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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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魔導書の行方

魔導書。それは康太もよく見る魔術の術式が記された書物のことである。


だが魔導書といっても実際に書物の形をしているということではない。もちろん記し伝えるという目的のために書物にしておいたほうがいいのだが、紙一枚に術式だけを記入しておけばそれもまた魔導書たり得るのである。


それが盗まれたということがどのような意味を持っているのか康太たちも理解できる。


魔術師とは魔術がなければただの人だ。そして魔導書とは魔術を覚えるために必要なものの一つだ。


それが盗まれるということは魔術師としては生業としているものを奪われるのと同義なのである。


無論すでに覚えている魔術であれば本人からすれば必要はないかもしれないが、今度誰かに伝えるため、そして新たに覚えようとするための、つまりは後世へと残していくために魔導書は管理されなければならない。


「魔導書図書館っていうと・・・エアリスさんのところみたいな感じですか?」


「そうだね、そうイメージしてくれると理解は早いかな。とにかく山ほど魔導書があるんだよ。中には彼らが自分で作った魔導書もあるくらいでね・・・魔術師グループの中でも結構特殊な部類になるのかな?」


魔術師の中にもいくつか種類がいる。康太のように戦いに特化した魔術師、調べ物に特化した魔術師、文のようにバランスよくすべてが高い能力値を持つ魔術師。


そしてそういった性質だけではなく彼らが行う行動にもいくつもの種類があるのだ。向き不向きはさておいて、以前康太が武器を作る時に訪れたテータのように何かを作ることを主な活動としている者もいる。


術式の開発を行うものもいれば康太のように依頼を解決することを主な活動内容としている者もいる。

そんな中、今回の依頼主は魔導書の作成や収集、そして管理を主な活動内容としているようだった。


その結果が魔導書図書館。エアリスが有しているそれと同じように大量の魔導書を個人的に管理、保管している者たちなのだろう。


違うのはエアリスのような個人管理ではなく、グループ全体で管理しているという点だろうか。


「ちなみに盗まれた魔導書の数は?そのあたりは報告されているんですか?」


「実はまだ詳細は報告されていないんだよ・・・彼らが持ってる魔導書の数が多くて向こうでもまだ正確には把握できていないみたいだ。たぶんところどころ抜き取られた感じじゃないかな?」


「ってことはあらかじめに盗むものを厳選したってところですか・・・明らかに計画的な犯行ですね」


魔導書などは実際にその中身を見てみないと何の魔術が収められているのかはわからない。


たいていの魔術師は魔導書を記すとき、本の表紙か裏紙に方陣術で魔術の概要などを記しているが、結局のところそこを読んでみない限り何の魔術が書かれているのかわからないのだ。


いきなり侵入して適当に魔導書を持って行ってもそこまで意味はない。一定の区画の魔導書がすべてごっそりと無くなっているならまだしも、どの魔導書が盗まれたのか把握しきれないという状況からしてそれぞれの本棚などの保管場所から必要なものだけを引き抜いたのだろう。


文の言うように計画的な犯行である可能性が高い。ともなればいろいろと捜索するのに手がかりも残っているはずだ。


「その盗んだ犯人に心当たりは?あらかじめ図書館に入ることができたとか、あるいはそのグループのメンバーだったとか」


「調査中・・・としか言いようがないね。向こうも事態を完全に把握しきれているわけじゃないんだよ・・・というかいろいろと面倒な場所でさ」


「・・・面倒な場所?」


「うん、さっき言ったように今回盗まれた場所は魔導書図書館なんだ。ある程度面識やら了承があれば魔術師として魔導書の閲覧ができるんだよ」


「それは・・・珍しい場所ですね・・・そのグループの拠点なんじゃないんですか?」


「拠点さ。拠点なんだけどほかの魔術師たちの出入りはある程度自由・・・そのせいで犯人の特定がより難しくなっているんだよ」


拠点にもかかわらずほかの魔術師の出入りが限定的ではあるが認められている場所。なんとも不思議な場所だが康太はそういった場所が絶対にないとは言い切れなかった。


何せ康太が今拠点にしている小百合の店だって似たようなものなのだ。


康太や文のように出入りを頻繁に行っているものだけではなく魔術師として商品を購入しに来た魔術師だって店にやってくることはある。


そういう理由もあってあの場所は一種の中立地帯になっている。他の魔術師が理由もなく攻めてきたり、一定の範囲内に拠点を作るといったこともない。


小百合の店の魔導書版なのだなと理解しながら話を進めることにする。


「限定的に出入りが認められてるってことは、その認められている人たちを徹底的に探せってことですか?拠点のがさ入れでもしろと?」


「それも視野に入れているみたいだけど・・・まぁとにかく君たちに調査をしてほしいんだよ。そして犯人を打倒して魔導書を取り戻してほしい。難しい依頼だというのはわかっているけれどね」


支部長の言うように難しい依頼だ。本来なら窃盗などは警察の仕事だが、魔導書が盗まれたなどといっても警察が聞くとは思えない。本が盗まれたにしろ、拠点を見せなければいけないのだからいろいろとみられてはまずいものもあるだろうから警察は呼びにくい。


自分たちがまさか警察のまねごとをすることになるとはなと康太と文はため息をついてしまっていた。


「調査とかはいいんですけど・・・正直私たちは調査とかにはあまり向いていないですよ?特にこういう痕跡をたどる系に関しては・・・」


「それは承知している。でも戦闘もできて調査もできる人間っていうのは君たちが思っているよりずっと希少なんだ・・・ぶっちゃけていれば君たち以外となると・・・君たちの身内の中で何人か、あと十人いるかどうか・・・しかもその中で信頼できる人間ってなると・・・」


「なるほど・・・それで私たちが・・・でもそれなら私の師匠に頼んでもよかったのでは?師匠なら調査含めなんでもできますよ?」


文の師匠であるエアリスこと春奈はかつて小百合と良く行動を共にしていたこともあって戦闘能力に関しては折り紙付きだ。


康太は何度か彼女と手合わせをしたことがあるがそれでも歯が立たなかったのを覚えている。


身体能力では康太が圧倒できているのに、それ以外のあらゆる面で、技術でも魔術でも春奈には勝てなかった。


伊達に小百合といつもいがみ合っているわけではないのだ。小百合と同程度の戦闘能力を持っていると思って間違いないだろう。


さらに言えば彼女は文の師匠ということもあってある程度調査系の魔術も身に着けている。彼女がこの件にかかわれば間違いなく良い結果をもたらすだろうことは容易に想像することができた。


だが支部長は首を横に振る。


「それももちろん考えたさ・・・でも難しくてね・・・さっきも言ったけど今回の依頼相手は魔導図書館を営んでる・・・いわゆるエアリスの商売敵とでもいえばいいかな?エアリスの場合閲覧させる人間はさらに厳選してるけれど、やっていることは似たようなものだからね」


「あー・・・そういう事情が・・・」


「同業他社に自社のトラブルの依頼をするようなもんか・・・そりゃ確かにいい顔はしないよな・・・」


「ならジョアさんは?こいつの兄弟子って時点で戦闘能力は保証されてますし、あの人は基本的な能力は結構高いですよ?」


「いや待てベル、前にも言ったけど俺と姉さんが同時にいなくなるっていうのは避けたいんだ、出るなら俺か姉さんのどっちか・・・ていうかぶっちゃけ俺よりも姉さんのほうが店にいたほうがいい。そのほうが確実に師匠を止められる」


店に神加がいて修業をしている関係で、師匠である小百合の暴走を止めるために必ず康太か真理が店にいることが好ましい。


そうなると康太と真理が同時に何かしらの行動をするというのは難しいのである。


そのため今回の依頼で言えば康太が出るか真理が出るかどちらかという選択肢になるのだが、すでに話を聞いてしまった時点で康太が出なければいけないというのは確定的かもしれない。


条件としては真理にもこの話を聞いてもらってシフト制、というか交代制で依頼解決のための行動をするという形にしたほうがスムーズだろう。


「弟弟子を溺愛するのはいいけど、その前に師匠を何とかしたほうが早そうよね・・・いっそのこと行動中はうちに預ける?」


「それも考えたんだけどな・・・エアリスさんに迷惑かけるのはちょっと・・・それに神加もあの人を信頼しきってるってわけでもないから・・・」


「・・・そっか、変にストレスを与えるのは得策じゃないわよね・・・結局私たちが出るしかないか・・・ほかに頼りになる人って言ったら・・・マウ・フォウさんは?あの人人探しはすごく得意だけど」


以前世話になった調査系魔術師マウ・フォウ。人探しなどに関しては指折りの実力を誇るが、その反面戦闘能力は低い。今回の依頼に関して調査だけでも頼めないかと考えたのだが支部長は首を横に振る。


「残念だけどマウ・フォウは別件で出てしまっていてね・・・以前の中国支部の話を覚えているかな?そっちの調査を頼んでいるんだよ」


「あー・・・あっちの話に絡んできてるんですか・・・それじゃこっちには回れないか・・・」


以前九州の大分県で魔術師が大量に集められていた件で、犯人と思われる人間が中国にある拠点に向かったのは特定済みだ。


問題はそれが何者なのかと、なぜそのようなことをしていたのか、そして背後関係はどのようなものか。

そういった調査をするためにマウ・フォウは今行動しているのだという。そうなってくると魔導書関係の話には首を突っ込むことは難しいだろう。


「調査系の魔術師か・・・俺らそういう人たちのつながり薄いからな・・・」


「痕跡をたどるだけだったらあんたも決して不可能ではないでしょ?匂いとかで追えるじゃない」


「あのな・・・匂いなんてちょっとしたきっかけですぐ消えるんだぞ?完璧にそれを追跡できるわけじゃないんだ・・・支部長、その盗難が発生したのはいつのことですか?」


「発覚したのは昨日だね。毎日魔導書のチェックをしているらしいから発生したのは昨日の日中。そこは間違いないよ」


「ならまだ希望があるな・・・さっそく現場に行ってみよう。話はそれからだ」


匂いで追跡するにしろ、時間が経過すればするほど追跡は難しくなってしまう。康太は文を促して早々に出発しようとするが、まだ肝心なことを聞いていないと支部長のほうを振り返る。


「支部長、今回の犯人はどれ位の状態にしたほうがいいですか?」


「・・・それは依頼人によるかな・・・穏便にということなら戦闘不能にするだけにとどめてほしい」


了解ですといいながら康太は文を引き連れて支部長室から出る。時間との勝負、はっきり言ってこういう忙しいのはあまり好きではないのだがなと康太はため息をついていた。


土曜日なので二回分投稿


今年で最後の投稿になります。来年もまたよろしくお願いいたします。


そういえば累計pvが10,000,000超えていました。最近誤字にかまけてお祝い投稿できていないのがちょっと心残りです。少し誤字が落ち着いたらまとめてお祝いしなきゃなぁと思います。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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