうし」


「そりゃそうかもだけどさ・・・俺の場合事情があってだな・・・」


「・・・あぁ、あんたの師匠があれだからね・・・」


康太の師匠が小百合でなければもっと別の道もあったかもしれない。普通に当たり前の魔術師として当たり前の魔術を学び、安全に普通の魔術師になっていたかもしれない。


だが康太の師匠は幸か不幸か、恐らく不幸の割合の方が大きいだろうが小百合だった。


敵の多い小百合だ、その弟子がどのような目に遭うのかは想像に難くない。


今回のように小百合の元から離れるというのは康太にとっては一大事なのだ。それこそ自分の命に関わるレベルで。


そうなってくると記憶操作や暗示などに魔術の鍛錬の時間を割くよりも少しでも実戦的な魔術を修得する方が良いのである。


それは師匠である小百合も、兄弟子である真理も同意していることだった。とにかく実力をつける事。ある程度自分の身を守れるようになってきて余裕もできてきたらその時は普通の魔術師としての指導を受け、なおかつ普通の魔術師が修得している魔術を身に着けるのもいいだろう。


生憎そこまで成長するまで一体どれくらいかかるかはまったくもって未知数であるわけだが。


「まぁあれだ、一人前になるまで・・・いやこの高校にいる間はフォロー頼むよ」


「・・・はぁ・・・まぁそうなっちゃうでしょうね・・・何でこんなのに負けちゃったんだか・・・」


文は呆れながらも別に悪い気はしていないようだ。自分に持っていないものを康太がもっているというのを認めているからこそ、彼女は康太の隣にいる事に嫌悪感を抱かず、むしろ好意的にとらえているようだった。


いくら特殊な訓練をしようと、特殊な人間な師匠であろうと魔術師として過ごしてきた時間は嘘を吐かない。


才能や個人の性質というのもあるだろうが、それを踏まえても康太は自分を倒せるだけの何かを持っているのだ。


それが技術でも能力でも魔術でもなく、康太の中にある何かであると文は睨んでいた。


ちょっと修業したくらいで負けるような鍛錬を自分は積んでいた訳ではない。確かに実戦不足で予想外の相手に出くわし混乱したというのはあるだろう。だがそれでも文は康太に負ける気はしていなかったのだ。


今こうして相対している状態でも負ける気はしていない。どう考えても自分が勝つとさえ思っていた。だが負けた、事実文は康太に負けたのだ。


だからこそその理由を探し、自分になくて康太にあるものを探そうとしていた。


ブックマーク件数が600件超えたので二回分投稿


ようやく溜まっていた追加分を消化できました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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