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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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師匠との話

「なるほど・・・マナの薄いところか・・・」


翌日、康太は修業の合間に小百合に今度行く合宿の話をしていた。


康太が魔術発動の修業をしている間、小百合は康太が買ってきた週刊漫画雑誌を読みながらせんべいを齧っている。


なんというか修業には見えない光景だと思いながらも、小百合は漫画から意識をほんの少しだけ康太の方に向けていた。


「確かに術師たちにとってはそこは価値が低い。まぁお前が行く三日間は比較的問題はないだろう」


「そうですか・・・俺の覚えてる魔術ってマナの干渉とかはどうなんですか?」


「それも問題ない。干渉される魔術は少なくともお前が今覚えられる難易度のものではない。気にするだけ無駄な話だ」


つまりマナの干渉を受けるような魔術はそれだけ難しいという事だ。康太が覚えている魔術はまだ二行程の単純なものだけだ。はっきり言ってそこまで難易度の高い魔術は覚えられていないのである。


もちろん魔術だけではなく小百合自身が持つ技術もいろいろと叩き込まれてはいるが、それもまだまだ修得するには至っていない。


以前小百合も言っていたが、結局のところは努力と反復練習をしていくしか上達への道はないのである。


「だがそうだな・・・確かにマナの薄いところに行けるというのは悪い経験ではない。魔術師として魔力の装填がいつもと違うというのを感じてくるといい。それなりに収穫もあるだろう。」


「了解です・・・ちなみにですけど、そのあたりで魔術的な事件が起きる可能性ってありますか?」


康太の言葉に小百合は漫画を読むのをやめて顔をあげる。真剣に考えているのか眉間にしわを寄せて口元に手を当てているのが印象的だ。少なくともちゃんと考えてくれているのはわかる。


先日の学校にいる先輩魔術師との会話はすでに話してある。事件が起きた場合自分たちで対応しなければいけないのだ。師匠である小百合にある程度意見を聞いておくのもいいかもしれない。


「確かお前達が行くのは長野だったか?」


「はい、詳しい場所まではあれですけど・・・」


「いや、長野で魔素の薄い場所というと場所も限られる・・・となると少々厄介かもしれんな」


厄介、その言葉の意味を康太は図りかねていた。


それは事件が起きやすいという事なのだろうか、それともまた別の意味があるのか。どちらにしろ厄介と言われていい予感はしない。


「それってどう厄介なんですか?ひょっとして実はすごい危険なスポットだったり・・・?」


「いや、魔術的にはほとんど価値のない場所だ。そのあたりを拠点にしている魔術師の話も聞かない。そう言う意味ではなく、あそこには道が通じていないんだ」


道が通じていない。舗装された道路さえもないような否かであるような印象を受けたがそう言うわけではないのはすぐに理解できた。


この日本で舗装されていない道路だけで構成された町などあるはずがない。大抵どこかしら舗装道路があるものだ。そもそも道がないという言葉だとけもの道さえもないような感じがしてくる。だが小百合が言っているのがまた別の意味を持っているという事はわかる。


「それってどういうことですか?今回俺たちバスで行くんですけど・・・」


「ふむ・・・前にお前が魔術協会の日本支部に行った時のことを覚えているか?」


「はい・・・教会の扉から通りましたよね・・・確か転移の術をつかって」


あの時の事はよく覚えている。扉そのものに術を施し、扉と別の場所にある扉を接続して通過するという転移術を使っての移動だった。


実際に日本支部がどこにあるのかは知らないし、あの術がどのような術式で成り立っているのかも知らない。


だが既に康太はあれの動力だけは知っているのだ。


「今回お前が行く場所にはその転移のゲートがないんだ。あの付近には龍脈がない。術師からの価値が低いのもそれが理由でな。あそこは孤立していると言ってもいいんだ」


孤立、それがどういう意味を持っているか康太は少し理解するのに時間がかかった。


康太が住んでいる町は電車を使えばすぐにでも日本支部に向かうことができる。近くに転移のゲートを使える教会が配備されているからだ。


もし何か問題があっても日本支部から応援が駆けつけることができるだろう。だが今回行く場所にはそれがないのだ。


それはあのゲートの動力となっているものが問題となっている。


かつて説明されたが、あのゲートにはかなり強力で、それ相応の燃料が必要になる。それが龍脈、所謂大地の力というわけである。


人間個々人では扱えないレベルの強力な力を使う事で場所と場所をつなぐことを可能にしているが、その代わりに龍脈がない場所には繋ぐことができないのである。


今回康太たちが向かう場所はまさにそれだ。龍脈がないためにその場所にゲートを作ることができず、迅速に応援を差し向けることができないのである。


「それじゃあ・・・むしろ狙い放題なんじゃないですか?悪いこと考えてる奴らには」


「そうでもない。マナが薄い上に交通の便もあまり良くない。魔術師としては好んでいくやつは極稀だ。もし行くとしたらそう言う事情の奴か、あるいはただのバカだけだ」


そういう事情というのがトレーニングに向かう術師、あるいはマナの干渉を受ける特殊な術を得意としている術師であるというのはすぐに理解できた。


逆に言えばそれ相応の理由がない限りその場所に魔術師が向かうということはあり得ないのだ。安心すると言えばその通りなのだが、ある種の不安が拭えない。何とも不思議な嫌な感覚だった。


「そのマナが薄いのが原因なら、マナを増やしたり別の所から持ってくることはできないんですか?それができればすごい楽な気がするんですけど」


康太の言っていることは簡単だ。その場にわずかでもマナがあるなら増やすか、別の場所に多く存在するマナを移動させればその場所のマナが薄いという状況は解消する。


口で言うのは簡単だが、実際にそれがどのようなことを意味するのか康太は理解していなかった。


無知とは恐ろしいものだ。そんなことを考えながら小百合は小さくため息をつく。


「確かにそう考えた奴はいる。手順を考え術を作りそれを実行しようとした奴がな」


自分以外にもそう考えていた人間、いや魔術師がいたことに康太は共感を覚えながら目を丸くする。


「へぇ・・・で、どうなったんですか?」


康太は自分で聞いておきながらその答えをすでに知っていた。なにせ現時点でマナが薄いところが存在しているのだ。その実験はきっと失敗したのだろう。


だが小百合は一瞬目を伏せるようにしてからゆっくりとため息をつく。


「結果的にマナを集める事には成功した。碌な結果にならなかったがな」


成功したのに碌な結果にならなかった。その言葉の意味を康太は理解できなかった。


恐らく何かがあったのだろうが、その何かをこの場で話すつもりはないようだった。


もしかして聞いてはいけないことを聞いたのだろうかと康太は不安になりながら眉をひそめている中小百合は再度小さくため息をつく。


「まぁ・・・お前の不安も分からないではない。初めて私の近くから離れるわけだからな。それなりに面倒が起きる可能性はある」


まるで話を切り上げるかのような話題の切り替えに康太はやはり聞いてはいけないことだったかと反省しながらとりあえずはその話題に乗ることにした。


「・・・やっぱりそうですよね・・・」


そう、康太が最も不安に思っているのは小百合の保護下から離れるという事なのだ。


康太は良くも悪くも注目される魔術師の一人だ。その原因は彼の師匠である小百合にある。というかそれ以外に理由がない。


魔術協会の中でも問題児扱いされているうえにかなり実力があると思われる魔術師の弟子となればそれなりに気にかけてくる人間もいるだろう。


それが良い意味だけならばいいのだが、小百合は良くも悪くも、というより悪い意味しかなく敵が多い。その敵が康太の方にまで矛先を向けてくる可能性が高いのである。


今までは小百合のおひざ元とでもいうべきこの近辺でしか活動してこなかったが、今回の合宿というか交流旅行に際し彼女の活動範囲外へと移動することになってしまう。


それこそが最も問題視するべきことであるのはもはや言うまでもない。


「あの・・・一応聞いておきますけど・・・ついてきてくれたりは・・・?」


「するわけがないだろうバカ者が。幼稚園児でもないんだ。旅行くらい自分だけで行ってこい。それに一応学校行事なんだろう?部外者がついていけるわけがない。」


「そこはほら、偶然旅行に来たみたいな感じで」


「旅費は誰がもつんだ?」


分かってはいたことだ。十分にわかっていたことだ。小百合がついてきてくれないことくらい予想できたじゃないかと康太は涙をのみながら項垂れる。


実際長野までというとそれなりに距離がある。電車で移動するにしてもバスで行くにしてもそうだが、何より宿泊費がかかる。その料金を一体誰が負担するのかという問題があるのだ。


これで康太がバイトでもしていればそれなりに融通を利かせることもできたのだろうが、生憎康太はバイトなどは今のところしていない。


この夏休みどこかでバイトでもするかなと画策する中、康太は本格的にどうしたものかと悩んでしまう。


「たぶん姉さんもいけないですよね・・・本当に俺らだけかぁ・・・」


「そのあたりはもう諦めろとしか言えんな。あいつにだって生活があるんだ、無理に現場に行かせるわけにもいかないだろう」


康太の知る中で一番行動が容易だったのは間違いなく兄弟子である真理だろう。彼女は現役の女子大生だ、その気になれば学校をさぼることくらいはできただろうがさすがにそれをさせるのも申し訳ない。


何より起きるかどうかも分からない事件を危惧してサボらせるなど康太の良心が許さなかった。


ただでさえ真理には面倒を押し付けてしまっているのだ。これ以上面倒を押し付けるわけにはいかない。


そうなると康太のいうように自分たちで何とかするしかないのである。もっともその何とかする内容があるかどうかも現状では定かではないのだが。


「ちなみに聞いておきますけど今のところ面倒を起こしそうな魔術師に心当たりは?ありますか?」


「それは私に敵意を持っている魔術師はいるかという事か?それならいろいろと心当たりがありすぎるな」


「すいません、聞き方が悪かったです。師匠に敵対しているかどうかはさておき面倒を起こしかねない、あるいは最近面倒を起こした人間に心当たりはありますか?」


康太の質問に小百合は口元に手を当てて悩みだしてしまう。


実際魔術師が面倒を起こすときに予備動作などがある方が稀なのである。予備動作を悟られるようでは二流以下、そんな二流以下の魔術師が敵になったところで小百合には何の脅威もないのだ。


だからこそ今のところ面倒を起こしそうな魔術師がいるかという問いに対しそれほど危機感が持てなかったのである。なにせ相手が二流では反応するのも億劫になるというものなのだから。


だが相手が二流だろうと半人前である康太たちにとってはそれなり以上の脅威になりえるのである。


いや、より正確に言えば半人前以下の康太とほぼ一人前の文にとってはといったほうがいいだろう。


康太だけが足を引っ張っているのであって文はほぼ一流にほど近い実力を有しているのだから。


「今のところそれらしい手がかり・・・というか気にするような魔術師はいないだろう。少なくともそんな話を聞いた記憶はない。真理にも確認してみるといい」


「・・・そうですね、こういうことは姉さんの方がいろいろと詳しそうですし・・・」


小百合を馬鹿にしているわけではないが、こういう世情などは真理の方が圧倒的に詳しい気がしたのだ。


なにせ基本的に小百合は唯我独尊を体現したような性格をしている。他人の都合などどこ吹く風で勝手気ままに行動しているために第三者の行動に対してそこまで仰々しく反応したり気にしたりするとも考えにくい。


「そう言えば姉さんは修業時代に師匠の下から離れる時どうしてたんですか?もう何年も前の話でしょうけど」


「あいつはそれなりに優秀だったからな。何とかやりくりしていたようだぞ。私と違ってあいつは敵が少ないからな」


自分が敵が多いという事を理解しながらそれを改善しようとしないあたりさすがというべきか、それとも呆れるべきだろうか。どちらにせよこの人の弟子になった時点である意味諦めたほうがよさそうな項目の一つであることは確かである。


まだまだ予約投稿二回分


反応が遅れてしまうのはご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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