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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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兄弟子と同盟の話

『なるほど、それで私に電話をしてきたという事ですね』


康太は早速兄弟子である真理に電話をかけていた。


彼女がこの場にやってくるのを待ってもよかったのだが、真理の大学の都合というものもあるのだ。それなら手っ取り早く連絡したほうがいい。


メールで確認したところ電話でしっかり話した方がいいとのことで康太は彼女の講義がない時間を見計らって電話したのだ。


魔術的な内容を文章で、しかもメールで回答するというのは何かと問題があるのだろう。万が一のことを考えて文章ではなく口頭で回答するというのもある意味正しい警戒の仕方だと言えるだろう。


「はい、それで姉さんならこういう場合どうするか意見がききたくて」


『なるほど・・・にしても地味に厄介な場所に行くことになったんですね。避暑地としてはもってこいなんですが・・・』


確かに今回行く長野はある意味避暑地にはもってこいの場所だ。もっとも今は四月。暑くもない上にむしろ少し寒いくらいの日もあるほどである。


そんな中で涼しさを求めて長野に向かう人間というのは稀だろう。


観光地としての長野のそれほどの良さというものはこの季節にはない。となれば別の何かを求めるほかないだろう。


もっとも康太が欲しいアドバイスは観光的なものではなく魔術師としての、特に小百合の弟子としての心得だった。断じて観光目的の助言が欲しいわけではない。


土産を何か買ってこいと言われれば買ってくるのも吝かではないが、今欲しいのはそう言う平和的なものではないのだ。


「姉さんも昔は単独でどっかに行かなきゃならない時あったんですよね?そう言う時どうしてたんですか?」


『まぁそうですね・・・私の場合今ほど師匠の敵も多くなかったのでそこまで大変だったという事もないんですが・・・近づいてくる人間全員が敵くらいに考えていましたよ。油断することすら許されない勢いで警戒してましたから』


さらっと恐ろしいことを言うなと康太は戦慄していた。真理がその当時どれくらいの実力を持っていたのかは知らないが、近づいてくる人間全員を敵だと認識するくらいに疑心暗鬼に陥っていたという事である。


もはやそれは病気のレベルなのではないかと思えてしまうが、それくらいの警戒があって然るべき状況なのだという事は理解できた。


それを考えれば康太の場合まだ味方である文の存在が近くにいるだけましな方だと言えるだろう。


「ちなみに師匠の敵って、ここ最近増えたんですか?」


『急激に増えたというわけではありませんが毎回コツコツと増やしていましたね。塵も積もればなんとやら・・・そのせいでこちらも結構面倒な目に遭っているわけですが・・・』


どうやら苦労しているのは康太だけではなく真理も同様らしい。


考えてみれば当然かもしれない。康太が小百合の弟子である期間はまだまだ短い。それに比べて真理は何年も小百合と一緒にいるのだ。康太以上の面倒事をこなしてきていて然るべきである。


『ですがある意味その場所は運がいいともいえます。康太君の場合でも条件によっては十分格上とも渡り合えるだけの条件を整えることができますから』


「そうなんですか・・・?なんだかあんまり自信ないですが・・・」


今回康太達が行く長野県の某所はマナの濃度が薄い。つまりはそれだけ魔力をチャージするのに時間がかかるという事でもある。


たとえ大量にマナを取り込むことができる供給口を持っていたとしても、取り込むためのマナそのものがなければ意味はない。


短期決戦のみに限ることができれば経験や実力を無視して早期決着を望むことも十分可能だろう。


そしてそれは文も考えているはずだ、こちらの味方が二人になっている以上ある程度やりやすくなることに変わりはない。


『ちなみに康太君、ベル・・・文さんはどのように考えているのでしょうか?今回の場所の事も彼女なら知っているのでは?』


「たぶん・・・あいつ自身はあんまり行きたくないみたいでしたけど・・・」


文はマナの過疎地帯というのは行ったことがあるようであまり良い印象を持っていないようでもあった。


だが康太にとって何かしら得るものがある上に一応は学校行事、さらには上級生の魔術師たちに託されてしまった以上サボるわけにはいかないようだった。


『なるほど・・・まぁ確かに私達にとってはあまり良い場所ではありませんからね。そう考えるのも納得というものです。ですがあなたには何かしら得るものがあるでしょう』


「師匠からもそう言われました。とりあえずは魔術師としての感覚が芽生えるかもしれないから魔術師であることを意識していくつもりです」


康太の言葉にそれがいいですねと真理は薄く笑いながらでは最後に一つだけと付け足す。


『今回行く場所はそれなり以上のものがあるでしょう。もしかしたら普段通りの行動ができないかもしれませんから、そのあたりは注意しておいてください。どこに何がいるかわかりませんからね』


それこそそこらにいる全員が敵くらいに考えておけと真理は言いたいのだろう。彼女がそうして過ごしてきたように康太もそうするとよいという親切心からくる助言なのだが、やはりどこか物々しい。


あの師にしてこの弟子ありかと思ってしまったが、そうなると自分も同類の道を歩んでしまいそうでその考えを必死に振り払った。


自分はそうなりませんようにとある種の願いを込めながら。







































「ふぅん・・・ジョアさんがそんなことを・・・」


「あぁ・・・周りの人間すべて敵と思えだってさ」


「あの人は比較的まともだと思ってたんだけどなぁ・・・ちょっとショックかも・・・」


康太と文は放課後、それぞれ部活の合間に校舎の一角で話をしていた。


康太は陸上部、文はテニス部に所属しているらしくそれなり以上に体を動かした後のために互いにそれぞれ疲れを引きずった状態で校舎の一角で待ち合わせていた。


互いの部活の最中という事もあり、それそれ部活の仲間と行動することも考えていたのだが、今度予定されている合宿のために幾つか話し合っておく必要があるのだ。


幸いにして康太と文が親戚であるという嘘は一年生の間に広まっている。文の容姿がそれなり以上のものだったからこそこの手のうわさも広まるのに時間はかからなかった。


本当は赤の他人で二人とも魔術師だなどと言われても、今さら誰も信じないだろう。


親戚同士ということにしておいてよかったと康太と文はつくづく思っていた。


「でもとりあえず、今のところ現地での問題行動を起こしてるような奴はいないっぽい。あとは今後どうなるかだよな」


「幸いにして現場はマナが薄いわ。術者が活動しにくいのは間違いない。私たちがやるべきことは一つよ」


「敵が来たら叩き潰す?」


康太の言葉に文は呆れながらため息をついていた。明らかに見当違いなことを言っているからこそこの呆れのため息をついているのだ。


だが康太はそれ以外の考えが思いつかなかった。敵がいるのであれば叩き潰す、それ以外に解決の方法はないような気がするのだ。


話し合って解決できるような問題ならそもそも事件なんて起こさないのだから。


「私達がやるべきは、同級生たちを魔術的な脅威から守ること。それは魔術の隠匿という意味でも、みんなの身の安全っていう意味でも重要な事よ」


「・・・あぁそうか・・・普通は魔術って隠すんだっけか」


魔術師として根本的で基本的なことをそもそも理解していなかったというか忘れていた康太にとってこの考えは最も大切なことなのだという事を文は念押ししていた。


なにせ魔術の隠匿とは今まで何百年、何千年も続いてきた術師の中での絶対の掟なのだ。


今までそれを破った魔術師はいない。何よりそれを破ろうものなら他の魔術師たちがだまっていない。


あの例外中の例外、異端中の異端である小百合でもそれを守ろうとしているのだ。それを破ろうとする魔術師などこの界隈には、いや術師の中には存在しないだろう。今文の目の前にいる康太を除いて。


「でもさ、一つ思ったんだけどなんで魔術って隠匿しなきゃいけないんだ?みんな知ってればそれだけ便利じゃん」


自動販売機で飲み物を買ってから文にそれを投げ渡すと、康太は自分の分の飲み物も買ってから近くのベンチに座り込む。


実際に魔術を隠匿するということに具体的な理由があるとは思えなかったのだ。

なにせ自分というただの一般人が巻き込まれ半ば無理矢理に魔術師にされるという経緯からして、別に頑なに誰にも教えてはいけないというものではないことがわかる。


もっとも小百合が師匠という時点で例外中の例外、定石などとは程遠い状況であるのは間違いないのだが。


「魔術を隠匿する理由は大まかに分けて二つあるわ。一つは個人が強力な力を持ちすぎないようにすること。魔術を持つ人間を選定してると言ってもいいわね」


魔術を使う人間を選定。つまりはどんな人間でも魔術が使えるようになると危険だからこそ、魔術を使うことができる人間はある程度選んで少数にしなければいけないという事だろう。


もっともその選定を自分が正しく行われたかは不明だがと康太は飲み物を飲みながら小さく苦笑して見せた。


「要するに危ない力は限られた人間しか持っちゃダメってことか。警察とかしか拳銃もっちゃいけないのと同じ原理だな」


「ん・・・まぁそうねそんなものだと思ってちょうだい」


海外においてはその限りではないが、基本的に銃器の類は警察などの特殊な職業の人間しか所有することはできない。


その理由は実に単純、個人がそれだけの力を持つと危ないからである。


力を持てばその力を使ってみたくなるというのが道理であり、日本という国はそれを特定の職業でしか使えないようにすることである意味『選定』していると言えるだろう。


魔術と拳銃を同じ扱いにしているというのもどうかと思えるが、あながち間違っていない解釈かも知れない。


「まぁ納得したけど・・・もう一つの理由は?」


「もう一つはもっと簡単よ、魔術そのものが危険だから」


危険だから


それは理由であり理由になっていないような気がする。なにせ魔術は強い力だから選定しているというのが先程の理由だった。それなら魔術を隠匿する理由は一つではないのかと思えてしまう。


「それってさっきのと何が違うんだ?さっきのも危ないからだったろ?」


「さっきのは魔術の力そのものが危ないからってこと。こっちは魔術を才能がないものが扱おうとすると危険ってこと。最悪死んじゃうじゃない」


文の言葉に康太はようやく理解が追い付きなるほどと呟いた。


魔術というのは使うのに三つの素質が必要なのだ。マナを取り込む供給口、マナを魔力に変換し貯め込む貯蔵庫、魔力を放出する放出口。この三つがなければ魔術は使えないとされている。


何故魔術が隠匿されているのか、隠匿されなければならないのか、康太はその理由を何とはなしに理解していた。


とりあえず予約投稿は今日までにしておきます


もしこれ以上予定が伸びたらちょっとまずい(毎日投稿が途切れる)ことになるけど・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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