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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」

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弟子から見た師匠

「・・・二本目を使った師匠に挑むなんて・・・康太君は無謀ですね」


「・・・あい・・・自分へもそう思ひまふ」


結果的に言えば、康太はほとんど何もできずボコボコにされていた。


今までの訓練によって磨かれた反射神経や対応能力をもってして数十秒は耐えて見せたのだが、得意の武器を扱えないという時点で結果は見えていた。


康太の木刀は早々にはじかれ、あとは徒手空拳の状態で木刀で徹底的になぶられた。


ぎりぎりで回避したところもあるとはいえ、その回避を先読みしているかのようにもう一本の木刀が飛んでくる。


二本の木刀を使って完全に相手をコントロールしていた。今回は木刀だったからまだよかったが、小百合のような熟練の猛者が扱う真剣の威力であの動きをされたらほとんどの人間が三枚におろされてしまうだろう。


「私の得意武器を使ってもあれはさばききれないんですよ。さすがに場数が違うというか・・・それだけ師匠の二本目は切り札というべきものなんです」


「・・・あー・・・レベルが足りませんね・・・アタタ・・・」


「まだ動かないでください、治している途中ですから・・・まぁ少なくとも康太君が槍を扱ったとしても耐えられるかどうか・・・実戦ではあれが真剣になる上にさらに魔術まで加わりますから・・・初見で攻略しろというほうが無理ですよ」


もとより魔術師の間で近接戦を行うこと自体が少ないのに、小百合の場合はそのスペシャリストである上にその実力は同じように近接戦を極めたものの中でも突出している。


戦いという条件において小百合はあらゆる面で有利であろうとする。その考えは間違っていないしとがめられるようなことでもない。


彼女は今までの努力によってそれを勝ち得てきたのだ。才能に恵まれず、破壊しか覚えることができないというデメリットを見事にメリットに変えて見せたのだ。


それがあの二刀流。『瓦礫の上に立つ女』と呼ばれる彼女がたどり着いた完成形に近いのかもしれない。


「でもですよ、師匠ができるってことは俺ができてもおかしくないわけですよね?」


「・・・まぁ・・・そうですね。師匠の技術はあくまで努力と鍛錬によって培われたものですから」


「それなら・・・時間はかかりそうですけど何とかコピーして見せますよ・・・そうすれば今後の役に立つだろうし」


「・・・あぁ・・・なんだか康太君がどんどん師匠に似てきて怖いです・・・お願いですからあんな人にはならないでくださいね?」


「さすがに師匠みたいな人格のネジが全部ぶっ飛んでるような人にはなりませんよ・・・真似るのは技術だけです」


「そういう言葉は本人の聞こえないところでやってほしいものだな」


相変わらず康太と真理は小百合が近くにいるにもかかわらず平然と小百合の悪口を言っている。


しかも近くには神加の姿もある。康太が治療中の間に小百合は神加について修業をしているのだ。


新たな武器として金槌を手に入れた神加だが、その扱いはまだまだ素人だ。そこで小百合は神加にすぐさま武器と魔術の同時使用を教えようとしていた。


神加が行っているのは釘打ちだ。板に軽く釘をセットした状態での金槌を使った釘打ちをするのだがただの釘打ちではない。


神加はその釘をすべて遠隔動作によって打ち込んでいるのである。正確に位置を把握しないとできない芸当であり、距離感を掴む訓練にもなり、同時に遠隔による攻撃の訓練にもなっている。


自衛行動としてはまだまだ弱い部類だが、遠くにいる敵に対して金槌でいきなり殴ることができるというのはなかなかの強みだ。


遠隔動作はその距離と発動時間に比例して消費魔力が多くなる。康太のようにある程度近くないと消費魔力の関係で非常に効率が悪くなるためあまり使わない人間と違って、神加はその優れた素質のおかげで遠くへの攻撃にも十分扱うことができる。


距離感を掴むことはまだまだ難しいようだが、大体の場所は把握しつつあるのかいびつではあるが釘は確かに木の板にめり込んでいっている。


「いいんですよ。今のうちに師匠がすごいんだってことを教えておいたほうが彼女のためですよ」


「そうそう。俺らの師匠はすごいやばい人なんだよってことを教えるのは大事なことですよ?主に今後の人生にかかわります」


「・・・はぁ・・・まぁ間違いではないのかもしれんが・・・もう少し言い方をマイルドにする気はないのか?」


「存在自体がハバネロみたいな人が何言ってるんですか。牛乳浴びても師匠の存在はまろやかにはなりませんよ?」


「神加、よく見ておくんだぞ、これからこの人が目標だ。絶対にこういう人にはなっちゃいけないっていう目標なんだ」


康太と真理にそういわれて神加はおずおずと師匠である小百合を見つめる。その目を見て小百合はわずかにたじろぐ。


その目を小百合はよく知っている。底が知れないその瞳を小百合は知っている。


小百合自身が神加を弟子にした理由。その目を向けて神加はまっすぐに小百合を見つめていた。


思えば神加は小百合を怖がらないなと今更ながらに康太と真理は不思議に思っていた。普通こんな人がいたらおびえるものだが、神加は小百合に対してまったく恐怖を抱かない。


自分を助けてくれた人だからか、自分に物事を教えてくれる人だからだろうか。


子供というのはよくわからないなと康太は首を傾げた状態で神加と小百合の様子を眺めていた。


「ところで師匠、神加ちゃんには今後どんな魔術を教えていくつもりなんです?もういくつか魔術をクリアしてしまったのでは?」


「ん・・・いやそれが一つ問題が発覚してな・・・子供だからか・・・一度練習して何度も何度も繰り返すことで一時的に試験をクリアするんだが、こいつしばらくすると覚えた魔術の使い方を忘れるんだ」


「・・・あー・・・なるほど。勉強とかと一緒か。毎日やらないと覚えられないっていう・・・子供の時ってそうだった気がする」


「あぁ、何度やっても何度やっても同じようなミスをした覚えがあります。それで別なことをやるとまた忘れて・・・そうか、子供の時はそうでしたね」


自転車や水泳のように、一度体が覚えてしまえば二度と乗れなくなることがないような運動性能的なものとは異なり、魔術とは精神に依存したれっきとした技術の一つだ。要するに勉強などと一緒なのである。


得られる効果は勉強よりもずっと実益があるかもしれないが、結局のところ本人の努力によって結果をなすというところは変わりがない。


「だから一度覚えた魔術を必ず反復させることにした。今のところ教えているのは分解と遠隔動作と拡大動作の三つだから、しばらくはこの三つを体力の限り使わせて感覚を体と頭にしみこませる」


「そうか・・・俺らと違ってそういう苦労もあるんだな・・・神加、大変だろうけど頑張るんだぞ?」


「神加さん、つらかったらいつでも言ってくださいね。私たちが師匠から守ってあげますから」


「ちっ・・・この馬鹿弟子どもが・・・こんな子供に篭絡されて・・・」


「子供は国の宝です。神加さんは私たちの宝です」


「その通り、神加は俺たちが立派に育てて見せる!」


「・・・反抗期になる日が今から待ち遠しいよ。お前たちの絶望する顔が目に浮かぶ」


師匠と弟子の間でここまで仲の悪い関係というのも珍しいのではないだろうか。師匠でありながら弟子に全く敬われておらず、師匠としても弟子にほとんど愛情を注いでおらず徹底的に技術だけを継承させていく。


だがなぜかこの関係は続いているのだ。どちらも別にどちらを必要していないというのに、なぜかどちらもこの関係が悪くないと思っているのだ。


不思議なもので、この関係が長く続くだろうという確信がそれぞれの中にはあった。いつ終わってもおかしくないと思いながらも、きっといつまでも続くのだろうという確信があった。


その理由を聞かれても答えられないというのが正直なところだが、少なくとも神加が一人前になるまでは続くだろうなと考えていた。


神加が一人前になるまで。神加が高校生になるころにはこの関係も解消されているだろうか。


それともそれまでもそしてそのあともずっとこの関係は続いているだろうか。


せめて何の問題もなく、反抗期などもなくすくすくと健康的に育ってくれればと願うばかりである。


まるで親だなと思いながら小百合は大きくため息をついて見せた。


「まったく・・・魔術面と技術面は私が教えてやれるが、それ以外の部分はお前たちで教えられるのか?勉強に一般常識・・・道徳的考えに趣味その他、教えることは山ほどあるんだぞ?」


「まさか師匠が道徳的という言葉を使うとは思っていませんでしたよ・・・そんな言葉知ってたんですね」


「ていうかちゃんと神加のこと考えてたんですね。意外すぎて気持ち悪いです」


「お前らそこに並べ、叩き潰してやる」


木刀を振り上げようとする小百合に、康太と真理は大げさに助けてーなどと叫びながら怯えたふりをして見せる。


その様子に毒気を抜かれたのか、小百合は再度ため息をついてしまう。


「馬鹿なことはそこまでだ、結局どうするんだ?自慢じゃないが私は常識などは教えてやれん。世の中の常識には無駄なところが多すぎる」


「世の中の常識なら私と康太君に任せてください。康太君は中学卒業ぎりぎりまで一般人でしたし、私も一般人によく紛れてますから十分教えられます」


「・・・勉強は?」


「大学まで行ってる学力なめないでくださいよ?高校二年までの学問なら大抵は教えられます」


高校三年までといわないあたり若干高校時代の勉強を忘れてしまっているということがうかがえるが、そのあたりは康太と文が補完できるだろう。現役高校生の協力があればその点はいくらでもなんとでもなる。


「趣味趣向に関してはそうだな・・・男っぽいものなら俺、少女趣味なら姉さんや文に頼るのもいいな」


「アリスはどうだ?あいつなんて趣味の塊だろうに」


「・・・あいつの趣味はちょっと特殊すぎます。少なくとも世間一般の女の子がやるようなものじゃないですよ・・・偏見混じってるかもしれませんけど」


「まぁ確かに・・・ですがアリスさんの話を聞くというのも後学のためになるかもしれませんよ?何せあの方は生きた歴史書のようなものなのですから」


趣味の話はさておき、アリスが長年生きてきたというのは嘘ではないのだ。それだけ長い時間を過ごして積み重ねた経験というのはバカにできない。


その話を聞くことで勉強になることはいくらでもあるだろう。まだ神加には理解できないことでも、いつかアリスと仲良くなっていろんな話を聞いてほしいものだと康太と真理は願っていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


30日から帰省の関係もあり予約投稿になりますのでご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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