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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」

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疑似密室

「ベル、どうだ?」


文がどうしようかと考えている中、本の収められていた場所の調査を終えたのか康太が歩み寄ってくる。


「なかなか難解な疑似密室よ、ホームズでも呼びたい気分だわ」


「そいつは困ったなワトソン君。モリアーティを捕まえるにはまだ手がかりが足りないか?」


「そうね、あんたのほうはどうだった?何か良い手がかりはあったの?」


文の問いに康太は腕組をした状態で首をかしげてしまう。どうやら康太のほうもあまり結果は芳しくないようだった。


手詰まり、とまではいかないが現状調べられると思わしき場所はすべて調べてしまった。あとは入り口部分を警護していた人物が来るまで待つしかないだろうかと文が考えていると康太は自分鼻をかきながら唸り始める。


「実際何人かそれらしい匂いは覚えておいたんだよ。三か所ともあった匂い。とりあえずその匂いを基本にしておこうと思う」


「それって何人?それによってだいぶ変わるわよ?」


「五人だ。ただそれがここの人のにおいなのか、それとも別の人間のにおいなのかはまだ判別できない」


「そう・・・じゃあ康太、ちょっと案内するわ。裏口みたいなものがあるみたいなのよ。そこがちょっと怪しいの」


「裏口?なんだよ密室じゃないじゃんか」


「言ったでしょ、疑似密室だって。厳密には密室じゃないのよこの場所は」


文は先ほど確認した通気口の位置を康太に教えながら教えてもらった裏口のところまでやってくる。


康太も索敵することによってようやくその場所を認識したらしい。本棚の下に通路があるということを認識したうえで嗅覚強化の魔術によってこの場所に条件に見合う五人のにおいがあるかどうかを確認していた。


「どう?匂いはある?」


「・・・あるな。三人分のにおい発見。こっちに一人・・・こっちに二人・・・これは・・・この本棚に手をかけたときのだな・・・こっちのはなんだ・・・?裏を覗き込もうとしたのか・・・?」


康太はにおいがついている場所を確認してどのような理由でその場所ににおいがついたのかを確認しようとしていた。


だが匂いが付いた場所だけでその人物が何をしたのかなどわかるはずがない。康太はにおいがついている場所に実際に手などをかけてみることでその当時の人間が何をしようとしたのかを想像しているのだ。


「あとはこの匂いがこの図書館の人間だったのなら作業中についたってことになるな・・・追跡は難しいぜ?」


「あとでこの裏口の出口に行ってみましょ。そこににおいがあったらビンゴよ」


「そうだな。あとは本そのもののにおいを覚えられたら楽だったんだけどな・・・」


「本のにおいなんてどれも一緒じゃないの?・・・全部同じに感じられるけど」


文は近くにあった本棚に収められている本のにおいをかいでみる。だがそこには本独特の、カビのような紙が酸化したにおいがするばかりだ。


どの本をとっても似たようなにおいしか感じ取れない。文自身も以前アリスに無理やり発動された嗅覚強化の魔術を発動しようと考えたが、ほとんど練習していないうえにまた暴走したら面倒なことになると考え思いとどまった。


餅は餅屋という言葉があるように、感覚や五感系の魔術は康太に任せることにした。


「いや、よくよく嗅いでみると結構違うんだよ。例えば本のカバーに何が使われているかにもよって匂いが変わるし、誰が手に取ったかによって匂いが変わってくる。さっきちょっと調べたんだけど、本で同じ匂いっていうのはほとんどなかったな」


「へぇ・・・そんなに変わるものなんだ」


「あぁ。本の経過年数だとか保存状況だとか、あとはどれだけ読まれたかによってもいろいろ変わるんだろうな。においの強弱も結構違う」


「盗まれた本のにおいをかぐことができれば楽だったんだろうけどね・・・さすがにその隣の本とかからはかぎ取れなかった?」


「それがその本のにおいなのか盗まれた本のにおいが移ったのか判別できないって・・・人のにおいと本のにおいをかぎ分けるのでせいぜいだ」


康太のにおいを判別する能力は格段に上がっている。人と本のにおいでは全く違うだろうが、それらをかぎ分け、なおかつ個人を判別できるレベルにまでは嗅覚強化も上達しているのだ。


あとはこの匂いを追いきれるかどうかといったところだろう。


「俺はその裏口ってのに行ってみようと思うけど、ベルはどうする?」


「そうね・・・今のところここの入り口を守ってた人に話を聞きたいかな・・・あとはあの換気口、ちょっと気になるのよ」


文が見上げた先にある換気口を見て康太は眉を顰める。さすがにあの換気口から人が出ることは難しいだろう。


ぱっと見ただけだが直径二十センチほどしかない。あれでは小動物が通るのがせいぜいだ。少なくとも人間が通れるとは思えない。


何より換気口の入り口部分には格子のようなものが取り付けられている。仮に本だけを動かそうとしたところであの格子で引っかかってしまう。そしてその先には送風機代わりのプロペラのようなものが回っているのだ。


あそこを通すのはほぼ不可能。だが文はそれができると考えているようだった。


文ができると感じている以上康太としても調べるのはやぶさかではない。いくつかある通気口のほうに視線を向けて索敵の魔術を発動していた。


活動報告を一件投稿しました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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