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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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康太の課題

自身の黒歴史とでもいうべき小説の朗読を延々と聞かされ、集中力が著しく低下している状況の中でこれほどまで正確に康太へ攻撃を当てる。


しかもその攻撃は的確だ。康太を攻略するために必要な手順を一つ一つこなしているように思える。

今この状況で劣勢だったとしてもかまわない、最終的に勝利できればいい、そういう戦い方をしているように思えた。


康太の渾身の一撃を受け止めてなお、彼の闘志は衰えない。砕かれた氷の鎧を再構成しながらゆっくりと立ち上がるその姿はまさしく不屈という表現がふさわしいだろう。


この男を倒すには自分の全力の攻撃を集中しなければならないなと康太は認識を改めていた。


加減などできる相手ではない。もとより手加減などしたつもりはないが、遠慮していてはこの男には勝てない。


康太は一瞬だけ自分のはるか後方にいると思われる文のほうに意識を向けると大きく深呼吸していく。


全身全霊をかけた攻撃を行う。それこそ自分の身の危険など顧みない、そういう攻撃をしないとこの男は倒せない。


康太は自分の肉体にかけている肉体強化の魔術をさらに強くし、魔力の消耗を度外視した短期決戦のスタイルに切り替えた。


長くだらだらと戦っていても勝負はつかない。相手はあきらめないだろう。ならば連続攻撃で意識を刈り取るしかない。


意識を集中し自分の中で何度も繰り返した攻撃方法を確認していく。


拳、槍、蹴り、投擲、炸裂鉄球。挙げればきりがないほどの攻撃の数々、いくつも教えられた小百合から伝授された近接攻撃と破壊の技術。


体の動きを確認しながら、康太は姿勢を低くして明確な突撃態勢を作って見せる。相手も康太が突っ込んでくるということを理解したのか、身構えながら、防御の姿勢と同時に反撃の準備を整えているようだった。


相手が行ってくる攻撃は現段階で発覚しているだけで氷属性の魔術、そしてもう一つは光を媒介にした熱量攻撃。


これだけのはずがない、これだけの魔術師だとしてまだ何か隠し持っている。


腰を落としてこちらが突撃するのに対していつでも対応可能だといっているかのような構えに、康太は眉をひそめながらも笑みを止めることができなかった。


相手が迎撃可能だというのであれば、こちらはそれを突破するまで。破壊の魔術師デブリス・クラリスの二番弟子としてここは負けるわけにはいかない。


康太は自分の体に回収していったウィルの動きも確認しながら、散布し続けている黒い瘴気をさらに濃くする。


もはや肉眼では目の前にある自分の手さえ見ることはできない。康太も索敵の魔術を発動していなければ相手の位置を知ることも難しいだろう。


相手から魔力はしっかりと奪えている。だからこそ油断できない。


窮鼠猫を噛むという言葉もあるように、手負いの敵は何をするかわからないのだ。


康太は融けて変形し、いびつに歪んだ矛先を分解の魔術で取り外すと、もともと取り付けられていたただの棒状のパーツを取り付ける。


重さと形状が変化するが、長さ的にはほとんど変化はない。屋内でも扱えるように適度な長さを維持した状態だ。


槍ではなくただの棒になってしまったが、槍術と同時に棒術も学んだ康太にとってその違いは些細なものだった。


姿勢を低く、呼吸を整え康太は勢いよく地面をける。


前進し魔術師めがけて一直線に駆け抜ける、彼我の距離が一気に縮まっていく中相手の魔術師も反応して足元から巨大な氷の棘を作り出す。


一直線に向かってくる康太の正面、狙いすましたかのように襲い掛かるその棘に康太は反応していた。


地面を蹴り、再現の魔術によって空中に疑似的に足場を作り出して軽々と氷の棘を飛び越えていく。


相手の攻撃を回避したそのわずかなゆるみ、普通の魔術師であれば存在するそのゆるみを狙いすましたかのように魔術師はさらに追撃をかける。


その氷の棘の中から、ミラーボールのように多種多様な角度で先ほどと同種の光が無差別に襲い掛かる。

先ほどまでの光と違い、収束せずともその場に当たった場所の温度を急激に上げているようだった。


収束させなくともそれだけの効果を持つ魔術なのだろう、人体に直撃させたらそれだけでその体に十分以上のダメージを与えることができる。


普通の魔術師であれば、この攻撃にさらされ空中で体勢を崩すか、その光に包まれてその体を焼かれていたことだろう。


だが康太に攻撃を回避した後のゆるみはない。相手の評価を小百合に近しいタイプであると修正した時点で、康太はすでに相手に全くの油断をなくしていた。


二の矢三の矢を持っているのが当たり前であると判断し、すでに次の手を講じていたのである。


康太の体から剥がれ落ちたウィルが、その体を薄く延ばすと康太の体を襲い掛かる光から守るように盾となって見せた。


ただの人体であれば焼けただれたであろう熱量となっていただろうその光の攻撃だが、軟体であり、やけどなどということもないウィルには効果を及ぼさなかった。


いや、正確には効果は及ぼしている。光によってその軟体の温度は上がっているのだが全く意に介していない。


ウィルは生物ではないのだから半ば当然かもしれない。


相手の攻撃をかわした康太は、空中をかけながら相手の背後に回り込むと同時に、その頭部めがけて打突を繰り出していた。


相手の氷の鎧に直撃する形で当たったが、氷の鎧の強度は想定よりも高いのか、身体能力強化がかかっている状態での打突でも亀裂一つ入れることはできなかった。


康太が背後に回り込むと相手もそれに反応して背後に氷の刃を複数顕現させる。すでに手が届くほどの距離にいるのだ、これだけの距離で其れなりの数の刃を突出させれば物理的によけきれるものではない。


だが康太は最初から避けるつもりはなかった。再現の魔術を駆使して襲い掛かる氷の刃すべてを叩き壊すと、氷の鎧めがけて全力で攻撃を仕掛けていく。


だが氷の鎧はびくともしなかった。康太の攻撃が意味をなしていないと理解したのか、魔術師は康太を振り払おうと手元に氷の刃を作り出して康太めがけて斬りかかる。


康太は槍を駆使してその刃を防いでいく。だが両腕にある刃に加えて壁や床、天井などからも刃が襲い掛かってくる。


接近戦でありながらも多角的な攻撃をして見せる、なかなかに厄介だと思いながらも康太は近づいてくる攻撃すべてを破壊していた。


自身の体で砕くこともあれば再現の魔術で砕くこともある。その方法に差はあれど、その結果に変わりはなかった。


康太に襲い掛かる氷の刃はすべて破壊される。相手もそれを理解しつつ攻撃を続けた。


康太が氷の刃へも攻撃を仕掛けなければいけない状態を続ければ、自身を攻撃する暇を与えずに済むと考えたのだろう。


その考えはおそらく正しい、実際その通りになっている。


索敵の魔術によって自身に襲い掛かる氷の刃の軌道をすべて見切り、そのすべてを叩き壊している康太の攻撃精度は驚嘆に値する。


だがその密度にも限界があるのだ。魔力を一度に放出できる量が決まっているせいで、一度に発動できる魔術も必然的に限りが出てくる。


康太の攻撃密度を上回る量の氷の刃を顕現できればいいのだ。あらゆる角度から一斉に襲い掛かる刃、それらはもはや康太の体一つでは絶対に対処できない量と密度になってしまっている。


だが康太も何もしないままでいるわけではない。氷の刃を叩き壊しながら、康太は少しずつそれを作り上げていた。


いや、正確には作り上げられるように配置していたというほうが正しい。


何か合図をしたというわけでもなく、すでに文はそれを察していた。


康太が叩き壊した氷の刃。康太は砕いた氷の刃を徹底的に弾き飛ばしていた。


それは刃を再度利用されないためでもあり、道を作るためでもあった。


康太の弾き飛ばした氷の欠片をウィルが回収し道を作り出していく。そしてその道の先には待ち構えているかのようにその氷の破片に手をかざす文がいた。


康太の作り出す氷の道が完成したと同時に、文は強力な電撃を放つ。文のもとから魔術師の鎧めがけて走る電撃は、魔術師の体を大きく痙攣させた。


なれない遠隔エンチャントに込められた電撃とは違う。人を気絶させるには十分すぎる威力を持った電撃だ。


体を大きく痙攣させた魔術師だが、文の攻撃でもまだ意識だけは失っていないのか体を動かそうともがいているように見える。


だが康太はその隙を見逃さない。


懐に入り込むと先ほどまで自身に向けられていた刃を砕くことに集中していたすべてのスペックを攻撃へと転化する。


拳、槍、ナイフ、蹴り、ありとあらゆる攻撃の再現を放つと同時に、その一部を蓄積の魔術で蓄積させていく。


魔術師の体が衝撃で宙に浮いた瞬間、康太は遠隔動作の魔術を発動し打突を繰り出す。


吹き飛ばされた方向とは逆方向からの攻撃が加わり、魔術師の体がくの字に大きくおれまがる。


その瞬間康太は蓄積されていた打撃の力を解放する。胸部に蓄積されていた打撃の力は一度に魔術師の体に襲い掛かり、その体を回転させながら床に衝突した。


思い切り頭からたたきつけられた魔術師は脳震盪を起こしたのかわずかに痙攣しながらも全く動かなくなっていた。


ようやく倒した。


康太は大きく息をつきながら、これだけの悪条件が重なりながらも自分相手にこれだけ奮闘した魔術師に心から称賛の意を送っていた。


もっともその称賛を送っても本人には届かないだろう。何せこの魔術師からすれば康太たちは過去の黒歴史をほじくり返し、あまつさえそれを利用して戦いを挑み有利にしようとたくらんだのだから。


本人からすればたまったものではなかっただろう。康太が同じ立場だったらと心底同情してしまう。


「お疲れ様、結構かかったわね」


「あぁ・・・やっぱ屋内はやりにくいな・・・動きにくいし戦いにくい・・・もうちょっと広ければ違ったんだろうけど・・・」


小百合の店の修業場のようにある程度の広さを持ち、回避も攻撃も思うが儘に行えるような空間があれば康太の戦闘能力をいかんなく発揮することができるだろう。


だがこう言った狭い通路となると康太の戦闘能力はかなり限られてしまう。


普段やっている機動力と見切りの力にものを言わせた回避能力も、康太の槍を使った連続攻撃も、炸裂鉄球や火の弾丸を使った多角的な攻撃もほとんどがその効果を弱めてしまう。


康太の戦闘能力は広いところで、具体的に言えば屋外で発揮されるのだ。


逆に言えば今後の課題はどれだけ狭い室内での戦闘能力を上げられるかという点にある。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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