計画を練る
「さて・・・じゃあ計画を進めましょ」
康太と文、そしてアリスは夜までの間に侵入に対しての具体的なプランを進めるべく小百合の店に戻ってきていた。
「見取り図は入手できた。次は侵入ルートの確保と、侵入する準備だな」
建物の内部構造及び各部屋にいったい何があるのかを把握することができたことによって侵入はだいぶ楽になったと思っていいだろう。
あとは拠点に待機し監視し続けている魔術師をどかすだけだ。
今日の夜、それぞれ分担して拠点に足を運ぶ形で話をしに行く予定である。
いや、実際話をするだけなのか、それとも何か書状のようなものを作りそれを置いておくのか。
どちらにせよ今までどのような形で連絡を取り合っていたのかわからない以上館長の采配に任せるほかない。
「侵入において必要なものって何かしら・・・?とりあえず変装とか・・・証拠を残さないようにするとか?」
「ありきたりだけどそのくらいしか思いつかないな。っていうか俺らの場合変装はいらないんじゃないか?仮面とか変えちゃえばぶっちゃけだれかわからないだろ。証拠に関しては逆に残すのもありじゃないか?」
「なんで?証拠なんてないに越したことはないでしょ?」
「普通ならな。でも今回に関していえば本を取り返すだけじゃなくて相手を倒すっていう内容も加わってるからな。あえて特定の証拠を残して相手をおびき寄せるっていう手も使えるだろ?」
魔術師として行動しているときは常に仮面を着用し、誰なのかわからないようにして行動しているため変装が必要かといわれると微妙なところだった。
康太の言うように証拠を残さないことに関しては必要だが、あえて証拠を残すというのも考えに入れておいていいかもしれない。
相手に対して攻勢をかけるということは相手に防衛戦を行わせるのと同じことだ。攻めるよりも守るほうが圧倒的に有利である。それを考えれば康太の案は相手に意図的に攻勢に出させるというものだ。
もっとも相手が残した証拠に気付くとは限らないし、気づいたところで康太たちの思惑通りに動いてくれるかも怪しいところである。
だが証拠を残すことに対してまったくメリットがないというわけではないのは文も理解できていた。
「相手が思うように動いてくれればいいけど・・・そうじゃなかった場合余計な行動を引き起こすことだってあり得るわよ?」
「そこはしょうがないだろ。っていうかこの状況で相手を完全にコントロールするのは無理だ。それは文だってわかってるだろ?」
「・・・まぁね・・・話がそれたわ。侵入するにあたって障害になりそうなのは扉と隠し通路ね。地下に続く扉は基本隠されてるから」
「ありきたりだけど男の子にはうれしい仕掛けだな。これがあるだけでやる気が五割は上がる。ちなみに宝石とかを石像にはめ込む仕掛けとかはないのか?」
「残念だけどそういう仕掛けはなかったわね」
「じゃあろうそくに火をつけると扉が開くとかは?」
「そもそもろうそくもたいまつもなかったわよ。ゲームのやりすぎじゃないの?」
「いや、実際現実にああいった仕掛けはあるらしいぞ?機会があればぜひ実物を見てみたいけどな」
康太の男子的趣味丸だしな意見に、はいはいそうですかと文はあきれた調子で話を先に進めようとしていた。
男子というのは皆こんな感じなのだろうかと自分の父を思い出し、それが比較にもならないということに気付いてため息をつく。
「また話がそれたから戻すわよ?地下に行くための扉は隠されてる。一階部分の階段脇にある倉庫・・・っていうか納戸ね。そこに隠されてる。実際に行けばわかるけど、間違いなく鍵がかかってるでしょうね」
「鍵なら文の魔術で開けられるだろ?問題なしだな」
「ただの錠前なら問題なく開けられるわ。でも物理的に封鎖されてた場合は無理よ?」
「物理的な・・・ってどういうことだ?」
「つまり溶接されてたりしたら無理ってこと。さっきは監視してるやつがいたから開いてたけど、無人の時にあそこがどうなってるかは予想できないわ」
その場に人がいる時は出入りのしやすさなどから扉は開いているかもしれないが、無人の時にどのようになっているかはその時にならないとわからない。
文の使う鍵開けの魔術が有効なのはあくまで対象が『鍵』であることが前提である。
先ほど文が言ったように物理的に閉鎖されている場合はどうしようもないのだ。
「ふぅん・・・ちなみにその扉の厚さは?材質は?」
「材質まではわからないけど・・・まぁ分厚さとしては五センチってところね。それなりの分厚さだったと思うわ」
「五センチか・・・パーツで組み合わせてるものなら分解で、それ以外なら無理やりぶち破るか」
「ぶち破るって・・・仮に鉄だった場合どうするのよ。あんた鉄を焼き切れるだけの炎出せないでしょ?」
「そんな必要ないって。扉が鉄でもそれを通れるようにするのは難しくない。ただそれをやると間違いなく相手にはばれるだろうな。壊した後元に戻せないし」
その言葉に文は康太が小百合の弟子であるということを思い出していた。破壊に精通した魔術師の二番弟子。こと物理的な破壊に関しては康太は戦闘と同じか、それ以上の実力を有しているのである。
伊達に小百合に指導を受けていない。こればかりは康太を信頼するほかないだろう。
「わかったわ・・・ちなみにだけどその破壊方法ってどんな感じ?ひっそり?それともド派手に?」
「後者だな。間違いなく音は出る。本当に運が良ければ音は出ないかもしれないけど・・・まぁ無理だろうな」
康太ができる手段で破壊するといえば文もある程度予想はできていた。それを考えたときにただ音が出るだけで済むのか不安が残る。
何せ康太は地下への入り口がどのようなものであるかも把握できていないのだ。今康太の中でどのようなイメージが浮かんでいるのかは知らないが少なくとも穏便な方法ではないのは間違いない。
自分の把握した情報をすべてを康太に与えられればいいのだがと考えながら文はひとまず康太に教えやすいようにルーズリーフに地下へと続く道の図を大まかにではあるが書き始めた。
「ちなみにだけどその入り口っていうのはこんな感じに床についてるタイプよ?それでも大丈夫なわけ?」
「・・・最悪地下への入り口部分が大きな吹き抜けになるかもしれませんが・・・そこはご容赦いただければと思います」
「ご容赦できかねるわね。地下にどでかい穴開けるなんて警察に間違いなく通報されるわ。しかもそれだけ大きな衝撃が加わるってことは・・・たぶん爆発音くらいの音がするんじゃないの?」
「実際に試してないから何とも言えないけど・・・どうなるんだろうな?その扉が壊れるのが先か、支えてる部分が耐えられなくなるのが先か・・・どっちにしろ壊せることには変わりないだろ?」
「壊せても潜入するって目的忘れてないかしら?普通に考えてそんな大きな音・・・っていうか衝撃が加わったら騒ぎになるわ」
「その騒ぎに乗じて逃げるとか・・・ダメですかね?」
「ダメです。もうちょっといい案思いつかないの?破壊に関してはあんたのほうが詳しそうだけどさ、物理的な破壊でもこう・・・衝撃が発生しない感じの」
強い衝撃を加えれば確かに完全に封鎖された場所でも突破することは可能かもしれない。
実際康太はそういうことができるし今までも何度かそうしてきた。
だが今回のように地下に続く場所でしかも潜入するために行動している中でそれだけ強い衝撃を与えるのはあまり良い行為とは言えない。
何せその地下空洞が正規の設計によって成り立っているのか、素人の適当な施工によって成り立っているものなのかわからないのだ。
もし仮にちゃんとした強度計算などがされていなかった場合、それこそ強い衝撃を加えると地下空間そのものが崩壊する可能性がある。
これから入ろうとする場所を自らつぶすとあってはさすがに目も当てられない。
「師匠だったらたぶん似た方法でも真っ二つにできたんだろうけど・・・俺の実力じゃ難しいな・・・ほかの方法となると・・・まぁちょっと俺がつらくなるけどそれでもいいのなら方法はいくつかあるぞ」
「例えば?具体的な例を挙げてくれるとありがたいんだけど」
「んーと・・・じゃあ入り口がコンクリで固められてた場合。強い衝撃を加えないなら石切りの要領で砕いて進む」
「石切りって・・・のこぎりかなんかを使うんだっけ?工事現場で道路とかをよく切ってるわよね?」
文が一番イメージしやすかったのは道路上で工事を行う工事会社の人間が電動の丸鋸を使って道路を斬りつけている場面だ。
あれは実際には切断しているというより、掘削のための前準備という意味合いが強いのだが文はそのようなことは知らない。
だがコンクリートなどを石切りの要領で斬るというというとそのような光景しか思い浮かべることができないのだ。
「あぁいうのとはちょっと違うな。俺がやるのはいわゆる杭打ちだ。相手がどの程度の厚さのコンクリを使ってくるかにもよるけど、これでたいてい十分に壊せる。音は最低限、破壊も最低限にしてな」
そういうと康太は魔術師装束の中に隠してあった武器の中から帯状のものを取り出して見せる。
それは長いベルトのようなものだった。そしてそのベルトには大量の杭が刺さっている。まるで連射用の弾丸のように連なったそれは、明らかに攻撃力を有した状態であることがわかる。
「こいつを打ち込めば最小限の破壊で穴をあけることくらいならできる。ただ当たり前だけど破壊した後は戻せない。あとはまぁ厚さに限界があるってことくらいか」
「この杭の長さまでであれば何とかなるって認識でいいの?」
「そうだな。このくらいなら十分何とかなると思う。あとはこいつを量産しておけばいいってくらいだな」
「ちなみに同じ方法で鉄は開けられないの?これなら普通に貫けそうだと思うけど・・・?」
「どうだろうな・・・正直難しいと思うぞ?この杭の材質そのものも鉄だし・・・おんなじ硬度のものがぶつかり合うと大抵へこんだりゆがんだりするからなぁ・・・」
石のように砕けやすかったり割れやすかったりといった性質を持っているのならまだしも、鉄にはある一定の粘度というものが存在する。それは熱するときであり強い衝撃を受けたときなどに効果を発揮するものだが、今回の杭においても同様のことが言えるだろう。
石にするような方法と同じ形で穴をあけられるかと聞かれると、康太は首をかしげざるを得なかった。
何せやったことがないのだ。やってみない限り答えはわからない。
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




