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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」

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室内における戦い

室内戦、しかも管理人用の狭い部屋の中。


訓練での戦闘経験なら豊富な康太でもこれほど狭い場所での戦闘経験はさすがに数えるほどしかなかった。


まずその狭さゆえに槍が使えない。主に徒手空拳での戦いになる。


回避も攻撃も満足に行うことができなくなる。特に物理的な肉弾戦に限っては特に困難になるだろう。


それをわかっているからか、相手はその距離をゼロにしないように、そしてこちらへの攻撃はこの部屋の物品を飛ばしてくる念動力の攻撃に終始していた。


部屋のものとはいえペンや文具など、飛ばすべき小物は山ほどある。室内の攻撃ではあまりに大規模で高威力の攻撃をするわけにもいかないのだろう、自分の守るべき牙城だからこそ損壊は避けたいと思っているのだろうが、康太はそんなものは完全に眼中になかった。


狭すぎて大きな動作による回避は不可能。ならばすべて撃ち落とすまでと康太は自身の両腕に魔術を発動する。


その魔術は以前幸彦が使っていたエンチャントの魔術だった。無属性の付与魔術。自らの腕にかけることによって防御力と攻撃力を同時に向上させる攻防一体の魔術である。


槍術ほどではないが、康太は徒手空拳の技術を嫌というほど叩き込まれている。ただ一直線に向かってくる物体を打ち落とすくらい容易なことだった。


康太が文具に気を取られているうちにその場から逃げようと魔術師はもう一つの出口から逃げようとするが、その瞬間部屋全体に一瞬だが電撃が駆け巡る。


その電撃は康太と魔術師にも襲い掛かるが、痛みはない。何が起きたのかわからないうちに次に電撃の塊が床めがけて放たれると、周囲にあった物品、そして康太と魔術師の体も床に吸い寄せられるような圧力がかかるのがわかる。


それは空中に浮いていた文具も同様で、強い力で床に吸い寄せられ、念動力の力よりもさらに強く吸い寄せ、まるで磁石でくっついたように床に付着して動かなくなっていた。


「さっさと終わらせなさいよ、こういう時は相手を拘束するに限るでしょ」


「わかってるっての・・・!ていうか俺ごとか・・・!」


「そのほうが楽だったもの。この魔術は本来こうやって使うのよ」


文の扱う魔術にはこういうものもある。電撃をまとわせることでその二つをくっつけようとする類のもので、以前は攻撃のために使ったがこの魔術は本来こうして対象を拘束、あるいは動きを封じるためのものなのだ。


相手にいくつもの物品をくっつけて動きを阻害するのにも使えるし。このような形で地面などに吸い付けて動きを鈍らせることもできる。


康太はまだ無理やり動こうとしている。動こうと思えば動けなくもない。すり足のような形でゆっくりと相手に近づくこともできている。


そしてそれは相手も同様だった。何とかこの場から逃げ出そうとすり足でもう一つある出入り口、マンションのほうへとつながっている扉へと移動している。


この場から何とか脱出しようと考えているのだろう、念動力によって周囲の道具を飛ばすことはできなくなったようだが、攻撃の手を止めるつもりもないようだった。


「なめるなよ・・・!この程度・・・!」


魔術師がその手にわずかに光る雷を宿らせたかと思うと、康太めがけてその電撃を放ってくる。


回避などできるはずもない、この狭い空間に加え、文の磁力を用いた拘束魔術によって康太は満足に動くこともできないのだ。


致し方がないと康太は即座に腰につけていた槍を構築の魔術によってくみ上げると床に突き刺して盾代わりにする。


康太めがけて向かってきていた電撃は槍に直撃すると床めがけて流れていく。


この防ぎ方も懐かしいなと思っていると、不意に康太たちの体が軽くなる。先ほどまで自分たちにかかっていた、吸いつくような力が弱くなっているのだ。


どうやら文の拘束の魔術は自分が制御している以外の電撃が加わると効力が弱まる仕掛けらしい。


相手もそれを理解したのだろう、康太が突き刺した槍めがけて電撃を連発していた。


せっかく文がうまいこと拘束してくれたというのにこんなに簡単に逃げられてしまうようでは困る。


あまり怪我はさせたくなかったが致し方がない、康太は弱くなった拘束を逆手に取り遠隔動作の魔術を発動させて強引に魔術師を転倒させようとする。


組み技の要領でタイミングよく力をかけることで相手のバランスを崩す。実際に組み合っていなくても遠隔動作によって念動力の力で相手のバランスを崩すことは十分可能だ。


倒すことはできなくとも、バランスさえ崩してしまえばこちらのもの。康太は相手が体勢を崩しかけた瞬間に再現の魔術を発動する。


発動したのは投擲のナイフ。狙う場所は相手の足だった。


何とか足を負傷させれば逃げるのを邪魔することができる。康太が再現の魔術を発動すると同時にまるで見計らっていたかのように障壁が展開され、魔術師の体を守っていく。


どうやらこちらが攻撃するということは把握できているようだった。このままでは本当に逃げられてしまうかもしれないなと、康太が歯がゆい思いをしていると後ろのほうから小さくつぶやくような声が聞こえてくる。


「ビー、ごめん」


小さく聞こえた文の声に、康太は血の気が引く感覚がしていた。文がなぜ謝るのか、なぜ自分にそんなことを言うのか。


そしてこの状況。すべてを考えたときその答えはすぐに理解できた。


次の瞬間、康太を巻き込むような形でこの部屋の中に大量の電撃が流れ込む。それは魔術師をも飲み込み、二人をほぼ同時に攻撃していた。


二人を巻き込んだ電撃は完全に戦闘不能にするには至らない程度に威力を弱めたものだった。


康太も魔術師も、ほぼ不意打ちに近い形で放たれた電撃をよけることはできず、その体に電撃を受けてその体の動きは著しく鈍ってしまう。


だがそこは文の電撃を何度も受けた経験のある康太だ。文が自分ごと攻撃したということを把握した時点ですぐさま反応して攻撃態勢に入っていた。


こうして反応が遅れれば当然相手も対応ができなくなる。康太も体を動かすのは苦労する。おそらくあと数瞬は満足に指も動かせないだろう。


だが魔術は別だ。思考や感覚によって培われる魔術を操る技術は、電撃によってその体が動かなくなっても問題なく動作する。


康太は即座に再現の魔術を発動する。その肉体の動作を再現し、手の届かない場所への攻撃を可能にした。


ナイフの投擲、先ほどは防がれてしまったが今度こそ相手の足をつぶして見せると意気込んで放たれた攻撃。その攻撃が放たれると同時に相手からも康太めがけて攻撃が襲い掛かる。


それは念動力による衝撃波だった。康太の放ったナイフが相手の足に直撃するとほぼ同時に康太めがけて放たれた衝撃波は康太の体を捉え、その体を後方へと吹き飛ばしていく。


その衝撃波は康太だけではなく、部屋の床に突き立てた槍も一緒に部屋の外へと吹き飛ばしていく。


文が瞬時に槍を回収するも、康太は何度か転がるようにして威力を殺すと即座に体勢を整える。


まったく同じ発想。おそらく相手も自分ごと巻き込んだ電撃をどこかのタイミングで放とうと考えていたのだろう。


相手も雷属性の魔術が使えるのだからこのような状況が生まれることを想定しておくべきだった。


康太は攻撃が当たったということによってほんの一瞬気を緩めてしまった。そのせいで相手の攻撃をまともに受けてしまう。


もっとも、衝撃波のように物質を伝動するタイプの攻撃は今の康太の魔術では防ぎようがない。


せいぜい体が後方へと運ばれないように踏ん張ることくらいか。


電撃に続き自分の体に襲い掛かる強い攻撃に康太の体は軽いマヒ状態に陥ってしまっていた。


もとより電撃によって筋肉の動きが強制的に収縮をかけられていたが、それに加えて体に襲い掛かった強い衝撃によって軽いめまいと手足の末端部分に軽いしびれが残ってしまっていた。


なかなかやるなと内心舌打ちをしながらも康太は笑みを絶やさない。仮面に隠れてその笑みは見えないが、康太のやる気が一切衰えていないことから文はまだまだ戦闘自体は可能だなと安心していた。


「ビー、まだいけるわね?」


「当たり前だ・・・!あの野郎なかなかやるぜ・・・!あの状態で反撃してきやがった・・・少しテンション上がってきた・・・!」


文が康太に槍を渡すと、康太の気力が毛ほども衰えていないことがよくわかる。手足のしびれはあれどまだ負けたわけではなさそうだった。


文の攻撃を受けながら攻撃してきた。今までそれほど根性のある魔術師はいなかった。たいていの魔術師は攻撃を受けると必ずと言っていいほど体と思考を硬直させたものだ。だというのにあの魔術師はそんなそぶりは一切見せなかった。


康太より反応は少し遅れたものの、それも普段文の攻撃を受けている康太にはある一種の慣れを考慮すれば十分早いほうだ。


おそらく受けた攻撃によっては康太よりも早く攻撃態勢を整えたことだろう。戦闘に特化した魔術師ではないにせよ、修羅場をいくつかくぐったことのある魔術師であることは明確だ。


「あいつ逃げようとしてる?」


「まぁそうするだろうよ。でも足はつぶした。それにもう手は打ってある」


康太は自分の体の調子を整えながら扉の向こう側に消えようとしている魔術師を追おうと足を前に出す。

手足のしびれは弱いとはいえ康太の機動力を間違いなく削いでいる。康太がそうしようとしたように相手もまたこちらの機動力を殺しに来たのだ。


「なんだかふらふらして情けないわね。肩でも貸しましょうか?」


「いらねって。ベルはここで堂々と待ってろよ。戦闘は俺の領分だ」


それしかできない康太にとっては戦闘こそ輝ける場所であり、文に対して優位をとれる場だ。


普段索敵などでおんぶにだっこになっている分、こういう場で踏ん張らなければ対等とは言えない。


しびれて言うことを聞きにくい自分の足を地面にたたきつけることで言うことを聞かせようとする。


仮面の奥に宿っている目の光は全く衰えていなかった。むしろつぶしがいのある相手に出会えてうれしいといった色さえ見せている。


「さぁさぁ、鬼ごっこか・・・?こちとらまだまだやれるぞ!」


康太が徐々に速度を上げて部屋の中に突っ込み、逃げようとしている魔術師の体を目視すると同時に、魔術師は手をかざし康太めがけて電撃を繰り出してくる。


文のおかげで電撃になれている康太は即座に対応する。


槍を突き立てその方向に電撃を誘導、自らには影響のないように防御して見せた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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