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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」

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アリスの現状

「それで話というのは?」


「今回の報酬の話よ。康太から聞いたけど生放送に参加させるらしいじゃない?」


「そうだの。とりあえずそのつもりだ。すでに機材なども取り寄せてあるぞ?」


アリスの視線の先には段ボールが積みあがっている。おそらく購入した撮影用の機器があそこにあるのだろう。


資金力のある人間がやる気を出すとこれだから厄介なのだと文は歯噛みしながらも引き下がるつもりはなかった。


「生放送に出るのは・・・まぁいいわ、それで何時間やるつもりなわけ?そして何をやるわけ?」


「・・・なるほど、前もって報酬の内容を確定しに来たのだの?」


「そういうことよ。あとからあれこれ付け足されたくないからね。ていうか私は生放送は可能な限り出たくないわよ」


「なぜだ?おもしろそうだというのに」


「魔術師がこういう表立った場に出るのがまずいのよ。特にあんたみたいな何百年も生きてるようなやつだと」


文が懸念しているのは生放送を行った際に残る映像記録である。こういったものが後世にも残る可能性がある以上、魔術師としてはあまり映りたくなかった。


特にアリスのような何百年も生きた人間だと、今後数百年後にも同じようなことがあった場合騒ぎになりかねない。


そのあたりを危惧しながら、本音はただ文が大勢に自分の醜態をさらしたくないと思っているのが原因である。


常識的な理由をつけたしてどうにかして放送時間を短くしたいのが文の本心と思惑なのである。


「安心するがいい、ちゃんと顔は隠すぞ?生放送といっても一定の画面を映してしゃべるだけだ。声で判別されるかもしれんが、判別されたとして特になんだというわけではない。問題はないだろう?」


実際に顔を映すわけではないのかと文は一瞬安堵するが、それだけでは安心するには早すぎる。


問題は時間だ。もしこの前康太に言っていたような四十八時間耐久で生放送をやるなどという話になったら文の体力が持たないだろう。


「じゃあいったい何をするのよ。しかも何時間やるのよ。場合によっては文句言うわよ?」


「それも心配するな。今回はフミもいるということで優しくしてやろう。今回は二十四時間耐久だ。やるのはゲームや料理風景やらただグダグダする程度のものよ」


「・・・それってやる必要あるの?」


「私がやってみたいからやるのだ。それ以上の理由が必要か?」


ゲームや料理、そしてグダグダと話すのが目的とアリスは言うが、実際何をやるのかはほとんどわからないに等しい。


というかよくこのようなノープランな状態で生放送など始めようと思うものだと文はあきれてしまっていた。


「ちなみに場所は?まさかここでやるの?」


「ダメか?必要な道具はすべてここに用意するつもりだぞ?機材も配線の類も、あとゲームやら菓子類も用意するつもりだ」


「ちょっとしたパーティみたいだな。神加も参加させていいか?」


思わぬ康太の発言に文は目を丸くしていた。正気を疑ってしまうほどの発言に文は驚愕しアリスは喜んでいるようだった。


「もちろん良いぞ。ゲストはいくらでも歓迎だ」


「歓迎するな。神加ちゃんを巻き込むのはやめなさい」


最近神加の自由時間が増えたとはいえ二十四時間もの苦行に幼い少女である神加を巻き込むわけにはいかない。


何より彼女は今日も妙な立場なのだ。彼女の両親がなくなっているだとか捜索願が出ているかもしれないとかそういうことを考えると露出させるのは避けるべきである。


「なんだよ文、仲間外れは良くないぞ?神加も一緒に遊びたいよな?」


「・・・うん、お兄ちゃんたちと一緒にいたい・・・ダメ・・・?」


「んぐ・・・」


炬燵布団を持ちながら文のほうを見つめてくる神加に対して、文は強くダメだということはできなかった。


これは卑怯ではないかと康太を糾弾したかったが、一人仲間外れというのはかわいそうであるというのも事実。


とはいえ二十四時間も遊ばせるのはどうかと思えて仕方がない。


「ちゃんと休憩を取らせなさいよ?特に神加ちゃんはちゃんと眠らせてあげること」


「無論だ。私はそういった配慮はできる人間だぞ?お前たちが快適に遊べるように最大限の配慮と奉仕を約束しようではないか」


「お前が奉仕っていうとすごい違和感しかないな。誰かに尽くすってタイプでもないだろうに」


「何を言うか、私は惚れた相手に尽くすタイプだと自負しているぞ?現にお前たちによくしてやっているだろう?」


「はいはいそーですね・・・ていうかアリス、生放送するのはもういいわ、二十四時間ってのも何とかする・・・それで?本当にそんなグダグダな内容でいいわけ?」


「何を言うか、そういうのでいいのだ。もとより素人が行う生放送にそんな完成度を求めるでない。あくまであんなものは自己満足の領域だ」


自分でやろうとして自分で自己満足というあたりアリスらしいと思うべきか。というかその自己満足に康太や文を巻き込もうとしているあたりアリスもなかなかいい性格をしている。



「わかったわよ。二十四時間生放送やってやろうじゃないの・・・でも一つだけ、やる日を早い段階で決めて頂戴。その日のスケジュールは空けるから」


「おっとそうだったの。お前たちの予定を確認しなければならんかったか・・・えぇと・・・お前たちの学校が休みになるのはいつからかの?」


「天皇誕生日前日からだな。年末年始だからそこまで長くはないけど」


アリスはいったいどこから取り出したのか何やらアニメのキャラクターの書かれた日めくりカレンダーを取り出していったいいつから休みなのかを確認し始める。


さすがに一カ月近く先の話であるために康太たちの長期休みを待つというのはあまり気乗りがしないようだった。


「十二月の終わりではないか・・・さすがにそれは遠すぎるな・・・ならば三連休などはないのか?その日の一日を私の報酬にいただこうではないか」


「三連休ねぇ・・・あったかしら?」


「今年って祝日が微妙に飛び飛びなんだよな・・・三連休ってなかったような・・・」


その年の連休というのは祝日に指定されている日とその曜日によって決定する。中には振り替え休日などにする日もあるが、金曜日か月曜日が祝日であれば三連休が確定するのである。


とはいえ年によっては火曜日や水曜日や木曜日といった土日とつながっていない場所に祝日があるパターンもある。


学生にとってはあまりうれしくない祝日であると同時にあったらあったでうれしい休みなのである。


「まぁお前たちも休みたいだろうからの、どこかの土日ということにしておこうか・・・そのほうがいろいろと助かるだろう?」


「平日にやろうとしたらさすがに断るわよ。私たちだって学校あるんだから」


「学校と私との約束どっちが大事なのだ?」


「学校に決まってるでしょ。私たちは学生なのよ。学生の本分は学業なの」


「フミは学生である前に魔術師だろうに」


「魔術師である前に学生なのよ。アリスは基本ニートなんだから時間くらいこっちに合わせなさい」


文が何気なく言ったニートという言葉にアリスは驚愕しているようだった。自分がニートであるという認識がなかったのか、それともニートと呼ばれたのが初めてで驚いているのか、どちらにせよアリスの驚愕した表情はなかなかレアである。


「ま、待てフミよ、私がニートならサユリはどうなる?あ奴も私と似たような生活をしているぞ?」


「あの人はニートに見えてニートじゃないのよ。基本的に店を持ってるし何より稼ぎがあるもの。どっちかっていうとフリーターとか自営業って感じかしら」


「そ、それなら私にだって貯金があるぞ。大昔からため込んだ貯金だ。金なら山ほどあるのだぞ?」


「お金があればニートじゃないってわけじゃないのよ。あくまで生産的な行動をしているかどうか、社会的な行動を起こしているかどうか。だってあんた基本働いたりしないじゃない?」


「それは・・・そうだが・・・だって必要はないじゃないか」


「だからニートなんじゃない。働く必要がない、というか働く気がない。そういう人間をニートっていうのよ」


文の言葉に反論できなかったのか、アリスは強いショックを受けて机に突っ伏す。


働く意欲のある無職、というか定職につかない人間をフリーター。そして働く気もなく定職にもつかない人間をニートという。


アリスの場合は働く気もなく、定職にもついていない。そういう意味では文の言い分も間違ってはいない。


康太はそれ以上にアリスがニートという言葉を知っていたこと自体が驚きだった。いつの間にそんな言葉を覚えたのだろうかとアリスの文化の吸収能力には驚かされるばかりである。


「それならばミカは・・・ミカはどうなのだ・・・?修業をしているとはいえ働いてもいない・・・そして働くつもりもない・・・学校にも行っていないぞ!」


「この子は未成年でしょ。しかも学校に行ってないんじゃなくていける年齢じゃないってだけ。来年になったら私たちと同じ学生よ」


「うぐ・・・ぬぬぬ・・・!」


アリスはどうしても自分がニートであるという事実を認められないのか、かなり苦悩しているようだった。


実際事実なのだからしょうがないと思うほかないのだがそんなアリスに向けて康太のとどめの一言が突き刺さる。


「ていうかアリスってニート以前に住所不定無職だよな。そういう意味じゃホームレスと変わらないんじゃね?」


「あぁ・・・そういえばそうかも・・・」


「なん・・・だと・・・!?そ、そんなばかな・・・!?」


思えばアリスはこの日本に住んでいるとはいえどこに住んでいるかといわれるとどこだとしっかりと答えられないのだ。


康太の家や小百合のこの店に寝泊まりすることが多いとはいえ、別に常にこの場所に住んでいるというわけではない。


仮にアリスが警察などにつかまりマスコミに報道された場合は確かに住所不定無職のアリシア・メリノスと表記されることだろう。


まさか自分がニート以前にホームレス扱いされるとは思っていなかったのか、アリスはかなり強いショックを受けてしまう。


今まで根無し草で活動していたのに何をいまさらと思うかもしれないが、おそらく日本でこういった知識を手に入れたからこそこのような反応をするようになったのだろう。


やはり日本から強い影響を受けているようだった。暇人の吸収能力とは恐ろしい限りである。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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