小悪魔アリス
翌日、康太と文は放課後に準備をしてから件の魔術師たちの拠点近くにやってきていた。
「ごめーん、待ったぁ?」
「ううん今来たとこ・・・一緒にきておいてこのやり取り必要?」
「必要だ。デートにこのやり取りは必要なんだ。鉄板だろ?」
康太の頭の中では駅前などで待ち合わせをする姿が思い浮かんでいる。授業が終わってから一緒に来たというのにこのやり取りに何の意味があるのだろうかと文はいぶかしんでいたが、これがデートの始まりのやり取りの印象が強いらしい。
「・・・アリスがいる時点でデートとはいいがたいけどね」
康太がこれをデートだととらえてくれているのはうれしいのだが、アリスというおまけがいるのは文にとっては複雑な気分だった。
「そういうなフミよ、私はいないものだと思え。現にお前たち以外に私の姿は知覚できんようにしてある」
「私たちに見えてるから気にするんじゃない。ていうかあんたがついてくる必要あったの?」
「・・・ふふん、すまんなフミよ・・・お前の邪魔をしてしまって心苦しいが、これも仕方がないと思ってあきらめてくれ。次回以降は二人きりで楽しむといい」
「気楽に言ってくれるわね・・・それができれば苦労しないっての・・・」
自分に聞こえないように小声でそんなことを話す二人に康太は疑問符を浮かべているがそんなことは気にせずに二人は文の恋路に関しての話をしていた。
二人きりで出かけることができればどれだけいいか、そんなに簡単に話を進められるほど文に勇気はなかった。
というか二人で遊びに行くという話はしているのだ。そこから先に具体的な内容に進めていないだけで。
一度意識してしまうと今まで普通にやっていたことができなくなるだけに乙女心は複雑なのだろうとアリスは何度か頷いてた。
「でも康太、デートっていったって何するのよ。適当に遊ぶの?」
「いやいや、もっとそれっぽいことあるだろ。ほれ」
そういって康太は文の手を握ってくる。しかも握手の時のようなつなぎ方ではなく指と指同士を絡めるいわゆる恋人つなぎというものだった。
「ほれもっとくっつけ。そうしないとデートっぽくないだろ」
「ちょっ!・・・あんたなんでそんなに平然とできるのよ・・・!」
「だってお前に近づくのなんて慣れてるだろ・・・?今更じゃね?」
「やってることが普通じゃないっての・・・こんなつなぎ方・・・」
「いやか?なら腕を組むだけにしておくか?」
腕を組むのと指を絡めるのとどちらが恥ずかしいだろうかと文は葛藤しているようだったが、そんな文を見かねてアリスが文の体に魔術を発動する。
その体に念動力の力がかかり、文の体がまるで操り人形のように勝手に動き出した。
「え?なに!?」
「お?なんだずいぶん大胆だな」
文の体は勝手に動き出し、康太の腕に自分の腕をからませ、その指をからませていた。腕組と恋人つなぎの両方を選択したということである。
「こうしておいたほうがより恋人らしく見えるだろう?やるからにはなりきって見せよ、そのほうがおもしろいぞ」
「アリス・・・!あんた余計なことを!」
「まぁまぁ、いいじゃんか、恋人っぽいだろ?それに俺としてはうれしいぞ。柔らかい感触が腕にうれしい!」
「・・・アリス、今すぐ体の自由を戻しなさい。こいつにボディブロー入れるから」
「それはダメだ、まだまだフミには恋人っぽくしてもらうぞ?そのほうがおもしろいしな。コータとしてもうれしかろう?」
「うれしい!けど気恥ずかしい!なんだこの妙な感じ!」
腕を組んで密着しているおかげで康太の腕には文の胸が押し付けられている形になる。
文は羞恥で顔を真っ赤にしているが、アリスによって自分の体の自由が利かないせいでほとんどなすが儘になってしまっていた。
この状況でアリスに感謝するべきか、それともアリスを恨むべきかは意見が分かれるところである。
自分のことでありながらも文自身どちらにするべきか迷っているようだった。
とりあえずいきなりこの状況は文からすると処理能力を完全にオーバーしておりすぐにでも康太から離れたい気持ちでいっぱいだった。
一度深呼吸なりして気持ちを落ち着けたいと思っていた。だがアリスがとにかく体を押し付けようとしてきているせいでそうすることもできない。
「アリス、もうちょっと押し付けていいぞ?これはこれで役得だ・・・!もっと・・・!もっとだ・・・!」
「アリス、あんたこれ以上調子に乗ったらどうなるかわかってるでしょうね・・・?私もそれなりの態度をさせてもらうわよ・・・!」
康太と文、同じ同盟相手でもどちらの言うことを聞くべきかアリスは迷っていた。
欲望に正直になっている康太か、羞恥と怒りに身を任せている文か。
せっかくだからとアリスは面白いほうに味方をすることにした。
「よしよし、思春期男子高校生の夢をかなえてやろう。このくらいの力加減でよいかの?」
「おぉっふ・・・やべ・・・!アリス・・・あとでジュースをおごってやろう・・・!」
「ふふふ・・・覚えてなさいよアリス・・・!」
二人とも顔を真っ赤にして別の意味で興奮してしまっているようだった。
康太は嬉しそうに、文は恥ずかしそうにそれぞれ道を歩いていると当然多くの人々に見られることになる。
それがさらに文の怒りと羞恥を駆り立てているようだった。




