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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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新しい武器

「武器・・・かぁ・・・女性が使う武器っていうと比較的軽いものが目立つかなぁ・・・ちょっとした力だけで高い威力を出せるものだと・・・」


「私の要望としてはなるべく近距離じゃなくて中距離くらいで扱える武器がいいです。何かいいのありますか?」


武器で中距離、なおかつ女性でも簡単に扱えるものというと射撃系の武器になるだろうかと康太は考えていた。


弓、銃、パチンコなど基本的にそこまで筋力がない女性でも扱えるタイプのものは多い。銃に関しては多少法に触れる部分があるために扱いとしては難しく使用できるかは怪しいところだったが、テータはふむふむとつぶやきながら武器のカタログらしきものを眺めている。


「ちなみに武器の種別は?射撃系?斬撃?打撃?」


「斬撃打撃の種別はお任せします。ただ射撃系ではありません。私の魔術自体が射撃系のものが多いので、可能ならそことは区別しておきたいと思ってます」


「なるほど・・・射撃系以外で中距離レベルの射程を持つものとなると・・・そうだなぁ・・・こういうのなんてどうだろう?」


そういってテータが取り出してきたのは渦巻き状に収められた縄状の何かだった。よく見ると取っ手らしきものが存在しており、それが手に持つための武器であるというのがわかる。


文がそれを手に取って少し振り回してみるとその全容が明らかになる。そこにあったのは鞭だった。


何の素材を使っているのかはわからないが、良くしなり、先端部分は少し突起のようなものも取り付けられている。


主に打撃用の中距離武器というべきだろう。少なくとも純粋な接近戦を想定した武器ではない。


射程距離は十メートル前後といったところだろうか。使い方によってはそれ以下の敵に対しても対応可能だろう。


康太の槍以上に長い射程を持った武器となる。だが決して近接武器ではない。投擲もできなければピンポイントでダメージを与えるほかない。


だが槍などの硬い物体と違い、これはやわらかいために敵を捕らえることにも使えるだろう。


康太との連携でも何かしら役に立つかもしれない。不規則な攻撃という意味ではテクニックを要するが、そのあたりは練習で何とかなるだろう。


「相手に対してダメージを与えるにはきちんと射程とか扱い方を理解する必要があるけど、慣れればなかなかいい威力が出せると思うよ。一応アタッチメントとして先端部分に取り付けられる部品も用意した。威力重視の鉄球と鎌。これはある程度扱いを学んでから使うといい」


「おぉ・・・ありがとうございます・・・これは・・・慣れるまでちょっと時間かかるかもしれないわね・・・」


「そうだね、単純な武器と違って扱いは難しいと思うよ。他に中距離で射撃系以外ってなると・・・鎖鎌とかそういうものになるからだいぶ扱いが難しくなるかな」


「まずはこいつでいいです。これで慣れながら今後の武器に反映していきますよ」


文は不慣れな手つきで鞭を操っていく。新体操の競技の一つに似たようなものがあったなと思いながら康太はその様子を眺めていた。


文が鞭を持つというのはなかなかに恐ろしい光景だ。あの鞭の矛先が自分に向けられないことを祈ろうとひそかにおびえながら、康太は自分の弟弟子を前に出す。


「それじゃ次はうちの子だ。この子に合う一番いい武器を」


「・・・って言われてもなぁ・・・何かリクエストは?」


「この子でも十分扱えて、なおかつ威力を出せる武器がいいですかね」


「・・・んな無茶な・・・この子ぱっと見だけどまだ十歳にもなってないよね?そんな子に武器を与えるって時点でいろいろ間違ってるけど・・・さらに威力も出せっていうのはちょっと無理があるよ」


テータの言い分は正しい。武器というのはその種類などにもよるが、たいていは質量と速度と、その形状によって威力を発揮するのだ。


例えば康太の槍であれば槍そのものの質量に加えて速度、そして刃部分の面積の狭さにより斬撃という効果が加えられ威力を持つ。


ハンマーなどであれば純粋に質量と速度による計算式が成り立つし、文の持っている鞭などであればさらに複雑な求め方になるだろう。


だがそれらはある程度質量があってこそ成り立つのだ。神加の筋力で持つことができる武器となるとどうしても限られてしまう。


それこそ神加の場合康太が持っている槍でさえ全力で抱えなければ持つことはできないかもしれないのだ。


一時期は栄養失調気味だった神加も、ようやく健康的な体になってきたとはいえまだまだ筋力は年相応のものしかない。


そうなるとやはりあまり重いものを持つことはできないのだ。


「何か魔術と併用して威力を出すって考えはできないのかい?それができれば多少はやりようがあるんだけど」


「んー・・・できなくはないか・・・それじゃあそうだな・・・鈍器の類を持ってきてくれますか?」


「ちょっとビー、この子に鈍器を持たせるつもり?」


「あぁ、下手に刃物渡すとそれで怪我しそうだからな。まずは鈍器で武器の扱いを学んでもらおう」


文は神加に鈍器を持たせるのは反対のようだったが、ある程度威力があるものでないと自衛行動もままならないのだ。


確かに刃物を持たせるよりはずっとましだろうが、それでも鈍器を持つ少女というのはあまり良いイメージがなかった。


「その子でも持ててなおかつ威力を出すってなると・・・こんなものになるかな」


テータが持ってきたのは少し柄の長い金槌のようなものだった。


両手で持つことができるようになっているらしく、ただの金槌というには少々いびつな形をしている。

釘などを打つためのものでは断じてない。形状的には何かを攻撃するためのものだ。


片方は四角錐になっており、一点に力をかけられるようになっている。そしてその反対側は細かい突起がいくつもついている。どちらも相手を傷つけるためについているのは共通していた。


「どうかな?実際に振ってみてもらうのが一番だけど」


「シノ、持てるか?」


康太に手渡された金槌を手に取ると、神加は両手でしっかりと持つと思い切り振りまわして見せる。


振り回すというより若干振り回されているというような印象を受けるが、一応金槌の部分を振り回すことはできていた。


武器としての使用は問題なさそうだった。問題はこれからこの道具をどれだけ使いこなすことができるかというところである。


「まぁとりあえずはこれでいいか・・・もしこれから本人が別の武器を持ちたいって言ったらどうにかしよう」


「なんだかいきなりバイオレンスな武器を渡されたわね・・・大丈夫かしら・・・?」


「まぁ大丈夫だろ。それなりに使える魔術も覚えてきたし・・・一番のネックは神加の体力と筋力だな。これを普通に扱えるくらいにはなってほしいけど・・・」


「難しいでしょうね。この歳の子供の成長が早いとはいえ筋力を育てすぎると成長が止まるっていうし・・・」


「そのあたりは今後の課題だな。少しずつ先端の金槌を重くしていくとか、そういう形で練習するか・・・テータさん、これのパーツって取り換えできますか?」


「もちろん、言ってくれればいくつか違うパーツを用意しておくよ。今から用意すると時間かかるけどね」


今はまずこの金槌の重さに慣れるところから始めなければいけないためにそこまで急ぐ必要はない。


康太は了承すると神加の新しい武器を入手しながら最後に自分の武器の選定に入った。


「さて・・・それじゃあブライトビー、君の武器のお話に移ろうか。今まで君は槍を使ってたわけだけど・・・次はどんな武器を使うんだい?ていうか君槍以外の武器使えるの?」


「一度だけ木刀を使ったことがあるけど・・・正直微妙なんですよ・・・なるべく手数が多いものがいいかなって」


「手数ねぇ・・・鈍器?それとも刃物?」


「んー・・・とりあえず装備が重くなると動きが鈍るので刃物でお願いします。あとは・・・手数重視だと・・・軽いほうがいいかな?」


「ってことは刃渡りも必然的に短くなるね。なら・・・そうだな・・・これなんてどうかな?一応君の要望通りの品だろうと思うけど」


そういって持ってきたのは短めの二本の剣だった。だがナイフというには少々長い。所謂ショートソードと呼ばれる部類のようだった。


両手で持つにはあまりに軽く、片手でも十分に扱えるタイプの武器のようだ。これなら確かに康太の言うように手数を多くすることができるだろう。片手同士が別々に動くこともできるだろうから相手を翻弄することもできるかもしれない。


「んんん・・・テータさん、これを今までの槍のパーツにつなげられるようにすることってできますか?」


「そりゃできるよ。柄の部分をちょっと改造するだけだから・・・え?これをパーツで流用したいってこと?」


「はい、緊急時に即座に用意できるほうがいいので、壊れてもすぐに取り換えられるようにしておきたいんです」


「はぁ・・・まぁわかったよ。じゃあそういう風に改造しておく。納品はいつも通り店のほうに届ければいいかな?」


「ありがとうございます。支払いはいつがいいですか?」


「納品の時に請求書を渡すからまた今度来た時に払ってくれればいいよ。えっとライリーベルはどうする?君もブライトビーと一緒に納品って形でいいかな?」


「一緒にしてくれるならそれでお願いします。支払いは別々でしますので請求書だけ分けていただければ」


「わかったよ。ちなみに聞いておくけど武器以外に何か物入りのものはあるかい?防具とかも一応取り扱っているけども」


テータはそういいながら武器以外のカタログを机の上に広げる。そこには魔術師の外套や各部に取り付ける装甲、さらに特注の手袋やマフラーなども記載されていた。


これを彼らはすべて自分たちで作るのだから恐ろしい話だ。よほど作ることが好きでなければこういうことはできないだろう。


というかマフラーなど買う人間はいるのだろうかと少々疑問に思ってしまったがこれから冬の季節に入るにあたって必要なのかもしれないなと康太と文は何となく納得してしまっていた。


「じゃあ・・・外套に着けられる装甲をいくつか・・・あとホルスターみたいなものがあればいただきたいです」


「はい毎度あり。ちなみにホルスターの中には何を入れる?それによって形を変えるけども」


「小さな杭を入れようと思ってます。なるべく本数が入るような形で」


「それなら実物を持ってきてくれればそういう形に作っておくよ。今持ってるかい?」


なんともとんとん拍子で商談が進んでいく。こういう人が営業という職業をやっているのだろうなと実感しながら文は自分の懐の中に入っていた杭を一本手渡す。


これならたくさん入れられそうだねとテータは笑いながら発注と製作依頼の両方で書類を作り始めていた。


「そういえばブライトビー、この前サリエラから頼まれたものがあるんだけど」


「え?サリーさんから?」


サリエラというのは奏の術師名であるサリエラ・ディコルのことだ。彼女が何かしらの頼みごとをしたとなるときっと面倒ごと関係なのだろうなと何となく想像しながら康太は依頼書にサインしながらその話を聞いていた。


「いったい何を?あの人武器関係何でも使えるからなぁ・・・」


「うん、彼女のポテンシャルには驚くばかりなんだけども・・・それはいいや。実は頼まれたのは武器じゃないんだよ一応」


「・・・一応ってことは武器っぽいってことですか?」


「まぁね。今度納品する予定なんだけど君が届けられるならそのほうが早く済みそうでさ。一応彼女君の師匠の関係者だろう?」


「えぇ、俺の師匠の兄弟子があの人ですけど」


武器の類を扱っているものとして、康太を始め小百合などの関係もある程度知っているのだろう。特に小百合と奏は武器を多く使うためにお得意様なのだ。何か武器を壊さない限りは新しい発注などはない。


つまり奏は何か壊したのだろうかと思いながら納品書へのサインを終えるとテータに手渡した。


「俺に渡しても問題はないですけど、一応直接持って行った方がいいと思いますよ?もしかしたら俺が触れちゃいけないものかもしれないですし」


「あぁそうか・・・その可能性を失念してたなぁ・・・やっぱそうした方がいいか・・・」


「ひょっとして納期に間に合わなくなるとかそういうことですか?それとも物が大きすぎるとかそういう?」


「いや、そこまで大きくはないよ。せいぜい段ボール一箱分ってところさ。そこまで重くもないから問題はないと思うよ。納期もまだまだ時間に余裕はあるし」


「それなら直接送っちゃった方が確実ですよ。あとくされもないでしょうし。ベル、シノ、二人はほかに買いたいものあるか?」


「私はいくつか道具を買うけど・・・シノちゃんはどうする?」


「えっと・・・」


神加はカタログの中にあるマフラーと手袋を見てから目を伏せる。それを見て康太はなるほどと小さくつぶやくとカタログを指さして神加に見せる。


「どっちがいい?色とかも決められるぞ?」


「・・・いいの?」


「あぁ。好きなのを選んでいいぞ?」


「・・・じゃあ、これ」


神加が選んだのはオレンジ色のマフラーと手袋だった。これから冬にかけて重宝するだろうマフラーと手袋。康太は追加の注文を出すとその発注書に追加のサインをしていく。


とりあえず現段階で買えそうなものはこれくらいのものだ。あとはこれらが出来上がるのを待つばかりである。


「毎度ありがとうございます。やっぱり君が来るとなかなかの売り上げになるね。ありがたい限りだよ」


「結構注文してますからね・・・今度はちょっと装甲の形とかを変えたりしようと思ってるんですよ。あとは個人的に頼みたい仕事があって」


「ほほう。でもまだ注文は出さないんだね?」


「ていうかあれをここに持ってくるのがまずまずいんじゃないかなと・・・バイクなんですけど・・・」


「あー・・・それはちょっと問題かもなぁ・・・バイクの改造をしてほしいってこと?さすがにエンジンとかをいじるのは時間がかかるよ?」


時間がかかるということはできないことはないのかと思いながらも康太は首を横に振る。


「フレーム部分にちょっと細工をしてほしいだけですよ。いくつかの部分に今俺が使ってるのと同じ機構を取り付けてほしくて」


「あぁあれか。あれくらいならちょっと採寸するだけで作れると思うよ?君のバイクってどれくらいの大きさ?」


「そこまで大きくはないですよ。どうせならいろいろカスタマイズしたくて・・・完全に戦闘用に改造しちゃおうかと」


「いいねぇ、面白そうだ。そのバイクどこに置いてあるんだい?場所によっては僕が直接採寸に行くよ」


「店に置いてあります。今度納品に来た時にでもお願いします」


喜々としてそんな話をしている康太とテータを見て文はため息をつく。男というのはこういうものに凝り始めると周りが見えなくなるのだろうか、もはや文と神加がいることを気にせずにこれからどのようにバイクを改造しようかということを話し合っていた。


「シノちゃん、私たちはほかの道具を見てようか。面白いものあるかもしれないし」


「うん」


康太の邪魔をしてはいけないと神加も感じたのか、熱気を帯び始めたバイクの改造談義をよそに文と神加は工房の中においてある道具や武器の類を観察し始めた。


そこにある武器や防具や道具はその種類も様々だ。これだけの数のものをすべて彼らが作ったのだと思うと感服してしまう。


「やっぱり装甲をパージできるようにするのは必要だと思うんだよ、一気に加速とか格好良くないかい?」


「いいですね!そこから武器が飛び出したりしたらなおかっこいいです!」


白熱する二人をよそに文は神加を連れて工房の中を歩き回る。彼らの熱が冷めるのはそれから三十分後の話だった。














三人が新しい武器を注文してから数日、康太は小百合の修業場にある短めの木刀を使って短剣の扱いを練習していた。


剣そのものの重量はそこまで重くはない。十分に片手で扱えるレベルの重量であったのを覚えている。


問題なのは今までの武器、槍の扱いとショートソード二本では全くと言っていいほど運用法が違うというところだ。


今まで使ってきた槍は一つの武器を両手で扱うことが多く、その分手早く体の動きや腕の動きが必要になっていた。


そして攻撃の際には体重を乗せる、あるいは体の回転の力を利用して攻撃をたたきつけるように行っていた。


だが二刀流ではそのような運用法はまずできない。一本一本が独立した動きをすることもできるし、逆に連動させることだってできる。だがその動き一つ一つに体の動きをついていかせなければならない。


康太が考えるよりずっと二刀流というのは難しいのだ。


槍のように二つの腕で一連の動作を行うならまだしも、二つの腕がそれぞれ別の動きをしなければいけないとなるとなかなか難しい。


どうしてもどちらか、具体的には利き手ではない左手の動きがおざなりになってしまうのである。


「あー・・・うまくいかないな・・・」


「槍のそれとは比べるべくもない動きだな。まるで棒切れを持ったサルが動き回っているかのようだったぞ」


「ひどいたとえですね・・・そういう師匠は扱えるんですか?」


康太はそういって自分の持っていた木刀を小百合に投げる。軽々と二本の木刀をキャッチして見せた小百合は二本の木刀を手に取った状態でまるで舞のような鋭くも美しい動きをして見せる。


これを俗に剣の舞というのだろう。今の康太では到底まねできない芸当であるのは見ただけでわかる。


相変わらず戦闘に関する技能に関しては飛びぬけているなと思いながら康太はその舞を見せられた後拍手をしてしまっていた。


「お前もいずれこんなことをできるようになってもらう・・・とはいえそうだな・・・さすがに手本がない状態でやれといっても無理な話か」


「まぁ、どういう風に動けばいいのか、どういう風に力をかければいいのか全く分かりませんからね」


「・・・不本意だが私が二本使おう。しばらくの間二刀流同士で訓練すればお前もいやというほどにわかるようになるだろう」


二刀流。


思えば小百合は刀を使うが両手で刀を握ったことはあっても両方の手でそれぞれ別の刀を握ったところは見たことがない。


もしかしたら二刀流は苦手なのだろうかと康太の中で疑問が募る。


「師匠って一刀流と二刀流のどっちが得意なんですか?」


「なんだ藪から棒に」


「だって基本的に刀を使ってますけど、両手で二本同時に使ってるのって見たことないんで・・・」


「・・・まぁ確かにそういうことはあまりしないな。やったのも数えるくらいの回数だ。はっきり言って片手で足りる程度だな」


「へぇ・・・やっぱり苦手意識とか?」


「・・・いや、それだけ私が暴走した数が少ないということだ」


暴走した数が少ない。暴走、小百合が暴走。そんな言葉を頭の中で思い浮かべた後、康太は先ほどまでの自分の考えを改めていた。


苦手などではない。むしろ小百合は二刀流のほうが本領なのだと。


おそらく本気で、というか手加減を忘れるほどの状態になったときに、普段なら絶対に抜かない二本目を抜いたのだ。


その結果がどうなったのか想像したくない。だが血の海になっている光景だけは頭の中によぎってしまった。


おそらく彼女を本気で怒らせるとそういうことになるのだろう。


「ちなみにですけど、二本使った時って具体的にどうなりました?」


「・・・師匠にすごく怒られた」


小百合の言葉に康太は少しだけ笑いそうになってしまう。小百合が彼女の師匠である智代に叱られている光景を想像したのだ。


だが同時にその笑いの裏で康太は冷や汗を浮かべてしまっていた。智代が叱るほどの状況を小百合は作り出したのだ。


死人を一体どれだけ出したのだろう。いや、仮に死人になっていなくとも、魔術師として生きられなくなった人間をどれだけ出したのだろう。


小百合の二本目の刀。今のところ康太は一本目しか見れていない。


だが今こうして訓練ではあるが小百合の二本目を、木刀という形とはいえ見ることができるのだ。


今まで見ることのできなかった、本人さえ半ば封印していた本当の実力を見ることができるのだと康太は少しだけ気分が高揚していた。


「・・・それじゃ師匠、いっちょご教授願います」


康太は倉庫の中からもう二本短い木刀を探してくるといつでも訓練ができるように準備運動を始める。

それを見て小百合は薄く笑みを浮かべてから木刀を構える。


「・・・いいだろう、せいぜいその体にしみこませろ」


できると思っていない、まだできない。おそらくはそう考えているのだろう。小百合は笑みを崩さぬままその瞳にわずかに殺気を込めて康太へとむけていた。


誤字報告15件分受けたので四回分投稿


年末が近づいてまいりました。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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