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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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心からの侘びと準備

「コータよ、この本はなんだ?」


「ん?どれ・・・だ!?」


アリスが読んでいた本を見て康太は目を丸くしていた。それは先ほど康太が読んでいた黒歴史の本だ。


ウィルに渡してそれを包んで隠してもらったはず、なぜそれをアリスが持っているのか。


康太は急いでウィルに本を取り出してもらうように頼むが、ウィルは黒歴史の本を康太のもとに届けることはなかった。


それどころか何やら申し訳なさそうにプルプルと震えている。


「おいアリス・・・それどこから・・・」


「何を言う、お前が先ほど読んでいた本ではないか。気になったからウィルに出してもらったのだ」


康太はその瞬間しまったと自分の行動の軽挙さにあきれていた。ウィルは今確かに康太から魔力を供給されている。そのため第三者に比べれば康太の命令や頼みのほうが優先度が高い。


だがアリスも同様にウィルに魔力を供給することがあるのだ。康太と同じか、あるいはそれ以上の命令の優先度を有している。


先ほど康太が読んでいた本が気になってウィルに頼んで出してもらったのだろう。


あれが自分以外の手に渡ってしまった。これはまずいことになったと康太はどうしたものかと迷いながらもなんとかアリスの手からあの本を取り戻すことを考えていた。


「どこかからか出版されたわけではなさそうだな・・・自費出版か・・・内容は・・・小説のようだの・・・なるほど、この拠点の魔術師は作家の類であったか」


「・・・あれ?あんまり驚いてないんだな」


「何を言う。別にものを書くということ自体はおかしなことではあるまい。昔は出版会社などもなくほとんどが自作の本だったのだぞ?出版社や出版会社などというものがある今だからこそ珍しくはなったが、こういうものから名作が生まれるのが昔は当たり前だったのだ」


アリスはそれこそ出版会社や印刷会社などといったものが存在する前、あるいはそれらが有名になる前から生きている。


こういった自費出版自費製作の本も別に珍しくはないのだろう。


てっきりこのようなものを作るなどと情けないものだなとけなすのかと思ったが、アリスはこういったものに寛容なようだった。


「アリス、あんたまでそれ読んで・・・そんなに面白い本なの?」


文が話しかけてきた瞬間、康太は冷や汗が吹き出るような感覚を覚えていた。


この女にこの本を渡してはいけない。そういった警鐘が康太の中で鳴り響いているのだ。何せ文なら間違いなくこの本を利用しようと考えるからである。


「あぁ、面白いかどうかはまだわからんがな。ここにいる魔術師が書いたと思われる小説だ。まだ中身は読んではいないがな」


「え?ここの魔術師って作家さんだったの?その本の大きさだと・・・ハードカバーだからそれなりに有名な人?」


「それはわからんが、これは出版社を介して造ったものではないようだぞ?自分で依頼して造ったのだろうな」


「へぇ・・・このご時世によくやるわ・・・それだけ自信があるってことなのかしら・・・?ちょっと見せて?」


文はパラパラとその本を流し読みしていく。そしてその本の内容を大まかに読み解いていったのだろう。


速読ができるとは思わなかったが、この時、この場所においてその才能はいらなかったのではないかと思えるほどの多才さに康太は内心舌打ちをしていた。


「・・・なるほど、アリス、これはあんたが持っていなさい」


「これを?なぜだ?」


「ここの魔術師がこれを書いたなら、面白いことに使えるかもしれないでしょ?それに暇なら読んでてもいいわよ?結構心にくる内容だけど」


「ほほう、そんなに感動できる内容なのか?」


「心を動かすっていう意味では感動なのかもしれないわね。ビーナイスよ。これはかなりいいものを見つけたわ」


文としては全く悪意はないのだろう。いや悪意はあるのだろうが悪気がないのだ。魔術師として利用するものは利用する。魔術師戦に持っていくかどうかはさておき、その前段階として交渉の材料にするつもりなのだろう。


決してこの考えは間違っていない。なかなか現場に慣れてきたなときっと小百合や春奈なら文のことをほめるだろう。


だがあれの価値が、あれの重さが理解できてしまう康太からすると、文の行動には称賛の言葉を贈ることはできなかった。


「・・・あ・・・アハハ・・・ど、どうってことないって・・・」


康太は心の中でここを拠点にしている魔術師に詫びながら、もうこの流れは止められないと思っていた。

もうあの本はアリスの手の中にわたってしまった。文があれを利用する気満々な時点でもう止められない。


あの本がどのような形で利用されるのか康太にはわからない。せめて本人の心に大きな傷を残さない形であってほしいと願っていた。


だがその願いはきっとかなわないだろうなと、少しだけだが思っていた。


文とアリスがあの本の本当の意味に気付かない限りは無理な話だろう。だがそれをするには康太自身も身を斬らなければならない。


そこまでする義理はない。康太は涙を呑んでこの場を拠点にしている魔術師の命運を祈っていた。


「三十分経過だ。もういつ戻ってきても不思議はないぞ?」


「無駄に時間を使いすぎたわね・・・でもこっちはないわ・・・あとは金庫ね」


黒歴史の本に気を取られていたせいか、三人は思っていたよりも時間を消費してしまっていた。


だがそのかいあってか金庫以外の場所はすべて調べ終えることができていた。本棚にも机の上にも盗まれた魔導書はない。


となると、あと探していないのは金庫の中だけだった。


「んじゃさっさと開けるか。とりあえず・・・っと」


康太は物理解析の魔術を使い金庫を解析する。オーソドックスなタイプの金庫で、順々に番号をダイヤルで設定すれば開けられるようになっているようだった。


だがあいにく康太はそんな面倒なことはしない。


分解の魔術で金庫をバラバラにしていく。


といっても金庫そのものは簡単に開けられないように扉部分以外は溶接されているため、扉に使われている金具を外して強引に部品を分解する形で金庫を開けていた。


その中には三冊の魔導書に、二通の手紙が入っていた。


文はその三冊の魔導書を手に取ってそれぞれ確認する。そして確認を終えた後で小さくうなずいて見せた。


「あたりね。図書館の報告からも一致するわ。盗まれた三冊よ」


「オッケ。回収完了だな・・・こっちの手紙はどうする?」


「今回の件に何か関係があるかもしれないわ。一応持っていきましょう。依頼の半分は完了ね・・・さっさとここから出ましょ」


「了解・・・時間ちょっとオーバーしてるか?」


「今四十分経過したところだ。人は今のところ来てはいないが・・・」


康太はとりあえず文から魔導書を三冊受け取りウィルの中に隠す。これで万が一攻撃を受けても魔導書は守ることができる。


ただ電撃を受けたときだけ注意しなければいけないかもしれないが。


図書館からこの場所まで、すぐに戻ってきても三十分。つまりあとはどれだけ図書館の人間が足止めをしてくれているかにかかっているわけだが、もうすでに十分こなすべきことはこなした。


あとはこの場から去るだけである。


「さっさと帰りましょ。これを図書館の人間に渡したら、次はここの魔術師たちをおびき出すなりして叩き潰す。いいわね?」


「あぁ。んじゃすたこらさっさしますか」


康太は一応金庫に構築の魔術をかけて元通りにしていく。分解ほどの精度は持ち合わせていないが、物理解析によってその構造を正しく理解していたおかげでほぼ元通りに直すことができていた。


「なによ、結局直すわけ?」


「一応な。誰かが入った形跡がなければ相手も油断するかもしれないだろ?それともやっぱりあえて痕跡残すか?」


「んー・・・入り口部分にだけ残しておきましょうか。それで地下一階部分は荒らしていきましょ。それ以外の場所は入っていないみたいな感じにしておけば少しは油断してくれるかも」


「了解。んじゃ地下二階までは全部元通りにしておくぞ」


元通りといっても完全に元通りにできるわけではない。あくまで元通りに見えるようにしておくだけの話だ。


あくまで相手への油断を誘うのと、侵入されたのだということを認識できるレベルにしておけばいい。


もっと言えば地下一階部分の物品をいくつか盗んでいけば、康太たちの目的がこちらであったと誤認させることもできるかもしれない。


康太たちは地下三階、地下二階と自分たちが入っていった場所の痕跡を一つずつ消していく。

そんなことをしているとアリスがわずかに反応する。


「・・・まずいぞ・・・上にだれか近づいている」


「うげ・・・もう帰ってきたか・・・さっさと逃げるべきだったかな・・・?」


「・・・いやむしろラッキーだったわね・・・たぶん何もせずに直接出て行ったら鉢合わせしてたわよ・・・アリス、私たちの存在には気づいてる?」


「わからん。まだまっすぐにこちらに来ている魔術師がいるというだけだ。この建物の中にも入っていない」


アリスの索敵にはこの建物にまっすぐ向かおうとしている魔術師二人の姿が確認できていた。


まだこちらの状態には気づいていないようだったが、この場所に向かっているのはまず間違いないように思える。


「了解。今すぐ索敵妨害を張るわ。ビー、戦闘準備よ。ここで依頼を終わらせるつもりで行くわ」


「オーライ。アリスは適当な場所で控えててくれ。ベル、どこで迎え撃つ?」


「地下一階ね。あの場所なら適度に広いし、あんたも行動しやすいでしょ?」


「ものがあればその分不意打ちしやすいからな・・・ちょっと待て、じゃあ今のうちにいろいろ仕込みをしておく・・・」


「急ぎなさいよ?」


「大丈夫、いくつか投げ込んであそこら辺を荒らしておくだけだから」


遠隔動作で地下一階を徹底的に荒らすと同時に、康太は地下一階部分に向かい、手持ちの道具のいくつかを地下一階部分に仕込んでいった。


戻ってくるまであと数分。康太たちは急いで迎撃の準備を整えていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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