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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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見るべきもの、見たいもの

康太とアリスの即興のコントに文は眉間にしわを寄せてしまっていた。思春期にありがちな自立心やら、なるべくそれらを傷つけないようにするだとか的確すぎるアドバイスに何と言ったらいいのかわからなくなる。


今の自分の状況もそれに似たようなものなのだろうかとふと不安にもなるが、文は少なくとも自分を客観的に把握できている。康太に比べ戦闘面で劣っているということも、そしてそれ以外のところでは勝っていることもわかっているのだ。


わかっているからこそこれ以上反論ができない。


「まぁ冗談はさておき万が一ベルが危なくなったらフォロー頼むぞ。年長らしく年下を守ってやってくれ」


「その理屈だと私は全人類を守らなければいけなくなるのだが・・・守ったほうが良いのかの?」


「むしろ守れるのか?ひょっとして何度か世界とか救ったことある感じか?」


「世界というのがどのような意味で言っているのか知らんが、星の危機であれば三回ほど救ったことがあるぞ」


今の地球があるのはアリスのおかげだったとはと、康太は少しだけアリスに対する尊敬の念を強めていた。


神様に拝むよりずっとアリスに拝んだほうがよほど有意義な気がしてならなかった。気休めではなく実際の結果として現れるのだ。


アリスを象徴とした新興宗教などを作ればもうけが出るかもしれないなとよこしまなことを考えながら、康太は文のほうを向く。


「ベル、そっちは任せたからな?うまいこと情報掴んできてくれよ?」


「掴んできてって言われても直接会うくらいでしょ?そんな簡単にわかることなんてないわよ?」


「そこはベルさんの器量で何とか頼むよ。個人を特定できるレベルとは言わないけど、どんな体格だったかくらいは把握しておいてくれ」


「・・・まぁもう二人の名前もわかってるからそれくらいはいいけど・・・私が回るほうにその人たちがいるとも限らないわよ?」


「その場合は俺が見るって。実際盾になるのは俺だからな。相手がどんな魔術を使ってくるかとかどんな戦い方をしてくるかくらいは把握しておきたいんだよ」


普段であれば問題なく相手にできるような場合でも、その場所が室内でしかも狭いとなるとかなり苦戦を強いられることになる。


何せ康太の持ち味は機動力と不意打ちなのだ。空中を縦横無尽に駆けまわることができる康太の機動力はかなり高い。


相手からすれば狙いも定まらないうえに接近されるというリスクがあるために気が気でないだろう。


だが狭い空間に康太がいるとそれはつまり機動力がほぼ死ぬことを意味している。


狭い場所なりの戦い方がないわけではないが、それは本来の魔術師戦に近くなってしまうため康太はあまりやりたくなかった。


「そんなの見ただけでわかるかしら・・・そういうのって実際に戦ってみないとわからないんじゃないの?」


「いやいやそうでもないぞ。本人を見るならまだしも今回は一応拠点に行けるんだぞ?そういうところを確認しないでどうするよ」


「あぁ・・・本人に加えて拠点の中も観察してどんな魔術師なのか見抜けってことね?なかなか無茶を言うじゃない」


「できないわけじゃないだろ?完璧に見抜けとは言わないよ。あくまである程度どんな感じかっていうのがわかればそれでいい」


魔術師にとっての情報というのは本人からのみ得られるものではない。拠点に置かれているものやその配置などは十分情報となり得るのだ。


例えば康太の拠点である小百合の店を例に挙げれば、武器などが多く存在していることから康太が近接戦闘を得意としていることがわかる。さらに戦闘訓練が可能な広い空間もあることから普段から訓練をしているということが想像できるだろう。


ついでに言えば地下空間の中には魔術師用の商品が山ほど存在しているのだ。これを扱わない手はないだろう。


このように普段いる場所である拠点にはかなりの情報が存在しているのだ。どれほどの滞在期間になりどれほど相手の観察ができるかはわからないが、それらを行っておいて損はないだろう。


「あんたはどうするのよ。索敵範囲的に拠点の中までのぞけないかもしれないでしょ?」


「そこはどうにかするって。匂いとかでも結構わかることはあるしな。相手が普段どんなものをつけてるかとかそういうのもわかるようになってきたぞ」


康太が嗅覚強化の魔術を身に着けてからかなり時間が経過している。


普段からして遊び感覚で嗅覚強化の魔術を使っては鍛錬を積んでいるのだろう。特に人物に対する嗅覚による確認はかなりのものになっているらしくそれなりに自信を持っているようだった。


「ふぅん・・・じゃあさ、その人の体調とかもわかったりするわけ?」


「場合によるな。普段の状態を知ってれば間違いなくわかるぞ。汗とかの体臭にも結構匂いの違いが出るからな。特に女の場合はわかりやすいかも」


「・・・どうして?」


「俺自身が男だからかもしれないけど、女の匂いって結構強いんだよ。だから匂いでの変調はよくわかる。さすがに動揺とかそういうのはわからないけどな」


冷や汗が出てれば別だけどと康太は笑っている。冷や汗が出るほどに強く動揺していたのであれば康太もその変調を感じ取れるらしい。


それだけ康太の嗅覚強化はレベルを上げているのだ。感覚系の魔術とは本当に相性が良いのだなと自分のにおいを意識しながらその技術の上昇に感心していた。










図書館の人間との打ち合わせもほどほどに、康太、文、アリスの三人は二手に分かれて図書館の人間に同行して魔術師たちの拠点をそれぞれ回っていた。


とはいっても図書館の人間に盗まれた当日訪れた魔術師の誰が怪しいとは告げていないために七人すべての魔術師の拠点を回ることになる。


うち一名はすでに協会が捕縛しているために実質六人になる。この中の二人に実際会うことができれば御の字。そうでなければおびき寄せるための書状だけでも相手の手に渡らなければならない。


とはいえ最初から犯人ではないと考えている人物の拠点を見て回っても康太はやることがない。せいぜいほかの魔術師からの襲撃がないことを祈るのみだ。


そんなことを考えながら図書館の人間が有している仮面などを身に着けているのだが、普段であればほかの魔術師と接触、あるいは顔を見られると相手は露骨に驚いたりこちらを見てきたりするのだが今日はそういったことが一切なかった。


これが仮面を変えた効果なのかと、今まで自分がつけていた仮面のインパクトの強さを思い知って軽くショックを受けている康太である。


ブライトビーの名前がそれなりに有名になってしまったせいで、その仮面のデザインも多くの人間が知るようになってしまったのだ。


逆に言えばあの仮面さえつけなければ康太はブライトビーとして認識されないということになる。


無論直接会って戦ったような相手にはばれてしまうかもしれないが、見ず知らずの人間に敵視されたり恐怖されないというのは良いものだなと、今まででは考えられないような思考に到達したことに対して康太は嫌気がさしていた。


「どうしましたか?何やら落ち着かないようですが」


「え?・・・あぁ、普段つけている仮面と違うので他の魔術師の反応が違うので驚いていたんですよ・・・やっぱりあの仮面は目立つんですかね・・・?」


「あぁそういうことでしたか。良くも悪くもあなたの名前は売れていますからね。どうしても妙な反応をしてしまうものでしょう。有名人にあったときの一般人のそれと同じようなものですよ」


そんなものですかねと康太は苦笑する。


自分のような普通の人間を有名人と比べるのはどうかと思ったが、康太はすでに普通の人間とはかけ離れた場所にいる。


本人がそれを正確に自覚しているかどうかはさておき、すでに康太は一般人でも普通の人間でもないのだ。


「それはさておき、そろそろ拠点に到着します。警戒を怠らないでくださいね」


「わかっています。もし攻撃された場合は先に逃げてください。俺ができる限り時間を稼ぎますから」


相手がどのような対応をしてくるかわからない以上、康太は可能な限り警戒し一緒に来ている図書館の人間を守ろうと思っていた。


無論可能ならば相手を倒したいと考えていたが実際それは難しい可能性がある。


何せ装備が整っていた状態であれだけ苦戦したのだ。もちろん狭い室内だったというのも原因の一つだろうがそれだけではない。相手の実力というのも確かにあった。


康太の申し出で最初に訪れるのは予定の中に入っていた三人のうちの一人にしてもらった。こういうのは早い段階で遭遇しておいたほうがいい。


特に夜に近くなって集中力が落ちているような状態では敵に回したくはなかった。


こちらか、文の行っているもう片方に魔術師がいる可能性が高い。逆に言えばどちらかは確実にいないのだ。


何せ一人は確実に別拠点で見張りをしているのだから。


入れ替わりの時間に応じてちょうど康太たちの訪問がずれれば両方に会える可能性は高くなるが、そこまでちょうどよく事は運ばないだろう。


康太は軽く索敵をかけてみると同時に嗅覚強化の魔術を発動して周囲の確認をしてみる。


するとその中には確かに例の三人組のうちの一人のにおいがした。


どうやらこの辺りを頻繁に移動することがあるようだ。屋外だというのにしっかりと匂いがついているということはそういうことである。


康太と図書館の人間が拠点である建物の前に立つと、二人は同時に索敵をし直していた。


目の前にあるのは比較的小さな雑居ビル。その三階部分が件の魔術師の拠点となっているのだ。


普段からしてテナントなどが入っていないのか、何の看板も取り付けられていない。どうやら不法侵入まがいのことをしているようだった。


索敵してみるとそこには人がいる。しかも魔力を内包している関係からそれが魔術師であるというのは明白だ。


康太と図書館の人間は互いに合図をしながら雑居ビルの中を進んでいく。


そして相手も康太たちの存在に気付いたのか、ビルを下に降りてくる。


二階の踊り場部分で康太たちを待つ形で動きを止めると、二人は意を決して二階部分へと足を踏み入れた。


「止まれ。俺の拠点に何か・・・ってその仮面・・・図書館の人間か?何の用だ?」


仮面を見ただけで康太たちが図書館の人間であるということに気付いたのか、二階にいた魔術師はこちらを見てわずかに警戒の色を強くしたようだった。


身構えるとまではいわないまでも、いつでもこちらに対して攻撃できるような態勢を整えているように思える。


空気がピリピリと肌を刺すのがわかる。相手はこちらを警戒しているのだ。康太はこの行動で確信を深めていた。


この人物が本を盗んだのだなと。


そして自分たちはこの人物を倒さなければいけないのだなと。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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